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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと待つ影
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第19話 日高誠と解明される謎

 水鞠七兵衛のアトリエを離れ、魔法自転車で街道を走り抜ける。


 スピードが上手く出せない。重心が安定せず、運転が上手く行かない。


 その理由は分かっていた。後部座席に桐生が居ないからだ。


 誰も知らないこの世界で、俺はアイツの存在に救われていた。感謝してもしきれない程に。


 六年後に戻ったら桐生に会いに行きたい。だからその為にも俺は……。


 ……あれ? その為に、次は何処に行けばいいんだ? 何も考えずに家に向かっていたぞ。


『それでいい』

 突然、背中から猫目青蛙が姿を見せた。


 ノソノソと俺の肩を渡り、魔法自転車の小さめの前カゴに胴体をスポッと入る。そして手足をブラブラとさせた。


『誠殿。次の要素回収までは少し時間がある。魔力の消耗を抑えつつ、ゆっくり戻ろうか』

「ちょ、出て来て大丈夫なんですか?」

 魔法士協会に狙われているのに何してんの!? ていうか、俺、召喚して無いし!


『今のワシはイメージじゃ。誠殿にしか見る事が出来ぬ様になっている。話をするのに姿が無いと不便じゃろ?』


 確かに猫目青蛙の本体は魔法空間に居る。

 何に気を使っているのかは分からないが、話し易い事は確かだ。


 今の俺の見た目は、UFOキャッチャーでドデカい蛙のぬいぐるみをゲットしてしまったハイテンションな人だ。周りから見えていなくて良かった。


「えっと、水鞠のお爺さん」

『なんじゃ今更。ワシの事は猫蛙と呼べ。言っておくが、ワシは水鞠七兵衛本人じゃ無い。あくまで人格を再現しているだけに過ぎん』


 え……? そうなのか。じゃあそうさせて貰うか。

「猫蛙。未来に帰る為の要素のヒントをくれないか? 思い付かないんだよ」

『ふむ。仕方無いのう。未来の事を思い出してみろ。不思議な出来事、謎の言動をした人物は居なかったか?』


 謎の言動って……。

 まず思い当たったのは綿貫さんだった。だから魔法自転車に乗って会いに行った。

 まだ他にあったかな……。


 俺の人間関係なんて狭い範囲だ。何人かの顔が瞬時に思い浮かんでは消えて行く。ん……?


「────あ!」

 居た! 居たぞ。明らかにおかしい言動をしていた人間が。


 引力魔法が暴走したあの朝。あいつは俺の部屋に他人の持ち物が出現した話を聞いても何も疑問を抱かなかった……!


 ──吉田玲二。


 アイツは「不思議な出来事で困っている人が居る」という謎の占いを信じて俺に協力していた。


 これで納得出来た。「影」を幾つも作り出していたのは、アイツもこの現象に関わっていたからだったんだ!


「猫蛙! 吉田玲二が足りない要素の一つなんだな?」


 俺の言葉に、前カゴに居た猫蛙が身体ごとクルリと振り返る。そして目玉を大きく見開き、ギロリと光らせながら静止した。


 ゆっくり流れる時間。その間に息を飲む俺。


『違うぞ』

「違うのかよ!」


 違う? 嘘だろ!?

「吉田の奴、どう考えても怪しさ満点だったじゃねーかよ! 違うのかよ!」


 すると猫蛙は目を細めた。

 何かを考え出した後、目をゆっくりと見開く。


『だから違うって』

「いちいちリアクションが紛らわしい──!」


 ……吉田玲二は無関係だったらしい。


 やはりアイツは単純でアホな奴だった。ま、その方が俺も嬉しい。


 答えの出ない俺を見て、痺れを切らす猫蛙。

『やれやれじゃ。誠殿、周りをよく見てみろ。ヒントが転がっているぞ』

「ヒント?」


 魔法自転車を停め、見渡してみる。

 今いる場所は、学校近くの駅ロータリーだ。


 確かに目の前には普段とは違った光景が広がっていた。


 今日は夏休みに入って初めての土曜日。

 その日には毎年、決まったイベントが開催されている。そう。


「花火大会……」


 浴衣を着た人間が歩いている。間違いない。

 そして六年後、俺に不思議な事を話していた人物を思い出す。


「美希だ!」

 妹の美希は、昔俺と二人だけで花火を観に行ったと言っていた。あり得ない話だと思っていた。お互い小学生だし、俺にはその記憶が無かったからだ。


 記憶が無いのは当たり前だ。花火はこれから観に行くのだから。


 足りない要素の一つは「美希との花火大会」だ。

 だったら準備が必要になる。まずは魔力の回復だ。

「家に戻るぞ。猫蛙」



 家に到着した俺は部屋に直行する。

 そしてベッドに横になり、目を閉じた。


 美希と花火大会に行くには魔法自転車の移動が必要だ。そうなると魔力の回復が必要になる。


 目標を達成させるには、焦っては駄目だ。

 限られた時間の中で最大限の力を発揮出来る状態に自分を持って行くんだ。

 綿貫さんに教わった事を、俺は無駄にしたくない。


 目を閉じると頭の中が整理されて行く。

 バラバラだった思考のカケラが結び付いて行く。


 それは、この六年前の世界に来てから、ずっと気になっていた事を思い出させた。


 花火大会開始まであと約二時間。その時間を使って、実行出来るかも知れない。


「猫蛙……相談なんだけど」

 俺はベッドから起き上がり、腰を掛けた。

 すると魔法空間にいる猫目青蛙が反応を見せる。

『何じゃ』


 イメージの猫蛙が目の前に出現した。

 そして俺の隣にちょこんと座る。

 その巨大な蛙と目を合わせると、自分の願いを告げる。


「改変されている人を助けたい」


 岸本紗英の事だ。

 こうしている間にも、改変者に改変されている可能性がある。自我を修正され、改変者の望む姿になろうとしているかも知れない。


 放っておけない。このまま何年も改変され続ける事になる。だから助けたい。


 だが猫目青蛙は首を横に振る。

『無理じゃな』

「何でだよ! 結局、六年後に俺が改変者から助ける奴なんだよ。だったら、今助けても同じだろ?」

『同じでは無い。今、助けたら未来改変が起きるぞ』


「改変されているものを元に戻すだけだ。未来改変は起きないだろ?」

 散々雑なファンタジーに振り回されて来たのに、何でこれだけ都合良く行かないんだよ。


 猫目青蛙はベッドから降りると、部屋の中央に立つ。そして指で顎を摩った。

『影を消した時期の改変は未来に大きな影響を与える。最悪、助けたい対象の存在が消滅する場合もある』

「消滅……!?」


『過去に似たケースがあったが、その時は悲劇が起きた』

「そうなのか……」

 受け入れるしかない様だ。肝心な時だけ雑にならないとか、酷すぎるだろ。


『辛いのは分かる。たが、未来で助けられるのなら、未来の自分に託すがいい。さあ、命令してくれ誠殿。それが足りない要素の一つじゃ』


 そうか……そう言う事だったのか。

 全てが繋がった。謎が解けた。


「猫蛙。六年後、俺は魔法が暴走して、他人の持ち物を引き寄せる事になる。その時に、岸本紗英のテニスラケットを持って来て欲しい。それが無いと、岸本紗英を救えない」


『──了解した』


 俺の部屋にあった岸本のテニスラケットは、引力魔法で引き寄せたものでは無かった。テニスラケットからは、俺の魔法の匂いがしないと水鞠は言った。


 当然だ。それは意思を持つ魔法生物が持って来ていたからだ。


 岸本は六年後の俺が助け出す。今はこれしか、出来る事は無い。




 花火大会開始十分前。

 階段を降りてリビングに入ると、母親が得意料理のエビカレーを作っていた。


 ソファーには美希が座り、テレビを見て寛いでいる。父さんは今日も帰りが遅いらしい。


 さて、どうやって美希を連れ出そうか。

 ただでさえ美希は問題を抱えて引き籠っていた。そもそも、十歳の俺が花火を観に家から連れ出すのは不可能だ。


 すると俺の背中から、ヒョッコリと猫目青蛙が現れた。


 オイオイ。俺、召喚して無いのに勝手に出て来ちゃったよ……。


 母さんのスキを突き、冷蔵庫から素早く生エビのパックを取り出す猫蛙。そして中身をバリバリと食べ始めた。


 ちょ、えええ……。


 気付かずにカレーを作り続ける母。

 猫蛙は全てのエビをペロリと食べ尽くした後、勝手に魔法空間に戻ってしまった。


 母が鼻歌混じりに冷蔵庫を開けて驚く。

「あら!? エビが無い!? ……いつ使ったっけ?」


 使ってないです。今、目の前で謎の生物に喰われましたマイマザー。

「しょうがないなぁ。違う具材で……」

 そう言って冷蔵庫の中を探し始めた。


 ああ……そう言う事か。やっと猫蛙の意図を理解した。俺は咳払いをして息を吸い込む。

「ええ──? 今日はどうしてもエビカレーが食べたかったのになぁ」


 母が諦めかけたエビカレーをリクエストする俺。正直言って、昔からエビカレーは苦手で、自分からお願いする事は無かった。


「本当!? マコちゃんがそう言うなら、ママちゃんエビ買ってきちゃう! 三十分位待ってくれる?」

 母は元よりエビカレー気分だった様だ。素早く支度した後、ウキウキでスーパーに買い物に出かけてしまった。


『上手く行ったな。誠殿』

 エビの尻尾を口からハミ出しながら現れた猫蛙。

「ファンタジーさの欠片も無いけどな」

 むしろ、やり方が「白ねこムヒョー」っぽくなって来たよ。すごく残念だよ。


「お兄ちゃん、何か言った?」

 美希が心配そうに近寄って来た。

 ああ、猫目青蛙の声は美希には聞こえないんだった。気を付けないと独り言を言う危ない人になる。


「美希! 兄ちゃんと花火を観に行こう!」

「花火……!?」


 美希は笑顔になったが、すぐに不安げな表情に変わる。

「ママもパパも居ないし、ご飯食べた後だと時間が無いよ?」

「だから今から行くんだよ! 兄ちゃんと二人で!」


 そう俺が言い終えるタイミングで猫目青蛙が指をパチンと鳴らした。

 すると突然、美希は目を閉じ、身体をフラつかせる。慌てて支える俺。


「美希!?」

 びっくりした。寝てるだけだ。

 どうやら魔法で眠らせているらしい。器用な魔法生物だな。


『時間が無い。すぐに花火大会へ向かうぞ!』

「強引だな……。今、魔法を使って大丈夫だったのか?」

『多少ならな。じきに気付かれるかも知れないが問題無い。そうなる前に、この世界からおさらばじゃ!』


 何か言動が悪者みたいになって来たな。

 いや、間違いじゃ無いかも知れない。魔法士協会からして見れば、俺は未来を改変する犯罪者だ。


 眠った美希を背負い、裏庭に移動を開始する。

 そして停めてあった魔法自転車の後部座席に座らせた。


 十歳の俺には重労働だったが、猫蛙が手伝ってくれた。何気に気が効く魔法生物だ。


 魔法自転車に乗り込み、ペダルに魔力を注ぎ込む。そして花火大会の会場に向かい走り出した。




 会場には数分で到着した。既に花火大会は始まっていて、土手には多くの人が集まっている。


 人が少ない場所まで移動し、自転車を停める。猫蛙が持って来ていたビニールシートを敷き、美希を座らせた。


『眠りから覚ますぞ』

 妹が後に倒れない様に猫目青蛙が背中から肩を支え、指を鳴らそうと準備をする。


「いきなり起こして混乱しませんか?」

 家に居たはずなのに、目が覚めたら土手の上に居るとかホラー過ぎるでしょ。


『問題無い。今からの出来事は、夢か現実なのか理解出来ない様になる。ま、催眠術にかかっているみたいなものじゃな』


 なるほど、美希の中の記憶もハッキリしていなかったのはその為か。


 猫目青蛙が指をパチンと鳴らす。

 美希はビックリした様に目を覚ました。

 そしてすぐに目の前に広がる光景に釘付けになる。

「すごい……きれい……」


 美希は花火に見惚れている。混乱した様子は無い。上手く行っている様だ。


 今、土手には俺達二人が並んで座り、空には無数の花火が打ち上がっている。


「お兄ちゃん、ありがとう」

そう呟くと、美希は俺に視線を向ける。


「美希ね。ずっと怖い夢を見ていたの。そうしたら、お兄ちゃんが助けに来てくれたの……」


 美希が「影」の事を語り出した。それは二日前に本当にあった出来事だ。美希を恨むクラスメイトが生み出した影に、生きる力を奪われ続けていた。


「美希。それは夢じゃないよ」

「え…………?」


 俺は驚く妹の頭に優しく手を乗せた。

「美希の事を苛めていた奴を、お兄ちゃんがやっつけたんだ」

「……本当?」


「本当だよ。だから、もう大丈夫。お兄ちゃんがついてるから」


「お兄ちゃん…………」

 美希の頬には涙が溢れ落ちている。俺にも想像出来ない程の辛い事があったに違い無い。


 六年前、俺は美希を改変しようとした影を倒す為に覚醒し、魔法を使った。


 それ自体に問題は無い。影を消滅させる事こそ、魔法使いの役割だからだ。


 問題があったのは、俺の魔法性質だ。


 この未来の自分を引き寄せ、時間を超える能力は周りへの影響が甚大だ。魔法士協会だって、無視出来ないだろう。


 他人の運命を簡単に変える力は、きっと悲劇を生む。でも……。


 こうして美希が救えたのなら、俺は自分を誇りに思える。例えこのまま帰れなくても後悔はしない。


 笑顔になった美希を見て、そう思えた。

 三章も残り僅かとなりました。

 最後まで是非、ご覧下さい。

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