第4話 日高誠と水着回
いきなり罵られた。
吉田なら悦んでいる所だろうが、俺の場合は普通に凹んだ。だが直ぐに立ち直る。何故なら俺は魔法使いとしての使命に目覚めているからだ。決して「やましい気持ち」からでは無い。
ここはあえてドヤ顔をしてみる。こういう場合は恥ずかしがってはダメなのだ。
水鞠は赤いビキニ姿で堂々と白い肌を露出している。健康的で眩しい。部室にいる時は不健康そうに見えたが、そんな事は無い様だ。長い髪は頭の上にお団子頭にされていて、準備は万端と言った様子だ。
「何してんの? 早く来なさいよ」
水鞠が呼んだのは、俺の後に居る岸本だ。恥ずかしそうに下を向き、身を縮こませながら入場して来た。
岸本はスクール水着を着ている。しかも今風のスパッツ型では無く、十年前のアニメで見る様な古いタイプのものだ。本物なんて初めて見るぞ。
「何でこんな事になったの……?」
半泣きだ。ピチピチ水着で無くて残念だが、これはこれでアリかもしれない。いや、大いにアリだ。
ていうか、魔法水着のデザインがバラバラ過ぎるだろ。「ビキニ」「スクール」「競泳用」と統一感がゼロなのは何とかならなかったのか。特に俺。
「日高、あんまり見ないでくれる?」
岸本が睨んで来た。
いかんいかん。そんなに見ていたつもりは無かったんだけど。
「恥ずかしがるからダメなワケ。余計に日高が悦ぶだけだよ。堂々としなさい」
水鞠はそこそこの大きさの胸を自慢げに強調する。
なら、遠慮なく見る事にする。
「ジ……ジロジロ見るな! バカ野郎──!」
流石に恥ずかしくなったらしく、水鞠は顔を真っ赤にして怒ってきた。勝ち誇る俺。
「……さ、最低」
岸本が変態人間を見る様な軽蔑した眼差しを向けて来る。やり過ぎた様だ。さすがに反省した。
二人からの好感度が爆下がりした所でようやく本題に入る。
「釣りをします」
水鞠が用意していたのは釣竿だ。
それ、見た事あるぞ。
「魔法釣竿だ!」
ワタヌキ魔法具専門店で買わされそうになった物と同じだ。思わず声に出た。
「知ってたの? なら話が早いね」
そう言って水鞠が早く手に取れと言わんばかりに突き出して来る。
「いやいや、それが魔法釣竿って事を知っているだけだよ。プールで何を釣るつもりだ?」
「火喰甲魚」
「ヒクイコウギョ!? ……って何だ? モンスターか何かか?」
「まあ、間違って無いよ。水鞠家が作った魔法生物。火や熱の魔法力を食べる能力を持っている」
「そんなものがプールに居るの!?」
岸本が目を丸くする。
「もちろん人体には無害だから。ただ余分な魔法熱を食べているだけだし」
水鞠は焦る岸本を落ち着かせると、説明を続ける。
「この場所はもともと魔法地熱が高くて改変現象が起き易かったの。だから冷やす為にプールを作って水鞠家が管理している訳」
つまりは、魔力を帯びている地熱を取り除く為に熱を喰う魔法生物を住まわせて修正をしているって事か。
この学校には水泳の授業が無いのにプールがあるのは不思議に思っていた。ちゃんと訳があったのか。
「今は数が増え過ぎてバランスが悪いから、釣り上げて何匹かを処分する。分かった?」
そう言って水鞠は魔法釣竿を手に持つ。続けて魔法浮き輪を装着した。ちょっと! 浮き輪必要?
そのまま勢い良くプールへ飛び込むと、嬉しそうにバシャバシャとバタ足で中央に移動し、ご機嫌で釣針を垂らす。
さっきから水鞠が一番遊んでそうな気がするんだが……。これって一応、科学部の活動だよね?
「私達も始めましょう」
岸本が持っていた二本釣竿の一つを渡して来た。水着にも慣れた様だ。姿勢が良くなったので抜群のスタイルがハッキリと分かる。
とにかく足が長い。引き締まった足腰に膨よかな胸元。雑誌で見る芸能人とかモデルをそのまま取り出した様な見事なバランスだ。
「そうだった。これを渡さなくちゃ」
岸本からビー玉が入っている小さな瓶を渡される。何だこれ?
「餌だって。釣り針の先に引っ掛けるみたい」
岸本が手際良く取り付け始めた。俺もそれに続く。
なるほど。立体魔法陣を展開する様に釣竿に魔力を込めると、ビー玉が魔法熱を放射する仕組みだ。これを利用して火喰甲魚を釣り上げるのか。
「誰が沢山釣れるか勝負だからね! 最下位は一週間買出し係だから!」
水鞠がいきなり釣り大会をスタートさせる。全力で楽しんでるなコイツ。
水鞠はプールの中央で浮き輪に尻を入れてぷかぷかと揺られながら釣りをしている。
俺と岸本は水鞠を挟んでプールの両サイドで向かい合う。他人から見たらプールに釣竿を垂らしている謎の三人だ。不審極まりない。
誰かに見つかったら何も言い訳出来ない状況だが、そんな事を考えている余裕は無い。
腕が震え、息が上がる。
魔力を込めているだけで疲労感が襲い、体力が奪われて行く。まるでジョギングをしてるみたいだ。
岸本は涼しい顔で釣りをしている。流石はテニス部だけあって体力が有るな。水鞠に至っては余裕の笑顔だ。こいつの魔力は底無しだろうから……て事は俺が最下位の可能性が高いじゃないかよ。
うかうかしてられない。この暑い中、一週間も水鞠の買い出しをさせられるなんてゴメンだ。
「言っておくけど、水鞠家の火喰甲魚といったら扱いづらい事で有名なんだから。素人の餌に簡単に喰い付くと思わない事ねっ」
水鞠が得意気に説明する。
「あ、掛かった」
「嘘!?」
岸本の竿が勢い良く引いている。今、素人がどうとか言ってなかったか?
「どうするの!? どうしたらいい?」
岸本がパニックになっている。仕方がない。手伝うか。
岸本の居るプールの反対サイドまで走って行く。
「引き上げられそうか?」
「うん。大丈夫そう。やってみる。」
手伝う事は無さそうだな。釣り上げる事も修行だろうし様子を見るか。
「ま、まあ、運が良ければ餌に喰い付く事はある事。釣り上げるのが難しいんだからねっ」
さっきと言ってる事が違うじゃねーかよ。水鞠が言い訳を始めたぞ。そんなフラグ立ててどうする。
「とりゃぁ!」
岸本が竿を勢い良く引き上げると、水飛沫と共に見たことの無い型の魚が姿を現した。
大きさは二十センチ程。シーラカンスに似ている古代魚で、鎧の様な鱗に覆われている。なかなか厨二心を擽られるデザインだ。
「か、可愛い」
プールサイドでピチピチと跳ねている魚を見て、岸本が意外な言葉を口にする。え!? そこは「怖──い!」とか言って俺に抱きつくパターンじゃないの?
「水鞠。この後どうすりゃいい?」
部長の姿を探す。ムスッとした表情でこっちを見ている。
「ノーカウント! プールに戻して」
「何でだよ!」
「三十センチ以上の大きさじゃないと意味が無いんですぅ──」
口を尖らせて煽る様に答える。
き、汚ねぇ。先に言えよ。
「まあ、岸本さんは一ポイント獲得ね」
いつからポイント制になったんだよ。負けず嫌いが度を越しているだけじゃないのか? 食べたらプラス一ポイントとか言い出さないだろうな。
「よし。頑張るぞ」
岸本は言われた通りに釣った魚をリリースして新しい餌を取り付ける。素直過ぎて見ていて不安になるな。悪い奴に騙されて、痛い目に遭わなきゃいいけど……。
その後も岸本は二十センチほどの火喰甲魚を三匹釣り上げてはリリースする。既に四ポイントで首位だ。
水鞠は釣れずイライラし始めている。俺はというと、ひたすら餌だけを取られ続けている。納得行かない。
岸本は釣りの楽しさに目覚めたらしくハイテンションになって来た。ずっと笑顔だ。楽しくて仕方が無いらしい。
長くて綺麗な足が水に濡れて眩しく煌めく。スクール水着姿も相まって、俺も何かに目覚めそうになる。釣り、最高だな。
だがプールの水質修正がまるで進んでいない。ただ釣りを楽しんでいるだけで終わりそうだぞ。
しばらくして、俺はついに餌を使い果たしてしまった。
「水鞠。餌が無くなった。まだ持ってるか?」
未だボウズの部長に訊いてみる。
「日高、終了──」
「マジかよ……。餌が無くなったら終了なんて聞いてねぇよ」
「じゃあ、針だけで頑張ってみれば? 魔力を全開にすれば多少は針から熱が出るかもよ」
適当な事言いやがって。この魔法釣竿、そんな構造じゃないだろ。
待てよ。だったらこの手が使えるか?
「立体魔法陣を餌にしちゃ駄目か?」
これは名案だろ。だが水鞠は口を手で押さえて馬鹿にする様にプススと笑い出した。
「何それ? そんな事出来る訳ないでしょ。どうやって針に付けるのよ。やってみるといいわ。魔法針と糸が耐えきれなくて壊れるから」
マジかよ。そうなるのか。出来そうな気がしたんだけどな。
とりあえず立体魔法陣を展開する。
修行の成果が出ているみたいだ。出現が早くなっている。
生み出したガラスの様に透き通った球体を出来るだけ小さくし、針にくっつけてみる。
すると光が発生し、そのまま中に吸い込まれた。あれ? これ、上手く行ってんじゃね?
「出来たの!?」
水着を着て遊ぶだけじゃ何なので、釣り大会をスタートさせてみました。
魔法使いらしい水着回になったと思います。




