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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
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第17話 日高誠と魔法花火大会

『皆様、聞こえていますか?』


 ダンディーな声がイヤホンから聞こえてくる。その声の主である老執事は俺の目の前に居る。


 魔法花火大会開始まであと一時間。今は通信機器のテスト中だ。


『魔法花火大会中は、電話での通話は困難となります。こちらの魔法イヤホンマイクをお使い下さい』


 これは便利だ。これなら魔法ママチャリを漕いでいても通信が出来る。


 そう。俺はこれから魔法ママチャリで走り回る事になる。


 水鞠家の湖の畔。今ここに居るのは老執事、水鞠コトリ、岸本紗英、真壁スズカ、そして俺の五人だ。他の魔法使い達はそれぞれ担当するブロックに移動を完了し、待機している。


 空は黒い雲が覆い、時折強い風が吹き、雷が鳴り響く。雨が降っていないのが救いだ。


「作業場、解体します」

 壁の魔法使いがそう言い、謎のリモコンのボタンを押した。


 ガシャガシャと、まるで建築動画を逆再生する様に大きな建物が小さく畳まれていく。


 何だこれ!? 面白過ぎる!


 完全に作業場が消えると、煙と共にマシーンが出現した。ゴツゴツしていた外見が改装されている。


「あれから更にマシーンをコンパクトにしました。ご覧下さい」

 真ん中に人が立って操作をする様だ。その周りには、ボタンが敷き詰められている。


 いや、違うな。あれはボタンじゃない。


 ……キーボードだな。

 

 よく昭和の懐かしのヒットソング特集の映像で見る、キーボードで囲まれているアレだ。


 どうやら円形に配置された、六台のデカいキーボードを使って操作するらしい。気分は「ワイルド アンド タフ」だ。


「コンパクトってレベルじゃない。別物じゃねーか!」

「ふふふ……凄いと思いませんか?」

「……いや、凄いよ。凄いけど」


 壁の魔法使いは異様に承認欲求が高い。褒めてあげたいけど、何か褒め辛いんだよな。この人。


「さあ、試運転だよ!」

 そう言って目の前に水鞠が現れた。

 いつぞやの科学準備室の時の様に、クルクルと謎のダンスを踊っている。あれ? 何か服装が変わってる?


「浴衣!?」


 いつの間にか魔法着から赤い浴衣に着替えていた。何で!?


 すると、岸本紗英も青い浴衣姿で現れた。

「だって、花火大会だよ。いい思い出にしたいでしょ?」

 そう言って見せつける様に笑顔でポーズを取る。

 思い出した。着ているのは前に話していた魔法浴衣だな。


 そうだった。これは魔法花火大会だった。だったら浴衣で合ってるな。うん。


 水鞠はキーボードに囲まれて「ねこふんじゃった」を弾き始めてハシャギ始めた。緊張感はまるで無い。


 ……違う。そう振る舞っているだけだ。緊張していない訳が無い。


 キーボードに浴衣に花火か。もう、訳が分からない。何のフェスなんだよこれは。


 岸本もキーボードのある台に乗り、水鞠と一緒に演奏し出した。

「日高! 何か言う事無いの?」


 何だっけ? あ、そうか。今更言うのも何か照れ臭いな。


「二人共、浴衣すげぇ似合ってます……」

 と、小声で言ってみる。


 すると、岸本は冷たい目をして、

「遅い。最低」

 と言うと、水鞠の方は口を尖らせて

「似合ってるのは当たり前でしょ。何か他にないの?」

 と言ってつまらなさそうにしている。

 

 無茶言うなよ……残念だが俺の心の選択画面にはその一択しか表示されてない。


「コトリ様……お美しい! ハァ……ハァ……」

 気付いたら壁の魔法使いが、アイドルを激写するが如くシャッターを切りまくっていた。浴衣姿の水鞠に大興奮だ。


 遂には地面に這いつくばり、ローアングルから撮り始めた。怪しいな! 完全に犯罪者だよ! 不気味な仮面に魔法着姿だし!


 それを見た岸本は溜息をつく。

「日高もこれ位やってくれないと」

「やるかよ! 変態野郎って言いたいだけだろ!」


 笑顔と笑い声が重なる。

 俺はきっと、この時を忘れない。


 だから、必ずいい思い出にしよう。

 そして来年も花火を打ち上げるんだ。



 開始十分前。

 壁の魔法使いは担当ブロックに移動した。

 水鞠はキーボードの中央に立ち、最終調整をしている。


 俺は橘先生の魔法ママチャリに乗り、指示を待つ。


 水鞠の居るマシーンの側には、三畳分ある巨大モニターがあり、そこには領内の簡易地図が映し出されている。


 赤い点の場所に風鱗海月が密集している様だ。地図はほぼ全体が赤く染まっていた。


 そのモニターの前に老執事が立ち、マイクを自分に向ける。

『オペレーター役に拝命されました。水鞠家執事、坂畑と申します。宜しくお願い致します』


 ここでダンディー老執事の名前が判明した。そういえば知らなかったよ。


『私は魔法花火大会の第十回まで、オペレーターを担当させて頂いていました。経験者として、皆様をサポート致します』


 この作戦は指示役が重要だ。今回はイレギュラーな事が多いから尚更だ。経験者が居るのは大きい。


「日高。これを」


 岸本からガラスの様に透き通った三枚のカードを渡された。


 彼女が精製した立体魔法陣の内、十二枚はマシーンに組み込まれた。残り三枚は予備だ。


 今のシステムは、立体魔法陣への負担が大きいらしい。壊れた場合は予備と交換する必要がある。その為に俺は走るのだ。


 岸本は水鞠の隣に移動し、祈る様な姿勢を取った。離れた場所を含む、十二枚の立体魔法陣に魔力を注いでいる。


『五……四……三……』


 老執事のカウントダウンが始まった。


『……二……一……』


 第十九ブロックと第十三ブロックの一発目の誘導弾が打ち上がった。


 遠くの地域だから肉眼では確認出来ない。だが、巨大モニターのレーダーには、明らかな変化が見える。


 一部の赤い点がここに向かい移動している。これを続けて、領内の上空に漂う風鱗海月をこの場所に集めるのだ。


 花火を打ち上げるのはその後だ。上手く行けば魔法生物は破壊され、空の改変現象が修正出来る。



『第十ブロック、第七ブロック』

『第十八ブロック』

『第五ブロック、第十一ブロック』


 流動的な風鱗海月の動きを観測しながら誘導弾の打ち上げを指示して行く。


 今のところ真壁先輩のマシーンも、岸本の立体魔法陣の回路も上手く作動している様だ。


『日高様。第二ブロックへ移動お願い致します』


 よし来た。魔法ママチャリに魔力を注入し、ペダルを踏み込む。


 前に吹っ飛んだレアパーツとやらは動作には問題無いらしい。遠慮なく行かせて貰おう。


 水鞠家を飛び出し、一直線に第二ブロックへ走る。ハンドルには魔法自転車用ナビが取り付けられているから迷う事は無い。


 数分かけてで四十キロ離れた第二ブロックへ到着した。


 広い畑の端に怪しいプレハブが建っている。ちょ、あそこ!?


 いかがわしい自動販売機とかが置いてありそうな雰囲気だけど大丈夫!?


 そこにママチャリで猛スピードで到着して、いそいそと駆け寄る俺。完全に見た目がアウトだ。だが、そんな事で動揺している場合じゃない。


 扉を開けると、中は四畳半程の広さで、中央では作業場で見た丸型の子機が稼働していた。


 取り付けてある立体魔法陣のカードを外すと、「バリン」という音を立てて砕け散る。


「ヤバっ……!?」

 慌てて手に持っていたものを差し込むと、何事も無く稼働し続けた。


 このマシーンに繋がれた発射装置が近くで誘導弾を打ち上げているらしい。どんな仕組みかは謎だ。


『日高様、第二ブロックの入れ替え作業は成功です。第四ブロックへの移動をお願い致します』


「了解です」

 焦った。失敗したかと思ったよ……。

 老執事の新しい指示を受け、移動を開始する。


 そういえば前にも魔法陣を作る為に学校中を走り回ったな。

 俺はあの頃から全く成長していない。現に今だって必死にママチャリを漕いでいるだけだ。


「くっ……!」

 体を鍛えて来たつもりだったが甘かった。足が重い……!


 魔法ママチャリは体力と魔力の消耗が激しい。まだ先は長いのに大丈夫か俺。


 このまま問題が起きなきゃいいけど……。


『日高様! 異常事態が発生している様です! 急いで第四ブロックへ向かって下さい!』


 そんな訳には行かないのは分かっていた。

「了解! 急ぎます!」


 立ち漕ぎ状態になり、走り抜ける。

 足だけじゃない。全身に力が入らなくなって行く。


 第四ブロックの子機は土手の上にあった。


 サイクリングコースの休憩所に、怪しいプレハブ小屋が見える。さっきのと同じ大きさだ。


 到着する頃にはスピードが出なくなっていた。ヘロヘロになりながら魔法ママチャリから降り、小屋の扉に手を掛ける。


「熱ッ!?」


 何だ!? ドアノブが熱いぞ!?

 我慢して掴み、勢い良く扉を開く。


「……!」

 目に飛び込んで来た光景に絶句した。


『日高様! 状況を教えて下さい!』

 イヤホンから老執事の声が聞こえる。


「子機が赤くなって蒸気が出ている。メチャクチャ熱いです!」

 何だこれは……! ヤバいぞ!


『まずい……熱暴走です! 日高様、危険ですのですぐに離れて下さい!』


 離れる!? そんな事出来る訳がない。花火はどうなるんだよ!これを放って置く訳には行かないだろ!


 でも、どうすれば……!?


 そうだ。まだ方法がある。もう、これしか無い。


 深く深呼吸をした後、魔力を集中させる。右手がガクガクと震える。それを抑える様に、左手で手首を強く掴む。


 限界まで消費した魔力で出来るか分からない。これは賭けだ。


 右手から光が発生する。だが焦りが邪魔をして集中出来ない。


 思い出せ。俺は今まで何の為に修行して来たんだよ。

「頼むから来てくれ……!」

 願う様に呟く。


 すると、光は球体の立体魔法陣に変化した。

 透明な球体に複雑な紋様が浮かび上がる。それは直径一メートルまで膨れ上がった。


 考えている時間は無い。やるしか無いんだ。

 俺は大きく息を吸い込み、その名前を叫ぶ。



『来い。火喰甲魚(ひくいこうぎょ)……!』


 立体魔法陣がガラスの様に砕け散る。

 空中に漂う破片が光り輝き、氷の結晶に変化した。


 ──魔法は完成した。


 結晶は青白い光の渦になる。

 その中から鱗が鎧に変化した巨大魚……熱を喰う魔法生物が姿を現した。


『熱を奪え。火喰甲魚(ひくいこうぎょ)

 命令を出すと、魔法生物は重低音の雄叫びを上げた。まるで竜の咆哮だ。


 火喰甲魚(ひくいこうぎょ)は空中を漂い、勢いをつけて跳ね上がった。


 プレハブ内の温度が下がり、次第に子機が通常の色に戻って行く。氷の結晶が舞い、幻想的な光景が広がる。


 魔法の力で、室内の熱は全て喰い尽くされた。


「今なら……!」

 俺は子機に手を伸ばし、手に持っていた立体魔法陣のカードを設置した。


 元から取り付けてあったものは既に消えていたらしい。危なかった。ギリギリもいい所だ。


 息を整える間も無く、老執事に報告を入れる。

「第四ブロックの……入れ替えを完了しました」


 すると、老執事が驚きを隠せない様子を見せる。

『まさか……! 日高様があの火喰甲魚を手なづけているとは……信じられない』


 そう言えば、水鞠も扱いが難しいとか言っていたな。

「何ていうか、その……成り行きで……」


 本当にそうだった。プールで開催された謎の釣り大会の時に、岸本が壊すのは可哀想……とか言わなければ、火喰甲魚と契約する事は無かった。


 初めて召喚したが、上手く行って良かった。少しは修行の成果があったのだろうか。


『戻れ、火喰甲魚』

 火喰甲魚を戻し、魔法プレハブから立ち去る。すると、すぐに老執事から通信が入る。


『日高様。予備の立体魔法陣を補給しに、一度本部にお戻り下さい』


 そうか。岸本にまた立体魔法陣を作ってもらわないと。

「了解。戻ります」


 魔法ママチャリに乗り、魔力をペダルに込める。あれ? ペダルが動かないぞ?


「……!?」

 視界が真っ白だ。何で?


 身体が……動かない……。意識が……消える……。


『日高様!? 日高様! 応答願います! 日高様!』

 ヒロイン二人が浴衣を着ているシーンを書けて良かったです。正直、ここまで辿り着けないかと思いました。


 日高もやっと召喚魔法で活躍出来る様になりました。長かった……。


 火喰甲魚は三人の思い出が形になったもので、それが助けてくれた。というお話です。


 火喰甲魚が何故、魚なのに空を泳ぎ、竜の雄叫びを上げるのか。そこにロマンがあるからです。


 ピンチはまだ続きます。

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