「冒険の書二百八十二:ルルカとチェルチの共同戦線」
~~~ルルカ視点~~~
わたしたちの目標は、『翠星珠』の代替わりが完全に終わるまで護ること。
対する敵の目標は、『翠星珠』の代替わり阻止。
目標のハッキリしたわたしたちは、真っ向からぶつかり合った。
「わーっはっはっは! 行くぞ行くぞ! 死ね死ねイールギットおぉぉぉ~!」
ギイはさっそくイールギットさまに突撃していく。
ご自慢の大剣を振りかぶると、真っ向から振り下ろす。
目にも止まらぬような物凄い勢いだけど……。
「……ふん! そんなナマクラ、当たってたまるか!」
イールギットさまは『極短距離転移』であっさりこれを回避、背後から『瞬絶』で後頭部を狙っていくけど……。
「それはこっちのセリフよ! 魔術師との肉弾戦で後れをとってたまるか!」
ギイは超絶反射神経で頭を倒してこれを回避。
後ろを振り返りながら大剣で反撃するけど、イールギットさまはまたまた極短距離転移でこれを回避。
躱して反撃、躱して反撃、躱して反撃……。
一手ミスればどちらかが死ぬという超スピードかつ超危険な戦いを、ふたりは延々と繰り返していく。
それでいて、怯えるような感じはまったくないんだ。
ギリギリの命の際を楽しんでいるというか、死んだら死んだで本望というか、ディアナちゃんがよく見せるあれにそっくりだった。
「……あ、あっちにはかかわらないほうがよさそうだね~、チェルチちゃん」
自分とは違う次元で戦うふたりの戦いぶりに、冷や汗をかくわたし。
「ほっとけほっとけ。下手に手ぇ出したら巻き添えくって殺されちゃうぞ。てか、てあたいにとっちゃどうでもいいよ。どっちが勝つにしてもできるだけ傷ついてくれるのを望むだけさ」
過去のいきさつからイールギットさまを毛嫌いしてるチェルチちゃんは、面白くもなさそうにつぶやくと……。
「ま、さしあたっての問題はこいつだよな」
大鎌を肩に担ぐと、女騎士に向き直った。
ジロジロ、ジロジロ、ジロジロ。
つま先から頭のてっぺんまでをにらみつけると……。
「なあ……おまえ、ヴァネッサだろ?」
思ってもみなかった言葉を口にした。
「え、え? ウソでしょチェルチちゃんっ? だって全然見た目が……この人どう見てもダークエルフで……っ?」
「んなもん『変化の術』に決まってんだろ。長年にわたってあんたらを騙し続け、短い間とはいえあたいをも完璧に騙したあいつだ。ダークエルフに成りすますなんてわけないだろ」
「へえ~……やるじゃない」
楽し気に笑ったかと思うと、女騎士の姿が変わっていく。
ぐにゃぐにゃと髪が動き、ぐにょぐにょと肉が動き、もぞもぞと服が動き――気がついた時にはエーコさん……じゃなかった、ヴァネッサになっていた。
茶色のウェービーヘアに、目もとの泣きボクロに、グラマラスな体にぴったりと張りついた革鎧。燃え盛るウルガさんの工房で見かけた、あの時と同じ姿だ。
「ウソ……ホントに?」
驚くわたしはさて置き、ヴァネッサは挑戦的な目をチェルチちゃんに向けた。
「偉いわね、今度はちゃんと気づけたのね」
今度はが何にかかっているのかは明白だ。
ベルキアで共に過ごした日々はもちろん、ウルガさんの工房で再会した時にチェルチちゃんが気づけなかったことをも指してるんだ。
その上でチェルチちゃんをからかってるんだ、子ども扱いしてるんだ。
これはチェルチちゃん怒っちゃうだろうなあ~、勢いのままに斬りかかっちゃうかも……。
隙ができないわようわたしが援護しないと……なんて思ってたんだけど、どっこいチェルチちゃんは動かなかった。
ニヤリと唇をひん曲げると、逆にヴァネッサを嘲笑して見せた。
「あんだけ黒糸使うの見せてりゃバカでも気づくわ。てかさ、余裕ぶっても無駄だぜ。あたいに見抜かれて悔しいのモロわかり。鼻の穴ぷるぷる震わせて怒っちゃって、だっせえの」
「なっ……誰がっ!?」
超がつくほどの美人なだけに、見た目をバカにされたのが効いたみたい。
ヴァネッサは手で鼻を隠すと、怒りで我を忘れたかのように声を荒げた。
「ええい! こちとら忙しいんだから! あんたのバカ話になんかつき合ってられないのよ! ってことで喰らいなさい!」
――ギュアアァァァッ!
鉄より硬い黒糸が、超高速でチェルチちゃんの顔面に迫る。
「させませんよ! チェルチちゃんはわたしが護ります!」
わたしはすかさず結界を張った。
素早く唱えるため詠唱破棄で、まずは一枚――ガチン!
次はわたしに向かって飛んできたので、二枚目――ガチイィン!
「これならどう⁉ 『蜘蛛の網』!」
ヴァネッサはくじけず、黒糸をぐいぐい引っ張った。
綺麗な格子状に組み合わせると、投網でもするみたいに上からバサリとかぶせてきた。
「ふたりまとめてお持ち帰りしてあげる! 大丈夫よ、魔王様の母胎にする予定だから、あんまりひどい目には遭わせないからね!」
母胎がどうとかはよくわからないけど、わたしたちを捕まえて持ち帰ろうという作戦みたい。
もちろんこれも、わたしが結界を張って防いだ。三枚目――ガチイィィィン!
「くっ……詠唱破棄までできるようになったのね……っ!? しかも三枚同時展開しても微動だにしない……っ! ――なら力比べよっ! オルグすら斬り裂く黒糸の張力に対抗できるかしらっ!?」
上等だ、力比べだとばかりに黒糸に力を込めてくるけど……。
「力比べなら負けませんよ!」
わたしは結界を巨大化させた。
「ググウ……ッ!」とばかりに強く全力で張った。
力比べはわたしの勝ち。
張力の限界を迎えた黒糸が、ピンピンとそこら中で弾けていく。
「なっ……?」
自慢の黒糸攻撃をすべて防がれたせいだろう、ヴァネッサは動揺して後ずさる。
「おらおら、よそ見なんかしてる場合か!? ルルカだけじゃない、あたいもいるんだぞ!?」
チェルチちゃんが仕掛けていく。
大鎌を大上段から振り下ろしたかと思うと、後ろへ回り込むように滑空しつつ、斬撃を放っていく。
頭→腰→足首と、上下に狙いを散らした三連撃だ。
旅の休憩の合間にディアナちゃんに稽古をつけてもらっていたおかげだろう、飛行能力を活かした厄介な攻め方だ。
「小娘が、そんな素人戦法でわたしに当てられるとでも思ってるの……っ!?」
ヴァネッサは小馬鹿にするけど、言うほど余裕があるようには見えない。
「そら……これでも喰らいなさいっ!」
チェルチちゃんの攻撃の合間を縫ってナイフや黒糸を飛ばすけど、わたしがそのつど極少の結界を張って防ぐ。
結果、チェルチちゃんは攻めだけに集中できる。
ガンガン、ガンガン、猛烈に攻めていく。
「もうっ! 厄介なコね……っ!」
「隙ありだぞヴァネッサ! そら……『呪いの稲妻』!」
「みぎゃああああぁぁぁぁ~っ!?」
わたしをにらみつけたせいで隙のできたヴァネッサに、チェルチちゃんが魔術を当てた。
黒色の雷の直撃を喰らったヴァネッサが、悲鳴を上げながらゴロゴロと床を転げ回る。
「し……死ぬかと思った……っ、死ぬかと思った……っ」
「わたしが護って、チェルチちゃんが攻める。ふたりが揃えば無敵ですよ。ヴァネッサ……いやエーコさん。どうか降伏してください」
髪までチリチリになったヴァネッサに、わたしは降伏勧告をした。
「ルルカ、おまえ……?」
驚くチェルチちゃんに、わたしは目顔で謝った。
「ごめんね。『落ちこぼれーズ』時代のわたしは、エーコさんにすんごくよくしてもらったんだ。だから、なるべくなら殺したくはなくて……」
「でも、こいつは人類の敵だぞ?」
「それはそうだけど……」
わたしたちが揉めてるうちに、ヴァネッサは後ろへ大きく跳び下がった。
距離をとると、「おーっほっほっほっほ!」と高笑いを上げた。
「レベルは上がってもしょせんは子ども、甘ちゃんね! あんたたち、わたしを仕留める絶好の機会を逃がしたわよ!」
ヴァネッサは叫ぶと、天井を指差した。
「そして残念ね! こっちにもようやく援軍到来よ!」
「え、援軍……っ!?」
わたしが驚くと同時に、部屋がズシンと大きく揺れた。
天井板の一部が崩壊し、バラバラになって落ちてきた。
「地震……じゃないっ、地上で爆発……っ!? で、でもいったい誰が……どこから……っ!?」
「そこのエルフのジジイが言った通り! 『千年結界』が停止しても地上部隊の到着には時間がかかるわ! でも空なら話は別! 『闇の軍団』空中機動部隊が到着したのよ!」
部下から『念話』の魔術で聞いたのだろうか。
ヴァネッサは、空中機動部隊の到着を声高らかに自信満々に宣言した。
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