「冒険の書二百六十四:イールギットVSギイ!③」
~~~イールギット視点~~~
大剣を構え、目にも止まらぬ速度で突進してくるギイ――よりも、イールギットの古代魔術の発動の方が速かった。
「顕現せよ……『氷界大蛇』!」
召喚術だ。
床に描かれた秘儀文字から、蛇の頭が突き出てきた。
――ピシ……ピシ……ピシィィィィッ!
体から放つ冷気で周囲の空気を凍らせながら姿を現したのは、四つ頭の氷の大蛇だ。
「ふん、もう少し時間があれば完全体になったのだがな……」
イールギットはいかにもつまらなそうにつぶやいた。
氷界大蛇は創世神話に出てくる伝説の英雄ランコンを殺した九つ頭の大蛇だ。
氷のブレスを吐き、巨人族の中でも上位種にあたる『一つ目巨人』すらひと噛みで殺せる猛毒を持つ。
サイズも大きく、完全体なら小山ぐらいにはなるだろう。
それに対し、イールギットが召喚したのは頭が四つ。
サイズもせいぜい部屋の半分程度。
「だが、今はこれで十分か……」
考えてみれば、あまり大きすぎても取り回しが難しい。
この部屋の大きさを考えれば、むしろ最適かもしれない。
「行け!」
割り切ったイールギットは、氷界大蛇に指令を下した。
「頭三つはダークエルフの小娘に!」
三つの頭はぐぐうっと鎌首をもたげると、眼前にいるギイへ襲いかかっていく。
「ぬおわあぁぁぁぁぁ~っ!?」
娘らしからぬ(今さらだが)悲鳴を上げたギイが、迫りくる三つの頭を大剣で捌く。
毒牙の餌食にならぬよう、右へ薙ぎ、左へ薙ぎと必死の様子。
「くっ……この! とりあえずいったん距離をとっ……てぇぇぇぇぇぇ~っ!?」
慌てて距離をとろうとしたところへ、三つ頭が同時にブレスを吐いた。
あらゆるものを一瞬で凍らす『氷の吐息』に追われたギイは、慌てて逃げ惑う。
「よし……残りの一つはデカい方のダークエルフだ! 一撃で噛み殺せ!」
ギイの逃げっぷりを確認したイールギット、残りの一つ頭に命令を下す。
ターゲットは――部屋の端っこで待機しているヴァネッサ。
「なんでわたしまでえぇぇぇぇぇぇ~っ!?」
イールギットとギイの決闘だから自分には関係ない。
そう思って油断していたのだろうヴァネッサは、悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「狙うならそっちの戦闘バカだけにしときなさいよおぉぉぉぉ~っ!?」
が、途中で人質を有効活用すればいいと気づいたのだろう。
立ち止まるなり、ヘリオンの体を前面に押し出した。
「ってかいいの!? そのままだとわたしより先にこいつが死ぬけど!?」
「イヤだ! イヤだ! ヘビだけはイヤだぁあぁあぁぁぁ~っ!」
小さい頃に毒蛇に噛まれて死にかけたトラウマが蘇ってきたのだろう、ヘリオンは半泣きになりながら首を左右に振る。
が、イールギットはまったく気にしない。
「ちょっと死ぬぐらいしたほうがいいのだ、おまえは」
国王と家臣としての関係性を改めることにしたこともあり、冷たく吐き捨てる。
「ちょっとでも死んだら終わりなんだけど!? ってかひどすぎないか大祖父さま!?」
「悪だくみしてる側が言うことじゃないけどさ! それが自分の孫にする態度なの!?」
ヘリオン、ヴァネッサが揃って不満の声を上げる。
「なんてな」
おどけるようにつぶやくと、イールギットは飛んだ。
『極短距離転移』で、ヴァネッサの背後へと瞬間転移した。
「――詰みだ、女」
すっと両手を伸ばすと、ヴァネッサの頭を挟んだ。
「ひいぃっ……っ!?」
完璧なタイミングだった。
氷界大蛇に注意を払わせておいて、背後から奇襲を仕掛ける。
両腕でヘリオンを拘束している以上、この攻撃は絶対に躱せない。
確信と共に、イールギットは唱えた。
「『瞬絶』」
二つ名どおりの、最速の一撃を見舞った――が、ヴァネッサもさるもの、凄まじい速度で反応した。
「こんなところでえぇぇぇ――」
その場にドシンと尻餅をついて『瞬絶』を躱すと。
「――死んでたまるもんですかぁぁぁぁぁ~っ!」
素早く腕を振り、両腕から黒糸を飛ばしてきた。
狙いはイールギットの顔面――
「ほう……これを躱すか」
黒糸が顔面に当たる寸前、イールギットは極短距離転移でこれを回避。
ヴァネッサから距離をとった。
「思ったよりもやるな。だが……」
最初に抱いていたイメージよりも強いが、問題はない。
まだ氷界大蛇は存在しているし、今のように『前門の氷界大蛇、後門のイールギット』の奇襲を続けていれば、ほどなくその身を捉えられるはずだ。
「氷界大蛇とワタシの挟撃に、どこまで耐えられるかな?」
――パッキイィィィィィン!
凄まじい破壊音と共に、氷界大蛇の身体が砕け散った。
「お゛い゛! いいかげんにしろ!」
砕いたのはギイだ。
よほど苦労したのだろう、大剣を振り下ろした格好のままゼエハアと荒い息を吐いている。
「我を置いて、ふたりだけで遊ぶな!」
自分を差し置いてふたりが殺し合っているのが腹立たしいのだろう、顔を真っ赤にしている。
「ほう……不完全体とはいえ氷界大蛇をこの短時間で倒してのけるか。こっちもこっちで、思ったよりもやるようだな」
ギイはさらに距離をとると、口頭で呪文の詠唱を始めた。
と同時に、足で床に秘技文字を描き始めた。
「……音声魔術と古代魔術の『二重詠唱』ですって? 冗談じゃないわよ、いったいどんな頭してんのよ!」
「おおおお~っ! いいぞいいぞ! さすがは世界最強の魔術師! そうこなくてはな!」
文句を言うヴァネッサと、盛り上がるギイと、冷静なイールギットと。
三者三様の戦いは、まだ始まったばかりだ――
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