表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
35/70

第11話 日高誠と止まらないピアノ

 魔法カブトガニ捕獲の後も魔法生物を求め、図鑑片手に探し回った。


 だが、そんな上手く事が運ぶ訳も無く、それから成果は上がっていない。


 岸本は修行と言いつつ、俺の手伝いをしているだけだ。結果の出ない毎日に、正直焦って来ている。


 水鞠家の花火大会決行まであと十日──。



「日高!」

 週明けの朝。学校に着くと校門で名前を呼ばれた。

 

 現れたのは吉田玲二だ。

 メインヒロイン級の眩しい笑顔で駆け寄って来た。


「いやぁ。何だか会うのは久しぶりだよな」

 汗で濡れたスポーツ刈りの頭をタオルで拭き取りつつ、自前の鋭い目を向けて来る。


「そうか……そう言えばそうだったな」

 今の俺は部活がある日は科学室に居て、終わった後は水鞠家に直行の繰り返しだった。


 でも吉田とはメッセージのやり取りや電話はしていたので、そんな感覚はお互いに無い。


 どうでもいい話が続いた後、吉田が何かを思い出した顔になる。

「そういや昨日、岸本と高崎を見たって話を聞いたぞ?」

「そりゃ学校に居れば会う事もあるだろ」


「昨日は日曜だろが。更谷で花火大会があっただろ? 二人で居た所をテニス部の奴が見たらしい」

「岸本が?」


 魔法花火大会の準備が忙しい今、岸本が遊びに行くのは意外だった。


 冷静な俺のリアクションが予想を裏切っていたらしく、吉田が声を上げる。

「もっと驚けよ! 我が校の五大美女の内の二人が揃っていたんだぞ!? 事件だろ」

「事件……て。普通だろ。岸本と高崎は元々は同じ中学に通っていた訳だから」


 この前の花火大会の時も仲が良さそうだったし、二人で遊びに行くのは自然な流れだ。


 吉田は「分かってないなお前は」と言った顔になり、俺の胸に人差し指を突き刺して来た。

「女子二人だけっていうのも変だろ。ダブルデートかも知れないだろ? テニス部の連中が跡を付けてみたが、ソッコーで見失ったってよ。男が近くに居たかは不明らしい」


「そういうの止めさせとけよ。ストーカー事件が終わったばかりだろ。シャレにならないぞ」

 また吉田が影を生み出し兼ねない。ダブルデート云々よりも、そっちの方が問題だったりする。


 ん? そういえば……。


「花火大会って土曜じゃなかったか?」

「あー。何かの不具合があって中止になりそうだったけど、結局一日遅れでやったんだよ」


 確か花火大会は中止にならないと岸本は言っていた。その通りになったのか。


 昨日の夜……俺は何をしていたっけ?

 ああ、そうだ。朝から筋トレや修行で疲れていて居間のソファで寝ていたな。


 確か、可愛い妹に無理矢理起こされて風呂に入ったまでは覚えている。その後の記憶が無い。


 ……疲れ過ぎでしょ。


 俺が魔法使いになって、吉田には話せない事が増えてしまった。正直辛い。


 でも仕方が無い。俺に出来るのは、吉田を魔法案件に巻き込まない様にする事だけだ。



 取っておきのネタがイマイチ盛り上がらず、不満げな様子だった吉田とは別れ、いつもの様に科学室へ移動する。


 科学準備室の扉を開くと、魔力を帯びたヒンヤリとした空気が身体を包み込む。この瞬間が気持ちが良い。


 古びた小さな机の上には、水鞠のノートパソコンとアイスコーヒーがいつもの様に置かれている。水鞠の姿は無い。


 パソコンが起動中だし、魔法扇風機も付いたままだ。何か用事があって席を外してるのだろう。


 席に座ろうと椅子を引く。

「音楽……?」


 ピアノの音が聞こえる。

 今迄に聴いた事の無い、難解な曲だ。音楽室から科学準備室まで音が聞こえる事は無い。普通なら音が届かない。


 行ってみるか。

 部室を出て音楽室へ向かう。前にもこんな事があった。いつだっけ? いや、そんな事はどうでもいい。ただ、今の俺にはハッキリと分かる。


 これは魔力を帯びた旋律だ。


 ひとりでに鳴るピアノと言ったら怪談の定番だ。でも、こんな早起きする幽霊なんて聞いた事が無い。


 影か? もしかしたら水鞠が戦っているかもしれない。

 

 長い通路を抜け、音楽室の前に来た。

 確かにこの教室からピアノが聞こえる。


 深呼吸をした後、覚悟を決めてドアを開いた。同時に演奏の音がピタリと鳴り止む。

 

「あれ? 何か用かな」

 ピアノの演奏者は、突然の来客に驚いた表情に変わった。


 小さめの縁無し眼鏡、無造作でボサボサの髪に無精髭。ヨレた大きめな白いシャツに黒い細身のスラックスを身に着けている。


 身長は百八十センチはあるだろう。痩せ型で猫背だ。


 俺はこの人を知っている。橘龍吉。数週間前に新しく赴任して来た音楽教師だ。授業を受けた事は無いが、この教師のフルネームだけは覚えていた。


 かなりのイケメンで、女子からの人気が高く、よく「タチタツ」と呼ばれているのを耳にしていた。


「今日、吹奏楽部は休みでね。でもこうしてピアノを弾きに来ちゃうんだよ。もう病気だよね僕。はははは」

 頭を掻き毟ると、人懐っこい笑顔を浮かべて状況を説明する。いかにもお喋り好きな感じだ。


 音楽室には他に誰も居ない。

 影の気配も無い。魔法の気配はこの場所じゃ無かったオチか?


「お邪魔してすみませんでした。失礼します」

 ここには用は無い。早々に立ち去ろう。

 扉に手を掛け、力を入れる。……って、あれ? 開かないぞ?


 何でだ!? 外から鍵を掛けられた? いや、違う……!


 全力で力を入れてもビクともしない。一ミリも動かない。異様な気配を察知し、振り返る。


「どうしたんだい? ドア、開かなくなっちゃった?」

 ピアノの椅子に座ったままの橘龍吉の口元は変わらずニコニコと笑っている。だが眼鏡が光で反射して、目元が確認出来ない。


 ゆっくりと眼鏡を指で押し上げると、鋭い眼光が覗く。

「じゃあ、もう少し話して行くかい? ……日高誠君」


 低く、艶やかな声に変わった。この声は……!

 その答えに辿り着くと同時に、橘龍吉の姿が変化した。


 不気味な模様の仮面を被り、紺色の魔法着を身に纏っている。


「──鳥の魔法使い……!」

 突然の出来事に、一瞬思考が止まった。間違い無い。


 橘龍吉は鳥の魔法使いだ。


 水鞠家の従者の一人、鳥の魔法使いは眼鏡で音楽教師でイケメンか。

 良かったよ。キャラがマトモだ。これ以上の変人大集合は本当に勘弁だからな。


 鳥の魔法使いは立ち上がり、ピアノを離れると、一歩、二歩と歩み寄って来る。


 ちょっと待て。じゃあ、何で俺が閉じ込められているんだよ……。この状況は何なんだ?


 鳥の魔法使いは、俺達の魔法陣作成の妨害をしていた。でもそれは魔法士協会に雇われていたからだ。今は敵では無い……はず。


 俺は視線を相手に向けたまま、もう一度扉に力を入れる。ダメだ。やはり開かない。


 俺の様子を見て、鳥の魔法使いが一礼する。

「安心して下さい。これは貴方を護る為の結界です」

「……護る? まさか影が居るんですか?」

 だとしたら嫌な予感が的中した事になる。


「色々と事情がありまして。貴方は今出現している『影』を見る事は出来ません。消滅させるまで少々お待ち下さい」

 

「影を見る事が出来ない……?」

 そんな事も起きるのか。でも何でだ?


「まさか、ここまで追いかけて来るとは驚きました」

 鳥の魔法使いは踊る様にステップを踏むと、美しいスピンをしながらピアノの椅子に座る。そのままジャズの様な曲を弾き始めた。


「問題ありません。このままこの場所で待っていれば、すぐに影は消滅します」


 速過ぎて鍵盤を弾く指が見えない。

 音楽に詳しくなくても理解できる凄まじいテクニックだ。思わず見惚れてしまった。


「忘れないで下さい。貴方の急速な変化は周りの人間に影響を与えます。改変者に関わった岸本紗英が、魔法使いになってしまった様に」


 影響を与える……?

 これ以上何か起きるって言うのか? 思い付くのは吉田の事くらいだ。


 覚悟は出来ている。その為に修行をする事に決めたんだ。


「いい表情です。……心配は無いようですね」

 曲調がいきなり変化し、トーンダウンする。そのまま演奏が終了した。


 鳥の魔法使いは天井を静かに見上げ、自身に陶酔する様にプルプルと震える。

「魔法使いは、より己が進化出来る場所を求めるもの。私もその理由で、水鞠家の従者に志願致しました。貴方も選んだ道を信じて進んで下さい」


 よく分からないが、そう言うものらしい。


 キザで思わせ振りなセリフ回しに、ミュージカルの主役を演じているかの様な振る舞い。


 鳥の魔法使いも、やっぱり変なキャラだった。普通の人は居ないのか? 魔法使いって奴は……。


 突然、俺のスマホの着信音が鳴る。

 誰かから連絡が来た様だ。

 反射的に視線をスマホが入っているズボンのポケットに向けるが、すぐにピアノへ戻す。

 

 居ない……!?

 視線を逸らした瞬間に、鳥の魔法使いの姿が消えていた。既に魔法の結界も解かれている。演出がイチイチ面倒臭いな。


 スマホを確認すると、着信は水鞠からだった。掛け直すよりも直接部室に戻った方が早いだろう。

 


 俺は音楽室を出て、科学室へ向かった。

 科学準備室の扉を開くと、水鞠コトリが仁王立ちで待ち構えていた。


「遅いじゃない! どこにいたの?」

 キンキンの声が、右耳から左耳に貫通して行く。部活開始の時間からは大分過ぎてしまっている。


「音楽室に行っていたんだよ」

「何で?」


 何でって……!? 水鞠が影の相手をしていたんじゃないのか?


「ちょっと待って」

 俺の反応を見た水鞠が何かに気付いた様だ。慌てて自分のスマホを確認する。


「……影が出たんだね。今回は上手く消せたけど、まだ終わりじゃないかも」

 猫の様な目を細くしてから画面を閉じる。何か報告が入っていたらしい。


「大丈夫なのか? 影……最近また増えてないか?」

「日高は気にしなくて大丈夫。今は修行に集中だよ」


 テーブルに置かれていたのは「魔法ケン玉」だ。今日はこれを使っての修行らしい。相変わらず雑なトレーニングで安心する。

「了解」


 何か違和感を感じたが、気にしても仕方が無い。


 今は俺の出来る事をするだけだ。

 書き直す内に、鳥の魔法使いの変態度が大幅ダウンしてしまいました。修正するかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ