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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
42/70

第18話 日高誠と魔法使いの一族

『日高様!』


 老執事の声で目が覚めた。

 景色が真横になっている。違う。俺が地面に倒れているんだ。


 朦朧とした意識の中で立ち上がる。

 横倒しになっていた魔法ママチャリを見付けると、ハンドルを掴み引き上げた。怪我は無い。助かった。


「すみません。気を失っていました。大丈夫です」

 返信しながら時間を確認する。


 良かった。ロスはほとんど無い。すぐに眼を覚ませたらしい。


『日高様。しばらくは安定しそうです。魔力を抑えながら移動して下さい。無理をなさらずに』

「了解」


 魔法ママチャリに乗り、移動を開始する。

 魔力をセーブしながらスピード上げて行く。


『第四ブロック、第七ブロック、第十五ブロック』


 誘導弾が次々と打ち上がっている。きっと上手く行っているに違いない。


 太陽は沈み、空は暗く澱んでいる。時折雷が空の上を駆け、不気味な音が響く。


 県道に入り、車道の脇をひたすら進む。

 しばらくして脇道に入ると、周りが田園に囲まれた、人通りの無い一本道に入った。


 この辺で距離を縮めよう。ペダルに魔力を込める。


「あれ……!?」

 まただ。身体に力が入らない。

 バランスを崩し、アスファルトに倒れ込む。


 何とか受け身が取れたので大きい怪我は無い。それよりも魔力が出せない事態にショックを受けた。


 片膝を着いたまま立ち上がれない。

 全身から汗が流れる。震えが止まらない。


 でも、ここで諦める訳には行かない! 水鞠を……助けたいんだ!


 

『花火! 打ち上げるよ──!』


 イヤホンから水鞠の声が響く。


 視界の先……遠くの空に花火が咲いた。


『第一弾花火、打ち上げ開始しました。引き続き誘導弾を打ち上げ、風鱗海月を破壊します』

 老執事が状況を説明する。


 遠くの空に花火が次々と打ち上がる。

 信じられない。あの下に水鞠と岸本がいる。


 花火は、俺達が打ち上げているんだ。


『紗英! 通信速度が落ちてるよ! 持ち直して!』

『うん!』


 二人も頑張っている。俺だって負けられない……!


 花火を見たら不思議と力が湧いて来た。

「行こう! 二人の所に……!」

 魔法ママチャリに乗り、魔力を集中させる。



「……!?」

 空の様子がおかしい。


 荒れていた空が、静まり返っている。

 厚い雲に覆われていて、一切の光を通さない、何かの蓋をされているかの様に見える。

 そんな……まさか……!?


 花火が打ち上がっていない……!

 嘘だろ!? 今やっと始まったばかりなのに。


「坂畑さん! 花火が……! 花火が止まっています!」

 突然の状況に、老執事に確認を取る。だが応答が無い。


「水鞠! そっちで何か起きてるのか!? 水鞠!」


 マイクもイヤホンも使えない。どうなっているんだ!?


「……!?」

 気付くと道幅が異常に広くなっていた。

 空間が……歪んでいる。


 そうか。水鞠の方じゃなかったのか。

 何かあったのは──。


 ──俺の方だ。


 遠くの景色は完全に闇に飲み込まれた。

 きっともう、この闇から逃れる事は出来ない。


 ……これは結界だ。「未来を改変する者」の異質な能力──。


 皮膚に突き刺さる感覚が襲う。

 歪んだ景色を切り裂き、黒い稲妻が目の前に現れた。


 黒い霧を纏いながら、徐々に人の形へと変形して行く。

 そして赤い眼球が生まれ、怪しい光を放つ。

 手遅れだ。既に分身体に乗っ取られている。目の前に居るのは欲望を能力に変え、未来を改変する化け物だ。


『何で……ここにイルの……?』


 女性の声だ。この改変者は女性だ。

 いきなり現れて何を言っているんだ?


『何で……ワタシはココにいる……の? ココはドコ?』


 フラフラと身体を揺らし、震え始めた。

 何なんだコイツは。何が目的なんだ?

 

『見えナイ……何も……あア……?』


 俺の姿を捉えると、赤い眼球が細くなり、嬉しそうに笑った。


『お兄……?』

「……!?」


『お兄様……? 違ウ……。お兄サマじゃナイ……誰だ』


 誰だはこっちのセリフだ。お前こそ何者なんだ。


『オ……マエか。オマエがワ……タシを引き寄セたのは』

「引き寄せた? 何の事だよ」


『キキ、キキキ……』


 影が発する謎の金属音を発生させる。

 さらに黒い霧がメキメキ音を立て、形を変えて行く。これは……。


「仮面……!?」

 顔が仮面に覆われた。あの紋様は魔法士の仮面だ。……コイツは魔法使いだ。体に魔法着の様な紋様が浮かび上がる。

 

 確か新澤晴人も魔法使い由来の改変者とか言ってなかったか? コイツも化け物じみた強さって事なのかよ……最低だ。


『キキキキキキキキキ』


 この殺気……。ヤツは必ず攻撃して来る。一撃でも喰らえば死ぬだろう。前に戦った改変者の攻撃は、俺の全身の骨を砕く程のパワーを持っていた。


 一か八か感覚で避けるしかない。攻撃の気配を感じたら、魔法ママチャリの機動力で避ける!


「今だ!」

 魔法ママチャリを漕ぎ、魔力を注ぐ。十メートル程、横に移動し、急ブレーキを掛けた。滑るタイヤから土煙が巻き起こる。


「…………!?」

 さっきまで居た場所に改変者が移動している。攻撃が空振りした様だ。あ、危ねぇ……!


『オマエェェー……』

 やったぞ。攻撃を躱せた。魔法ママチャリスゲェ。でも、アイツを倒さないとこの結界から出れない。


『キキキキキキキキキキ』

「何だ!?」


 何かの能力を使っている!? 皮膚を突き刺す感覚が襲う。


「下か……!」

 地面が変化している!? 気付いた時には遅かった。

 地響きと共に、突然地面が窪む。


 地面がすり鉢状に改変されて行く。路面は破壊され、中心に向かって吸い込まれて行く。改変者は中央で蟻地獄の様に待ち構える。


 ヤバい。機動力を奪うつもりだ。魔法ママチャリのタイヤが沈む!


『オマ……エを殺セば……水鞠家はオワリダァ……死ね死ね死ネシネ……』

 仮面がバキバキと割れ、笑った様な表情に変わる。赤い眼球が仮面の奥から迫り出す。


 魔法花火大会を邪魔する事が目的なのか? 


 でも俺が陰で動いている事を何で知っているんだ!?


『キキキ……キキ……。水鞠家ノ通信回線の暗号は既に解読サレテイル』

「──!?」


『アタリマエだろう? 水鞠家カラどれだけの魔法使いが去ってイッタと思ウ? 情報ハ売られてイルンダよ……そのままの暗号を使うなんてバカな奴らだ。キキキキキ……』


 最悪だ。最悪な事態だ。


『最高ダヨ……あの水鞠家がツブレるトキが来ルなんてネェ。いい気味だ。ワタシと同じ苦しみ……味わうとイイ……』


「同じ……?」

 

 まさかこの改変者は……ワタヌキ店長が前に言っていた、消滅した魔法使いの一族って事か?


『財産モ……領地も……秘伝ノ魔法も……全テガ奪われタ。こノ私が、この高貴ナ血筋のワタシが!』


 直接、水鞠コトリと関わっていた訳では無さそうだ。他の一族に取り込まれた恨みで改変者になっている。水鞠家を潰す為に。


 激しい地響きと爆音を立てて、地面が中心に向かって渦状に飲み込まれて行く。


 引きずり込む影……! 水鞠家を陥れたいという願いが能力になっているのか。


 自転車のタイヤが動かない! このままじゃダメだ! コイツは諦めるしか無い。


 魔法ママチャリを降り、改変者に向かって投げつけた。


 改変者に直撃するが、音も無くバキバキに破壊されて行く。全くダメージを与えられない!


 膝まで地面に埋まり、身動きが取れなくなってしまった。このままだと殺される! 何とかしないと……!


『キキキキ……キキキキキ──!』

「──!」


 次の瞬間、地面の動きが止まった。

 何か別の力が、地面の改変を阻害している。


『誰だァ!? 邪魔をする奴は』

 改変者が叫ぶ。窪んだ地面から見上げると、人影が見えた。誰かが居る!?


「逆恨みするんじゃねーよぉ。お嬢様よぉ」

 いつもの口調にポロシャツにハゲ頭。


 何でここに!?


 改変者の赤い眼球が大きく見開く。

『オマエは……雷旋のワタヌキ……!?』

 

 その言葉を聞くと、本人がニヤリと微笑んだ。何だか嬉しそうだ。

「部品の流れを追っていたら、お前に辿り着いたよぉ。名家、姫更木(きさらぎ)家のお嬢様が改変者になるとは驚いたな。だったら手加減は……要らないよなァ」


 そう言うと、雷旋のワタヌキは魔力を指先に集中させる。

『八十八層展開……!』


 改変者の周囲に小さな三角錐(さんかくすい)の立体魔法陣が出現した。それは一瞬で数十個に増殖する。


 一つ一つがとんでもない魔力だ。これが魔法使いの本当の力なのか……!?

 

『巻き上がれ……! 轟雷旋(ごうらいせん)!』


 立体魔法陣が砕け散る。

 ガラスの様に舞う破片は、魔力を帯びた雷へと変化した。

 それは渦を巻き、巨大な柱に変化する。


『ぎイィィ────ッ!』

 直撃した改変者は金属音の様な叫び声を上げた。


 包み込んだ無数の雷が、改変者が纏う黒い霧を破壊する。凄まじい威力だ。おそらく数秒の内に、何万回もの攻撃が行われている。


 ついには影の鎧を破壊し尽くし、雷の螺旋と共に上空へと巻き上げる。そして完全に消滅した。


「スゲェ……」

 言葉がそれしか出なかった。

 

 闇の結界は破壊され、元の景色に戻って行く。窪んだ地面も修復され、夜空が映し出された。


 一撃の魔法で、改変者を倒してしまったらしい。強すぎるでしょ店長……。これが他の魔法使い達が恐れる「雷旋のワタヌキ」の実力なのか。


 改変された空間は全て元の状態に修復された。まるで夢でも見ていた様な気分だ。


 目の前にはバラバラに壊れた魔法ママチャリと、白いワンピース姿の知らない女性が横たわっている。


 え……? 死んでる?


「大丈夫だ。死んだりはしないよぉ。強力な魔法使いは魔法耐性が強いからなぁ」

 そう言って雷旋のワタヌキがタオルでハゲ頭の汗を拭う。


 確かに女性を見ると、服にすら殆どダメージが無い。バリア的なものでもあるのかよ。ズルイな! いや、そんな理屈を考えている場合じゃ無かった。


「ウウ……ウ……」

 全身を震わせながら、改変者が立ち上がる。まだ倒せていないぞ!?

 

 それを見た雷旋のワタヌキが驚きの声を上げる。

「流石だな。意識がまだあるとは。もう一段上の魔法にすれば良かったワイ」

 

 改変者は人の姿に戻っているが、まだ身体を覆っていた黒い霧が微かに残っている。


 そして改変者の特徴である赤い眼球もそのままだ。


「私だけ止めても無駄な事だ。他にも水鞠家を手に入れようと動いている一族は居るからねェ。消えて無くなれ!」

 女が長い髪を振り乱し、醜い表情で叫ぶ。


 そうだった。水鞠家の通信はダダ漏れだったんだ。これで終わりじゃ無い。別の魔法使いの一族が襲撃に来る。


 早く水鞠の所へ戻らないと……! 

 岸本から立体魔法陣を受け取って、メンテナンスを続けなければ、またマシーンの熱暴走が始まる。


 魔法ママチャリはもう無い。だったら、走ってでも辿り着くまでだ。


 決意を胸に水鞠家の方角に振り向く。

「え…………!?」

 思わず足を止め、空を見上げる。

 そこには驚きの光景が広がっていた。



「花火が……上がっている!?」


 あれからかなりの時間が過ぎているのに。


 俺がメンテナンスをしていないのに。


 空には大輪の花が咲き乱れている。


 それに気付いた改変者が悲痛な声で叫ぶ。

「何故だ!? 何故だ何故だ!? 何故花火が上がり続けている」


 俺が一枚だけ持っていた立体魔法陣のカードは消えてしまっていた。メンテナンス無しで花火は上がり続けている事になる。


 ワタヌキ店長も空を見上げ、目を細める。

「まあ、こういう事だよぉ」

 そして謎の小型機械を取り出し、地面に置いた。


『第四ブロック、第二十ブロック』

 老執事の声がスピーカーから聞こえる。今もまだ指示を続けている様だ。


「少し巻き戻すぞ」

 そう言って機械を操作する店長。


『だめだ! 誘導弾が発射出来ない……! 日高! どうしたの!? 何があったの!?』

 水鞠の声だ。恐らく俺が改変者の結界に取り込まれた直後の通信だ。


『コトリ様! マシーンの稼働率が五十パーセントを切りました! 残念ながらもう……』

『諦めないで! 最後の最後まで絶対に諦めないよ!』


『…………』

『…………』


『これは……!? そんな事が?』

『どうしたの!?』


『稼働率が急上昇しています! 七十……八十……』

『どうしたの!?』


『コトリ様! 以前、水鞠に仕えていた桐生家が来てくれました。復帰の意思を示しています!』

『ありがとう! 桐生。助けて!』


『第十七ブロックに匿名での応援が来ています! 魔法士が二人……いえ、三人!』


『ありがとう! 助けに来てくれて、本当にありがとう!』


『また援軍です!』


 それを聞いた改変者の膝が崩れる。

「そんな……そんな事が……」


「信じられないだろなぁ。お前の一族がピンチの時は誰も助けに来なかったからなぁ」

「何故だぁ──!」


 すると、雷旋のワタヌキはヤレヤレと言ったポーズを取る。

「何故って……お前の所の一族は弱味に付け込んで裏で悪い事を散々やっていたらしいじゃねーか。強引な引き抜き、領地侵略、謀略の数々……。自業自得だよぉ。まあ、この結果は奇跡に近いがな」


「そんな事……ある訳が……」

「水鞠家は昔から他の一族の手助けをしていたらしい。オレも知らなかった事だよぉ」


「うああああああああああ────!」

 女が叫び声を上げ、倒れ込んだ。


 もう、立ち上がる力は残っていないだろう。


『日高!? 無事なの!?』

 水鞠の声だ。あれ? これって録音だよな。


「これは今の通信だよぉ」

 ワタヌキ店長が笑顔になる。あ、そうなんだ。

「水鞠! 悪い! 今迄ピンチだったんだ! でもワタヌキ店長が助けに来てくれて」

『うん……。ワタヌキから聞いたよ。良かった。無事で』

 水鞠の声を聞いたら何だか嬉しくなってしまった。


 通信は岸本の声に変わる。

『日高! 花火が綺麗だよ。早く戻って来て』

 もうマシーンの部品になる仕事は円満退職したらしい。良かった。


 そういや、魔法ママチャリは粉々にされたゃっていたよ……。どうやって行こうか。


「オレのを使え。オレは元お嬢様の手当をしなくちゃならんしな。先に行ってくれ」

 ワタヌキ店長が指差した先に魔法ママチャリがある。どうやら店長も自転車で移動して来たらしい。ホウキとかじゃないんだ……。


 落ちていたイヤホンマイクを拾い、装着する。良かった。壊れていない。


「店長。お借りします!」

 すぐに花火に向かって魔法ママチャリを漕ぎ出した。この感じだと数分で到着できるだろう。

 

 発進してからすぐに、イヤホンからノイズ混じりの声が漏れる。


『何あれ……!?』

 水鞠の呟きだ。

「どうした……?」


『コトリ様! 数値に異変が!!』

 老執事が側で声を上げている。


 空で何か起きているのか? 水鞠家の方角を見上げる。

 黒い雲だ。異様な動きを見せ、渦を巻いている。あの色は……。まさか……影!?



『まずいよ……! 空の上で、強力な改変現象が起きている!』

 何度もピンチ状態の引きで疲れる展開ですが、もう少しで終わりです。よろしくお願いします。

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