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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
27/70

第3話 日高誠と水質調査

 夏休み二日目。

 科学準備室の入口近くにある掲示板を見ると、活動予定表に「水質調査」と書かれた紙が雑に貼られていた。


 マジかよ……。本当にやるみたいだな。


「何? そのマジかよ……って顔」

 そう声を掛けて来たのは水鞠コトリだ。

 今日も小さな机に置かれたノートパソコンで、魔法士協会への報告書を書き続けている。


「いや、たまには科学部っぽい事もするんだな、と思ってな」

 最近、水鞠はずっとこんな感じだし、俺は朝から筋トレやら「魔法ババ抜き」「魔法ゴム飛び」「魔法だるまさんがころんだ」など謎の修行に励んでいる状態だ。


 これ、文化祭が近付いたら焦り出す流れだろ……。水鞠の性格から何となく想像出来る。


 そんな事を考えながら、窓から見える入道雲を眺めてみる。


 外は真夏の暑さだが、科学準備室の中は快適だ。いつの間にか部屋の隅に設置してあった扇風機のお陰で、涼しい風が吹いている。


 いや、涼しい風なんてものじゃ無い。クーラー並だ。魔法具の一種か? 欲しくなって来たぞ。


 スマホを開き、魔法の扇風機を魔法ネットショップで検索してみる。


「三百万円か……」

 秒で諦め、そっと画面を閉じた。


 魔法扇風機のすぐ隣に視線を向けると、俺達の様子をジッと見ている人物が居る。水鞠家に仕える従者の一人、弓の魔法使いだ。


 相変わらず物騒な仮面を着けていて、暑苦しい紺の魔法着を着込んでいる。さっきから椅子に座り動かない。おそらく水鞠を監視しているんだ。すぐサボるから。


 岸本は午後から科学部に合流する。

 その前に確認しておいた方がいいだろう。ちょうど弓の魔法使いも居る事だしな。


「そろそろ教えてくれないか? 岸本の事」

 

 俺が学校を休んでいる間に岸本は魔法使いになっていて、改変者と魔法使いに関する一部の記憶が無くなっていた。


 その内、水鞠から説明があると思っていたしから急いでいなかった。でも岸本が科学部に入るのなら話は別だ。すぐに知っておく必要がある。


 水鞠は手を止め、しばらく黙っていたが、全身をこちらに向け、改まる。

「岸本さんは、自分で記憶を封印した」

 そう言って視線を床に落とした。


「自分で記憶を……? 水鞠が記憶を消した訳じゃないのか」

「そうだよ。アタシは何もしていない」


 何年間も他人に操作されていたショックは計り知れないだろう。だから無意識に記憶を消したって事か。


 水鞠は弱々しい声で続ける。

「でも、岸本さんの魔法力はかなり弱い。このままだと自分でかけた魔法が解けるかもしれない。科学部に入れたのは保護と育成が目的だよ」

「だったら早く言ってくれよ。急でビックリしたじゃないか」

「いや、その……。岸本さんから先に話があるかと思って」


 何だよそれ。別にどっちが先とか必要? おかげで俺だけ知らない事ばかりになっちゃったよ!


 ……そうツッコミたかったが、水鞠の困惑した様な表情を見て、言うのを止めてしまった。


 きっと、水鞠なりに色々と考えがあったのだろう。


 俺に出来る事は、岸本を守れる位に強くなる事だ。そして水鞠の力になりたい。つまりは、そう。


「修行……頑張るか……」

 結局筋トレで午前を終了した。



 昼食後、岸本紗英が科学室の扉を開いた。

 今日も昨日と同じ全開の笑顔での登場だ。新入部員イビリみたいな事をされたのに健気だな。


 でもこの笑顔も、いつまで続くのか分からない。まともな修行や部活動なんか期待出来ないし。


 三人が部室に並ぶと、水鞠は満足そうな表情になる。それから後の棚から何かを取り出した。


「日高はこれ持って」

 四角い鞄の様な物を渡された。カチャカチャと中から音がする。どうやら機材が入っている様だ。

「水質調査に使うのか?」

「本格的だね! 面白そう!」

 岸本が食いついて来た。良かったよ。興味持ってくれて……。

 


「ぅ暑う……」

 科学室を出ると熱風が襲って来た。

 魔法扇風機の涼しさに慣れた身体は悲鳴を上げる。汗が吹き出して止まらない。


 校舎を出て、体育館の脇の通路を進む。この先にプールがある。


 移動中は不思議と会話が無く、無言のままだ。というか、岸本が合流してから水鞠は居心地が悪そうにしている様に見える。気のせいだといいんだけど。


 気不味さに耐えきれなくなって来た。何かを話さないと……。

「水着と浮き輪を用意した方が良かったか?」

「ええっ!? み、水着!?」

 岸本が顔を赤くして焦り始めた。いやいや。俺だってそんなリア充な展開なんて求めてないよ。冗談に決まっている。


「遊びじゃないからね。水質調査なんだから」

 水鞠が答えると、岸本が安心した表情になる。どうしても水着姿になるのが嫌だったらしい。そんなに俺の視線を警戒されると流石にショックなんですけど……。


 いや、確かに岸本の水着姿は見たいけど。ガン見しちゃうかもしれないけど。健康な高校生男子ってのはそういうものだし。


「プールの水質を科学部が管理してるって、どういう事なんだ? 部活動の範囲超えてるだろ」

 普通なら近くを流れる川を調べたりする所だろう。


「着けば分かるよ」

 水鞠が素っ気無く答えた。



 プールに到着した。学校にある、よくある感じの普通のプールだ。水泳部の練習は終わっていて誰も居ない。


「水量はだいぶ戻っているね」

 水鞠がプールサイドから覗き込む。若干少ない気がするが、確かに水はある。


 俺は鞄を開け、中から機材を取り出した。

 水鞠から説明を受けつつ、説明書を参考に準備を始める。


 プラスチック製の細長い容器を取り出し、プールの水を汲む。そして鞄の中から謎の薬品を取り出すと、容器の中に混ぜた。おお。よく分からんが、俺達科学部っぽいぞ!


 更に手の平サイズの機器から伸びた謎の線の先端に付いている金属を容器の中に沈め、計測した数値とグラフを見比べる。


 うーん。よく分かららん。ていうか、何を調べてるのかも正直分からない。教えてくれよ。


「やっぱりいらないわ。これ」

 水鞠が突然機器を投げ出した。慌ててキャッチする。今の流れは何だったんだよ……。

「言っとくけどアタシの場合は、だからね。普通はちゃんと計測するんだからね?」

 そう言って水鞠はプールの水を手ですくい、ペロリと舐めた。何か汚いな!


「やっぱり水の魔法力が強くなってる」


 やはり何かの異変が起きている様だ。

「で、俺達はどうすればいいんだ?」

「これから水の魔法量を調整します。全員、魔法水着に着替える様に。十分後集合!」


「魔法水着!?」

 岸本が絶望感に溢れている。ていうか俺も貧弱な身体を晒したくないんですけど。

 

 とにかく魔法使い専用の水着に着替えなくてはならないらしい。

 

「更衣室の奥のロッカーを四回ノックして。封印が解けるから」

 ウインクしながら俺を指差す水鞠。


 展開が早くて頭がおかしくなりそうだ。

 良く分からないが、水鞠から指示を受け、男子更衣室に入る。


 中は細長い造りの、よくある更衣室だ。

 教わった通り、奥のロッカーまで移動し、四回ノックしてみる。


『パラリラリラ』

 ゲームの謎解き音の様なファンファーレが鳴り響いた。そして、ゆっくりと扉が開いて行く。


 うおお!? 何か無駄にテンションが上がって来たぞ!?

 光と煙が勢い良く飛び出て来た。まるで伝説の武器でも出てくる様な勢いだ。期待が高まる。


 光が収まると、目の前にハンガーにかかった水着パンツ一枚が現れた。


 お、おう。まあそうだけど、ちょっと過剰演出過ぎない? 水着だよ!? しかも競泳用のピチピチパンツじゃねーかよ。


 こんなのスポーツマンじゃないと似合わないって! 罰ゲーム過ぎる──!


 そもそもサイズは大丈夫なのか? あと衛生面も気になるな。前使った人、ちゃんと洗ってくれてるのか? 病気になったりしないよな。


「アホらし」


 うん。やめよう。何故ガリガリの貧相な姿を見せた上に色々な不安と戦わなくてはならんのだ。何の修行にもならないわ。

 手に取っていた魔法水着をロッカーの中に投げつけた。すると音を立ててゆっくりと扉が閉まっていく。


 せめてピチピチパンツじゃなきゃ……。


「……!?」

 ……いや待てよ? て事は女子用魔法水着もピチピチ……?


 慌ててダッシュし、閉まる扉に肩を滑り込ませた。そして魔法水着をもう一度手に取る。


 別に水鞠や岸本のピチピチの水着姿を間近で見たいとか、一緒にプールに入りたいとかの欲望の為では無い。魔法使いとして目覚めた今、避けて通れない修行に違いないと改めて感じたからだ。


 無心で魔法水着を身に付ける。初めはサイズが大きく緩かったがが、謎の力で締め付けられた。おお……!?

 この身も引き締まる思いだ。魔法使いになってから今ほど身震いした事は無い。


 さあ、行こう。新しい世界へ──。



 プールサイドには、赤いビキニを着た水鞠が仁王立ちで待ち構えていた。俺を見ると、何故か冷たい視線を突き刺して来る。


「変態野郎」

 これから二回、水着回になります。

 自分が盛り込みたかった部分が全て入れられたので、読んで頂けると嬉しいです。

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