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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
29/70

第5話 日高誠と二人の決め事

 球体の立体魔法陣が釣り針を飲み込んでいる。釣竿も壊れる様子は無い。餌代わりにする事が出来たらしい。


「アンタは本当に変な奴ね」

 水鞠がやたらとショックを受けている。まあ、褒め言葉として受け取っておこう。


 とりあえず釣り針をプールに沈めてみる。

 うん。普通の餌の時と、感触はあまり変わらない。


「私もやってみる!」

 そう言って、岸本が自分の立体魔法陣を展開した。ハガキサイズのカード型だ。


 一瞬で魔法陣を展開出来る様になっている事に驚いた。俺の知らない所で、水鞠達に教わっているのだろうか。


 岸本はウキウキの笑顔で針に魔法陣を近付ける。

 だが、針が飲み込もうとしない。

「何で日高のだけ……!? ズルい! 私のにも日高の魔法陣付けて! もう餌が無いの!」


 この人まだ釣る気なの!? もう十ポイントも取ってるのに? 二人して何でこんなに真剣勝負してるの!?



「……!?」

 突然竿が重くなる。水面が激しく揺れる。身体が……持っていかれる……!?


「何だこれ!?」

 魚影が見える。二メートル近くあるぞ!?


「ひ、日高!代わって! 釣りたい!」

 目を輝かせながら岸本が腕にしがみついて来た。ちょ、嘘でしょ!? そんな場合か!? 柔らかい胸が腕に押し付けられて……ってそんな場合でも無い! こんなデカイの釣り上げられるのか!?


「このままだと釣竿が持っていかれるぞ!」

 あまりの引きの強さに思わず叫ぶ俺。


「ロックモードにして!」

 水鞠の声が微かに聞こえる。

 ロックモードか。何だよそれ。それらしいギミックが見当たらないが。


「これじゃない?」

 密着した岸本が腕を回して釣竿の節の辺りを捻る。

 すると掌が釣竿に吸い付いた。

 うお!? 確かに竿が手から離れなくなったが、魔力を持って行かれてるぞ!? 長い時間は持ちそうもない!


「手伝ってくれ!」

「分かった!」

 岸本と二人で両脇から竿を持ち上げる。ヤバイ。二人がかりでもビクともしない。


 手元のボタンでコインを消費して電撃ダメージを与えられるスピリッツ的な仕組みはこの釣竿には無い。


 じゃあ、どうすればいいんだ……!?


 いや待てよ? 無理に釣り上げなくても良くないか? 今回のは逃して、もっと小さいのを釣り直せばいい。


 いくら熱しか喰わない魔法生物だからといっても、このデカさは危険だろ。逃した方が良いに決まっている。うん。そうしよう。


 そう伝えようと、岸本に視線を向ける。

 するといつもクールな彼女の顔が鬼の様な形相になっていた。

「日高! こっち見てる場合じゃ無いでしょ!? 集中して!」


 エエ──!? 目がイっちゃってるよ! 怖ッ!

 でも言うしかない。無理に釣り上げなくても良いって。こいつは諦めようって。


「岸本……」

「何やってんの!? アタシも手伝うよ! 」

 水鞠が突然助っ人に入って来た。まるでピンチになった仲間を助けに来たヒーローの様に。


 何で来ちゃったの!? お前は一人で最後まで浮き輪で浮いてろよ!

 ぐしゃぐしゃになりながらも三人で一つの竿を持つ。


「みんな! 全力で引き上げるよ! 力を合わせて!」

「ハイ!」

 いきなり運動部のノリになっちゃったよ!


 これ、あれだよね。バラバラだった部員達が最後に力を合わせるやつ。いい話かも知れないけど爽やかさが皆無だよ! 何かギラギラしてるし! もうヤメテ! 本当に危ないから!


「グォア──ッ!」

 岸本が雄叫びを上げる。テニスプレーヤーがショットを打つ時に出すアレだ。学校のアイドルの面影はそこには無い。


「オラァ──ッ!」

 負けずに叫ぶ水鞠。

 勢い余って手が滑り、そのまま俺の水着に引っかかる。勢い良くズレる俺の水着。

 

 ちょっと待て! このサービスシーンおかしくない!? 逆でしょそこは! なんでお前の手が俺の水着をズラしちゃったの?


 見えちゃうから! 全部見えちゃうから!   

 あと何で急に元のユルユルサイズに戻っちゃったのよ! 謎の力どうした!? 水着が脱げちゃうよ!


 早く水着を上げないと……って両手が釣竿から離れねぇ──!

「誰かロックモードを解除してくれ──!」

 ガニ股になりながら必死に抵抗する俺。キャストオフは目前だ。


「オラオラオラァ──!」

「オラオラオラァ──!」

 竿を持ち上げながら雄叫びがシンクロする水鞠と岸本。全く人の話を聞いてねぇ──!

「誰かロックモードを! 誰か! 解除を──!」

 負けずに叫ぶ俺。


「オラァ──!」


 火喰甲魚の巨大な体躯が宙を舞う。

 夏の空をバックに、シルエットが眩しく輝く。それは大きく弧を描き、スローモーションで落下して行く。


 俺達三人もその勢いのまま後へ倒れ込む。ヤバい。このままだと地面に激突する!


 次の瞬間、柔らかい感触が全身を包み込んだ。

 あれ? どうなっているんだ!? 地面が……柔らかい?

 

 火喰甲魚は水飛沫と共にプールサイドに叩きつけられた。ズドンという鈍い音と、振動が体に響く。


 三人共硬い地面に接触するかと思ったが傷一つ無い。これは魔法の力だ。誰が使ったか分からないが助かった。


 三人がお互いの無事を確認する。そして俺は自分の水着を確認する。魔法水着はピチピチに戻っていた。


 守りきった。最後の砦を。どうなるかと思ったよ。


 釣り上げた獲物を見て驚いた。デカいぞ。百八十センチを超える巨大な魚だ。

 

 水鞠は息を整えながら立ち上がる。

「よく考えたら、別に無理して釣らなくても良かったよね」

 ようやくまともな事を言って来た。


 うん。それ、だいぶ前に気付いてたよ俺。二人共変なスイッチが入って止まらなくなってたよね。我に返ってくれて良かったよ。ホント。


「これはどう処理するんだ?」

 この動きが止まって口をパクパクしているデカイ魔法生物をプールに戻す訳にはいかない。

 水鞠はエラの辺りを開いて何かを確認する。


「三枚に下ろして半分は冷凍する。もう半分は刺身、塩焼き、煮付け、何でも合うよ」

「食べるの!?」

 驚いた。食べる事でパワーアップ出来たりする訳?

「美味しそう……」

 岸本が呟く。あれ? さっきは可愛いとか言ってなかった?


「岸本さん……冗談だから」

「え……?」

 水鞠が止める。うん。そうかなとは思ったよ。それでも岸本は名残惜しそうだ。


「頭を破壊すれば粉々になるよ。氷を触媒にしているから元の姿に戻るだけ」

 水鞠は拳に魔力を込め始めた。

 魔法生物ってのは魔法で生み出すロボットみたいなものだ。そこに命は無い。でも何か可哀想になって来た。


「わ、私飼いたい! 大切に育てるから!」

 岸本も同じ気持ちになったのか、とんでもない事言い出した。それ本気!? 夜店の金魚すくいの金魚みたいに言われても無理だよ……? あ、それとも本気で食べようとしてる?


「だって三人で力を合わせた証なのに。……壊したく無いよ」

 岸本は視線を落とし、横たわる巨大魚を見詰める。


 まさか、そんな風に考えていたとは思わなかった。


「壊す意外に方法は無いのか?」

 呆れ顔の水鞠に尋ねる。

「あるにはあるけど……。そうか。日高なら出来るかもね」

「俺? どうすればいい?」

 

「契約。使い魔として契約出来れば魔法で召喚出来る。戦闘向きじゃないから、あまり意味無いけどね」

 使い魔か。引力系魔法しか特性の無い俺にはプラスになるかも知れないな。


「契約したい。方法を教えてくれ」

 そう伝えると水鞠が力強く頷く。

 そして火喰甲魚(ひくいこうぎょ)の方へ体勢を向いた。


「オラァ──ッ!!」

 叫ぶ水鞠。魔力を込めた拳を頭部に振り落とす。


 「ゴスン」と鈍い音がして、火喰甲魚は動かなくなった。


「オイィ──! 人の話聞いてた!?」

「ダメージ」

「は?」

「ある程度ダメージを与えておいて、契約者が魔法で修復させる事で使い魔として機能させる事が出来るんだよ」


 なるほど、理にかなっているな。でもこの流れ、何かで見た様な……。


「さあ、日高。あとはアンタの魔法陣を当ててゲットするんだよ!」

 水鞠はウインクして指示を出す。


 俺の魔法陣ってボール型なんですけど。それを投げてモンスターをゲットだぜ! って、それヤバいでしょ!? そのうちジムに挑んだり、ダブった魔法生物を送ってアメをもらったり出来るの?


「実際は立体魔法陣を展開して、魔法生物の全身が入る様に大きさを変えて配置するのよ。やってみて」

 

 何だよ。それならそうと早く言ってくれよ。呼び出す時の掛け声を考え出しちゃう所だったよ。決めたよキミに! とか、なんとかエッサイムみたいな。


 立体魔法陣を展開する。そして火喰甲魚(ひくいこうぎょ)の全身が入る様に大きさを調整した。


 水鞠はそれを確認すると、次の指示を出す。

「『我、汝と契約スル者。召喚に呼応セヨ』って言って」

「なんだよそれ」

「契約の言葉。命令文を使って魔法のプログラムを実行させるんだよ」


 何だか面倒臭いし恥ずかしいが、仕方無い。水鞠に教わった通りに呼びかける。


 だが反応が無い。

 それを見た水鞠は溜め息をついた。

「残念だけど無理みたいね。そもそも水鞠家の火喰甲魚を従わせられる魔法使いなんて滅多に居ないから。気を落とさないで」


 いや、契約は出来る気がする。どうせ雑なファンタジーだし、適当にやってみよう。


『俺と契約してくれ。火喰甲魚(ひくいこうぎょ)

 立体魔法陣が光りながら上側から溶けていく。全てが無くなると、そこに居た火喰甲魚の姿が消えていた。


「出来た」

「出来たの!? 嘘でしょ!?」

 嘘じゃ無い。俺には自覚がある。自分の中に在る謎の魔法的な謎の空間に、火喰甲魚は漂っている。

 

「驚いた。アタシだって契約出来なかったのに……」

 水鞠が頭を抱える。


 契約は出来たけど、呼び出すにはまだ力が足りない様だ。修行すれば召喚に応じてくれるのかな。


「これは何ポイントなんだ?」

 俺は部長に勝負の行方を委ねる。すると、右手を真っ直ぐに上げ、ジャッジを下す。


「みんなに手伝ってもらったからゼロポイント! あと変態だから日高の反則負け」


 ……納得行かねぇ。

 


 こうして俺の一人負けで科学部の水質調査は終わった。もう疲れて倒れそうだ。


 フラフラになりながら男子更衣室へと向かい、魔法水着を元の位置へ返す。どうやら魔法の力で洗浄される為、洗わないで良いらしい。環境に優しいな。


 ロッカーを四回叩くと扉がゆっくり開いて行く。お、おう。返却時は謎の過剰演出は無いらしい。


 あれ……?

 中にもう一着水着が入っている。

 取り出す時は煙の演出で視界が悪くて、気付かなかったよ。手に取ってみると、ズボンタイプの普通の水着だ。

 何だよ! ピチピチ以外もあったのかよ……。


 ん? いや、違う。これは……。


 これが本当の魔法水着だ。


 じゃあ俺が今履いてるのは一体何だ?

 よく確認してみる。


「……最悪だ」


 サポーターだ。水着の下に履いて大事なモノを固定するやつ。どうりでピチピチパンツなはずだよ。妙に作りがしっかりしていたから気付かなかったよ……。


 水鞠が俺の水着姿を見た時に「変態野郎」と罵った訳が判明した。立派な変態だ俺は。もう後の祭りだ。



 着替えが終わり、三人揃って校門へ向かう。まだ日は高いが今日の科学部は終了だ。


 水鞠と俺は制服で、岸本はテニス部ジャージに身を包んでいる。三人共疲れ切った表情だ。


「気付いてたのかよ」

 俺は濡れた髪にタオルを巻いた水鞠に話しかける。

「日高が変態だって事?」

 明らかに気付いてたろ。俺が水着では無くサポーター姿で女子二人の前にドヤ顔で現れた事。普通に事件だよ! 案件だよ!


「何で早く教えてくれなかったんだよ」

 不満そうにしていると、水鞠はキシシと悪戯小僧の様に笑う。

「日高がワザとやってるかと思って」

 いや。それじゃ本当に変態だから。


「これからはそんな事は無くなると思うよ」

 岸本が俺と水鞠の間に割り込む様に入って来た。

「どういう事だよ」

 

「水鞠さんと話し合って……その……お互い遠慮しない事にしたから」

 顔が赤くなっている。何だよそれ。俺に対するツッコミを誰がするかの話? どうでもいいけど、今回みたいに手遅れにならない内にお願いするよ。


 まあ、俺一人の犠牲で水鞠と岸本が仲良くなれたなら、それはそれで良かった。


「あと、その……。あのね……」


 岸本が何か言いたそうにモジモジし出した。何かを告白する前の様な雰囲気だ。


「……丸出しにならないで良かったね」

 

 気付いてたなら解除してくれよ……ロックモード……。


 コトリと紗英はお互いの距離感が掴めず、何かと遠慮がちになっていました。結果、日高には連絡が伝わらない謎の状況が続いてしまいます。


 日高がドヤ顔でサポーター姿で現れた後も、二人はツッコミを譲り合ってしまい、日高は自分のミスに最後まで気付かず、変態野郎になってしまった。というお話です。


 水鞠と岸本は「今よ! 岸本さんツッコんで!」「ああ!? 今、言えたでしょ!? 何で!?」とかをずっと心の中で叫んでいたりしています。

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