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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと待つ影
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第10話 日高誠と新たな協力者

 翌朝。自分の部屋で目が覚めると、すぐに自分の姿を確認した。


 鏡を見る必要も無い。自分の身体を見れば分かる。


 ……十歳の日高誠のままだ。


 落ち込んでいる場合じゃ無い。今の状態が悪夢でないのであれば、現実で問題を解決するしか無い。協力してくれる人だって居るんだ。きっと未来に帰れるはずだ。


 朝食を家族と済ませ、急いで支度をする。

 スポーツブランドの青い半袖半ズボンを着込み、帽子を身に着けた。


「お兄ちゃん……どこに行くの?」

 玄関で靴を履いていると、妹の美希が不安そうな表情で現れた。

 

「図書館で宿題をする。午後はそのまま遊びに行くから家に戻らないからな」

 家族にはそう嘘をついた。でないと丸一日動けない。


「お腹空くよ?」

「オニギリ二つ持ってるから平気だよ。今日はずっとママが家に居る。心配しなくていいから」


 きっと、もう影が美希を襲う事は無い。

 消滅させた後の「嫉妬の影」には力が残っていなかった。


「分かった……」

「じゃ、行って来ます」

 残念そうな妹の表情に一瞬躊躇ったが、すぐに家を出る事にした。美希には悪いが、今は時間が無い。

 

 玄関を出ると、門を通らずに裏庭に向かう。

 狭い庭には、俺が物心がついた頃から小さな物置が一つ置かれている。


 その横にに立ち、魔法生物の名を呼ぶ。


土煙田鼈(どえんたがめ)

 土煙と共に、隠していた魔法自転車が姿を現した。


 土煙田鼈(どえんたがめ)は最小限の魔力で稼働できるスリープモードがあり、無機物なら長時間を隠す事が出来た。優秀な魔法生物だ。


 昨日と同じく魔法迷彩を展開し、自分の姿を隠す。魔法自転車に乗り、ペダルに魔力を込めた。


 謎のエンジン音と振動が身体を包み込む。

 ワタヌキ魔法具専門店へ向かい、ゆっくりと走り出した。



 空は雲に覆われ、いつもの夏の日差しはお休みだ。予報では雨になるらしい。


 今日は夏休み一日目。

 学校が無くて本当に良かった。それだけで未来改変の可能性が減る。今は人に会うのを避けたい。


 何か問題が起きたら元の未来には辿り着けないだろう。


 そうなったら、水鞠や吉田に会えなくなるかも知れない。岸本を助ける事が出来なくなるかも知れない。それは絶対に嫌だ。


 

 深い森を抜け、ワタヌキ魔法具専門店へ到着した。


「待っていたぞカケル君」

 シャッターの前で綿貫さんが立っていた。昨日と違って白いポロシャツにベージュのパンツのラフな格好だ。そして脇には知らない子供を抱えている。


 また!? 何で会う度に子供を小脇に抱えているの!? 綿貫さんの怪しい風貌と相まって、犯罪臭が半端ない! 大丈夫かこれ!?


 そんな俺の心配を察したのか、綿貫さんが状況を説明する。

「おう? ああ、こいつか。知人の子供を預かっていてな。良く家出するから、その度に捕まえてこうして連れ戻しているんだよぉ」


 そう言って雑に地面へ投げ捨てる。

「痛え!!」

 

 良く見ると、昨日と同じ男の子だ。黒いオカッパ頭の短髪。濃い緑色の上下揃いのジャージに白のスニーカー姿。年は妹に近そうだ。七、八歳位だろうか。体型はかなり太っている。目は大きく、丸い鼻をしていて、なんとなく犬顔だ。


「紹介がまだだったな。えっと、コイツは……」

 綿貫さんが偽名を考えている様だ。また思い付かないらしい。すると、太った少年は自分で名を名乗る。


「俺はキリュウだ」

 そう言って立ち上がり、土埃を叩く。


「お前……また勝手に……」

 綿貫さんが手を焼いている様にも見える。もしかして問題児? 妙な貫禄があるな。


 それにしても、……キリュウ……? 聞いた事のある名前だ。確か何処かで……。


「知っているのか?」

「会った事はありませんが……」

 俺は綿貫さんの質問に首を横振る。

 六年後の世界での面識は無い。それは間違い無い。


「なら良かった。しばらくコイツと共に行動して貰うつもりだ」

 え!? どういう事!?


「はぁ──!? ふざけんなよ!」

 少年も不満気だ。だが、それは俺も同じだ。こんな態度のデカい奴と一緒に居るのはゴメンだ。不快極まりない。


 それが伝わったのか、綿貫さんはヤレヤレと言った様子で説明をする。


「理由は二つだ。一つ目は、今から向かう場所は、水鞠家の従者にしかたどり着けない魔法の鍵が掛けられている。二つ目は、カケル君が乗って来た魔法自転車は初期型で燃費が悪い。土煙田鼈(どえんたがめ)で姿を消しつつ移動するのには限界がある。協力者が必要なんだよぉ」


 ああ。なるほど。二人乗りして、自転車に魔力を注入して貰う訳か。だったら真壁スズカの方が適任な気がするけど。


「俺とスズはなるべく関わらないつもりだ。お前ならこの意味が分かるだろう? スズに対するお前さんの反応を見て判断した」

「綿貫さん…………!?」


 綿貫さんは気付いたらしい。六年後の世界で、俺が真壁スズカと面識がある事に。そりゃそうか。自然に敬語で話していたし。


 改変現象を起こさない為の防御策だ。それは正しい判断だろう。


「俺は絶対嫌だからな!」

 抵抗するキリュウ。

「協力出来なければ今すぐに家に送り返すまでだ」

「ひ、ひでぇ! 鬼!」


 家出少年は、どうしても家に戻りたく無い理由があるらしい。弱味があるなら俺の言う事も聞いてくれそうだ。生意気そうで関わりたく無いが、ここは大人の対応を見せよう。


「よろしくなキリュウ。力を貸してくれ」

 そう言って俺は握手を求めた。だがキリュウは拒否する様に俺の手を叩き払う。


「俺に何を手伝わせるつもりだよ。ヤバい事じゃないだろうな!」


 綿貫さんがニヤリと怪しい笑顔を作る。

「心配するな。魔法士協会の連中より先に『猫目青蛙』を見つけるだけの簡単なお仕事だよぉ」 

 

「無茶苦茶ヤバそうじゃねぇかよ! ピンチになったらコイツの事は見捨てるからな!」

 桐生は完全にソッポを向いてしまった。


「それでいいよ。やってくれるか?」

 俺も引き下がらないでいると、ようやく観念したらしい。ガックリと肩を落とす。


「マジか……。魔法士協会に喧嘩を売る事になるなんて……」

「喧嘩になるかはまだ分からんよ。なぁに。何かあったらお前の事は俺が守ってやるよぉ。よろしくな」


 頼もしい綿貫さんの言葉だ。でもそれは、俺の事は守らないって事だよな。仕方が無い。今の俺は未来を改変する可能性を持つ存在だし。


「で、何処へ行けばいいんだよ綿貫」

「この地図を見ろ。ここに水鞠七兵衛のアトリエがある」


「了解」

 キリュウはそう答えると、魔法自転車の後ろの席に乗った。


 この太った少年……身体も小さいが、手足も短い。サイズ的に魔法自転車の運転は無理そうだ。エンジン役に専念して貰おう。


 ここに来て誰かが店の中から姿を現した。

 十一歳の真壁スズカだ。手に何かの機械を持って、パタパタと走り寄って来た。


「綿貫。これ、忘れてる」

「そうだったよぉ。これは通信機だ。俺とスズに繋がっている。念の為、緊急の時以外は使うなよ」

 そう言って綿貫さんが俺とキリュウの頭にヘッドホンを乗せた。俺が魔法花火大会の時に使った物に似ている。同じメーカーのものらしい。


「じゃ、行って来ます」

「気を付けてな」

 綿貫さんは力強く言葉を送った。真壁スズカは虚な目をして、無言で小さく手を振る。何だか可愛いな先輩……。


 魔法自転車に乗ってペダルに魔力を込めると、ゆっくり進み出した。それから魔法生物のスリープモードを解除し、魔法迷彩を展開する。

 

 その巨大タガメの姿を見て、キリュウが驚きの声を上げる。

土煙田鼈(どえんたがめ)……!? お前どうやって、こんなレアな奴手に入れたんだ!?」


「人から借りてるだけだよ」

 本当は他人の地下倉庫に居たのを勝手に契約してしまったのだが、説明するのが面倒だったので嘘をついた。


 無駄な事はなるべく避けよう。今は無事に到着する事に集中だ。


 街並みが緩やかに流れていく。これでも時速二十キロ以上は出ているだろう。原付バイク程の速度になる。


 スピードを出さずに移動しているのは、こうする事で魔力の燃費が良くなる事を実感出来ていたからだ。


 こうやってヘッドホンを着けて魔法自転車を漕いでいると、魔法花火大会の事を思い出す。何せあれから一週間しか経っていない。


 その時の俺は、岸本のカード型立体魔法陣を持って水鞠家領内を駆け回り、不安定な打ち上げマシーンの制御をしていた。


 水鞠家を破滅させようと企む改変者に襲われたあの時、綿貫さんが助けてくれなかったら、俺は死んでいたかも知れない。俺も綿貫さんに助けて貰ってばかりだ。


 ん……? 


 そう言えばあの時、綿貫さん以外にも駆けつけてくれた魔法使いが居たな。確か……。


 そうだ……! キリュウだ……!


 ようやく思い出す事が出来た。

 その時、水鞠家の従者に復帰した魔法使いの一族の名だ。


 ──桐生家。


 まさか……こんな所で絡んで来るとは思わなかった。六年後に俺達を助けに来たのは、今自転車の後に乗っている、「この」桐生なのかも知れない。


 だとしたら、慎重に対応しないとダメだ。

 未来改変が起きて水鞠家の従者に復帰しない未来になったら、花火大会が失敗する可能性が生まれる。


 今は水鞠家の従者なのに、これから離脱する事になる訳だ。一体何が原因なんだ? 家出と関係があるって事か。


 うーん……。何か……もの凄く面倒な事になったぞ。


「カケル……! ストップ! 止まってくれ!」

「何だ!?」


 桐生の声に、慌てて急ブレーキをかける。

 車体はスライドし、ドリフトする様に斜めに傾きながら停止した。


「どうした桐生!?」

 振り返り、後の座席を確認する。

 すると、汗だくになり、ゼェゼェと息を切らしている桐生の姿があった。


「無理! 疲れた! 休憩!」

 そう言って両腕でバツの字を作る。


 嘘だろ……!? まだ数分しか走ってないのに魔力切れかよ!


 色々な意味でヤバい。どうなるんだよこれ……。

 何かとストレスメーカーの桐生ですが、物語の大きな役割を担うキャラクターです。彼の成長を暖かく見守って頂ければ幸いです。

 

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