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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
32/70

第8話 日高誠と水鞠家の屋敷

「お待たせ」

 翌日の朝。家の門扉の前で待っていると、岸本紗英が時間通りに現れた。


 彼女は白カットソーに足首が見える緑のパンツを着こなしている。

 俺はチェック柄の白いシャツにカーキ色のショートパンツ姿。二人共白のスニーカーだ。


 昨晩来たメールによると、「ラフな格好でお越し下さい」とあったが、水鞠家の格式とかが分からんから、これが正解かは謎だ。


 企業の面接にジーパンで行ってしまった様な雰囲気にならなきゃいいけど……。


 その時はその時で開き直るしかない。これが俺のやり方だと、胸を張っていればいい。まあ、面接だったら確実に落ちるだろうけど。



 時折風が熱を運び、身体に叩きつけて来る。今日も死ぬ程暑い。日本の夏、いつからこんな事になったんだっけ。


 そんな事をぼんやり考えていると、黒塗りの高級車が路地に入って来た。目の前で停車した後、ドアがバクンと開く。


 中には水鞠コトリが座っていた。

 白いワンピースにサンダルのお嬢様風フッションだ。花火の時とはまた違ったイメージだ。


 誰かに指示されるまでも無く、岸本は水鞠の隣に。俺は助手席に座る。

 運転手は黒い制服に帽子を被った、人の良さそうな老人で、ニコニコと笑っている。


 慣れていない高級車に揺られつつ、道をゆっくりと進む。

 学校のある方角へと向かっている様だ。電車の窓からいつも見ている風景が目に入り、不思議な感覚になる。


 緊張からなのか車内はしばらく無言が続いていた。


「まずい事になりました」

 沈黙を破ったのは運転手だ。気の利いたアメリカンジョークが飛び出す雰囲気では無さそうだ。


 何か問題が起きたらしい。運転手は有名ステルスゲームの主役の様なダンディな声だ。緊張感が二割増しになる。


 まさか刑事ドラマみたいに、尾行されてるとかじゃないだろうな。


「この付近で影が発生しています。現在、『弓』が対応中です」

 片耳を抑えながら報告する。運転手はイヤホン型の通信機から情報を得ているらしい。


 やっぱり影関係か……。弓の人も大変だな……。


「影響範囲が広そうだね。緊急離脱を許可します」

 水鞠が珍しく真面目な表情を見せる。こんなやり取りを見ると、水鞠コトリは魔法使い一族の当主なんだな、なんて思う。


「了解しました」

 水鞠の指示に答えると、運転手は不気味な模様が刻まれた仮面を装着する。

 何となくそんな気がしていたけど、この人も魔法使いだったらしい。


 っていうか、それでちゃんと運転出来るの!? 危なくない? 視界大丈夫!?


「しっかり掴まって下さい」

 運転手が勢い良くアクセルを踏むと車が轟音を上げ、加速する。いきなりトップスピードだ。


 駅から離れたとはいえ、まだ市街地だ。他にも車が走っているし、人だって歩いている。凄まじいテクニックでそれをギリギリで避けて行く。ブレーキは皆無だ。


 信号は全て黄色で点滅している。誰もこの車の事は見えていない。まあ、そんな事だと思ったよ。


 これは魔法自動車だ。スマホの魔法アプリを開いた時に広告が出て来る時があったが、まさか乗れるとは思わなかった。


 ドリフトする度に強烈なGが襲う。

 体が左右上下に振られる度に「ひゃ〜」とか「うっわ」とか情けない悲鳴を上げてしまう俺。

 ジェットコースターとか苦手なんだよ。このフワッとしてくすぐったくなる時が最悪だ。っていうか、魔法でどうにか出来ないの?


 それに対して後部座席の水鞠と岸本は一言も発していない。いや、幾ら何でも静か過ぎる。もしかして気を失ってたりしないか!?


 心配になって無理矢理に体を捻って後を確認する。


 水鞠は慣れているせいか平然としている。岸本は……?


 ムムッ!? カード型の立体魔法陣を二つ展開して、カードマンの様に両目に貼り付けていた。シュール過ぎでしょ……。


 それがどの様な作用を及ぼしているかは分からないが、取り乱す事は無く静かに座っている。岸本の魔法も結構謎だ。


 車は学校を越えて西の森の中で停車した。

 体感した時間は長かったが、時間にして五分だった。


「到着致しました。少々荒い運転になり、申し訳ありませんでした」

 そう言うと、被っていた帽子を取り、ダッシュボードの上に置く。


「ま、まあ……影の影響から逃れる為には仕方なかった事ですし」

 俺の言葉を聞くと溜息をつき、仮面を外す運転手。

「いや。視界が狭かっただけです」


 うん。それな。だったら仮面取ってくれよ……。そもそも何で着けちゃったのよ。いや、格好良かったけども。この人もやっぱり頭おかしいキャラしてるよ……。


 水鞠はドアに肘を乗せて頬杖をついたまま動かない。

「水鞠……?」

 俺が声をかけると、ビクっとなって手の甲でヨダレを拭いた。

「あ……? 着いた?」

 まさか目を開けたまま気を失ってた訳じゃないよな。


 岸本は車を降り、カードマン状態を解除して辺りを見渡している。

「何も無いね」


 この場所は学校からも見えていた。背の高い木々が生い茂っている場所だ。まさかこんな所に住んでいたとは驚きだ。


 水鞠が森を進む。後を付いていくと、景色が一瞬で変化した。


 目の前には古びた洋館が現れる。巨大な門には魔法使いが身に付けている仮面の模様に近いものが描かれていた。


 いかにも魔法使いが住んでいそうな雰囲気だ。まるで外国の貴族の家みたいなサイズじゃないか。これはテンションが上がるぞ。


 高層マンションとか民宿とか、寺やら神社みたいな変化球で来ると思ったから特にだ。


 門を潜り、家の扉の前に来ると静かに扉が開く。まるで自動ドアの様にスムーズだ。


「お帰りなさいませ」


 執事なのだろうか。黒服を着た白髪の老人が出迎える。有名ステルスゲームの主役の様なダンディーな声だ。執事なんて初めて見た。スゲェな水鞠家。


 中へ案内され、長い廊下を進む。壁には絵画や肖像画が飾られている。ありがちな光景が逆に不安になって来た。今迄がおかしな事ばかりだっただけに。


 案内されたのは広いダイニングルームだ。

 壁や柱には装飾が施されている。部屋の奥のには暖炉があり、その上には紋章の様な物が描かれている。


「好きな所に座って」

 水鞠は中央にある長いテーブルの奥に移動すると、椅子に腰を掛ける。岸本と俺はその正面に座った。


「失礼します」

 扉が開き、ワゴンを引いた召使いが現れた。お茶とお菓子を持って来てくれた様だ。


 可愛いフリルの付いたエプロンを着た白髪の老人だ。有名ステルスゲームの主役の様なダンディーな声をしている。


 ──って、さっきから全員同じ人だよ! ずっとダンディな声な人だよ!


 前に流行った三つ子か五つ子か? それともレトロゲームの様に同じドット絵を使い回してるだけとかじゃ無いよな。


 この家に入ってから違和感があった。この家の大きさの割に人の気配が無い。普通は召使いが大勢居るものじゃないのか?


 花火大会の時、水鞠が言っていた「人が集められない」事と何か関係があるのだろうか。


 高価そうなお茶と羊羹に似たお菓子が皆に行き届くと、一斉にモリモリと食べ出す。

 何だこれ!? 美味い。美味過ぎる。

 何かが語りかけて来る勢いだ。


「日高、聞いてる?」

 水鞠の声で我に返った。どうやら説明が始まっていたらしい。気が遠くなっちゃってたよ。


「花火大会は十五日後。十九時に決行する。それまでに準備が必要だから、二人には手伝って欲しいんだよ」


 早過ぎるでしょ! 今から準備して出来ちゃうの花火大会!? 許可とかどうなってるんだよ……。いや、そんなものは必要無い。魔法使いだし。


「俺達は具体的には何をすればいいんだ?」

 俺と岸本は魔法使いになったばかりだ。力になれる気がしない。


「まだ分からない」

「どういう事!?」

「大量の魔法花火を打ち上げる為に必要な魔法使いが足りていない。今、方法を模索している所」


 それを聞いた岸本が、表情を曇らせる。

「失敗したらどうなるの?」


 水鞠はお茶を口に含み、ゆっくりと視線を落とす。

「他の一族が作業を引き継ぐ事になるだけだから大丈夫。二人の事はアタシや三人の従者が守るから心配しないで」

 水鞠は力無く微笑む。その姿に心が騒ついた。


 水鞠は嘘をついている。


 そんな簡単に済むとは思えない。水鞠家の立場はどうなるんだ?


 「鳥の魔法使い」は言っていた。

 新澤晴人の未来改変を防げず、魔法士協会の力を借りた場合、俺は水鞠コトリと会えなくなる、と。


 魔法花火での改変現象の修正に失敗すれば、それなりのペナルティがあるはずだ。


 でも、そんな事を考えても意味は無い。俺の答えは決まっている。


「俺に出来る事があれば何でも言ってくれ。力になりたい」

「私も……!」

 岸本も同じ考えだ。


「……ありがとう」

 水鞠はいつもの笑顔になる。いきなり明るくなったけど無理している様にも見える。


「ここから二週間、アタシは準備に入る。化学室と自宅を行き来するから。悪いけど二人は、これからこの場所に来る魔法使いの指示に従って」

 そう言って水鞠が席を立つ。


 まさかその魔法使い、有名ステルスゲームの声に似てる人じゃないだろうな。


 水鞠は机から離れようと踏み出すが、何かを思い出したかの様に振り返る。

「あ、そうそう。岸本さんはテニス部にも参加してね。魔法使いはメンタルと身体のバランスが大事だから。環境を無理に変えると、魔法イメージの崩壊に繋がるよ」


「う、うん。分かっ……」

 岸本が答え終わる前に水鞠がダイニングルームから消える。やはり時間に追われているらしい。


 水鞠と入れ替わる様にして、一人の人物が現れた。さっき水鞠が話していた魔法使いの様だ。


 その意外な姿に驚いた。


 同じ高校の制服だが、胸元のはだけたシャツに短いスカートのスタイルだ。

 勿論、ダンディな声の老人では無い。


 金髪ツインテールで碧眼。同じ高校の一年先輩。


 水鞠家の従者の一人。「壁」のコードネームを持つ魔法使い。……の中の人。


「チョリーッス! あーし、真壁スズカ。ズッ友のノリでガチヨロー」

 ギャルピースからのウインクを炸裂させた。


 ──凍りつく空気。


 ここに来てとんでもない爆弾が投下された。

 

 どうなるんだよこれ……。

 

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