第18話 日高誠とチートキャラ
第二章の改稿が終了しました。
大きな変更はありません。
白い壁に囲まれた世界。
ここは俺が契約した魔法生物達が住んでいる魔法空間だ。
自分の精神の中に在るのは分かっていたが、実際に訪れる事になるとは思わなかった。
目の前に居るのは巨大なカエルの姿をした魔法生物だ。驚く事に、自分が水鞠七兵衛だと主張している。
水鞠七兵衛。
水鞠コトリの祖父にして、魔法創造士。
俺の契約している魔法生物は、全て水鞠七兵衛が作った物だ。
魂を触媒にするなんて、そんな事が可能なのか?
猫目青蛙は頷き、そして目を閉じた。
『触媒と言っても、ほんの僅かな割合じゃよ。コトリが何を喜ぶかを判断させる為に必要だった。だが、猫目青蛙はそいつを利用した』
「利用……」
何の為にかは分かっている。
目の前で弱っていく水鞠を助ける為だ。
自分の力では、水鞠コトリを癒す事が出来ないと判断したからだ。
目の前に居る魔法生物は、顔の肉を粘土の様に動かし、ヤレヤレといった表情に変わった。
『事の始まりは一ヶ月前の事だ。 猫目青蛙は、ワシの魂を分析し、能力の全てを使って復元させる行動に出た』
「一ヶ月前って……まさか……」
『そうだ。それによって、改変現象が起こってしまったのだ。死んだ人間の人格を魔法で復元する事は、未来に影響を与える行為だったからじゃ』
そうか。それを魔法士協会は察知した。そして 猫目青蛙の捕獲に動いた訳だ。
『コトリの奴も 猫目青蛙が、何かしらの改変現象を起こした事に気付いた。だから魔法士協会に回収される前に契約を解除し、隠したのじゃよ』
話している事は全て真実だ。
それは俺が契約者だから理解出来る。だが、話のスケールがデカ過ぎて頭が付いて行かない。
だって、死んだ人間が魔法生物になって蘇生した事になるんだぞ? そんな事が許されるのか?
いや、悩んでいる場合じゃない。俺には目的がある。
「俺は六年後の元の世界に戻りたいんです! 何か方法はありませんか?」
すると猫目青蛙の目玉が大きく見開いた。飛び出してしまいそうな勢いだ。
『戻る方法……じゃと?』
しばらくそのままでいたが、目玉はスウッと元の大きさに戻って行く。
『あるよ』
「あるの!?」
答えがアッサリしててビックリしたよ! え!? あるの!? お母さんが夕飯のリクエストに答えるみたいな軽い返事だけど!?
『未来に帰る事は容易だ。誠殿の今の意識を六年間寝かせた後、起こせばいい。後は関わった数人の記憶を消して行く』
「どこが容易なんですか? 俺が六年間眠るのは分かります。でも、多人数の記憶を消すのは難易度が高過ぎでしょ!?」
『ワシなら可能だ』
「そんな事出来る訳────」
え!? ちょっと待ってくれ。 本当に出来るのか!?
『だから言っとるじゃろ。可能だと』
それはそれで無茶苦茶だ。何でもアリじゃないか!? チートキャラ過ぎる!
すると猫目青蛙の様子が神妙な面持ちになる。
『問題はある。未来に戻ると改変現象が起きる。対策無しでは、新たな「改変者」「影」が生まれてしまうだろう』
「対策……?」
『ちょっと待っとれ』
そう言った後、猫目青蛙は謎のスマホを取り出し、通話を開始した。
『あー、もしもし? あ? ワシ。どう? ああ、なるほど、じゃ、ハバナイスデー』
よく分からないが、誰かと通信をした様だ。
……て言うか、そのスマホ何処から出て来たの?
『六年後のワシと交信した』
「そんな簡単に!?」
『普通なら不可能だ。今は誠殿が使った引力魔法の痕跡を追う事で可能にした』
どちらにしても凄過ぎるだろ……。
とんでもない魔法生物と契約しちゃったよ。
『事態は複雑になっている様じゃ。このままでは、誠殿に居た世界には戻れない事が分かった。幾つかの要素が足りない状態だ』
「要素……?」
『この改変された六年前の世界で、やり忘れている事がある。それを達成しなければ、同じ未来にはならない』
何だ? やり忘れている事……? そんなものあるのか?
『タイムリミットの明日二十一時を過ぎれば、魔法士協会が全力で誠殿を捕らえに来るだろう。それまでに全ての要素を達成し、このベッドで眠りに着くのだ。それが六年後に戻る唯一の条件だ』
そう言って、指をパチンと鳴らす猫目青蛙。
眩しい光に思わず目を閉じる俺。
目を開けられずにいたが、時間の経過と共に少しずつ視界が開けて来た。
見覚えのある天井だ。
すぐに自分の部屋のベッドの上だと気が付いた。
やはり、猫目青蛙のパンチを喰らって気絶していたらしい。どの位時間が経っているんだ?
え? ちょっと待ってくれ。日が昇っているぞ!? 慌てて時計を確認する。
「十五時二十分か……」
良かった。まだ十五時か……。ん? 十五時……!?
「十五時!?」
どうなっているんだ!? 幾ら何でも寝過ぎでしょ!? 普通は一瞬の出来事とかになっている流れじゃなかった!?
『誠殿……』
頭の中から猫目青蛙の声がする。魔法空間から話かけて来ているらしい。
『色々準備があって時間が必要だったんじゃよ。さあ、始めるぞ。未来に戻る戦いを!』
「いや、でもどうすれば……」
『まずは移動して報告すべき事があるじゃろ?』
「報告……?」
そうだ。アトリエだ。
桐生が待っているかも知れない。早く伝えないと。猫目青蛙に出会えた事を!
約束の十二時は過ぎている。でもあいつはきっと俺を待っているはずだ。
半袖半ズボンの紺のジャージに素早く着替え、部屋から飛び出した。
庭に移動し、昨日から横倒しで放置されていた魔法自転車の前に立つ。
『来い! 土煙田鼈』
名を呼び、土の魔法生物を召喚する。
姿を見せた巨大タガメは、「キュイーン」という音を鳴らしながら、緑の目を光り輝かせた。
あれ……? 何かが違うぞ!? 魔法エンジンの音が変わっている?
頭の中で猫目青蛙の声が聞こえる。
『壊れていた土煙田鼈はワシが修理した。これで魔法士協会の追跡は不可能になったぞ』
スゲェな猫目青蛙! 流石は作った本人だ。
魔法自転車に乗り、魔力を注ぎ込む。
相変わらず魔力の消費量はかなりのものだが、身体が軽く、気にならない。
修理された土煙田鼈は煙状態でのコントロールが容易で、魔力消費量も抑えられている様だ。
これなら高速移動も可能だ。
俺は全開フルパワーでアトリエに向かった。
「カケル!!」
桐生の声が深い森に響く。
古びた洋館。アトリエの前に桐生は居た。
良かった! やっぱりまだ待っていてくれていた。綿貫さんと真壁スズカも一緒だ。嬉しくて涙が出そうだ。
「ゴメン。遅くなった」
魔法自転車を降り、スタンドで立てる。
すると、すぐに三人が駆け寄って来た。
「遅いぞカケル! もう……来ないかと……来なないかと思ったぞバカ野郎!」
泣き出しそうになる桐生。その感情を噛み潰し、俺の手を取る。
「早く行こうカケル! 隠れ家へ!」
桐生とはここで待ち合わせして、水鞠七兵衛の隠れ家へ向かう事になっていた。それは、猫目青蛙を探す為だ。
「ありがとう桐生。でも、もう……そこへ行く必要が無くなったんだ」
「はぁ!? カケル、何言ってんだよ!」
桐生が叫ぶ。
「ありがとう。お前の協力が無かったら、きっとここまで辿りつけなかった」
その俺の言葉で桐生は気付いた様だ。
「まさかお前……」
俺は静かに頷く。
「今、『猫目青蛙』は俺の契約下にいる。水鞠コトリにも会えた」
桐生は驚愕の表情に変わる。
「本当か……!? 本当に……!?」
そして喜びを爆発させた。
綿貫さんと真壁スズカも驚きを隠せない様子だ。
「会えたのか……コトリ様に。信じられん……」
「カケル……凄い」
二人に視線を移した後、桐生と向き合う。
「本当だ。でも元の世界に戻るには、やらなくちゃいけない事があるらしい。それをこれから探しに行く」
「俺も手伝うよ! カケル!」
「ありがとう桐生。でも、大丈夫だ。俺には猫目青蛙がいる。後は自力で戻ってみせる」
「そうか……」
落ち込む桐生。綿貫さんは、桐生の頭を大きな手で鷲掴みにすると、優しく引き寄せた。
「じゃあ、ここでお別れか。短い間だったが、楽しかったよぉ」
その背後から、真壁スズカがヒョコッと現れる。
「バイバイ、カケル」
小さく手を振って来た。相変わらず無表情だ。六年前はこんなに可愛いのに、何で変態ギャルになっちゃったんだよ……。
そして桐生と最後の別れを告げようと視線を交わす。
「桐生……」
「カケル! お前、コトリ様とどういう関係なんだよ!
「え!? 何言ってんだよこんな時に!」
桐生は俺を不審者扱いをする様な目に変わる。
「だっておかしいだろ! カケルの元々居た場所には、コトリ様が側に居たって事だよな。お前、何者なんだよ!」
最後だからと思って言いたい放題だな。
すると真壁スズカも便乗して来た。
「確かに気になっていた。側にお仕え出来るのは上位の実力者三名のみ。カケルは明らかな実力不足」
容赦無いな! だからといって、ただの科学部部員で、面倒臭い友達だって言ったら信じてくれるのかな。
今はどうか知らないが、六年後は俺も岸本紗英も屋敷に出入り自由になっているぞ。
まあ、今はそんな事話せる訳が無い。
桐生が詰め寄って来る。
「怪しいな。答えられないのか?」
コイツら、本当に水鞠コトリの事大好きなんだな。
すると突然、真壁スズカはドミノに似た小さな立体魔法陣を幾つも出現させ、空中でジャラジャラと混ぜ始めた。何してるの!?
そして俺にその中の一枚を取らせると、真壁スズカがニヤリと笑った。
「壁占いの結果では、カケルの好きなタイプは、小柄で巨乳、茶色のフワフワ髪の女の子。コトリ様はタイプじゃない」
何それ!? 当たり過ぎて怖い! 壁占いスゲェな! 占いの精度超えちゃってるでしょ!?
その結果を聞くと、桐生が軽蔑の眼差しを向けて来た。
「うっわ。それ、『マジキョア』のキャラクターじゃねーか。しかも趣味悪っ! キモッ」
「マジキョア」ってあれだ。妹が朝に見ていた魔女アニメのタイトルだ。
どうやら俺の好きなタイプの女の子のイメージは、妹が見ていたアニメのキャラクターが元になっていたらしい。
全然記憶に無かった……。何だか急に恥ずかしくなって来た。
顔を赤くしていると、桐生が俺の腹を殴って来た。
「言っておくが、俺がコトリ様の一番になるんだ。覚えておけよ!」
そして目を輝かせる。
桐生は六年後、水鞠コトリの近くには居ない。でも、そんな事は関係無い。
俺は桐生を応援したい。
例え未来が変わったとしても、それが魔法使いのルールに反していると分かっていても。俺の気持ちは抑えられない。
桐生の覚悟を、否定なんて出来る訳が無い。
「お前なら間違い無くなれるよ。俺が約束する。また会おう桐生」
「当たり前だ。バーカ」
生意気で自信が無くて気弱な太った少年は、すっかり一人前の魔法使いの表情になっていた。
綿貫さんはその様子を見ると、眼鏡を取り、右手で目頭を抑えた。そして真上を向いた後、眼鏡を掛け直し、俺の肩を叩く。
「じゃあなカケル。次に会う時までには美味い蕎麦を作れる様にしておく。必ずお前にご馳走するからな!」
「楽しみにしてます綿貫さん。ありがとうございました」
そして深々と頭を下げる。
綿貫さん。その蕎麦……とても美味しかったです。
戻ったら、もう一度伝えます。必ず。




