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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと待つ影
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第9話 日高誠と猫探し

 最悪だ。


 よりによって、俺に何かと敵対心を持つ魔法使い、真壁スズカと遭遇したらしい。……っていうか、キャラが全然違う!


 一つ一つの顔のパーツが小さい! 女性は化粧で化けるって言うけど、ほとんど詐欺じゃねーか!


 この大人しそうな女の子が、どうやったらあんな派手な変態ギャルになるんだよ! まあ、あのキャラクターは嘘臭いとは思っていたけどな。


 壁の魔法使いと出会ってしまったのは奇跡でも何でもない。ここは水鞠家の領内で、しかも本拠地の間近、魔法具専門店になる場所だ。従者の一人がここに居ても何の不思議も無い。


 問題はどう乗り切るか、だ。

 捕まる訳には行かない。正体がバレれば未来改変が起きる可能性がある。


 しかも、今の俺は最悪な事に、魔力が尽きて召喚魔法も使えない状態だ。考えろ。何か手は無いか?


 

「ここで何をしている」

 突然、男の声が割って入って来た。

 足音と共に、立体魔法陣の壁を簡単にすり抜け、声の主が現れた。大人の男だ。その異様な状態にまず驚いた。


 男はスーツにネクタイ、革靴姿。森の中の格好としては明らかにおかしい。


 体型は中肉中背。筋肉で肩がパンパンだ。脇には五、六歳位の子供を抱えている。ぐったりしていて、寝ているのか気絶しているのかは分からない。え……死んで無いよね……?


 そして黒縁メガネ。剃り上げた頭は、太陽の光を反射させ光輝いている。そうだ。それは俺が探していた人物だ。


「雷旋のワタヌキ……!」


 嬉しさの余り、思わず声に出てしまった。問題は無い。綿貫さんは自分の通り名を相手が知っていると、嬉しそうにニヤっとするのだ。


「お前、何故俺を知っている。何処の者だ?」


 あれ……!?

 いつもなら、飄々とした雰囲気を醸し出す綿貫さんのはずが、様子が変だ。


 そして眉がハの字になり、眼鏡の奥の細い目はさらに細くなる。

「この場所は水鞠家当主の許可証が無いと入れない場所だ。絶対に有り得ん」


 そうだったのか。科学部の買い出しに行かされた時に、水鞠から何か魔法をかけられていたのか?


「お前……いつコトリ様に……? まあいい、発行日を確認させて貰おう」

 そう言うと、眼鏡をクイと持ち上げ、何かの魔法を発動させる。許可証とやらを見ている様だ。


「ん? お……お前……まさか……!?」

 綿貫さんが狼狽え出した。


「綿貫さん! 実は……信じてもらえないかもですが……」

「あ──!!! 喋るな! 何も話すな! 俺を巻き込むな!!」


 いきなり大声を上げ、綿貫さんは掌を俺に向けて拒否するポーズを取り、目を背けた。絶対に理解してるよ! 流石だよ綿貫さん!


「今、めちゃくちゃ困っているんです! 頼りに出来るのはあなたしか居ない! 雷旋のワタヌキ!」

 

 俺の言葉を聞いた綿貫さんは、嫌そうな顔をしてから溜息をつく。それから、脇に抱えた子供を真壁スズカに向かって放り投げた。

「お前達は家に入っていろ」


 真壁スズカは、それを当たり前の様に片手で受け取った。魔法を使って重量をキャンセルしている!? まるでボールをキャッチする様に簡単にして見せた。何だか異様な光景になっている。


『雷錠』

 雷旋のワタヌキが魔法を唱える。いつの間にか三角錐の立体魔法陣が無数に分裂し、俺と綿貫さんの周りをサークル状に囲んでいた。


 雷が発生し、立体魔法陣を結ぶと、電流の壁に変化した。


「外側とは隔離した。俺達の話声は誰にも聞こえない。だが、お前は何も話すな。俺の質問に全て頷け。いいな」


 凄まじい威圧感だ。何度も頷く俺。


「お前は俺とコトリ様を知っている」


「遠い場所からやって来た」


「未来を改変するつもりは無い」


 三つの質問全てに頷くと、体に電流が走った。体に何も変化が起きていない事を確認し、綿貫さんに視線を向ける。


「……分かった。協力しよう」

「本当ですか!?」

 今の、もしかして嘘を見抜く魔法だったのか? 嘘発見機的な?


「だが条件がある。危険だと感じたら、お前を容赦なく殺す。いいな?」


 綿貫さんは本気だ。

 無理も無い。俺も影やら改変者と出会って来ているが、未来に与える影響は俺の方が遥かに上だ。


 もし悪意のある改変者だったら、自分が望む未来に改変させるのは容易な事だろう。世界を崩壊させる事も可能だ。


 正直、かなり厄介な存在な事は間違い無い。それでも綿貫さんは俺を助けてくれようとしている。感謝しか無い。


「お願いします」


 そう答えると、綿貫さんはネクタイを緩め、指をパチンと鳴らした。


 すると、魔法が解かれ元の状態に戻る。真壁スズカと子供の姿は無くなっていた。言われた通り、家に入ったらしい。


「ついて来い。状況を確認したい」

 

 綿貫さんが店の前まで移動し、シャッターを上げた。言われた通りについて行く。


 売り場には商品は一つも無く、中は空っぽだ。店はこれから始めるのだろうか。


 そう言えば、六年後も外観は古かったけど、中は割と綺麗だった気がする。


 奥のレジを通り抜け扉を潜ると、生活の為のスペースが取られていた。


 十畳程の広さで、床が畳で家具が洋風な不思議な空間になっている。


 部屋は襖で遮られていて、全体の広さは把握出来ない。足の短いテーブルが中央にドカンと置かれ、棚には高そうな皿や瓶が飾られている。そして壁には古時計が掛けられ、カチカチと音を立てていた。


 テーブルの右側に座る様に指示をされ、言われた通りにする。

 すると、襖がスルリと開かれ、十一歳の真壁スズカが現れた。


 綿貫さんが少女を紹介する。

「この子はスズ……、ス? スズだ」


 偽名が思い付かなかったらしい。にしても、答えを九十八パーセント位は言っちゃっているよ。真壁先輩が知ってる人で良かったよ……。


「綿貫、変。いつもそう呼ばれていない」

 真壁スズカも綿貫さんを怪しんでいる。


「こいつに俺達の素性を話すな。訳有りだ」

「…………! 了解」


 十一歳の真壁スズカは素直に言う事を聞くらしい。安心した。性格が悪い彼女しか知らなかったから意外だ。


「スズ。頼みがある。魔法士協会のデータベースにハッキングしてくれ」

「ハッキング!?」

 綿貫さんの方が、とんでもない事を言い出した! 


「前にバレて死ぬ程怒られた。無理」

 真壁スズカがションボリし出した。

 既にやっちゃってたのかよ! 凄すぎるでしょ……。


 そういえば真壁スズカは、趣味で魔法士協会にハッキングしてたって言っていたな。こんな小さな頃から危ない遊びをしていたとは驚いた。


 綿貫さんは合掌し、真壁スズカに頼み込む。

「バレた時は俺が責任を取るから、協力してくれよぉ」

「じゃあ、弟子にしてくれる?」


 驚いた。真壁スズカが雷旋のワタヌキの弟子入りを志願している。


「それはダメだと言っただろう。お前の一族の技は俺の邪道なやり方は合わないんだよぉ」

「そうやって逃げてる。バレバレ」


 真壁スズカは無表情で切り替えす。十一歳で綿貫さんに対等にやり合えるなんて、大物感が凄いな。六年後は立派な変態だが。


「分かったよ。じゃあ、雷旋の三層まで見せてやる。お前なら得る物も有るだろう?」

 綿貫さんは禿げた頭をペチペチと叩くと、ストンと俺の対面に腰を下ろした。


「絶対だよ」

 真壁スズカはそう呟き、アンティーク家具の隙間からノートパソコンを取り出した。それをテーブルに置き、自分はチョコンと座る。


 マジかよ。本当にやる気かよ。ていうか、一度失敗している様な事言って無かった? 大丈夫かな……。いきなりバレて武装集団に襲撃を受けて絶滅エンドとか無いよね?


 そんな心配をよそに、鼻歌混じりにキーを叩く真壁先輩。よく見ると、魔法を使っている様だ。嫌がっていた割には、何だか楽しそうだな。


「前のハッキングで魔法士協会のセキュリティの癖は把握した。もう捕まらない」

 そう言って小さな瞳を輝かせる。


「侵入成功……ふふふ……」

「流石だなスズ。で、何か動きは無いか?」

 綿貫さんが画面を覗き込む。


「ある。何かを探しているみたい」

「探している!? 誰を!?」

 思わず声に出た。まさか俺が未来から来た事を察知しているのか!?


「人じゃ無い。猫だよ」

「猫!?」


「魔法士協会は今、猫探しをしている。その為に、ワザワザ何人かのフリーの魔法士と契約している」


 明らかにおかしい。ただの猫探しにしては大袈裟過ぎる。


 それを肯定するかの様に、綿貫さんの表情が豹変する。額のシワが波打ち、目付きは鋭くなる。


「マズいな。気付いたのか……。『猫』の存在に」

「どういう事ですか?」


 俺の問いかけに、真壁スズカが反応する。

「これは暗号? 人じゃ無い何かを探している……? 綿貫、何か知っているの?」


 綿貫さんは天井を見上げて目を瞑る。そして覚悟を決めた様に呟いた。

「まあな。その『猫』っていうのは動物でも人間でも無い。魔法生物だ」

「魔法生物!?」


「水鞠七兵衛が死ぬ前に最後に残した最高傑作だ」

 綿貫さんは眼鏡を持ち上げ、息を吸い込み、言葉を続ける。


「名を……『猫目青蛙(ねこめあおがえる)』」


「猫目……青蛙?」

 あれ……どこかで聞いた様な気がするぞ。


 真壁スズカのキーを叩く音が止まり、小さな瞳を向けて来た。

「一ヶ月前、魔法士協会は謎の改変現象を感知した。原因を探っていたら、猫目青蛙(ねこめあおがえる)に行き当たったみたい。すぐに契約者のコトリ様に協力を要請したけど、既に契約が解除されていて行方不明だと分かった」


「あ……!」

 思い出した。確か、魔法花火大会の直前に水鞠が話してくれていた。


 九歳の誕生日に、祖父に白い猫の使い魔をおねだりしたら、青い蛙をプレゼントされたと。


 ……間違い無い。それが「猫目青蛙(ねこめあおがえる)」だ。確か居なくなったと言っていたな。


「少年、何も話すな」

 綿貫さんの突っ込みに慌てて口を塞ぐ。危なかった。未来の情報は改変現象を起こす可能性がある。


「この情報は慎重に扱え。お前が元の場所に帰る為の鍵になるかも知れん」


「鍵……!?」

 魔法生物が……?


「そうだ。猫目青蛙の能力は精神や魂に関係があると聞いた事がある。お前の状況を救える可能性は大きい」


 精神……魂……。魔法生物図鑑には色んな能力が記されていたが、それらとは完全に次元が違う存在だ。


「お前は魔法士協会よりも早く『猫目青蛙(ねこめあおがえる)』に辿り着け。今はそれしか方法が思い付かん」


「でも、どうやって?」

 俺は猫目青蛙(ねこめあおがえる)については何も知らないぞ? 無茶過ぎないか!? しかも競争相手が魔法士協会とか無理ゲー過ぎるでしょ。


「これを見ろ」

 綿貫さんが一枚の地図を広げた。テーブルが隠れる程の大きさだ。赤ペンで印を付ける。


「これは?」

「水鞠七兵衛のアトリエの場所だ。生前、ここに良く訪れていた。もしかしたら、この場所の何処かに居るかも知れん。魔法生物に何らかのプログラムがされていればの話だが」


 すると真壁スズカが一早く反応する。

「何でそんな事、綿貫が知っている?」


「オレは水鞠七兵衛の弟子だ。非公式だがな」

「弟子!?」

 真壁スズカは寝耳に水と言った様子だ。


「七兵衛様に弟子……? 初めて知った」

「だから、非公式だと言っているだろう。まあ、出来の悪い弟子だったから、学べたのは魔法創造の部分だけだがな」


 以前から綿貫さんと水鞠家は、何かしらの関係があるとは思っていた。どうりで綿貫さんが「猫目青蛙(ねこめあおがえる)」について詳しい訳だ。


 綿貫さんは険しい表情のまま、指示を出す。

「スズ。ハッキングを続けて、魔法士協会の動きと、猫についての情報を出来るだけ集めろ」

「了解」

 真壁スズカがピシッと敬礼ポーズを取る。


 そして俺を安心させる様な表情に変わると、肩をポンと叩いて来た。

「少年は一旦家に戻れ。明日またここへ来い。それまでに準備をしておく」


 涙が出そうになった。これ以上頼りになる協力者は他に居ないだろう。


「分かりました。よろしくお願いします!」


 後は俺が失敗しない様にしないと……。十歳の自分なんて演じる事が出来るのか?


 ……正直、自信は無い。


 今日は体調を崩した事にして、なるべく家族と接触しない様に過ごす事にしよう。未来改変に繋がる事は出来るだけ避けたい。


 後は夜、奇跡を信じてベッドの中で祈るだけだ。


 これが全部夢であります様に、と。

過去編なので、あの時はああだった!

みたいな話が多くなりますが、読み返さなくとも話が理解出来る様に心掛けています。

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