「冒険の書二百五十六:ギイ、ミニスカドレスを着せられる」
~~~ギイ視点~~~
ギイを呼び寄せたヴァネッサの作戦は、極めて単純だった。
エルフヘイム攻略にあたり、最大のネックとなる世界樹。
そのコアである『翠命珠』を破壊し『千年結界』を機能停止に追い込もうというのだ。
「千年結界さえなければ魔物の大量投入が可能になる。世界樹からの魔力供給を失えば、エルフの力は一気に落ちる。ふたつ同時に重なれば、何万年どころか何億年という歴史を誇るエルフヘイムですらも一日で陥落させられるって寸法よ。ちなみに作戦立案はこのわたし。作戦が成功した暁には晴れて名誉回復。ドロガロンを失ったカルラとかいうバカを追い落とせるってわけ。見てなさいよぉ~……今までの恨み、十倍返しにしてやるんだから~……うふ、うふふふふふ……っ」
薄暗い笑みを浮かべるヴァネッサは、『変化の術』でダークエルフの女騎士に成りすましている。
スレンダーな体形の持ち主の多いダークエルフにしては胸がデカすぎるが、それ以外の部分は上手いこと誤魔化せている。
ちょっと見ただけで見抜かれることは、まあないだろう。
が、そんなことはどうでもいい。
「おまえの手柄になるとか恨みが晴らせるとかはどお~でもいい! そんなことよりこれだこれ! この衣装だ!」
ギイは叫んだ。
エルフヘイムの主要道路である大きな吊り橋の上で、『暗黒の深遠』からついて来たダークエルフの騎士たちが担ぐ籐の輿の上で、思い切り。
「これはない! これはないだろうがあぁぁぁぁぁ~っ! 全体的にひらひらで、生地も透けるほど薄くて、スカートの裾も短すぎだろうがあぁぁぁぁぁ~っ!」
ギイが着せられたのはドレスだった。
深紅色の布地に黒いフリルのついたもので、スカートの裾の長さは膝より上。
いわゆるミニスカドレスというやつで、ご丁寧に黒いニーソックスとガーターベルトまで用意されていた。
それらがダークエルフ特有の赤銅色の肌と白い髪、ギイ持ち前の幼い美貌とよくコントラストを成し、『魔界に咲いた妖しい花』といった印象を与えている。
「おのれ、メイドどもが妙にウキウキしてると思ったらこういうことだったかっ! ああ~もう油断したあああ~っ!」
衣装を用意したのはヴァネッサが連れてきたダークエルフの女たちだった。
女たちはかつてギイの側仕えをしていた(最近はほとんど帰っていないので別の仕事を与えられている)メイドたちで、『戦場へ赴くにあたって、ギイをこれ以上なく美しく着飾らせる』というヴァネッサの計画を聞いた瞬間、他の仕事を放り出してついて来たのだ。
もちろん断ろうとしたギイだが、メイドたちは退かなかった。
「命がけの戦いに挑む姫さまのために、どうか戦化粧をさせてくださいっ」と、ギイの足にすがりつかんばかりにお願いしてきたのだ。
加えてヴァネッサに――
「敵の中枢にたどり着けないと、そもそもの作戦が成り立たないのよ。イコール、イールギットとの一騎打ちもなくなるわ。それでいいの? ねえ、武人のギイさま?」
特大の釘を刺されてしまってはしかたない。
ギイはしぶしぶながらも受け入れ、ミニスカドレスに袖を通すことにしたのだが……。
「にしてもあんた、けっこう部下に慕われてるのね。意外だったわ」
「うるさい! 我とて好きでこうなったわけではないわ!」
ギイの中身がグリムザールに変わってからというもの、周囲の態度が明らかに軟化した。
それはギイの性格の変化(中の人の違い)のせいだ。
ギイはいたずらに人をいじめない。
姫さまなのに何ごとにも豪快で、細かなことは気にしない。
あと、小さいのに強くて可愛い。
まさにギャップ萌えの塊となったギイを、周りの者は放っておかなかった。
お世話する機会を虎視眈々と窺っている他、『ギイさま♡ファンクラブ』なるものまで結成されている。
ちなみにギイの活躍ぶりを描いた同人誌がすでに百回も増刷を繰り返されているのだが、それはともかく……。
「はあああ~……もういい、早く行くぞおまえら! ほれちゃっちゃと進め!」
ギイはため息をつきつき、輿を担ぐダークエルフの騎士たちを急かした。
「はい! お任せくださいギイさま! わたしどもの手にかかれば、『翠星宮』まで一瞬です!」
「そらみんな! ギイさまのために全力で走るんだ! 行くぞ!」
「「「「「うおおおおおお~っ!」」」」」
騎士たちが一斉に足を速める。
盛り上げ役がギターを弾き、横笛を吹き、ダークエルフの姫の到着を宣伝する。
「え、あれ何?」
「ダークエルフの……サーカスか何か?」
「なんかよくわからないけど面白そうだな、あとで見に行くか」
へんてこな一行の登場を、エルフたちが不思議そうな目で見つめてくる。
「ダークエルフとは知的で計算高い生き物だと思っていたが……いったいどうしてこうなったのだ?」
騎士たちの異様な盛り上がりを眺めながら、ギイは痛むこめかみを押さえた。
「たしかにこの娘は可愛らしいと思うが……だからといって命まで張れるものなのか? ほとんど神を崇拝するようなレベルではないか」
かつてどこぞのエルフ娘が抱いていたような疑問を抱きつつ、翠星宮へと向かっていく。
★評価をつけてくださるとありがたし!
ご感想も作者の励みになります!




