「冒険の書二百五十七:ルルカたちは牢を出た」
~~~ルルカ視点~~~
チェルチちゃんがギイを見かけてから少しして、わたしとチェルチちゃんは牢を出ることになった。
といっても別に、脱獄したとかじゃないよ? 普通に出してもらったんだ。
人の良さそうなエルフの看守さんが来て、鍵をガチャガチャ開けてくれたの。
「えっとあの……ホントに出ても大丈夫なんでしょうか? いやそのべつに、出たくないわけじゃないんですけども……っ。拍子抜けというか、なんとなく心配になって……っ」
あまりにも突然の釈放に驚いているのはわたしだけじゃなく、看守さんも同じらしくて、盛んに目をぱちくりさせてた。
「僕にもわからないんだ。イールギットさまが急に……『それどころではないのだ。とにかく今はすべての面倒ごとを解決して、目の前の事件に集中せねばならんのだ』とおっしゃって……」
「それどころではない? 事件? 何か起こったのかな?」
看守さんとわたし、ふたりして首を傾げていると……。
「どうでもいーじゃんか。晴れて自由の身なんだからっ」
牢屋生活がよっぽどストレスだったんだろう、表情を明るくしたチェルチちゃんがそこらをパタパタ飛んでいる。
「それに、面白いものも見れたしな。ギイのやつ、普段は武人みたいに振る舞ってるくせにあんな乙女チックな格好してっ。うぷぷぷぷ……っ。今度会ったら笑ってやろ~っ♪」
先ほどの光景――わたしは見てないんだけど、ギイがミニスカドレスを着ていたらしい――を思い出しているのだろう、チェルチちゃんは楽し気に笑っている。
「そうだ、看守さんに聞きたいことがあるんですけど……」
この流れなら聞けるかも、と思って聞いてみた。
「さっきダークエルフの人たちを見たんですけど、エルフとダークエルフって仲悪いんじゃないんですか? ダークエルフは魔王側について、エルフは人類側で……結果的に戦争になっちゃった部分もありますよね?」
肌の色の違いというだけじゃない。
ふたつの種族はどちら側につくかで長い間モメていた。
その結果として、血が流れることすらあったんだ。
長命種同士の長い長い諍いが、そんなに簡単に解決するとは思えないんだけど……。
「ヘリオン国王になってから急に方針が変わったんだよ。全体的に軽くなったというか、利益重視になったというか。『貢物を捧げるなら国交を開いてやってもよいぞ』って。そしたらダークエルフの方も乗って来て。外交特使なんてのもしょっちゅう送って来るし……たまに商人も来たりするし……。珍しい商品を扱ってるもんで、女子供に人気があって……。あと噂じゃ、ヘリオン国王に新しいお妃さまが嫁いで来るとか来ないとか……。エルフとダークエルフが結婚なんて信じられないというか、長老たちが大騒ぎすると思うんだけど……」
「はえ~、なるほど~。かつての争いよりも実際の利益を選んだわけですか~。王様の絶対命令に、みんなが従った形だと~? そんでもってこの流れだと、ギイは王様の奥さんとしてやって来たんだと………………うん? んんんんん? それっておかしくないかなあ~?」
わたしと同じ疑問を抱いたのだろう、チェルチちゃんと目が合った。
「……おい、ルルカ」
「……だね、チェルチちゃん」
「王さまの耳元で甘いことを囁いて」
「自分たちの都合のいいように操って」
「これ絶対、『闇の軍団』が悪だくみしてるだろ」
「これ絶対、『闇の軍団』が悪だくみしてるよね」
顔を見合わせてうなずくと、わたしたちは看守さんに詰め寄った。
「ダークエルフたちはどこに向かったか知ってるかっ?」
「ダークエルフたちはどこに向かったか知ってますかっ?」
異口同音。
言い方は違うけど、聞きたいことは同じだった。
戸惑う看守さんにおおよその場所を聞き出すと、わたしは走り出して、チェルチちゃんは羽ばたいた。
「できればディアナちゃんと合流できるまで待ちたいところだけどっ。でもでもその間に取り返しのつかない状況になったら大変だしっ。ディアナちゃんの故郷でありエルフたちの故郷であるエルフヘイムだもん、なんとしてでも護らなきゃだしっ」
「それこそ、パラサーティアと同じようなことが起きる可能性はあるしな」
「そうそれ!」
「エルフたちには恩も義理もないけど、ディアナは仲間だからな」
「そうだよそうっ、ふたりで頑張ろうねチェルチちゃんっ! へへっ、えへへへへ……っ」
「……なんだよ、なんでおまえ笑ってんだ? 緊張しすぎて頭おかしくなったのか?」
「へへへ、緊張してるのはしてるし、もともと頭は悪いからいつもどおりだよ。でも、そうじゃなくてさ、笑ってるのは嬉しいからで……っ」
「はあ~?」
うさんくさげな眼でわたしを見つめるチェルチちゃん。
「あのね、わたしはこんな性格だからさ。長い間、友だちができなかったんだ。でもこのまま死ぬまでボッチなのは寂しいなって思ってたの。でもある時、マーファさまのお話しを聞いてさ。友だちっていいな、仲間が欲しいなって思って、勢いのままに修道院を飛び出したの。そしたらディアナちゃんと出会えてさ、チェルチちゃんとも出会えて、仲良くなれて。ディアナちゃんっていうリーダーがいなくても、以心伝心っていうのかな。こうして一緒に行動できるようになった。それがとっても嬉しいなって思ったの。えへへへへ……」
「ふん、なんだよそりゃ」
バカにした感じでわたしを笑ったチェルチちゃんだけど、よく見ると耳が真っ赤になってる。
きっとあれだ、これがツンデレってやつだ。
わあ、可愛いな。嬉しいなあ~。
お友達になれてよかったなあ~。
な~んてことを思って、にへにへしていると……。
「そうだルルカ、その前にひとつ寄りたいとこがあるんだけど、いいか?」
「え、いいけど……どこへ?」
一刻の猶予もないみたいなこの状況で、いったいどこへ寄ろうというんだろう。
わたしが首を傾げていると……。
「なあ、看守のおっさん。もひとつ行きたいがとこあるんだけど、いいか?」
流れでわたしたちについて来ていた看守の人に、チェルチちゃんは聞いた。
「デクランとルシアン……ハイドラ王国の外交使節の泊ってるとこに連れてってくれないか?」
「え、チェルチちゃんそれって……?」
驚いた。
ホントに驚いた。
まさかこの状況で、そんな言葉が出てくるだなんて。
だってそれはさ、今そのふたりに、あるいは高速艇の乗組員さんたちに会うってことはさ。
今まで嘘をついていたの怒られるかもってことだよ?
自分が悪魔貴族であることを黙っていたのを責められるかもしれないってことなんだよ?
おのれ嘘つきめ、おのれ悪魔貴族めって、ひどい目に遭わされちゃうかもしれないよ?
そこまでいかなくても、すごい軽蔑されちゃうかもだよ?
なのに、なんで今……。
「いいの? ホントに、今でいいの?」
わたしの確認に、チェルチちゃんはあっさりとうなずいた。
「というか、今しかないだろ。そもそも、あたいたちがやろうとしてることを考えろ」
「あ……」
たしかにそうだ。
ギイを始めとしたダークエルフたちがエルフたちに害を成そうというのなら、その背後には『闇の軍団』もいるはずだ。
ましてやここはエルフヘイム。エルフたちの故郷であり、最重要拠点だ。
そこへああも堂々と乗り込んで来たっていうことはそれなりの重要な作戦行動の最中だということであり……。
わたしやチェルチちゃんが加勢してもエルフたちは負けてしまうかもしれないということであり……。
「その瞬間になって後悔なんかしたくないからな。今できることは、今しなきゃ」
チェルチちゃんはつぶやいた。
重い覚悟を滲ませた声で。
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