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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
36/70

第12話 日高誠と侵入者

「魔法ケン玉」を始めて二時間後。全く上手く行かない修行に嫌気が差して来た。


「玉が穴に刺さらん。何故なんだ」

 そう呟き、俺は水鞠に視線を向ける。


 水鞠は自分のノートパソコンと睨めっこをして難しい顔を続けている。俺の修行中、ずっとあの調子だ。


「出来た! 出来たよ!」

 突然叫んだ後、立ち上がる。そして笑顔になった水鞠が、クルクルと不思議な踊りを舞い始めた。


 何だ何だ? 踊りが流行っているのか魔法士業界は……。さっきは鳥の魔法使いの舞を見たばかりだ。


「パンツ見えてるぞ」

「うっさい! 出てけ! 変態野郎!」


 怒った顔でスカートを抑える水鞠。せっかく教えてやったのに納得行かない。ずっと見ていて良かったのかよ。


 そういえば、前にもモロに見ちゃってたな。目の前でジャーマンスープレックスなんてするから。


「で、何が出来たって?」

 頰をハムスターの様に膨らませている水鞠をなだめる様に、優しく声を掛ける。


「これだよ!」

 そう言ってノートパソコンをくるりと回転させた。画面にはよく分からない図面が引かれている。


「家のリフォームでもするのか?」

 いや、本当に分からん。


「設計図だよ! 魔法花火打ち上げマシーンのね!」

 得意げに猫の目をギラギラと輝かせる。

 まるで秘密道具みたいなネーミングだし、魔法なのにマシーンて、絶対おかしいだろ!


 すると、息を潜める様に部屋の隅に居た弓の魔法使いが、スルリと手前へ移動して来た。居たの気付かなかったよ……。


「このマシーンを使って、足りない魔法使いの分を補います。それでも成功確率は四十パーセント。非常に厳しい状況に変わりはありません」


 水鞠家の魔法使い達がフルパワーでも四割の成功確率か……。分かっていたが厳しいな。


「じゃあ、早速部品を発注するよ」

 水鞠は電話を取り出し、通話ボタンを押す。しばらくコールするが、相手に繋がらないらしい。


「……出ないじゃない!」

「俺に言うなよ。ネットで注文出来ないのか?」

 今迄の流れなら余裕だろ。マジかよスゲーな! ってなる所だろ。


「ちょっと特殊な部品だから、正規ルートじゃ時間がかかり過ぎる。ワタヌキ魔法具専門店の力が必要なんだよ」

 そう言って、電話を切る水鞠。相当にイライラしている様だ。時計を何度も見直す。


「時間が無い。アタシは今すぐ家に戻って作成に入る。日高は今からワタヌキ店長を探し出して直接注文書を渡してきて!」


「……いやいや。それはいいんだが、店長がどこら辺にいるか見当は付かないのか?」

 幾ら何でもヒントが無さ過ぎるでしょ。

 加えてあの店長、魔法使いだろ。行動範囲が読めないよ。


「この時間なら、店の近くに居るハズだけど……そうだ! 日高には特別に魔法具を使う許可を与えるよ」


 何だ? それを使えば早く探せるのか?

 頭にハテナマークを生やしていると、弓の魔法使いが注文書を持って側に来た。


「これは水鞠家の印が押されている大事な注文書です。紛失などなさらぬ様、お願い致します。魔法具の使用方法については、岸本紗英に伝えました。校門で合流して下さい」


 注文書って紙なのかよ。メールやファックスじゃダメな訳? まさか、流出したらヤバイ様な物じゃないだろうな。その部品って。


「後、十日しかないよ! 頑張っていくよ! オ──!」

 俺の不安な表情を打ち返す様に、水鞠コトリの檄が飛んだ。



 正午からは雲が空を覆い、日差しを遮った。でも蒸し暑く、汗が滝の様に流れ落ちる。


 あの店長を探し出す事なんて、本当に出来るのか? 相変わらず電話は繋がらないし。


 嫌な予感を抱きながら校門に着くと、制服姿の岸本が既に待っていた。


「あ、ごめん岸本。待たせたか?」

 そうだった。岸本と合流する事になっていたんだ。

「今来た所だよ」

 そう言って、向日葵の様な笑顔になる。


「で、どこにあるんだ? 魔法具ってやつは」

「ちょっと待って。メールを見るから」

 そう言ってアプリを開く岸本。


 あれ……? 俺、弓の魔法使いの連絡先、知らないんですけど……。またハブられてるよ……。まあ。いいか。


「こっちね」

 岸本と移動を開始する。教職員入口の方だ。


 ふと、吉田の言葉を思い出す。岸本と高崎花奈の二人で居る所を見た、と言う話だ。

「そういえば岸本、昨日さ……」

 花火大会に行ったのか? ……と言いかけてやめた。

「何? 日高」

 先に歩いていた岸本が振り向く。

「いや、何でもない……」


 よく考えたら、俺から訊くのも変な話だ。俺や水鞠を誘わずに高崎と行ったのには、何か理由があるのかもしれない。


 単にダブルデートだったら、それはそれで気になるな。友達として。


 そんな俺のモヤモヤとしている表情を見て、岸本が微笑む。

「何か私に訊きたい事あるんじゃない?」

「……いや、別に」

「ふーん。ならいいけど」

 岸本は嬉しそうに答えた。


 そんなやり取りをしながら歩く内に、教職員専用の駐車場にやって来た。車が十台程置けるスペースがある。今日は半分埋まっている状態だ。


「ここみたいね」

 岸本が右上端のスペースに立つ。オレンジ色の斜線がマス目いっぱいに引かれていて、普段は使われない様になっている場所だ。


 身を屈めて車止めを三回ノックする。するとゲームの謎解き音が流れた。


 あ! これ、魔法水着の時と同じだ。何かの封印が解かれたに違いない。


 地響きが鳴り響く。

 駐車場の斜線の入ったアスファルト部分が半分に割れ、両脇に収納されていく。


 大量の煙が地下から吹き出す。

 まるで母艦から出撃する戦闘機の様に、地下から何かがせり上がって来た。


 凄まじいエンジン音。そしてギターとシンセサイザーのBGMが俺の乾いた心を震わせる。


 今の俺ならハッキリと分かる。ここに眠るのはモンスターマシーンだ。


「日高……これって!?」

「ああ……!」


 浮かび上がるシルエット。

 そこから現れたのは、……うん。


 ママチャリだな。


 最低だよ……。

 いや、分かってたよ!? だって俺、免許持って無いし。魔法水着の件があったから、これが過剰演出だって気付いていたよ。せめてロードバイクにしてくれよ。


 いや、ママチャリを否定している訳じゃ無い。乗りやすくて俺も好きだけども。だったら期待させる様な演出は止めてくれよ。面倒臭いし。あとエンジン音はなんだったの!? あ、ああ。BGMの一部だったのか。紛らわしい──!

 

 この魔法ママチャリで店長を探し出すって事か……結局はマンパワーかよ。


 考えていても仕方無い。ママチャリに乗ってみる。うん。普通の自転車だな。


「じゃあ、行きましょう!」

 そう言って岸本が後の荷台に座る。女の子らしい横坐りだ。


「一緒に乗って行くのか? 警察に怒られるぞ?」

 実際は知らんけど、危なくないのかな。


「大丈夫だよ。魔法ママチャリは二人乗り可ってネットに書いてあるよ。ヘルメットも要らないって」

「そうなの!?」

「私が付いて行きたいのよ。日高に。ダメかな?」


 そういえば、岸本はずっと俺と一緒に行動している。もしかして何か意味があるのだろうか。


「分かった。しっかり捕まっててくれ……よ」

 言い切る前に両手を俺の腰に腕を回して身体を密着させて来た。


 柔らかい感触が背中に伝わる。

 いつもは散漫な俺の全神経が背中に集中し、研ぎ澄まされる。時間よ、止まれ……!

 

「日高……! 何かいやらしい事考えてない?」

 どうやら考えていた事が筒抜けだったらしい。反省反省。


「……でも、今だけは許してあげる」

「え? 」

 予想外の返答に動揺した。まあ、この状況だと密着するしか無いからな。


 ペダルに力を入れると、自転車はエンジンが掛かった様に振動し始めた。いや、実際そうなんだろう。


 何の変哲も無いママチャリな訳が無い。きっと魔法テクノロジー的な何かで作られているんだ。


 魔法自転車は、電動アシストの様に軽く進む。


 軽い。軽すぎる。軽すぎて……。


「速い──────!!?」


 まるで坂道を全力で走り抜ける様なスピードだ。でも不思議と視界はハッキリしていて、道を選択する事や障害物を避けるのは全く問題無い。

 

「岸本──! 大丈夫か──!?」

「うん!」


 これが魔法ママチャリか……! これなら直ぐに移動出来るぞ。


 味わった事の無いスリルに、思わず笑ってしまった。それは岸本も同じだったらしく、笑い声が聞こえる。


 可愛い女の子と自転車を二人乗りするなんてシチュエーションは、昔から憧れていたけど、妙な形で願いが叶ってしまった。



 魔法サイクリングは一瞬で終わり、ワタヌキ魔法具専門店に到着した。


 田畑に囲まれた店舗は、シャッターが閉まっていて、閉店状態だ。


 自転車から降りると、急に足に力が入らなくなり、座り込む。


「えっ!? 日高、大丈夫?」

「大丈夫だ。心配要らない」

 どうやら魔力を大量消費していたみたいだな。まあ、そんな事だとは思ってたけど。


 さて、これからどうするか。

 とりあえずスマホを手に取り、電話をかけてみる。やはり繋がらない。


 すると岸本が俺の制服のシャツを引っ張って来た。何だ?


「日高、誰か居るよ?」

 岸本の視線の先、店とは反対の草むらに人影が見える。


 店長? いや、違うな。

 虫捕り網が顔を出している。どうやら昆虫採集をしている様だ。


 狙っていた獲物に逃げられると、悔しそうに茂みから現れた。


 俺達の存在に気付くと、かなり慌てた様子を見せる。

「怪しい者じゃありません! 本当です!」


 手をワタワタと動かし、焦りを隠せていない。

「いやぁ。昆虫の研究をしている者なのですが、なかなか獲るのが難しくて……」

 声は若い男の様だ。身長は低い。


「そうなんですか? 私、獲るの得意なんですよ。セミはこうやって……」

 岸本がジェスチャーでコツを説明し出した。


 違うだろ。そうじゃない。

 相手の格好を見れば分かるだろ。


 まず、手には虫捕り網を持っている。そして深いフードの付いた赤茶色の服。不気味な模様の仮面姿だ。


 魔法使いだよ! そんな恥ずかしい格好の昆虫研究家なんて居ないでしょ!


 すると、冷静になった仮面の男の態度が一変する。

「何だよ……。雑魚じゃねぇか……驚かせやがって。まあ、お前達が水鞠の魔法士だったとしても、負ける気はしねぇけどなぁ」


 だったら何で最初にあんなに焦っていたんだよ。相手が自分より弱いと分かると強気になるタイプらしい。


 実際、俺達では勝てる気がしない。どうにか切り抜けないと……。


 俺の焦りとは反対に、余裕のある仮面の男は、岸本を下から上からジロジロと眺める。

「君、いいね。凄く可愛いね。僕とお友達にならないかい? そんな不細工で眠そうな目の男よりも、イケメンの僕と付き合いなよ」

「結構です」


 岸本は怒った様な強い口調で即答する。そしてすぐに笑顔を作る。

「私、昔から勘違いしたイケメンって苦手なの。御免なさい」

「な……!?」


 容赦無いな! でも、それは本当かも知れない。だから新澤晴人も岸本を手に入れる為に、異質な力に頼ったのだ。最終的には未来改変者にまでなってしまった。


 ていうかこの男、仮面してるからイケメンか分からないじゃねーか。こいつもかなり変な奴だな。


「強い者からの誘いには黙って従うべきだ。魔法使いのルールを教えてやるよ。出ろ『削岩棍(さくがんこん)』」


 魔力を込めた右腕を振り払うと、長い棒状の立体魔法陣が出現する。


 こんな所で戦闘かよ。しかも相手は魔法使いとか……どうすりゃいいんだよ。


 分かっている。やるしか無い。


 立体魔法陣を展開する為に、右手に魔力を込める。

 とりあえず「水盾甲蟹(すいじゅんこうかい)」を呼び出してみよう。何かの役には立つかも知れない。


 一瞬だけ掌に光が灯る。だがすぐに消滅してしまった。


「失敗だ……!」

 こんな緊張した状態じゃ、今の俺には魔法が完成出来ない。自分の非力さに腹が立つ。


 仮面の男が持つ立体魔法陣が怪しく光り出す。地面が振動し、砂埃が舞う。

「落ちぶれた水鞠家からは離れるべきだ。俺が分からせてやるよ」

 

 攻撃が来るぞ。避けれるのか!?



「誰だ? 人の店の前で暴れている奴はよぉ」

 突然、三人の前に男が現れた。

 黒のポロシャツにジーパン。ボロボロの赤いスニーカーを履いている。


 黒縁眼鏡を押し上げ、汗ばんだ禿げ頭にタオルを乗せた。


「誰だ……!?」

 その姿を見た仮面の男は驚きを隠せない。

「お前は……!? いや、貴方は……まさか『結晶使い』雷旋(らいせん)のワタヌキ……!?」


「ほう……?」

 その言葉を聞いた店長は、嬉しそうに微笑んだ。

弱そうなモブが実は強い展開は好きです。やり過ぎない様にサクッと終わらせます。


魔法ママチャリは重要アイテムです。

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