第6話 日高誠と魔法イメージ
『では、私はこれで失礼します。何か分かったら、すぐにお知らせします』
ピョコリと一礼し、オカメインコは空へ飛び立って行った。
喋る鳥は、なかなかコミカルで可愛いかったが、中の人を知っていると残念な気持ちになる。やっぱり知らないって正義だ。
そんな事を考えながら、ぼんやりと空を眺めていると、スマホがブルブルと震え出した。水鞠からのメールを受信している。
『改変現象は収束した。通常体制に移行』
どうやら最悪の事態にはならなかった様だ。改変者や影の存在は確認出来なかったらしい。
「帰るか……」
俺は通りかかった交番に立ち寄り、ストラップの遺失届を出した。誰かに拾われて届けられる可能性は低いが、やるべき事はやっておく。
そして駅の中を一通り探した後、しょんぼりしながら帰宅した。
家に到着した後、休む間も無く階段を上がり、部屋の扉を開ける。
椅子に座り、机に広がった課題の山に手を付ける。まだ十五時だ。時間はある。俺の中のゾーンよ。また加速せよ!
「ダメだ……」
一瞬で集中力が消え失せた。
ペンを置き、ドサリとベッドに倒れ込む。
イベントから帰ったら課題を進める事しか考えていなかったのに、いざ机の前に座っても集中出来ない。どんだけムヒョーに振り回されているんだよ俺は。
でも、無くした俺が悪い。そんな事は分かっている。
あれ……急に眠くなって来たぞ……。
久々の人混み、事件の連続で疲れていたのかも知れない。身体が怠くなって来た。
課題……やらなきゃ……。
突然、「キィイ──ン」と耳鳴りが頭の中を駆け抜ける。
激しい爆音。砕け散るガラス。
「何だぁ!?」
突風が巻き起こり、課題からカレンダーまで部屋の物全てを吹き飛ばした。
「ちょ! オイ! 止めてくれ──!」
と、叫んだら、本当に止まった。そして逆再生の様に元に戻って行く。これは……。
「水鞠……!?」
いや、違う。ここに来るはずがない。まさか敵……?
『間に合いましたか。良かった。本当に良かったです……』
そう言って現れたのはオカメインコだ。何故か鳥の魔法使いが俺の部屋に現れた。急いで来たのか、息を切らせている。
「どうしたんですか? 随分と慌ててますけど……」
まさか、もう魔法自転車の解析で何か分かった事があるのか?
『いえ、お話する事を忘れていました』
「話?」
『魔法ルーツの事です』
「今!?」
『今です』
「いや、すみません。課題を進めたいので後日でも良いですか?」
本当は眠くて気を失いかけていたのだが、無駄に嘘をついてしまった。
『今でないと意味が無いのです。お時間は取らせませんよ』
「は、はあ……」
俺は観念して、ベッドに腰を掛けた。するとオカメインコは羽ばたき、部屋の中央へ着地する。
『少し長くなりますが……』
「さっきと言っている事、違くない!?」
お時間を取らせないとか言ってなかったっけ? いきなり裏切るの酷すぎない!?
『私は楽器を使い魔法を操る、「名門」橘家の三男として生を受けました』
ああ……始まっちゃったよ。もう、聞くしか無い。
『魔法能力が低かった私は、幼少の頃から落ちこぼれの烙印を押されてしまいます』
鳥の魔法使いが自分の過去を語り出す。今回はミュージカル風では無い様だ。安心して聞けるな。オカメインコの姿だからコミカルにしか見えないけど。
『私は諦めなかった。寝る間を惜しんで、来る日も来る日も音楽と魔法の修行に明け暮れた。でも兄達の様に才能を発現させる事は出来ませんでした』
意外だ。天才肌っぽいイメージだったけど、努力の人だったらしい。
『唯一認めてくれた、八番目の教師が私に言いました。貴方にも才能がある。だから、この場所に閉じ籠っていないで、外の世界へ自分を連れて行きなさい、と』
オカメインコがピョコピョコと演技を始める。やっぱり我慢出来なかったらしい。
『音楽教師になり、外の世界を知った私は、ようやく悟ったのです。私は〈籠の中の鳥〉だったと。そして自ら、それを選んでいた事を。その時です。魔力が覚醒したのは』
「覚醒……?」
『魔法イメージ〈籠の鳥〉。美しく強力な魔法の鳥、特殊な結界魔法。どれも兄達の持たない能力。私だけの特別な結晶魔法が生まれました』
うん……。いい話だけど、今言う意味ってあったのかな。
『日高君。君の魔法ルーツは何かを考えた事はありますか?』
「俺!? いや、無いです」
気付いたら魔法が発動していた。魔法使いに目覚めた時に暴発する事があると水鞠は行っていた。そういうものかと思っていた。
『貴方の魔法イメージ〈引き寄せる腕〉は、何を引き寄せたかったのか。困った時は、もう一度考えてみて下さい』
「は、はあ……」
初めて使ったのは、改変者である新澤晴人を倒す為だった。岸本から引き離し、動けない身体で攻撃するには、それしか思い付かなかった。意味なんて無い。
『伝える事が出来て良かった。では、これで失礼します』
オカメインコはそう言うと、ガラス戸の方へとピョコピョコと歩き出す。
そしてガラス戸の端を器用に羽で掴むと、スッと開けた。うおっ!? どうなっているのそれ!?
振り返り一礼すると、空へ向かって飛び立って行った。
なんて日だよ。色々有り過ぎて訳が分からないよ。
ダメだ今日は。諦めた! 課題は明日やろう。残りの時間はゆっくり休むとする。そうだ。まだギリギリ間に合うはずだ。
そう決め込んだら、また強烈な睡魔が襲って来た。抗う力は残っていない。フラフラとまた、ベッドに倒れ込み、目を閉じた。
──夢を見ている。
それはすぐに理解が出来た。
視界はモヤがかかっている様に白くボヤけ、身体が勝手に動いている。
俺はベッドから起き上がると、急いで階段を駆け下りた。
リビングには夏の日差しが差し込み、熱気が充満している。
女の子の泣き声だ。
妹の美希が一人、ソファーに座り、膝を抱えて泣いていた。
これは十歳の時の記憶だ。
この頃、妹は友達とのトラブルで学校を休みがちになっていた。記憶に強く残っているからなのか、昔から時々見ている夢だ。
「お兄ちゃん……」
俺に気付いた美希が声をかけて来た。
そう、いつもここで目が覚める。そして……。
「どうしたの? スイミングは……?」
美希は涙を指で擦り上げる。
「スイミング?」
そういや、昔は水泳を習っていたっけ。忘れてい……。
あれ……? 夢から覚めないな……。
それどころか、意識が妙にハッキリして来たぞ?
身体が勝手に動かなくなっている。どうしたんだ?
「──────!?」
嫌な予感がする。いやいや、まさかそんな事があるのか? いや、あっちゃダメだろう。
ぼやけていた夢の中の空間に色彩が生まれ、現実感を帯びて来る。
「ヤバい……! ヤバい……!」
俺はリビングを出ると、急いで階段を駆け上がった。そして自分の部屋に入ると扉を閉め、鍵を掛けた。
扉を背にしながら、部屋を見渡す。昔使っていた学習机、ランドセル、散乱した漫画本……。
何もかも、六年前の世界だ。
もう一度確認する様に深呼吸をして、脳に酸素を送り込む。すると、足がガクガクと震え出す。
──間違い無い……!
「時間が……巻き戻っている……!?」
過去編です。せっかくなので、日高には魔法使いらしく、過去の世界に行って貰いました。
元の未来に戻る事が出来るのか。見届けて頂けると嬉しいです。




