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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
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第19話 日高誠と打ち上がる閃光

 水鞠の屋敷に到着し、すぐに湖へ向かった。


 魔法ママチャリを飛ばした甲斐があった。予想よりも早く戻る事が出来た。


 花火大会の会場は騒然としている。

 水鞠はキーボードの花火発射制御装置の操作に四苦八苦で、その側では岸本紗英と老執事が慌しくサポートを続けていた。


「お待たせ致しました!」

 すぐに弓の魔法使いと壁の魔法使いの二人も到着した。誘導弾の発射は援軍に任せ、ここに戻って来た様だ。


 あ、よく見ると鳥の魔法使いもひっそりと後に居た。


 俺が乗っている魔法ママチャリが、自分が貸した物と変わっている事に気が付くと、全てを察し、悲しそうに膝を落とす。


 ……とりあえずスルーしておこう。


 とにかく確認だ。

「水鞠! 何が起きているんだ!?」

 必死にキーボードを叩く水鞠に近付く。


風鱗海月(ふうりんくらげ)の一体が異常行動をして、空の魔法力を改変しているんだよ! こんな事、あり得ないよ!」


 改変……? 改変てまさか……!


『こちらワタヌキ。コトリ様。よろしいですか?』

 ワタヌキ店長から通信が入ったようだ。


「どうしたの!?」

 花火を打ち上げながら、水鞠が呼びかける。


『それはさっき俺が倒した改変者の仕業だ! 最初から風鱗海月の改変が目的だったんだよぉ!』


 そうか。未来改変者の異質な力は魔法使いには察知出来ない。だから誰もそれに気付かなかった……!


 「影」に身を落とした者は不可能も可能にしてしまう。大きな代償と引き換えに。


 弓の魔法使いがタブレットでデータを確認する。

「魔法花火でも届かない高度で空の魔法力を改変しています! 早く破壊しないと手遅れに!」

 

 すると壁の魔法使いが泣きそうな声で叫ぶ。

「無理です! 無理だから花火を使って上空の風鱗海月を破壊しているんですから! 魔法が届く訳が無い!」


 花火は上がり続けている。だが改変者に操られた風麟海月にはノーダメージだ。


 どうする!? このままただ見ている事しか出来ないのか?


 何か……何か方法は無いのか?


 でも、俺には何も力が無い。あの遠い空に漂う魔法生物を破壊する力なんて──。


 ──いや、ある。あるじゃないか。


「でも、そんな事が出来るのか?」

 独り言の様に呟くと、岸本が側に寄って来た。

「どうしたの? 日高」

 悩んでいる場合じゃない。俺にしか出来ない事がある。


「俺が……改変された風鱗海月を引き寄せる」


 破壊する力は無い。だけど俺には引力魔法がある。


「何言ってるの!?」

 一斉に突っ込まれた。

 ああ……それ、岸本が「私が部品になります」って言った時の俺のリアクションと同じだ。気持ちは分かる。

 

「でも、目標までの距離が長すぎる。ここからじゃ魔法が届かない」

 俺は冗談を言っていない事を訴える。


「ナイスアイデアです」

 突然、鳥の魔法使いの声が響く。

 近くには姿が見えない。面倒臭いので、探さない事にした。全員がスルーだ。


「こちらですよ」

 高い木の枝の上で、クールにポーズを決めている。わざわざ下から登ったの!?


 トオッ! とか言いながら枝から飛び降り、地面に着地すると、クルリと回って一礼した。


「水鞠家の『鳥』……華麗に参上致しました」


 いや、見れば分かるし。さっきから遠目に居たよね? もしかして、壁の人の「ここに……」って言うみたいな、固有の登場セリフなのかな。とりあえず、今はしなくても良かったよね?


 鳥の魔法使いは一礼し、自分の考えを提案する。

「では、花火を使って日高誠君の立体魔法陣を打ち上げる……というのはいかがでしょう」


 壁の魔法使いが空を見上げる。

「立体魔法陣を魔法花火で打ち上げた後、引力魔法で地面に引きずり下ろす……。試してみる価値はありそうですね」


「それは不可能です」

 否定したのは弓の魔法使いだ。

「そんな事をすれば、立体魔法陣が粉々になります。性質上、耐えきれません」


「そんな……」

 絶望的だ。もう手立てが無い。


「……ですが、打ち上げる方法が無い訳ではありません」

 全員の視線が弓の魔法使いへ集まる。そして、その言葉の続きを待つ。


「私が発射台になります」


「どういう事!?」


 あ、ああ。もしかして……。

「弓の立体魔法陣で打ち上げるつもりか!?」


「そんな事が出来るの!?」

「正気ですか?」

「嘘でしょ? バカなの? バカでしょ?」


 皆んな次々と好きな事を言い始めた。何か一人ドサクサに紛れて酷い事言ってるな。


「日高誠。時間が有りません。お願いします」

 弓の魔法使いが立体魔法陣を要求して来た。


 水鞠は高速でキーボードを鳴らし続けている。鍵盤の組み合わせで花火のタイミングをプログラムしなければならない。ここに居る最強の魔力を持つ水鞠の協力は期待出来ない。


 俺の視線に気付いた水鞠が叫ぶ。

「やろう日高! それに賭けよう!」

 

 そうだ。やるしか無い。風鱗海月を破壊出来なければ全てが終わる。


 老執事がタブレットを持って移動して来た。

「日高様。でしたらこちらを」

 画面には風麟海月の画像、そして複雑怪奇な文字や数字が並んでいる。


「これは……?」

「風麟海月の魔法構成……設計図の様な物です」

「見ても何が何だか……」

「引力魔法を正確に使用するには対象の情報が必要です。イメージに役立てて下さい」


 そうか。離れた場所にあるものを引き寄せるのは、召喚に限りなく近い魔法になる。情報があれば精度が上がる訳だ。


「こんな大事な物を俺に……?」


 すると老執事は笑顔に変わる。

「責任は全て私が取ります。機密情報なので他言無用でお願い致します」

「ありがとうございます」


 画面に表示されているデータに目を通す。

 謎の文字ばかりだったが、何故か前よりも風麟海月をイメージ出来る様になっていた。


「行きます……!」

 右手に魔力を集中させる。

 移動で体力も気力も魔力も限界だ。立体魔法陣を精製出来るのか……!?


「出てくれ! 頼む!」


 右手から弱々しい光が生まれる。だが、そこから形にならない。


 嘘だろ……!? 早く何とかしないと!

 焦りで空回りして行く。集中力が維持出来ない。


 すると、岸本が目の前に現れ、俺の右手の掌に自分の手を乗せた。

「落ち着いて。日高なら出来るよ。ここまで頑張って来た日高なら……!」

 

「岸本……」


 今まで他人からそんな事を言われた事は無かった。


 俺は水鞠に出会うまで、何もして来なかった。全ての物事から逃げていたからだ。


 筋トレ、ジョギング、謎の修行の数々。


 水鞠と出会ってから、俺なりに頑張ったつもりだった。


 他人から見た俺は、思い描いた自分に近付けているのか自信が持てなかった。


 だから岸本の言葉で救われた。


 俺は変わりたかったんだ。水鞠コトリの様に。


「光が……」

 ビー玉の様な、小さな立体魔法陣が掌に精製された。


 弓の魔法使いはそれを取り上げると、弓型の立体魔法陣を出現させた。

「それで十分です。後は付与のスキルを使って魔力を注ぎ込みます」

 

 付与のスキルってのは、前に岸本を召喚した時に水鞠が俺に使ったものか。


 続けて壁の魔法使いが魔法を起動させる。

「私も手伝います」

 紋様の入った板状の立体魔法陣が、弓の魔法使いの真下に現れた。


「もしかして、怖いですか?」

 壁の魔法使いが意地悪そうに質問する。

「高所からの射撃は私の得意とする所ですよ? お願いします」

 弓の魔法使いは冷静に答えた。


 相変わらずギスギスしているな。何をするつもりなんだ?


『出でよ。 魔晶壁塔(ましょうへきとう)

 魔法が完成すると、弓の魔法使いを乗せたまま、板状の立体魔法陣が空に向かって伸びて行く。


 クリスタルの様に透き通る立体魔法陣は超高層の塔に変化した。東京タワー位はあるかも知れない。その頂上に弓の魔法使いが立つ。


 その様子は水鞠家の魔法ドローンによって撮影され、地上の巨大モニターに映し出されている。


 岸本は塔とモニターを交互に観た後に溜息混じりに呟く。

「凄い。あんな高くて狭い場所で……立っているだけでも大変そう」

 

 足場は二メートル四方しか無かった。何をどうしたらそれが可能なのか理解不能だ。


「上に伸ばす為には広さを犠牲にするしか有りませんでした。でも、弓の魔法使いの力なら問題有りません」

 壁の魔法使いの言葉から、信頼の大きさが伝わって来た。


 弓の魔法使いが巨大な弓を天に向かって構える。

 矢の代わりに俺の球体型立体魔法陣が装填されている。不思議な気分だ。


「待って! 今、何か映ったよ!?」

 岸本がモニターを指差した。

 確かに何かの物体が見え隠れしている。


「妨害か!?」

 あんな無防備な状態で襲われるのは危険だ。逃げ場が無い。


 弓の魔法使いから通信入る。

『大丈夫です。あれは鳥の魔法使いの魔法です』

 モニターに魔法の青い鳥が羽ばたく姿が映し出された。


 ちょっと!? 何をしているんだよあの人……。邪魔でしょ!


『舞え……美しき翼で……魔爪青鳥(まそうせいちょう)

 

 振り返ると、鳥の魔法使いがキメポーズを取り、今言わなくても良い魔法名を呟いていた。魔法使うなら先に言ってよ! 焦ったよ!


「我が魔法が導きましょう。さあ! 今です! 青き鳥に向かって矢を放つのです!」

 鳥の魔法使いの手元のタブレットには、風鱗海月の位置座標データが表示されている。


 狙いやすい様に的になってくれているのか? それ必要か? その場に居た全員がそう言いたそうな顔だ。


 上空から通信が入る。

『最近何度か撃ち抜きたいと思う時があったので丁度良かったです。まとめて破壊します』

 弓の魔法使いが容赦の無い返しをする。

 それを聞いた鳥の魔法使いは無言になって、しょんぼりし出した。


 まあ……仕方ないよね。実際、面倒臭いし。


 気を取り直し、立体魔法陣を構え直す弓の魔法使い。

『打ち上げます! 三……二……一……!』


 全魔力を込めた一矢が、夜空に向けて放たれた。


 それは豪風を物ともせず、雷雲を切り裂き、光の直線を描く。


 その先端には、俺の立体魔法陣がある。雲を突き抜け、遥か上空に到達した。


 この矢の真っ直ぐ進む先に、改変された風鱗海月が居るはずだ。


 右手に魔力を集中させる。

 情報を得ていたお陰で、風麟海月のイメージが出来ている。


 俺には分かる。風鱗海月は引力魔法の射程内だ。


 無数の魔法生物のひしめく天井の、さらに上。一体だけ肥大化し、黒い霧に包まれた風鱗海月が漂っている。


 捉えたぞ!

『掴め。引き寄せる腕』


 立体魔法陣がメキメキと巨大な腕に変形する。そして強力な握力で風鱗海月を鷲掴みにした。


 問題はこれからだ。

「離れろ! 引きずり下ろすぞ!」

 俺の周りから魔法使い達が退避する。

 

 目の前に光のサークルが広がる。この魔法陣の上に風鱗海月を着地させる。


 光は徐々に大きくなり、柱状に変化した。それは雲を突き抜けて空へ伸びて行く。


 幾つもの雷が駆け抜け、雲の中から黒い物体が姿を現す。


 体長三メートル近い青白い巨大な海月。

 風を纏う魔法生物……風鱗海月だ。


 それは光のレールに沿って、隕石の様に高速落下を開始した。


「落ちて来たよ日高!」

 岸本が叫ぶ。


「大丈夫だ! 止まる!」

 それは地面に激突する手前で急ブレーキがかかり、フワリと地表に降り立った。轟音と共に土煙が舞う。


 光の柱の中で黒い風が吹き荒れる。改変された魔力エネルギーだ。


 それを俺の右手から生まれたブラックホールが吸い込み、無効化して行く。


 機を見た壁の魔法使いは飛び出し、魔法を起動する。

「破壊します!」


「待って! 壁!」

 止めたのは水鞠だ。

「その風鱗海月は危険だよ! 魔力が逆流している! まだ衝撃を与えないで!」

 水鞠は花火のプログラムをする手を止めない。


 鳥の魔法使いが風麟海月に駆け寄り、状態の確認を始めた。

「これは……非常にまずい! 爆弾化しています!」

 

 爆弾化……!? 爆発するのか!?


「コトリ様を守れ! 私は結界を使って封じ込めます!」

 鳥の魔法使いの言葉を受け、壁の魔法使いが立体魔法陣の防御壁を展開する。魔法花火制御装置ごと、水鞠達をガードした。


 鳥の魔法使いは結界を展開し、風鱗海月を透明な箱に閉じ込める。


 風鱗海月が赤く染まって行く。体が膨張し、今にも破裂しそうな勢いだ。激しい熱気が一帯を襲う。


「日高! 逃げて!」

 岸本が叫ぶ。逃げる訳には行かない。俺が魔法を解除したら、それこそどうなるか分からない。


 弓の魔法使いは最悪の事態を想定して弓を引く。だがすぐに解除してしまった。

「これは……予想される爆発の破壊力が桁違いです……! 結界も……魔法防御壁も消し飛ぶかも知れません!」


 更に膨張を始める風鱗海月。このまま見ていてもダメだ! 何とかしないと……。何か方法があるはずだ。


 ──そうだ!


「水鞠!」

 俺は水鞠に向かって叫んだ。

 まだある。最後の選択肢が!


 すると、全てを察した水鞠が頷く。

「鳥! 結界を解除せよ!」

「……!?」

 突然の命令に驚く鳥の魔法使い。


「行くよ!」

 水鞠が浴衣姿で宙を舞う。その距離二十メートル。キーボードの位置から一気に、風鱗海月へ向かってジャンプした。


 空中で膝を抱え、クルクルと高速回転しながら飛び込んで来る。


「ええ──!?」

 慌てて結界を解除する鳥の魔法使い。


「オラァ──────────ッ!!」

 水鞠が魔力を込めた拳撃を放つ。


 それが風鱗海月に炸裂すると、衝撃と共に柔らかい表面が凹み、触手が飛び散る。


 呆然とする弓の魔法使い。

「コトリ様……何を……?」


 風鱗海月は原型が失われ、爆発寸前の状態だ。凄まじい熱気がその場に居る全員に襲い掛かる。


 そうだ。それでいい。

 爆発させない程のギリギリのダメージ。今、それが必要だった。


 俺は引力魔法を切り替え、別の立体魔法陣を精製する。


 そして息を大きく吸い込み、叫ぶ。


『俺と契約してくれ! 風鱗海月(ふうりんくらげ)……!』


 球体の立体魔法陣が風鱗海月を包み込んだ。


「まさか……この状態で契約を……!?」

 老執事の声が響く。


 どうなるか分からない。でも、これしか方法が思い付かなかった。


 球体の立体魔法陣が風鱗海月を包み込む。

 そして光を発しながら、上から溶ける様に消えて行く。


「頼む。上手く行ってくれ!」


 半分程光が飲み込むと、そこから進まなくなる。バチバチとショートした様な音と、電流が走る。今までに無かった反応だ。


 やはり無理だったのか!?


『──────────────ッ!?』


 何だ? 今、何か変な声がしたぞ!?


 次の瞬間、風鱗海月が光と共に消滅した。何が起きたんだ?


 身体には変化は無い。どうやら無事の様だ。確かめる様に自分の身体を摩る。


 ……契約出来たのか?


 俺の中にある魔法空間には、二匹の魔法生物の他に、もう一体別の魔力が確認出来た。


 ボロボロになった風鱗海月だ。


 ……どうやら成功したらしい。


 鳥の魔法使いが膝を落とす。相当なプレッシャーだった様だ。

「信じられません……。あの風鱗海月と契約してしまうとは……」

 


 生暖かい風が通り抜ける。花火の音だけが空を駆けて行く。


「は──っはっはっは!」

 突然笑い声がした。この声は……。

 ワタヌキ店長だ。改変者の手当てを終えて駆け付けてくれた様だ。

「久々に面白いモノを見せてもらったよぉ。全部終わった様だな」

 そう言って空を見上げる。


 すると水鞠は笑顔に変わり、ウインクで返す。

「まだ終わってないよ! 花火をどんどん打ち上げるよー!」

 そして装置に戻り、キーボードを操作し始めた。魔法花火大会の再開だ。


 弓の魔法使いは魔法着を翻し、一礼し会場から離れて行く。

「私達も担当ブロックに戻りましょう。援軍に任せ切りにしていますから」


 壁と鳥の魔法使いも一礼し、続いて行く。


 ……そういえばあの人達、何を使って移動してるんだろう。やっぱりママチャリなんだろうか。ま、今はどうでもいいか。そんな事は。


 湖の方へ視線を動かすと、岸本が空を見上げて花火に見惚れていた。俺も隣に並び、同じ様にしてみる。


 でも、このまま花火を見ているだけじゃ気が引けるだろ。皆はまだ作業中だ。何か手伝う事は無いのかな。


「俺達は祝勝会の準備でもするか?」

 岸本にそう言うと、何故か首を横に振る。そして優しい笑顔を向けて来た。


「それは私に任せて。日高には、これからやって貰う事があるから」


「はい……?」 

第2章は残す所、あと二話です。

よろしくお願いします。


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