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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
39/70

第15話 日高誠と魔法花火説明会

 その日の午後も、岸本と二人で水鞠の屋敷に到着した。


「ご案内します。こちらへ」

 老執事に付いて行く。普段なら水鞠が待つ暖炉の部屋へ通されるのだが、その日は違っていた。扉を通り過ぎ、通路を奥に進む。


「何だか様子が変ね」

「……そうだな」


 岸本に言われる前から、妙な胸騒ぎがしていた。いつもとは何かが違う。


 すると通過の反対側から水鞠が現れた。

 学校の制服の上から魔法着を身に着けているいつもの格好だ。


 水鞠は畏まる老執事に猫の様な目を向ける。

「戻りなさい。二人も一緒に参加させるよ」


 参加? 何の話だ?


 すると老執事が頭を深く下げる。

「お言葉ですがコトリ様。説明会の内容は水鞠家の機密事項です。従者で無い者に聞かせる訳には……」

「特例です。当主として許可します」

「しかし……」


 どうやらこれから魔法花火大会の説明会が行われるらしい。老執事は俺と岸本が参加する事を良く思っていない様だ。


 そういや、最初にこの屋敷を訪れた時、老執事に荒い運転をされたっけ。


 屋敷に出入りしている事自体を、よく思っていないのかも知れない。まあ、無理も無い話だと思う。完全に部外者だしな。


 和かな笑顔の奥には複雑な思いがあったという訳か。



 最終的には水鞠が押し切り、俺と岸本も説明会に参加出来る様になった。


 暖炉の部屋の扉が開かれ、中へ進む。

 既に従者が集結していた様だ。一斉に視線が向けられて来た。


 全員が仮面を被り、裾の長い紺色の魔法着を身に纏っている。そう。ここに居る十人全員が魔法使いだ。



 ──暖炉の部屋。

 ここは普段、食堂として使われている。


 紺色の石を敷き詰めた床、広い天井には年代物のシャンデリアが吊るされ、壁面には複雑な模様があしらわれた装飾がされている。まさに、ファンタジーゲームの世界だ。


 中央には細長いテーブルがあり、椅子が左右に十脚づつ並べられている。


 いつもは誰も座る事の無い椅子だが、今日は半分が埋まっていた。


 いつもは何も無かった議長席には、豪華な装飾の椅子が用意されていて、水鞠コトリがそこに座る。


 そして、「弓」「壁」「鳥」の三人の魔法使いが近くの席に身を置く。


 俺と岸本は、他の七人とは初顔合わせになる。いや、もしかして中の人とは何処かで会っているかもしれない。何せ正体が分からないのだ。


「日高様、岸本様はこちらへ。今日は席が決まっておりまして、いつもの席はお使い頂けません」


 入口のすぐ横の壁際に、二つ椅子が用意されていた。

 助かった。あの雰囲気に入って行ける自信が無い。水鞠以外は全員仮面姿だし、一見すると、完全に悪の組織の集会だ。


 直ぐに椅子に座ると、老執事が扉を閉める。


 それを待っていたかの様に、弓の魔法使いが立ち上がった。

「これより、第五十一回 水鞠家 魔法花火大会の説明会を行います」


 それを聞いた岸本が、

「何だか本格的だね」

 と、顔を近付けて小声で呟く。


「お静かに」

 いきなり弓の魔法使いが岸本を注意する。ちょ、厳し過ぎない? 岸本はシュンとしてしまった。

 

 この物物しい雰囲気。いよいよイベントが始まる感じがする。テンションが上がるな!


「では、お手元の資料をご覧下さい」


 モニターには、弓の魔法使いが作ったと思われる、プレゼンテーションソフトで作られた資料が表示された。


 何だ? 何処かに資料が?

 目の前に座る魔法使い達を確認すると、それぞれがノートパソコンやタブレットを用意していた。


 何これ!? すげーな! 凄いけど……何かイメージが違う──!


 仮面と魔法着のファッションが、端末機器と絶望的にマッチしていない。違和感しか無い。


 まあ、俺と岸本はオマケみたいなものだ。話を聞いているだけでも十分だろう。


 そんな事を考えていたが、老執事が何か板の様な物を手渡して来た。

「こちらを。先程指示がありましたので、ご用意させて頂きました」


 これは……タブレットだな。九インチの液晶タブレットだ。画面には資料が表示されている。


「日高、もう少し寄っていい?」

 隣に座る岸本の方にも見える様に気を遣っていたつもりだったが、見辛かったらしい。肩を密着する様に身体を寄せて来た。


「これを使って下さい」


「うお!?」

 あまりに突然でビックリした。

 もう一つのタブレットを手に持って、弓の魔法使いが目の前に移動して来ていた。

 

 岸本がそれを受け取ると、弓の魔法使いは幽霊の様にスーッと元の位置に戻って行く。


「気が利くな。弓の魔法使い……」

 俺がそう言うと、岸本が気まずそうな顔で

「そういう事だけじゃ無いと思うよ」

 と、囁いた。

 じゃあ、どういう事なんだ?


 弓の魔法使いはコホンと咳払いをする。

「今回、魔法花火大会は六年ぶりとなります。ブロック担当者の中には今回が初めての方もいますので、確認も合わせまして、改めて説明させて頂きます」


 ブロック担当者って何だ? 領地をブロックに分けて管理しているって事でいいのかな。


 画面を見ると、水鞠家の領地が二十に分けられている。どうやらそういう事らしい。


 その広さは関東の三つの県に股がっていた。うお!? 広っ!


 魔法使いには県境とかは関係無いらしい。どういう基準で分けられているかは謎だ。


 いや、魔法自動車や自転車の様な高速移動手段があるんだ。広いとは言えないのか? うーん。よく分からん!


「今回、魔法花火で修正する対象はこちらです」


 画面が切り替わると、クラゲの姿が写し出された。水の中を漂う、大量のクラゲ……。


 違う。クラゲが泳いでいるのは水の中じゃ無い。雲の中だ。


 小さいウインドウが表示され、白黒の動画が流れる。


「これは上空の魔力を安定させる為に、水鞠七兵衛様が生み出した、風の魔力を操る上級魔法生物──」


 クラゲの周りに風が巻き起こっている様に見える。何だこれは!?


「──名を、『風鱗海月(ふうりんくらげ)』」


 風鱗海月……? そんなの図鑑に載っていたっけ? 空飛ぶ海月なんて面白生物、忘れないと思うけど……。


 すると、ダンディな声の老執事が身を屈めて補足する。

「風鱗海月は水鞠七兵衛が創り出したオリジナルの魔法生物です。水鞠家の領地上空にのみ存在します」


 何だそれ。凄過ぎるでしょ……。


 弓の魔法使いの説明が続く。

「水鞠家領内の上空には現在、大量の風鱗海月で溢れています。その数、一億体」


 一億!? スケールがデカ過ぎる──!


「余分な約五千体を水鞠家の湖の真上に誘導し、魔法花火で一気に破壊します。」


 画面にはヌルヌル動くアニメーションでイメージ映像が作られている。無駄に凄いクオリティだ。弓の魔法使いが作ったのだろうか。絵が完全にプロレベルだよ……。


「次に、誘導方法です」

 また画像が切り替わる。


「ブロックごとに誘導弾打ち上げマシーンが配置されています。これは第一回魔法花火大会から使用している物です。各ブロックに戻り次第、最終起動確認をお願いします」


 起動方法のサイトへのリンクが貼られている。分かり易いな。


「誘導弾は改変現象が大きい地域から一ブロック十五発を打ち上げます。打ち上げるタイミングは本部の指示通りにお願いします」


「私からよろしいでしょうか?」

 手を挙げたのは壁の魔法使いだ。真壁先輩、質問なら後で直接聞きなよ……。


「……どうぞ」

 明らかに面倒臭そうに対応する弓の魔法使い。


「現在、担当者が居ない十ブロックについては、どうやって誘導魔法を打ち上げるか……説明をお願いします」

 

 真壁先輩がお願いしなくても、弓の魔法使いは説明したと思うよ? 何がしたいんだよこの人。


 弓の魔法使いは溜息をつくと、説明を開始する。

「担当者の居ない十ブロックは、我々、本家仕えの三人と、コトリ様とで手分けして担当致します。一人ニブロックを同時に操作する事になりますが、その為の補助マシーンは明日、完成予定です」


 弓の魔法使いの言葉に、七人の従者達の驚きと安堵の声が漏れる。やはりその点が心配だった様だ。一転して明るい雰囲気に変わった。


「そうか。真壁先輩、みんなを早く安心させる為に……」

 岸本が隣で感心した表情を浮かべる。

 いやいや、騙されてるよ。絶対にそうじゃ無い。そこまで深く考えて無いから……あの人。


 すると壁の魔法使いは咳払いを始めた。全員の注目が集まる。

「ちなみに、この補助マシーンを組み上げたのは私です」


 やっちゃったよ……。自慢気に語っちゃったよ。この身内へのアピール……悪の組織そのものじゃねーか。真壁先輩がヘタレ幹部に見えて来たよ……。


「御苦労でした。良い働き、感謝します」

 仕方なく水鞠が褒めると、真壁スズカは嬉しそうに息を荒くし、プルプルと震え出した。


 ああ……。これ、人前で水鞠に褒めて欲しかっただけだ。そんな事だろうと思ったよ。


 それを見た弓の魔法使いが頭を抱える。だが、直ぐに気を取り直す。

「まだ安心は出来ません。お気付きとは思いますが、今回の魔法花火大会の成功確率は四十パーセントです。でも、決して不可能な数字ではありません。水鞠家の力を合わせれば、覆せると信じています」


 弓の魔法使いの力強い言葉に頷く七人の従者達。水鞠も自信に満ちた表情で頷いた。


「他に何か質問などはありますか? 」

 弓の魔法使いが進行を進める。


 何も無い様だ。全員、情報の共有が出来たに違いない。


 すると、一人手を挙げる者が現れた。

 鳥の魔法使い、橘辰吉だ。


「私から一点、皆様にお願いしたい事があります」

 そう言って立ち上がる。すぐに静まり返る室内。


「アクシデントが有り、私の魔法自転車のレアパーツを紛失されて困っています。もし屋敷近くで見かけたら──」

「以上で魔法説明会を終了致します」


 ああ……。強引に終わらせちゃったよ。

 弓の魔法使いも非情だな。橘先生も最低だし、壊した俺も悪いけど。

 

「最後にアタシから」


 そう言って水鞠コトリが立ち上がる。

 すると、隣に立っていた弓の魔法使いが移動し、自分の席に着いた。


 水鞠コトリは猫の様な目を閉じ、ゆっくり開くと、その場にいた全員と順番に目を合わせる。


「まずは謝らせて欲しい。皆を待たせた事を。悔しい思いをさせていた事を……」

 

 魔法花火大会は六年ぶりだと言っていた。


 水鞠の祖父が亡くなってから、水鞠家から多くの従者が去り、改変現象の修正が出来なくなっていたのだ。水鞠家の従者達も肩身の狭い思いをしていただろう。


 水鞠コトリは続ける。

「今迄……信じて残ってくれてありがとう。実は諦めていたんだ。一人になった時、私にはもう……無理かもって……」


 領地の改変現象を修正出来なければ、他の一族に取り込まれてしまう。それが魔法使いの宿命だからだ。


 水鞠は大きく息を吸い込む。


「でも今は違う! 私は水鞠家の当主として、命を賭けて戦う事をここに誓うよ。だから……皆の力を貸して欲しい!」

 そう叫ぶと、座っていた魔法使い達が一斉に立ち上がった。そして水鞠家当主に頭を下げる。


「他の一族にはもう、言いたい様に言わせやしない。やりたい様にさせやしない! この花火をもって、水鞠家復活を宣言する! 力と誇りを示せ!」


 従者達の雄叫びが響き渡る。

 

 魔法花火大会まで、あと二日──。


 一族の存亡を賭けたイベントが始まる。

 誘導マシーンをコントロール出来る魔法使いは、地域の実力者のみに限られています。


 この辺の仕組みは気にする事は無く「ああ、そんなものなのね」程度の理解で十分です。後々、分かりやすい方法に変更するかも知れません。


 次回から一気に話が進みます。

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