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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと待つ影
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第8話 日高誠と土の魔法生物

 正直、虫は嫌いだ。

 足が六本、外骨格、複眼……。どう考えても地球外生物だろ! 普通におかしい!


 このタガメはさらに、二本の前足が鎌の様になっていて、捕まえた魚の血を吸う水生昆虫だ。


 小さいならまだいい。だが、今俺の前に居るのは体長一メートル近くある化け物だ。


 土煙田鼈(どえんたがめ)

 土の魔法力で物を隠す魔法生物だ。どうやらコイツをどうにかしないと、魔法自転車を手に入れる事は出来ないらしい。


 俺は右手に魔力を集め、球体の立体魔法陣を出現させた。

『来い! 水盾甲蟹(すいじゅんこうかい)


 立体魔法陣がガラスの様に砕け散ると、巨大カブトガニが目の前に現れた。十本の腕、お椀形の体、刺の様な尻尾を持つ魔法生物だ。


 図鑑によると、水の魔法以外も多少は盾として使えるらしい。不安もあるが、無いよりはマシだ。


 水盾甲蟹を宙に浮かせたまま、相手の動きを伺う。


 ここは駅前の駐輪場内。カブトガニ対タガメのバトルが今、始まる! 自分でも言っている意味が良く分からない。頭がおかしくなりそうだ。


 緑に光る目玉がチカチカと点滅する。

 まずは土煙田鼈(どえんたがめ)のターンだ。


 いきなり「キュウウン」と、機械を停止させた様な音を立てる。んん!?


 そのまま目の光が消え、全身の煙も消滅した。あれ? 魔力が……消えて行く……?


 その通りだった。燃料の切れたロボットの様に、動きが停止して行く。


 これが噂のワンターンキルってヤツか? いや、全然違う! 何もしないままバトルが終わってしまっただけだ。


 階段の封鎖が解かれると停止する様に、予めプログラムされていた……?


 いや、だとしたら、何で消滅しないんだ? 召喚した術師の元へ戻るはずだ。


「……もしかして……契約出来る状態だったりして……」

 試してみる価値はある。水盾甲蟹を戻し、右手に新たな立体魔法陣を出現させた。そして巨大タガメを覆い尽くす。

 

『呼応しろ。土煙田鼈(どえんたがめ)


 球体の光に包まれ、土煙田鼈の姿が溶ける様に消滅した。契約が成功したらしい。正直、拍子抜けだ。


 本来、魔法で作られたロボットである魔法生物をコントロールするには、ダメージを与えて機能を停止させる必要がある。


 その後は魔法の空間に格納し、契約主が修復する事により、契約が完了する仕組みだ。


「一応、確認してみるか……」

 意識を集中させ、俺の魔力の中にある、謎の空間を覗いてみる。


 土煙田鼈(どえんたがめ)水盾甲蟹(すいじゅんこうかい)火喰甲魚(ひくいこうぎょ)風鱗海月(ふうりんくらげ)の四体の魔法生物がそこに居る。


 あれ? タガメと魚って一緒に飼っちゃダメだよな。いやいや、そんな事は気にしていられない。面倒臭いし。大丈夫だろ、多分……。

 

 ここで新しい魔法生物と契約出来て良かった。召喚出来る魔法生物は多い方がいい。これからどんな目に遭うのか、想像が着かないし。


「よし、行こう……!」

 気を取り直してから、階段をゆっくりと降りる。カビ臭い空気が充満していて、思わず険しい表情なる。


 中は六年後と変わらない。倉庫の様な空間だ。そして、その中央には、俺の探していたものがあった。


「魔法自転車……」

 初期型らしいので、新しく無い事は分かっていた。だが、その姿は六年後とは違っていた。真っ二つのスクラップ状態では無く、スタンドでしっかりと立てられ、固定されている。


 自転車に跨り、ペダルに足を乗せる。魔力を込めると、エンジンが掛かる様に震え出した。走行は可能の様だ。


「動くぞ……はは……」

 嬉しくて思わず笑ってしまった。そして、この魔法自転車が壊れていない事で、俺の中で、一つの仮説が確信に変わった。


 ──この状況を、誰かが助けてくれている。


 六年後に突然、この場所の封印が解けたのは偶然じゃ無い。ここに魔法自転車が在る事を俺に知らせる為だ。


 誰なんだ? 水鞠? いや、電話ではそんな雰囲気じゃなかった。怪しいのは弓の魔法使いか。水鞠の側近の中で唯一正体を知らない存在だ。


 考えても答えは出ない。とりあえず、ワタヌキ魔法具専門店へ急ごう。


『来い。土煙田鼈(どえんたがめ)!』


 光に包まれ、巨大なタガメが出現した。早速呼び出したのには訳がある。


『土煙田鼈、俺を隠せ』

 命令が実行され、タガメの全身から土煙が巻き起こった。土魔法の迷彩が俺の身体を覆って行く。


 魔法自転車を全力疾走している姿を、他の魔法使いに見られる訳には行かない。そんな怪しい奴、俺だったら問答無用で拘束する。そうなったら、そこでゲームオーバーだ。


 長年、この倉庫の存在を隠し続けていた能力だ。この土煙田鼈は信頼出来るはず。

 

 自転車を手で引いて階段を上がり切ると、穴の空いた地面が元通りに塞がれて行く。


 俺はもう一度サドルに跨り、ペダルに魔力を注ぎ込んだ。


「うあ!? ヤバい!?」

 魔力がめちゃくちゃ持って行かれているぞ!? どうやら初期型は燃費が悪いらしい。これは相当な気合が必要だ。


 ウイリーをしながらのスタートダッシュだ。パワーだけは凄い。

 コントロールし、すぐに速度を落とす。魔法生物の召喚を維持しながら魔法自転車を全力で漕ぐのは体力的に無理だ。


 時速三十キロのスピードで、真っ直ぐに魔法具専門店へ向かった。流れる景色を楽しむ余裕なんて無い。


 俺の通う高校の更に奥。人の気配の無い森の中に、ワタヌキ魔法具専門店はある。道に迷いつつ、四十分程で到着した。


 魔力が完全に尽きたらしく、土煙田鼈は光に包まれ姿を消した。しばらく召喚魔法は使えない。休憩が必要になる。



 俺の目の前に在るのは古びた店舗だ。

 六年後、ワタヌキ魔法具専門店のあった場所で間違い無い。


 身を隠して生活しているはずなのに、何故かデカデカと目立つ看板を着けているのだ。綿貫さんは本来に謎が多い。


 あれ……?


「嘘だろ……!?」

 六年後とは違っている。その変化に愕然とした。


「看板が無い……」

 店名が入った看板があったはずだ。それが無い。そしてシャッターは閉まったままだ。


 まさか、まだ店を開いていないとかじゃないだろうな。ここに綿貫さんが居なかったら、これからどうしたらいいのか分からなくなる。六年前の今の俺を知ってたのは、綿貫さんだけだった。


 俺は魔法自転車を降りると、店舗のシャッターを叩く。

「すみません! 誰かいませんか?」


 ……反応が無い。マズい。マズいぞ。


 そうだ。裏庭に回ってみよう。

 生茂る雑草を掻き分け、裏庭へ向った。


「嘘だろ……」

 見た事も無い草木が、手入れをされていない状態で放置されている。中へ入るのは不可能だ。絶望感を漂わせながら店の入口へ戻る。


 ん? 人の気配がするぞ?


「……誰?」

 女の子の声だ。顔を上げると、その姿を捉える事が出来た。


 年は今の俺と同じ十歳位だろうか。真ん中で分けられた真っ直ぐで黒くて長い髪。白い肌、つぶらな小さな目。小さな口元、眉は見えないほど薄い。顔のパーツは主張が無いが、それぞれが整っていて可愛いらしい。


 服装は白のワンピースにサンダルだ。お嬢様と言った印象を受ける。


 分かっている。こんな場所に少女が居るのは不自然だ。そうだ。幽霊に決まっている。


 幽霊じゃ無ければ魔法使いだ。


「ここに、綿貫さんは住んでませんか?」

 名乗る訳には行かない。俺の名前は伏せた方がいいだろう。


 すると少女は無表情のまま、首を傾げる。

「訊いた事に答えて。あなたは誰……?」


 少女は納得行かない様子だ。声は小さく、大人しい無口な印象だ。


 俺の事を怪しんでいるのか? でも、まだ少女から敵意は感じない。このままどうにか情報を手に出来ないものか。


「俺はカケルだ。綿貫って人を探しているんだけど、何処に居るか知っているか?」


 焦っていたからか、よりによって偽名を白ねこムヒョーのキャラクターから取ってしまった。今から俺はカケル君だ。


「綿貫……?」

 少女はまた、首を傾げる。


 顔は無表情のままだ。だが、明らかに何かが変わった。知っているのか? 本人を。その居場所を。


「綿貫さんの居場所を知っているなら教えてくれないか? 相談したい事があって来たんだ」

 怪しまれない様に、正直に話してみる。すると少女は俺の事を下から舐める様に見て来た。

 

「教えない」

「え……!?」

「怪しい奴。『私はあなたを……決して逃がさない』」


 その細く、色白な腕を横に広げると光のカーテンが出現し、俺の四方を取り囲んでしまった。


 魔法だ……! 


「待ってくれ! 俺は敵じゃない!」

 慌てて弁解をする俺。こんな所で戦っている場合じゃ無い!


 光のカーテンはやがて透き通ったガラスの板に変化する。そこには魔法式と思われる紋様が刻まれていた。


 これは……!? まさか……!

「立体魔法陣……!?」


 この魔法を、俺は知っている。


 これは、壁の魔法使い……真壁スズカの魔法だ!


 そして少女は呟いた。


『囲え。無限壁牢(むげんへきろう)

 真壁スズカの登場です。

 彼女のエピソードが足りないので、ここで「おおっ」とはならないのが悲しいです。


 

 後半は王道で熱い展開になっているので、途中退屈な回があっても、最後まで読み進めて頂けると嬉しいです。

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