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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと待つ影
66/70

第20話 日高誠と戦う力

「ただいま帰りました〜」


 ハイテンションの母さんが買い物から戻って来た。俺は玄関まで迎えに行き、買い物袋を引き受ける。


 二人並んでリビングに入ると、美希がソファに座ったまま「お帰り」と挨拶をした。


 何気ない家族のワンシーンだ。

 しかし、俺だけが違っていた。


 表情は作り笑いだし、心臓は高速で鼓動を繰り返している。


 ……良かった。ギリギリ間に合った。


 美希はさっきまで猫目青蛙の能力で眠っていて、目覚めたのは数分前の出来事だ。


 母さんの買い物の時間は三十分程。

 その間に花火大会を見に行って帰って来るのは、流石に無茶過ぎた。


 猫目青蛙が居なかったら、このミッションは達成出来なかっただろう。そう考えると、本当に優秀な魔法生物だ。


 これでまた一つ未来へ戻る為に必要な要素を回収出来た訳だ。


 約束の時間が迫って来ている。これで全部揃ったなら良いんだけど。


 リビングに掛かる鳩時計を見ながらそんな事を考えていると、俺の中の魔法空間から声が聞こえた。


『誠殿。それを今計算中じゃ。しばし時間をくれい。複雑に時空が絡み合って厄介な事になっている』

 猫目青蛙だ。随分と疲れた様子になっている。


 俺には理解出来ない世界だ。専門的な話は専門家に任せよう。


 かと言って、じっとしていても休まらない。

 なので、俺は母さんのエビカレーの準備を手伝う事にした。

 

 不思議と魔力の回復が速い。精神の安定は魔法に影響を与える、という話は本当だったらしい。




『誠殿。準備が出来た様だ。始めようか』


 夕食後、俺の部屋に入るや否や、猫目青蛙がベッドの上に飛び乗った。そして何かの魔法を起動する。


 ついにこの時が来た。


 俺が元居た六年後の未来に戻る為の条件。

 それは魔法士協会に気付かれずに、過去の世界でやり残した事を終わらせ、ベッドに眠る事だ。


 条件がクリア出来ていれば、目が覚めた時には、六年後に戻れているらしい。


『ムムッ!?』

 いきなり猫目青蛙の顔色が悪くなる。水色の体色が更に青くなっている。


「どうした猫蛙。まさか……!?」


『そのまさかだ。足りない要素が残っている。また細かな改変が起きている様じゃ。何かまだやり残している事は無いか?』


 嘘だろ……。やり残した事なんて、何かあったか?


『過去の自分に引き寄せられる直前に、何か起きなかったか?』

 猫蛙の言葉に固まる俺。


 直前に? あの日は水鞠とムヒョーイベントに行っただけだ。胸ポケットに入れていたムヒョーストラップが消えて改変現象が起きたが、その理由は判明した。


 俺を護る為に時間を越え、今は俺のズボンの前ポケットに入っている。


 その後は……そうだ。謎の煙が発生して……。煙? ──そうか! 分かったぞ!


「猫蛙! 魔法自転車だ! あれを駐輪場の地下に隠しておかないと、未来の俺が魔法自転車を発見出来ない!」

『行こう! 誠殿!』



 現在、二十時十三分。


 家族に気付かれない様に玄関から外へ抜け出す。

 そして素早く裏庭に移動し、魔法自転車に乗り込んだ。


 協会の魔法士との約束まで一時間程の猶予がある。まだ間に合う!


 ペダルに魔力を注入し、魔法エンジンを回転させる。だが、回転数が上がらない。


「何でだよ……! こんな時に!」

 エンジンが止まる……! タイヤが地面に貼り付いた様に動かない。


『誠殿!』

 猫目青蛙(ねこめあおがえる)が魔法空間から叫ぶ。


 その声で、自分に起きている異常な事態に気付いた。


 いつの間にか視界が霞んでいる。

 身体の震えが止まらない。

 

 吐く息が……。


 白い…………!?


 気温が低くなったとはいえ、今は真夏の夜だ。絶対におかしい。きっと天変地異が起きたに違い無い。


 そうで無ければ魔法の力だ。


 氷の結晶が空から舞う。

 そんな幻想的な光景が、俺を恐怖へと誘う。


「氷の結界…………!」

 全ては手遅れだ。既に展開されている。


 それを見た猫蛙が感嘆の声を上げる。

『二十メートル四方を塞がれている。これは目標を閉じ込める為の物じゃな。かなりの精度じゃ』

 

 アスファルトを叩く靴音が響く。

 聞き覚えのあるそれは、俺に絶望を与えるアラームだ。


 何でここに居るんだよ。約束の時間はまだ先のはずだろ!?


 白の魔法着に仮面。

 同色のタイトスカートにハイヒール姿。

 こんな派手なキャラは他には居ない。


 ──協会の魔法士……!


 逃げ道を塞ぐ様に門の前で立ち止まる。

「ふふ……。思っていたより子供なのですね? こうして面と向き合う事が出来て良かったですわ」

 落ち着いた大人の声が氷の世界に響く。


 俺の行動は捕捉されていた。家の場所もバレていて当然だ。


 ……最悪だ。

 せっかく土煙田鼈(どえんたがめ)が修理されたのに、移動する前に閉じ込められたら意味が無い。


 俺は動かなくなった魔法自転車を降り、スタンドを立てる。そして協会の魔法士の正面を向いた。


 落ち着け俺。猫目青蛙と契約した事はバレていないかも知れない。どうにかして相手の真意を探るんだ。


「迎えに来るには早過ぎませんか? 約束の二十一時まで、まだ時間がありますよ」


 すると仮面の女は扇型の立体魔法陣を広げ、口元を隠す。

「気が変わりました」


 気が……変わった? 何だその理由は。

「意外だな。正義の魔法士協会は約束を守るものだと思ってましたよ」


 俺の言葉を受け、白い仮面の女は魔力を解放する。結界が音を立てて振動を始めた。


「約束なんて何の意味もありません。これから私は、世界を滅ぼすのですから」


「世界を滅ぼす……!?」

 何を言っているんだこの人は。魔法使いってのは頭のおかしい奴ばかりだな!


 しかし俺の中にある魔法空間から猫蛙が警報を鳴らす。

『誠殿。奴の言っている事は本気の様じゃ。冗談では無い』

 

 嘘だろ……!? 何でいきなりそうなったんだよ!


 協会の魔法士は、凄じい殺気を放ち、一歩前へ踏み出す。

「もう、どうでも良くなりました。私は今、怒りに満ちています」


 何が起きているんだ!? 

 まさか……誰かに改変されているのか!? もしくは改変者本人か? いや、影の気配は無いぞ!?


 無数の氷の結晶が舞い、それを手に持つ立体魔法陣に集中させて行く。そして協会の魔法士が、より一層冷たくなった声で俺に語り掛ける。


「時間を与えて貴方を追い詰めれば、猫目青蛙が出て来るはず……そう考えていました。それは貴方が、元の世界に戻れなくなった事と、水鞠家の魔法生物が起こした改変現象には繋がりがあるからですわ」


 そんな事は俺には分からない。

 だが猫目青蛙が否定しない所を見ると、それが事実なのだろう。


 そう考えると、仮面の女は未来から来た俺を利用してまで、猫目青蛙(ねこめあおがえる)を手に入れようとしていた事になる。とんでもない奴だ。


 だが、その狙いは成功している。現に水鞠コトリが現れ、俺に猫目青蛙を託した。


 仮面の女が怒りに震える。

「猫目青蛙を手に出来れば、私の出世が約束される。計画にまた一歩近付けるはずだった」


「計画……!?」


「魔法士協会を乗っ取る事ですわ。でも、それもどうでも良くなりました。私は生き甲斐を失ったのですから。しかも突然に」


 こいつ……中身が違う奴って事は無いのか? じゃなきゃ頭がイカレてるだろ。

「一体、何があったんですか?」


 仮面の女は俺の質問には答えず、代わりに何かの魔法を起動する。強大な魔力だ。雷旋のワタヌキと同じ……いや、それ以上か!?


「その説明など無駄ですわ。貴方には到底理解出来ないスケールの話ですから」


『誠殿! 奴はワシらを殺して未来改変を起こそうとしておる!』


 未来改変……!?


 意味が分からないぞ!? 何でいきなり協会の魔法士に殺されなきゃならないんだよ。


 ただ分かっている事はハッキリしている。


 仮面の女の身に計画外の何かが起き、自暴自棄になっている。


 その結果、俺を殺して未来改変を起こし、世界を崩壊させようとしている。


 今の俺は氷の魔法結界の壁で家の敷地外には出れない。


 ……最悪の状態だ。


 あと、もう少しなんだ。

 この魔法自転車を駅の駐輪場地下に隠し、家のベッドに眠るだけだ。そうすれば、俺は六年後の世界に戻れるんだ。


 こんな所で諦めてたまるか。

 俺は絶対に戻ってみせる。


 水鞠コトリ、雷旋のワタヌキ、真壁スズカ、橘辰吉……。今までピンチの度に誰かが助けてくれていた。


 でも、今は誰にも頼れない。これは、俺の戦いなんだ。


 ……俺には契約した魔法生物達がいる。

 

 頼む。一緒に戦ってくれ! この危機を乗り越える為に。六年後の世界に戻る為に!


『……誠殿』

 猫蛙の声と共に、魔法空間の扉が突如開かれた。


 景色が消え、何処までも続く白い空間が広がる。まるで時が止まっている様な感覚だ。


『残念じゃが、ワシらには戦う力は無い。水鞠七兵衛の作った魔法生物は、戦う力を持たないからじゃ』


 確かにそうだった。契約した魔法生物は、地熱、空、水の改変現象を修正する目的で作られていた。戦闘向きでは無いと水鞠も言っていた。


『……だが望むのなら、お主に授けよう』


 起動音が鳴り響く。

 俺の中で、新たな魔法エンジンが回転を始めた。


 何かが起きている。

 状況は何も変わっていない。変わったのは俺だ。


 俺の中に、何かが生まれた……?

 猫蛙。これは一体何なんだ!?


火喰甲魚(ひくいこうぎょ)がお主の為に戦いたいと言っている』


 火喰甲魚(ひくいこうぎょ)が!?


 あり得ない。暴走して死んだはずじゃ……。氷に戻って俺の手の中で消えたのに、どうやって?


『辛うじて核の一部分が誠殿の魔法空間に戻って来ていたんじゃよ。ワシは密かに回収し、修復を試みていたのだ。瀕死状態じゃったが、どうにか生き延びた』


 火喰甲魚(ひくいこうぎょ)が……生きていた……!?


『そうじゃ。火喰甲魚(ひくいこうぎょ)は、お主の魔法性質に合わせフルカスタムした、お主だけの魔法生物として再生した。まだ完成はしていない。だが一度だけなら召喚は可能じゃ』


 魔法エンジンの駆動音と、今迄に感じた事の無いエネルギーが走り抜ける。

 

『新たな触媒を得て生まれ変わった。新たなる力だ。さあ、喚び出すがいい! その名を──』


 凄じい爆音。力強い鼓動。

 これが俺の戦う為の力。


 白い世界が消滅し、時が再び動き出す。


 目の前では協会の魔法士が魔法を起動している。何故かスローモーションの様な動きだ。時間が……止まっている……!?


 ……違う。俺が加速しているんだ。

 

 右手に魔力を注ぎ、球体の立体魔法陣を創り出す。


 そして大きく息を吸い込み、その名を叫んだ。


『来い! 花炎甲魚(かえんこうぎょ)!』


 立体魔法陣がガラスの様に砕け散る。

 無数の破片が舞い散り、眩しく光り輝く。


 それは火花に変化し、一帯を紅く染め上げた。


 竜の雄叫びが響き渡る。

 火花は炎の渦となり、俺を中心に広がって行く。


 その中から現れたのは、鎧に身を包んだ巨大な古代魚だ。


 姿は違う。でも間違い無い。

 あれは火喰甲魚(ひくいこうぎょ)だ。

 

 一緒に戦ってくれていた火喰甲魚(ひくいこうぎょ)の生まれ変わった姿だ。


「何だそれは……!?」

 仮面の女が叫ぶ。

 

 どんな博識な魔法士だとしても知る訳が無い。たった今生まれた、俺だけの魔法生物だからだ。


花炎甲魚(かえんこうぎょ)! 俺と一緒に戦ってくれ!』

 巨大魚が炎の海に放たれる。強靭な顎が開き、敵に襲いかかった。


 仮面の女は踊る様に身を翻し、それを簡単に躱す。

「ノロいな。期待外れだ」

 そして体勢を立て直すと、攻撃動作に入った。


 避けてくれて構わない。初めからお前と正面から戦うつもりは無かった。


 火炎の魔法は突き進む。

 花炎甲魚(かえんこうぎょ)は、その鋭い牙を氷の結界に突き立てた。


 鉄を削る様な轟音。そして火花が弾け飛ぶ。


 その火花は赤から黄色、紫色へと変化して行く。


 これは……花火……!?


 すると、猫蛙が満足そうに目を細める。

『そうじゃ。丁度良い触媒が目の前にあったので使わせて貰ったぞ。上手く行ったワイ』


 妹と見た思い出の花火を触媒にしているのか……!? そんなの、そんなのって……。


「最強じゃないか!」


 結界が粉々に砕け散る。炎の牙が氷の壁を粉々に噛み砕いた。


 仮面の女が驚愕の声を上げる。

「結界が!? そんな事が……!?」


 当たり前だ。伝説の魔法創造者、水鞠十兵衛の幻の最新作だ。負ける気がしない!


 俺は素早く魔法自転車に乗り込み、ペダルに魔力を込める。

 結界の影響は無くなった。魔法エンジンを回転させ、全速力で駆け抜ける。


土煙田鼈(どえんたがめ)!』

 土の魔法迷彩で姿を隠す。代わりに花炎甲魚(かえんこうぎょ)が魔法空間の中に戻った。


「このまま駐輪場へ行くぞ!」




 夜の駅ロータリーは花火帰りの人で混み合っていた。脇にある古びた自転車駐輪場も、珍しく賑やかだ。


 俺は自転車を手で押しながら薄暗い通路を進む。

 その間、数人の利用者とすれ違う。


 俺は六年後、ここから噴き上がる黒い煙を追いかけ、鳥の魔法使いと二人でこの駐輪場にやって来る。


 そして、この地下に眠る魔法自転車を発見する事になるのだ。


 ん……?? ちょっと待て。確か六年後の魔法自転車の状態って……ボロボロになっていて……。


「ヤバい……!」

 俺は魔法自転車から手を離し、急いで距離を置いた。そして地面に伏せる。


 次の瞬間、魔法自転車の車体が空中でねじ曲がる。不気味な音を立て、真っ二つになってしまった。


 それは激しく地面に叩きつけられ、部品が飛び散って行く。


「逃げ切れると思ったのかよ……。甘めぇんだよ!」

 女の声だ。

 怒りに任せた叫びが放たれた後、駐輪場の入り口から仮面の女がゆっくりと姿を見せる。


 魔法迷彩で隠れていたのに追いつかれた!? ……って言うか、貴婦人キャラはどうしたよ!? キャラ崩壊し過ぎだろ! 


 既に氷の結界が張られ、さっきまで居た人間は、いつの間にか姿を消していた。


 俺を纏っていた魔法迷彩も剥がされている。今の俺は相手から丸見えだ。


 仮面の女が扇型の立体魔法陣を乱暴に振り回すと、氷の結晶が降り注いだ。

「テメェ……。あの魔法生物は何だよ。お姉さん、あんなの見た事ねぇんだけど。お陰で追跡は楽だったけどよぉぉ」

 

『残留魔法を追うとは……とんでもない実力じゃな』

 感心している場合じゃない。大ピンチだよ! 猫蛙! 相手がメッチャ切れてるよ!


 もう花炎甲魚(かえんこうぎょ)は使えない。もう後は……あれしか残っていない。


 空の魔法生物。風鱗海月(ふうりんくらげ)だ。


 俺は立体魔法陣を作る為、再び右手に魔力を集中させる。


『駄目だ誠殿! この世界で風鱗海月(ふうりんくらげ)は喚んではならん! 強力な未来改変が起きるぞ!』


 じゃあ、どうしたらいいんだ?


 仮面の女が靴の音を鳴らしながら近付いて来た。

「喚び出せよ。猫目青蛙(ねこめあおがえる)を」


 まさか……バレているのか? いや、ハッタリかも知れない。

「何処に居るか俺が教えて欲しいんだけど?」

 とりあえず知らないフリをする俺。すると相手は苛立ちを見せる。


「お前の態度を見りゃ分かるんだよ。居るんだろ? 猫目青蛙がお前の中に……! 噂によると随分と可愛いらしいって話じゃないか」


 仮面越しでも分かる。鼻息が荒く、興奮状態だ。


 何から情報を得ているのかは分からないが、実物の猫目青蛙(ねこめあおがえる)は全然可愛く無い。


 白ねこムヒョーに似せて作られたので、赤いリボンを首に着け、黄色の布を腰に巻いているが、青いし、そもそも蛙だ。


 いや、そんな外見の話はどうでも良い。答えは決まっている。


「知らないな」

 そう答えた瞬間、仮面の女の腕が伸び俺の胸ぐらを掴んだ。そして片腕だけで持ち上げ、地面に叩き付ける。


「痛ッ……テェ……!」

 簡単に倒されてしまった。これは水鞠と同じ魔法だ。身体の内部に魔法を使っているヤツだ。


「じゃあ、ここで死ねぇ!」

 そう言って俺に跨り、頭蓋骨を鷲掴みにする。握力が半端無い。このまま握り潰すつもりだ。


 身動き出来ない……激痛に耐える事しか出来ない。腕を掴み、取り払おうにもビクともしない。俺は言葉にならない呻めき声を上げる。


「苦しいか? でも、すぐには殺さんぞ? 私の怒りが収まるまではな!」

 完全に悪役のセリフだ。

 マズいぞ。どうしたらいい……!? 

 こんな所で俺は死ぬのか……!?


「…………何だ? これは」

 仮面の女が何かに気付き、倒されている俺の側から何かを拾い上げた。


 小さな……人形……?

 それは……。


 ムヒョーのストラップだ。水鞠から貰ったストラップがズボンのポケットから落ちてしまっていた。


「……返せ……!」

 俺は痛みに耐えながら反抗を試みる。

 それは六年後の水鞠が俺にくれたものだ。もう失う訳には行かない。


「ほう。大事なものらしいな。なるほど、魔法が何重にもかけられている様だ」


 そうだ。あれは俺の命を護る為に水鞠が用意してくれた物だ。


 だがそんな俺の希望を、仮面の女は否定する。

「残念だったなァ。今は封印されている状態だ。何も起きねェよ」


 ……そうか。この時間の水鞠が封印していたんだった。


 そうしなければ、魔法士協会に異変を察知されて、即ゲームオーバーになっていただろう。仕方が無かった。


「……ん? これは……?」

 仮面の女はストラップを興味深そうに調べ始めた。裏側を確認した所で二度見した。


「はぁ!?」

 そして何かに気付くと、蠟人形の様に動かなくなってしまった。


「これはお前の物なのか? ……いや、それ以外には考えられない話だ。そうか。そうなのか……。はは、はははは……」


 仮面の女が震え、笑い出した。

 何が面白いのか全く分からない。そして気が済んだのか、いきなり素の状態に戻る。


「お前に協力しよう」


 何でそうなった!?

 だが嘘では無さそうだ。女は魔法を解除すると、俺の頭から手を離し、立ち上がる。


 そして俺が上半身を起こした所で、ムヒョーストラップを返して来た。

 

「どうして……?」


 すると協会の魔法士が優しい声に戻る。

「お気になさらずに。貴方の居た世界に、私も行きたくなっただけですわ」


 何が起きているんだよ……。


 出世の為に猫目青蛙(ねこめあおがえる)が欲しかったはずが、いきなり世界を崩壊させると言ってみたり、一転、協力すると言って来た。


 今迄に出会って来た魔法使い達は変人ばっかりだが、この協会の魔法使いは全てにおいてレベルが違う。

 

 コイツは完全に壊れてる。間違いない。


「六年後、私は東の協会のトップになっているはずですわ。貴方が魔法士協会に訪れる事があったら、その時は私から挨拶しに伺いましょう」


 仮面の女はそう言うと、白い魔法着を翻して駐輪場の出口へ向かう。


 驚いた。本当に見逃してくれる様だ。

 まだ安心し切れないでいると、協会の魔法士が振り返った。何かを言い忘れていたらしい。


「また六年後に会いましょうニャ……おっと」


 そう言い残し、姿を消す。


「……ニャ?」

 

 ちょっと待て……。

 何でまた変な声に変わったの? まさか、あれが地声なのか?


 どこかで聞いた事があるぞ。


 それに今、絶対に「ニャ」って言ったよな……。


 嘘だろ……!?


 まさか、あの仮面の女……。




 ムヒョ山ニャン子!? 

 

 あのムヒョーイベントにいた、セーラー服のコスプレーヤーか!?


 慌ててムヒョーストラップの裏側を見る俺。

 そこには、「アニメ九期決定!」の文字が刻まれていた。


 これを見て確信したんだ。ムヒョーのアニメが復活する事を。


 六年前、ムヒョーのアニメ制作終了のニュースがファンにショックを与えた、と水鞠は言っていた。


 それが原因で仮面の女は自暴自棄になっていたって事かよ……。色々あり得ないだろ……。確かに俺には理解出来ないスケールの話だ。


 そしてそれは、もう一つの謎を生み出した。


「何歳なんだよ、あの人……」

 日高の覚醒回です。


 「花炎甲魚」は水鞠七兵衛が生前に考案し、実現出来なかった技術「ダブル触媒システム」によって作られ、「火喰甲魚」としても召喚出来る様になっています。


 コトリがニャン子を魔法使いとして認識出来なかったのは、ニャン子の方が実力が上だからです。

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