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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと待つ影
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第14話 日高誠と秘密の隠れ家

 午後からは曇り空から天気が一転し、夏らしい青空に変わった。


 干していた洗濯物が一瞬で乾く。いい香りが漂うシャツに着替えた後、俺は家の扉を開け、真っ直ぐ伸びる野道へ歩き出した。


 そして待機させていた巨大タガメの名前を呟く。


土煙田鼈(どえんたがめ)

 

 「グイーン」という起動音と共に、二つの目玉が緑色に光る。スリープ状態が解除され、土の魔法迷彩で隠されていた魔法自転車が姿を現した。


 この土煙田鼈(どえんたがめ)は他の二体の魔法生物よりもメカっぽい雰囲気だ。何と言うか、生物感が無い。


 味気は無いが、それはそれで厨二感が擽られる。「おはようマイケル」なんて話しかけて来たら胸熱だ。サドルからバネが飛び出して真上に飛んで行くギミックも欲しくなる。


 休憩した事で魔力は完全に回復した。これでまた、全力で動ける様になった。綿貫さんの言っていた事は正解だ。


 魔法自転車に乗り、振り返ると、シャッターの前には綿貫さんと桐生、そして真壁スズカが並んで居た。


「行くぞ桐生」

 そう言って自転車の後部座席を指差す。だが、桐生は動かない。


「カケル……本当にいいのか? 俺はまた足を引っ張るかもしれない……」

 そう言って桐生が視線を逸らした。ああ、また面倒臭い事を言い出したよ……。こいつのマイナス思考は底無しだな!


 俺は笑顔を作り、話し掛ける。

「桐生、一緒に来てくれ。俺にはお前の力が必要なんだ」


 嘘でも大袈裟な言葉でも無い。


 俺は六年後の桐生に会っていない。だから一緒に行動しても未来改変が起きる可能性は低いだろう。この状況では、桐生が一番の適任者だ。


 桐生はまんざらでも無い様子になる。

「仕方ねぇな。分かった……。でも、どうなっても知らないからな」


 その言葉を耳にすると、綿貫さんは嬉しそうに微笑んだ。そして力強く背中を押す。

「言って来い桐生。カケルを助けられるのはお前しかいない。猫目青蛙(ねこめあおがえる)と会わせてやってくれよぉ」


 桐生は小さく頷くと、太った小さな身体を魔法自転車の後部座席に納め、イヤホンマイクを装備する。おお、忘れていた。俺も続いてイヤホンマイクを頭に乗せた。


「スズ。魔法士協会の動向はどうなっている?」

 綿貫さんから質問を受け、真壁スズカが淡々と答える。

「コードネーム『レスラー』『アフロ』『演奏者』は、それぞれ違う場所にいる。私達の目的地からは離れている」


 よし。運も向いて来た。今がチャンスだ。


 真壁スズカが状況説明を続ける。

「コードネーム『演奏者』は、次にヘマをしたら、さらに報酬から三十パーセントカットの上、反省文をネットにアップすると協会の幹部から通達されている」


 何か、どんどん悲惨な事になってるな橘辰吉……。

 まあ、出会ったら容赦無く全力で逃げるけどな。


「行ってきます」

「気を付けろよぉ」



 土煙田鼈(どえんたがめ)で姿を隠し、目的地へ向かって出発した。


 水鞠七兵衛の隠れ家。一体どんな所なんだ?


 場所は山の中だ。魔法自転車で一時間程。桐生に頑張って貰ってなるべく早く到着したい。


 魔法士協会も猫目青蛙(ねこめあおがえる)を探索中だ。回収されたら未来に戻る手掛かりが無くなる。何としてでも先に見付け出さないと、全ては手遅れになる。


 そうなったら岸本紗英を救う事が出来ない。魔法花火大会が成功した未来が無くなるかも知れない。それでは困る。俺は元に居た未来に戻りたいんだ。



 都内とは逆の方向に向かっている。

 川に掛かる巨大な橋を渡り、国道沿いを進む。県境を越えると、いきなり風景が変化する。山や丘が多く、高低差が激しい。


 だが、思った程の疲れを感じない。


 桐生も魔法自転車に慣れて来たのか、休憩の回数が前に比べて大幅に減っている。今の所は順調だ。


 上手く行き過ぎて不安になる位だ。それはそれで魔法士協会の動きが今どうなっているのか気になる。


『カケル……』

 イヤホンマイクから通信が入った。真壁スズカだ。


「何か有ったのか!?」

『コードネーム〈レスラー〉に動きがあった。鉢合わせはしないと思うけど、念の為に大通りを避けて』

「了解」


 指示通り国道から変更する。時間のロスは仕方が無い。


「桐生。休憩するか?」

 第二のエンジンが汗だくになって息を切らせている。オカッパ頭の前髪も、額に張り付いてしまっていた。


「大丈夫。ハァ……ハァ……まだ走れる」

「…………いや、休憩しよう……」


 曲がりくねった坂道の途中でコンビニを見付けた。駐車場に自転車を停め、座り込む。


 周りは森と民家が少し見える程度だ。さっきから頻繁にトラックが走り抜けていく、流通の為の重要な路線らしい。


「桐生。悪いが飲み物を買って来てくれ」

「分かった」

 二人分の代金を渡し、しばらく待つ。

 すると、桐生が二人分の飲み物の入った袋をぶら下げて帰って来た。


 俺はサイダーを選び、炭酸を喉に流し込んだ。桐生はスポーツドリンクの栓を開く。


 コンビニに駐車場で二人並んで座り、空を見上げる。


 こうして桐生と休憩するのは何度目だろうか。もう思い出せなくなっている。


猫目青蛙(ねこめあおがえる)……。どんなヤツなんだろう……」

 目の前に突然現れたとして、俺はそいつが「猫目青蛙(ねこめあおがえる)」だと判断出来るのだろうか。水鞠の話だと、「青くてリボンが付いている蛙」って言っていたよな。大きさとかはどうなっているんだ? 不安になって来たぞ。


 すると桐生がスポーツドリンクを半分飲んだ所で一息つく。

「俺、見た事ある」

「あるの!?」

 そうか。水鞠は人前で猫目青蛙を召喚していたのか。


「水鞠家では半年に一度、上位の従者が家族を連れて会合をしていたんだ。その時にコトリ様が連れていた。こんな感じの奴だよ」

 そう言って桐生は、綿貫さんから渡されていた地図の余白に絵を描き込んだ。


「こ、これは……!?」

 その絵を見て驚いた。

 まず蛙に見えない。手足が変な所から生えている。この絵の通りなら、モンスターと勘違いして一狩りしてしまいそうな勢いだ。


「いや、違うんだよ! 本当は可愛い蛙の形なんだよ。俺が下手なだけで……」

 桐生は恥ずかしそうにして俯いてしまった。


 あ、ああ。そうなんだ。いやぁ……焦ったぁ。

「いや、ならいい。蛙なのは分かってるから」

 青い身体で、ムヒョーと同じ様な赤い蝶ネクタイをし、腰布を巻いている様だ。体長は一メートル位らしい。


「サンキューな桐生。大分イメージは掴めたよ」

 もし猫目青蛙に引力魔法を使う事態になった場合、イメージが重要になる。曖昧なものは掴む事が出来ないからだ。


 伝説の魔法創造者、水鞠七兵衛は、孫娘の誕生日プレゼントの為に、「白ねこムヒョー」に似せた魔法生物を作り上げた。


 まさか自分が死んだ後に、こんな騒動になるとは、思いも寄らなかっただろう。


「なあ桐生。もし猫目青蛙が魔法士協会に回収されてしまった場合、その後はどうなるんだ?」

 落とし物みたいに、持ち主に戻って来るとは思えない。


 桐生は少しの間だけ難しい顔になったあと、自分の考えを纏める。

「改変現象を起こした魔法生物だぞ? 消されるか、改造されて魔法関係のシステムの一部に組み込まれるかじゃねーのか」


 どちらにしても水鞠にとっては最悪な結末だ。六年後の世界では行方不明のままになっていた。でもそれは、水鞠の記憶が消されているだけかも知れない。


 真実が知りたい。その為にも、早く見付け出しておきたい。俺は立ち上がると、ストレッチを開始し、移動再開の準備を始めた。


「半分貰うぞ」

 俺は自分が手に持っていたサイダーと、桐生の持っていた飲みかけのスポーツドリンクを勝手に交換し、一気に飲み干した。


 すると、桐生は交換されたしまったサイダーを手に持ったまま、固まってしまった。


「あ、悪い。炭酸苦手だったか?」

 俺が申し訳無さそうにしていると、桐生は左右に首を振る。それから深呼吸をした後、意を決した様にサイダーを飲み干した。


「行こう。カケル」


 

 休憩は終了だ。

 桐生を後ろの座席に乗せ、魔法自転車を走らせる。目的地まで後三十分もあれば着くはずだ。


『カケル……』

 また通信が入った。真壁スズカの声だ。


『〈レスラー〉が移動してカケル達から離れた。代わりに〈演奏者〉が近付いて来ている。道を変えて』

「了解」


 かなり遠回りになるが仕方が無い。

 少し戻る様なコースに変更し、目的地へ向かう。


 魔法士協会の連中は戦力を分散して広範囲で調査をしているらしい。一つの場所に留まらず、ローラー作戦を実施している。それは向こうにも手掛かりが無いからなのかも知れない。



『カケル!! 逃げろ!!』

 突然、綿貫さんの声がイヤホンから聞こえる。

「どうしました!?」


『やられた! 今、お前達は捕捉されている! 全速力でそこから逃げろ!』


 …………マジかよ……!

 捕まる訳には行かない! 捕まってたまるか!


「カケル!」 

 桐生が泣きそうな声を上げた。

「大丈夫だ! しっかり俺に捕まれ!」


 全開の魔力をペダルに込める。魔法自転車のエンジン音が激しく鳴り響く。空気までもがビリビリと振動を繰り返す。


 そのまま目的地とは逆方向に向かって、猛スピードで走り抜ける。


「カケル! 何処へ行く気だよ!」

「隠れ家の場所を奴等に知られる訳には行かない。追跡を振り切ってから一旦隠れる!」

「了解!」


 県道を通り、脇に逸れる。グネグネと適当なコースを走り、追跡の目を混乱させる作戦だ。本当に有効かを考えても無駄だ。


 何せ魔法士協会が、どういった方法で見えないはずの俺達を捕捉出来たのかが分からない。


 後先を考えない無茶な移動だ。一瞬で魔力も体力も限界を突破してしまった。そろそろ動けなくなりそうだ。


 森の中を走り、辿り着いたのは古びた神社だ。あまり手が入っていないらしく、埃に塗れている。この場所に身を隠すしか無い。


 神社の裏手に回り、魔法自転車を停止させ、桐生と俺は身を潜める。

 

 建物の壁に背中を付け、二人並んで魔力の回復を待つ。桐生の脚はガクガクと震えていた。

 

 俺は桐生の小さな体を引き寄せ、背後から抱き抱えた。

「大丈夫だ桐生。お前は絶対に無事に帰すから」

 桐生は恐怖で全身が震え、心臓の鼓動が速くなっている。落ち着かせる様に腕に力を込めた。


 ──耳鳴りが響く。


 これは、そう。誰がが魔法を使ったシグナルだ。

 

 逃げ切れなかった。もう追いつかれている。敵はもう、目の前に居る。

 大ピンチの日高。

 二人は無事に逃げ切れる事が出来るのか。

 誰も助けに来てくれない状況です。


 次回、話が大きく動きます。

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