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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
34/70

第10話 日高誠と二体目の魔法生物

「この変態野郎!」


 裏庭から暖炉のあった部屋に戻ると、そこに居た水鞠にいきなり罵られた。いくら何でも酷過ぎる。


「水鞠。言っておくが、自分の意思でこの小学生のコスプレをしている訳じゃ無いからな」


「そんなの知るか──! 脱げっ早く脱げっ! これアタシのだよ! 」

 どうやら俺が今着ているのは、水鞠のシャツだったらしい。

 無理矢理引っ張られ、半脱ぎにされる。

 

 するとそこに弓の魔法使いが通りかかり、足を止めた。仮面と魔法着を身に着けている、いつもの格好だ。


 謎のストリップショーを目にすると、水鞠を宥める。

「コトリ様。ご安心下さい。それは限定デザインシャツではございません。サイズが大きかったと聞いていましたので処分しました。ジャストサイズを再注文済みです」


 今着ている服をよく見たら水鞠の好きな「白ねこムヒョー」のキャラがプリントされていた。イラストが超拡大されて斜めに配置されていたから気付かなかったよ。


 水鞠は少し考えた後、猫の様な目を半目にしながら口を尖らす。

「じゃあ、いいか……。仕方無いから特別に日高にあげる。感謝しなさいよね!」

 何でそんなに恩着せがましいの!? まるで俺が欲しがってるみたいじゃねーか!


 ……ていうか、弓の人も俺にあげる事を処分て言うの酷くない?


 もう一人仮面の魔法使いが側にいた。同じく魔法着を身に着けている真壁先輩だ。

「日高……殺す!」


 怒りの余りプルプルと体を震わせている。  

 何で!? あ、ああ。俺が水鞠からシャツを貰った事が許せないのか。面倒臭いな!


 まだ納得していないらしく、弓の魔法使いに詰め寄る真壁先輩。

「コトリ様のシャツだとは聞いていませんでしたが?」

 超どうでもいい事で喰ってかかってる! カッコ悪ッ!


 どうやらシャツを用意して先輩に渡したのは弓の人らしい。もう、この話は終わりにしてくれよ……。


 弓の魔法使いは真壁先輩を牽制する。

「別にそこまで貴方に伝える義務は有りません。控えなさい」

「チクショ──!」

 叫びながら部屋を飛び出す壁の魔法使い。恐らくガチ泣きしてるな。あれ。


 そんなやり取りを見た岸本が納得している。

「なんだか弓の魔法使いの方が立場的に上みたいね。真壁先輩……何だか可哀想……」    

 なるほど。確かにそうかもしれない。

 一瞬、俺も岸本と同じ気持ちになる。でもすぐにどうでも良くなった。だって変態なのが悪いし。


 とりあえず仮面コントはまだまだ続くらしい。中身が分かっていると、また違った側面が見えて来るな。


 そういえば正体を明かしたはずの真壁先輩は水鞠の前だと仮面を被っていた。ルールが良く分からないな。

 

「お騒がせしました。私もこれで失礼致します」

 一礼して部屋を去る弓の魔法使い。入れ替わる様にダンディな声の老執事がワゴンを引いて登場した。


「お食事でございます」

 食卓に並べられた皿の上にチキンバーガーが置かれる。パンから全て手作りの本格的な物らしい。


 一口食べると新鮮なチキンの肉汁が口いっぱいに広がり、バジルの香りが鼻を通り抜けて行く。美味すぎて笑いが止まらない。



 午後になると水鞠は花火の準備に戻り、俺と岸本の二人は魔法シロップを塗った場所へと向かう。


 真壁先輩は別の作業があるらしく、姿を現さなかった。


「大丈夫。さっき大体のやり方は聞いておいたから。とにかく慎重になる事が大事らしいよ。慌てないでね」

 岸本は笑顔になると、また網をブンブンと振り回す。


 あの……あまり本気を出さないでくれる? また俺が酷い目に遭うパターンだけは勘弁だよ……。


 

「日高! 何かいる!」

 裏庭に着くと、先頭にいた岸本が叫ぶ。

 罠を仕掛けた樹木で何かが蠢いている。


 カブトだ。一メートルはある巨大なカブト。小さな棘が幾つも張り出していて、下向きに剣のような角が付いている。


 いや、待てよ……? あれ、カブト虫じゃ無いぞ!?


「日高! あれってもしかして……!?」

 岸本も気付いた様だ。

 うん。そうだな。あれはどう見ても虫じゃ無い。


「カブトガニだな」


 何故か木に水性生物のカブトガニが張り付いている。シュールを通り越して気持ち悪い。


 一応確認しておこう。真壁先輩に渡された図鑑を開く。


 「水盾甲蟹」スイジュンコウカイ


 カブトガニの姿をしている、硬い殻を持つ魔法生物。水の魔法力を中和する特性があるが、その能力は低い。主に水の中や森林に生息し、津波や土砂災害の被害を軽減させる。


 余り役には立たなそうだが、修行にはもってこいだな。これならゲットは簡単そうだ。


「日高! 早く攻撃を!」

「攻撃!?」

 ああ、そうだった。魔法生物は、ある程度ダメージを与えないと契約出来ないんだったな。


 って言っても虫捕り網しかないぞ!?

 いや、もしかしてこれで攻撃したらダメージあるのかもしれない。どうせ魔法虫捕り網に決まっている。よし、行くか!


「どりゃ──!」

 至近距離から魔法虫捕り網を振り下ろす。

 岸本が。

 ちょっと! おかしくない!? 何でいい所全部持って行っちゃうの!?


 だが、硬い殻に弾かれた虫捕り網の方が折れてしまう。カブトガニにダメージは無い様だ。


 俺は図鑑の後半のページを開き、捕まえ方を確認する。味のある絵柄で描かれた小学生がカブトガニを力任せにひっくり返している。どうやら裏側が弱点らしい。


「なるほど。まずは木から引っぺがさないとダメだな」

 よし、行くか!


 視線を向けると、既に岸本が木に足を掛け、両腕でカブトガニを掴みかかっていた。

「何で!?」

 慌てて手伝う俺。怪我したらどうするんだよ!? 慎重さの欠片も無いよ!


 高校生二人が全力を出してもピクリともしない。図鑑の絵だと仁王立ちな上に笑顔でひっくり返してるのに。あ、でもよく見たらイメージ図って書いてある。イメージが雑過ぎでしょ!? こうなったら……。


「岸本! 離れてくれ。魔法を使う!」

「日高?」


 右手に魔力を集中させる。イメージは出来ている。


『出ろ。引き寄せる腕』

 眩しい光と共に球体の立体魔法陣が出現する。

 ガラスの様に透き通ったそれは、メキメキと音を立てて変形する。


 それは「大きな腕」に姿を変えた。

 名前はダサいが仕方無い。要はイメージし易ければ何でもいい。


 水鞠の力を借りていない今の俺は巨大な腕を精製出来ない。掌は自分の三倍程しか無い。

 新澤晴人を一握りにした時の大きさには程遠いが、これで十分だ。


 右腕から放たれた立体魔法陣の腕がカブトガニの全身を掴む。そして強力な力で引き込むと、バリバリと音を立てて木の表面ごと毟り取る。


 腕をコントロールし、引き寄せながら仰向きになる様に地面へ叩きつけた。


 腕は魔法が完成した直後にガラスの様に砕け散る。


 裏返ったはいいがダメージになっていない。これではすぐに体勢が戻ってしまう。


 それを察したのか、岸本が指先からカード型の立体魔法陣を出現させる。

 何か当たり前の様になったけど、岸本が魔法を使う姿にはまだ違和感がある。


「どりゃ────!!」

 叫び声を上げ、離れた場所から凄まじいスピードで投げつける。それはカブトガニの裏側に豪快に突き刺ささった。


 何それ!? スゲェ!

 カードが対象に触れないと発動出来ない弱点をブン投げて補っているのか。凄い力技だ。


 カードはすぐに砕け散り、魔法が発動する。

 だが、ほとんど変化が見られない。そう言えば岸本は魔力が弱いって言っていたっけ。


 カブトガニの裏側には無数の腕が生えていて気持ち悪い。図鑑によると蟹よりも蜘蛛に近い生き物らしい。


「何で!? 気絶してない!」

 岸本は納得の行かない様子を見せると、早歩きでカブトガニに近付きながら立体魔法陣を連投する。


 次々と刺さっては砕け散るカード。

 何かもうヤケになってない!? どうやら相手の意識を奪う魔法だったらしい。


 大量のカードが炸裂した所でカブトガニの動きが止まった。


 岸本は弾ける笑顔でガッツポーズを取る。

「やっと魔法が効いてくれた。日高! 今の内に契約を!」


 いやいや、たぶん動かなくなったのって、カードが炸裂した時のダメージのせいだと思うよ!? 魔法の効果、全く関係無いよ! どんだけパワータイプなの!?


 とにかく契約の準備に入ろう。

 立体魔法陣を展開し、動かなくなったカブトガニを包み込む。


『俺と契約してくれ。水盾甲蟹(すいじゅんこうかい)


 立体魔法陣が光を放ち、上から徐々に消滅して行く。溶け込む様に魔法生物も姿を消した。



 どうにか契約は成功した。これで二匹目ゲットだぜ! あまり役には立ちそうにないが、確かにいい経験になったぞ。


 一度屋敷に戻って真壁先輩に報告しておこう。

 捕獲時に荒らしてしまった庭を出来るだけ元に戻し、引き上げる準備を始める。


 その時、短い着信音が鳴った。


 岸本がケータイを取り出し、何かを確認する。メールでも届いたのか?

 険しい表情になると、視線をケータイに向けたまま呟く。


「花火大会が中止になりそう……」

「中止!?」

 何か問題があったのか!? まさか誰かの妨害……!?


「……あ! ごめんね。私達のは大丈夫。明日の更谷で開催する花火大会の事」

 

 更谷市は少し離れた場所にある。わざわざ乗り継いで行かなくてはならないので、俺は一度も行った事が無い。何で今その話が出るんだ?


「誰かと約束でもあったのか?」

 友達か……まさか男なんて事、無いよな。


「安心して。そんな事は無いから」


 一瞬、岸本が何に対してそう答えたのか分からなかった。心の中を覗かれている気分になる。


「きっと花火大会は開催されるよ。明日が無理でも、きっと明後日には間に合うと思うから」

 何だ? 予知能力か何かか?

 今の俺は怪訝な表情になっているに違いない。


 それを見た岸本は少しだけ微笑むと、先に歩き出し、そっと振り返る。


「日高……絶対に成功させようね。花火大会」

 

 意思の強い目をしていたあの頃の岸本紗英を思い出す。今はそれが心強い。


 言われなくても分かっている。

 これは水鞠コトリにとって……水鞠家にとって、未来を左右する大事なイベントだという事を。


「成功させよう。絶対に」

真壁スズカにとって高崎花奈は学校の後輩ですが、仕事上は上司になります。

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