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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと夏花火
26/70

第2話 日高誠と水の無いプール

 怪し過ぎる。

 岸本も感じた様だ。風貌よりもその雰囲気だ。心が騒つく。


 まあ、魔法具専門店の店長なんてまともなはずが無い。おそらく魔法使いだろう。


「あなたは初めてお目にかかりますね」

 岸本を見付けると、店長は眼鏡に手を掛けて確認する。


「いや、俺も初めて来たんですけど」

 そう言うと、店長は眉間にシワを寄せながら頷く。

「申し訳ありませんねぇ。あなたも初めての来店でした。失礼失礼。どうぞご覧になって下さい」

 何を言っているんだこの人は。誰かと間違えてたのか?

 いや、違う。何か様子がおかしい。


「もしかして俺、ここに来た事ありますか?」

 可能性はある。記憶が消されているだけかもしれない。

 店長の眼鏡が怪しく光る。

「あなたが来たのは初めてですよ。私の思い違いでしたなぁ」


 ……怪しいな。この店長の事を何処かで見た様な気がして来たぞ。


 時間が無い。とりあえず店内を調べる事にする。二手に分かれて商品の確認を始める。


 魔法マージャンや魔法トランプがある。なるほど、こういった店で買うのか。他には「魔法知恵の輪」や「魔法ねり消し」なんてものもある。


 何の特訓になるのか想像が着かない。あと何でも名前に魔法って付ければいいと思ってない? 相変わらず雑だなぁ。


 岸本は壁側に掛かっている「魔法スーパーボールくじ」や「魔法ダーツ」などを不思議そうに見ている。店長はその側にいて付きっ切りで説明している。


 商品を手に取って見ても解決出来そうなものは見当たらない。当たり前か。何も考えずに言われるがまま来てしまったからな。


 プールの水を抜いた犯人解析マシーンなんてある訳がない。さてどうするか。


「店長さん。学校のプールの水が消えて困っています。何か解決出来る道具は有りますか?」

 岸本が尋ねる。いや、俺も訊きたいと思っていたよ? でも解決する事を考えるのも修行の内かと思っていたから……。


「じゃあ、これとかはどうですかな」

 店長が奥から棒の様な物を持ち出して来た。


 魔法釣竿だ。

 他に餌と魔法バケツが用意されている。釣りをしろって事? 完全に頭おかしいでしょ。

「合わせて一万円です」

「高っ!?」

 思わず声が出た。リールとか付いていないのに高すぎるでしょ!?


「分かりました」

 岸本が鞄から財布を取り出す。え!? 払うの? 人の事を信用し過ぎてない?


「お支払いは?」

 店長の言葉に驚いた。

 確認すると、各種クレジットカード、交通系、電子マネー、バーコード決済、全てが使用可能だ。え? 通販サイトのポイントも使えるの?


「ポイントで」

 財布からカードが出て来た。

「岸本それって……」

「水鞠さんのポイントカード。これで支払って後から部費として処理するらしいよ」

 そんな事聞いて無かったんですけど……。また仲間外れかよ。どうなってんの?


「あ、ごめんなさい。水鞠さんから聞いてると思ってて」

 謝られると余計に切ないよ!


 一万円をポイントで支払って部費で処理って……明らかに普通じゃないだろ。本当にそんな事が可能なのか?


 このまま店長の言うがまま釣竿一式買って大丈夫なのか?

 だって一万円だぞ? 本当にこれで合っているのか? プールの件は解決出来るのか?


 何かがおかしい。


 落ち着け。今日一日の事を思い出せ。水鞠との会話、行動。何かヒントは無かったか?


 考えながら店内を見渡す。

「……!」


 ……あるじゃないか。解決の糸口がそこに。


「ちょっと待て岸本!」

 カードを持つ手を掴む。岸本はいきなりの事で目を丸くする。

「どうしたの?」

 

「分かったんだよ。今買って帰るのは釣竿一式じゃない」

「え……?」

 すると店長がニヤリと笑う。眼鏡の奥の目が真一文字になる。眉間にシワが出来る。

「良く気が付きましたね。確かにプールの水が無くなるには少し時期が早いですからね」


 いや、言っている意味が分からない。そもそも釣竿とプールの水が無くなる時期は関係ないだろ。

 

 そうじゃない。根本的に間違っていた。


 俺は売り場から「ある商品」を持ち出し、レジに置いた。

「え!? ちょっと日高!? それ?」


「支払いは?」

「ポイントで」



「水鞠。買って来たぞ」

 科学準備室に帰ると、水鞠がナメクジのように地面を這っていた。

「ちょっと! その表現酷くない!?」

 ああ、いかん。心の声が出ちゃってたか。まあ、それに近い形で倒れ込んでいる。

 

「ほれ。これでいいか?」

 机の上にドサリと買い物袋を置く。

 その中に入っているもの……。

 

 魔法カップ麺だ。


「水鞠さんごめんなさい! 私は止めたんだけど日高が勝手に……」

 岸本が弁解する。

 それを無視して水鞠はカップ麺のシュリンクをバリバリと開け出し、呟く。


「正解……」


「ええええ!?」

 岸本の驚く声が部室に響く。

「プールの水はどうするの!?」

 岸本は少しパニックになっている。

「プールへ行ってみるか? もう水は元に戻っていると思うけどな」

「どういう事!?」


「プールの水が消えたというのは水鞠の嘘だ」

 俺の言葉を聞いた岸本は唖然としている。

 初めからプールの水は消えていなかった。


 水鞠コトリはやれやれといった大袈裟なポーズを見せた。

「日高はまず現場の確認をしなかった。それがまず失敗ね。可能ならばまず改変現象が起きた場所を見に行かないとダメ。解決のヒントは現場にあるから」

 そう言って水鞠は粉末スープとかやくをカップ麺の中に入れる。


 確かにそうだった。見に行っていればすぐに解決出来ていた。何だよ、この雑なミステリーは。


「次の失敗はアタシの言われるがまま店へ向かった事。完全に信用して下調べもしてなかったでしょ。何を買うのかも見当も付けずに行くなんてアホなの?」

 猫目がギラリと光る。


 確かにそうだ。行けば分かるかと思っていた。甘かった。何も言い返せない。自分で考えるのが修行なんて言いつつも、最初から他人任せにしていた。


 現場の確認。そして対策。基本中の基本じゃないか。


 単純な話だ。水鞠は夏休みに入って浮かれていた俺をガツンとやってやりたかったのだ。魔法使いの師匠として。科学部部長として。


「ま、降参して店から電話して来ると思ってたけどギリギリ合格ね。ああ。ちょっとスッとしたわ」

 ご機嫌な笑みを浮かべる。

 

 ……それと、自分の昼飯を買いに行かせたかったんだ。魔法ババ抜きで負けた腹いせに。


「あ、お湯が無かった」

 携帯電話を取り出して叫ぶ。

「出でよ! (ウォール)!」

 ああ……。やっぱり呼んじゃったよ。


 五分後、アツアツのヤカンを持った壁の魔法使いが現れた。かなり時間が無かった様で、ハアハアと息を切らしている。相変わらず怪しい仮面に魔法着姿だ。


(ウォール)ここに」

 水鞠に跪く。

「ありがとう」

 そう言ってヤカンを受け取り、ウキウキでカップ麺にお湯を注ぐ。それを見て壁の人が嬉しそうにハアハアと興奮の息遣いをし、プルプルと小刻みに震えた。


 この先輩。もしかして夏休み中ずっと何処かで待機してるつもりじゃないだろうな。


 岸本が壁の人を見ても驚かない。どうやら既に知っていた様だ。俺が学校を休んだ時に色々あったに違いない。


 俺の視線に気付いて目が合う。岸本はそのまま無言で固まったままになる。


「どうした?」

 沈黙に耐えられず、尋ねてみる。


「なんていうか……日高って水鞠さんの事よく分かってるなって思って……」

 そう言って視線を水鞠に移す。

「ま、慣れれば扱い易い奴だよ」

 思いのまま素直に答える。


「そうかな……」

「岸本は考え過ぎなんだよ」

 

 水鞠はカップ麺をズルズル食べ出した。

 岸本と俺も小さな机を囲み、着席した。俺は弁当を、岸本はパンを鞄から出す。


「あ。こんな事、前にもあったよね」

 また岸本が以前の事を思い出したらしい。

 無言になる俺と水鞠。

「絶対にあったよ。あったからね!」


 その時の水鞠の昼飯はカップ焼きそばだったし、岸本はそんな笑顔じゃなかった。あの時とは全然違う。


 こんな時間を過ごせるなんて想像出来なかった。素直に嬉しい。


 水鞠も俺と同じ気持ちに違いない。

 新しい科学部は、ここから始まるんだ。

 


「コトリ様」


 うおっ!? 壁の人、まだ居たのかよ! 昼飯を一緒に食べるなり、立ち去るなり、存在感を出すなりしてくれよ! ビックリしたよ! 部屋の片隅でずっと待っていたらしい。


「どうしたの? 壁」

 割り箸をパキンと割ってから、水鞠が尋ねる。


「プールの水がまだ……」

「んん!?」

 水鞠がキョトンとしたまま動かなくなる。

 そこへ壁の魔法使いが近付き、耳打ちをした。


 声が漏れてるぞ。「本当なの!?」「コトリ様はお気付きだったのかと……」「この時期におかしくない?」なんて内容だ。


 耳打ちが終わると、何事も無かったかの様に、壁の魔法使いは元の位置に戻り跪く。そして水鞠が箸を置いた。


「たった今、プールの水に異変が起きました。明日、水質検査を実施します!」


 ええ……。嘘臭ぇ……。絶対今じゃないだろ……。


 何か面倒臭い事になって来たぞ。

 部員が増え、部長らしく振る舞いたいコトリの話です。

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