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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
22/70

第21話 日高誠と引力魔法

 目の前に居るのは化物だ。


 人の欲望や呪いが具現化した能力を持つ「影」。それに取り憑かれた人間の末路。


 そして魔法使いの天敵。


 俺には戦う力は無い。水鞠が助けに来てくれるまで、時間を稼いで待つしか無い。


 覚悟を決めた。右手に立体魔法陣のイメージを作る。ハッタリでもいい。魔法を使うぞ。


 吉田の分身体を召喚した時は水鞠が手伝ってくれていた。俺一人で展開する事が出来るのか?


 水鞠と魔法を使った記憶を呼び起こす。すると右手に重力が発生した。


 魔力エネルギーの流れを感じる。頼む。出て来てくれ! 


 光が一瞬だけ生まれる。だが、形に成らず崩れて行く。ダメだ……! 上手くいかない! 


『キキキキ…………』

 改変者がいきなり飛び上がり、腕を振り上げながら襲いかかる。

 それをギリギリ前に出て避けるが、勢いで倒れ込んでしまった。


 改変者の一撃を受け、アスファルトの表面が音を立てて吹き飛ぶ。凄まじいエネルギーだ。


 俺は崩れた体勢を立て直そうとする。だが、それよりも早く相手の左手が伸び、二撃目が放たれた。


 避けきれない……! 腕でガードするが、完全に無駄だ。強烈な衝撃が全身を襲う。


 鈍い音が全身に響き渡り、体ごと飛ばされた。


 そのまま数十メートル先の塀に激突する。跳ね返り、地面に叩きつけられる。

 全身に今まで感じた事の無い痛みが走り抜けた。


 朦朧とする意識の中で、目に映る現状に絶望した。


 大量の出血だ。腕と足が動かない。骨が折れている。


 激痛に耐えられず、呻く事しか出来ない。


『キキキキキキ……』

 新澤晴人は背中を向け、影と同じ金属音を発しながらゆっくりと移動を開始する。


 まずい……岸本の所へ向かっている。

 時間稼ぎすら出来なかった。何て非力なんだ俺は。


 水鞠……! 早く来てくれ……!



『動かないで下さい。日高誠君』


 薄れ行く意識の中、聞き覚えのある声が聞こえる。この声は……。


 目の前に小鳥が舞い降りた。


 青い鳥……。鳥の魔法使いか? 前に見た時よりも、かなり小さい。この鳥から声が聞こえる。


『改変者の結界に小さな穴を開けて侵入しました。あと数分で戦闘が可能になります』


 本当か!? 

「岸本を……助けてく……れ」

 痛みに耐えながら声を絞り出す。


『安心して下さい。岸本紗英は助かります』


 助かる……? 本当に?


『コトリ様が魔法士協会に応援を申請しました。後は援軍が到着するまで時間を稼ぐだけです』


 魔法士協会に? でもそうなったら……。

「水鞠……は……どう……なるんだ……?」


 領地内の改変現象を修正する事が魔法使いの一族の役割だ。それが失敗すればタダでは済まないだろう。


『今回の失態は余りにも大き過ぎました。これ程までに強力な改変者を長年潜伏させ、討伐出来ないとなれば……それなりの処罰が待っています』


 処罰……? 処罰って何だ!?


『そうですね。これだけは確かです……』


 魔法の鳥は翼を広げると、その身体を大きく変化させて行く。巨大な青い鷲に姿を変えた。


『あなたは二度とコトリ様と会えなくなる』


 そう言い残し、鳥の魔法使いは飛び立った。そのまま改変者に飛び掛かり、鋭い爪を向け、攻撃を開始する。



 会えなくなる……? 水鞠と……。

 

 水鞠の笑顔が頭を過ぎる。やっと科学部に入れたと思ったらこれだ。


 俺は決心していた。水鞠と過ごす時間を選んだ事に悔いは無かった。なのに何でこうなるんだよ……。


 失いつつあった意識の中、水鞠の声が聞こえる。ああ、幻聴か……?


 いや、違う。水鞠の声だ。


 暖かい何かが、目の前に現れた。

 俺は地面に倒れていた身体を起こし、どうにか目蓋をこじ開ける。


 魔力を帯びた光の球体が宙に浮いている。

 この感覚……。まさか解析魔法……? 何でここに!? 化学室にあるはずじゃ……。


 魔法の光が俺と繋がっている。そうか、起点を戻したんだ。


 球体は形を大きく変化して行く。手足が伸び、髪の長い少女の姿になった。


 そして倒れている俺の側に座り、両手を頭に添えて胸に引き寄せた。


『ごめんなさい……! ごめんなさい……! アタシがもっと早く気付いていたら……!』


 うっすらと見える。顔をぐしゃぐしゃにして泣いている様だ。


 目が擦れて良く見えない。でもその声……。間違いない。


 水鞠……!


 傷が癒えて行くのが分かる。回復魔法が発動している様だ。だが体が朽ちて行くスピードが速く、回復が進まない。


「頼……む。岸本を……助けてくれ……」

 かすれているが、声を何とか出す事が出来た。


『出来ない……! 出来ないよ!』


 ……どういう事だ?


『今のアタシは分身体なんだよ! 解析魔法のエネルギーを利用して作ったけど、不完全なんだ。日高にしか魔法が使えないんだよ』


 そうか……水鞠の魔力で拡張されていたんだっけ。


『ごめんなさい……! 改変者の作る結界が特殊で、まだ本体が中に入れない! 今、『壁』が解除を始めているけど……まだ時間がかかるよ!』


 涙を流しながら回復魔法を続ける。


 良かった。来てくれたのか。でも魔法使いが三人もいて解除出来ないとか……どんだけ強力なんだよ。


 ゆっくりだが傷が治って来ている。声も出せるまでになった。でも動けるまで時間がかかりそうだ。


 青い鳥も改変者を牽制出来ているだけだ。改変者の攻撃を受け続けてボロボロになっている。倒されるのも時間の問題だ。


「本当に間に合うのか? 魔法士協会は」

 魔法使いなんだから、一瞬で助けに来るものじゃ無いのかよ。まさか、また派閥で妨害し合っているって事は無いだろうな。


『まだ到着しないんだ。何か起きているのかも……』

 

 魔法士協会を待っていられない。こうなったら、俺達でどうにかするしか無い。

 

「水鞠……! お前を召喚したい……!」


 水鞠コトリの本体を壁を超えて召喚出来れば、助けられるかも知れない。


『きっと、アタシの魔力を全解放して同調すれば召喚魔法は使えるけど……』

「出来るのか!?」


 水鞠コトリは横に首を振る。

『同調した術者は魔法で召喚出来ないんだよ……』

 

「じゃあ、弓か壁の魔法使いを……」

『召喚魔法は相手の情報が必要なんだよ。日高は二人の情報を持っていない……!』


 確かに吉田の分身体を召喚する時も、対象の情報が必要だった。何か他に方法は無いのか!?


「…………!?」

 耳障りな衝撃音が響く。

 青い鳥は改変者の攻撃を受け、破片を撒き散らしながら消滅した。


 改変者もダメージを負っているようだ。足を引きずりながらも岸本の家を破壊し、侵入する。


 もう時間がない。

 まだ足と腕が動かない。歩く事が出来ない。今の俺に出来る事は……。


「水鞠……。岸本を召喚したい。壁の外に逃す事は出来るか?」


 助ける可能性はこれしかない。何もしなければ岸本は襲われてしまう。


『わかった。やってみる。でも回復魔法は中断になるからね』

「やってくれ」


 水鞠が魔法を切り替え始めた。麻酔が切れた様に痛みが全身に走る。


「……うあああ……!」

 ヤバい。立っていられない。片膝をつく。

 早く召喚魔法の準備をしないと……!


 右手に立体魔法陣をイメージする。でも痛みが酷くて集中出来ない。


 早くしないと。間に合わねぇ……!

 水鞠の分身体が寄り添い、右手を両手で包み込む。

『落ち着いて! 大丈夫だから!』

 水鞠の声が勇気をくれる。

 体の痛みが和らいでいく。今は回復魔法を使っていないはずなのに。


 右手に重力が生まれ始めた。分身体を通して、水鞠の膨大な魔力が流れ込んで来る。体が爆発する様な錯覚の中、何とか力をコントロールする。


 目の前に光が生まれ、球体の魔法陣が発生した。


『日高……! 出来たよ!』


 問題はこれからだ。岸本紗枝を召喚するには、存在を示す情報が必要だ。俺は彼女の何を知っているのか?


 芸能人の様なスタイル。

 そしてテニス部のエースだ。


 そんな事、誰でも知っている。

 俺は彼女と公園へ行った。毎日駅から一緒に帰った。それだけだ。何も知らない。


 彼女を助けたい。大切な友達だ。


 思っている事がすぐに顔に出る。

 怒った顔も可愛い。

 向日葵が好きだ。

 首の付け根に小さなホクロがある。

 笑う時に小さな笑窪が出来る。


 気持ち悪いな俺。そんな所まで見てたのかよ。


 そもそも俺が見て来た岸本紗英は本物だったのか? 彼女は少なくとも五年近くは異質な能力で未来を改変され続けて来た訳だ。


 本当の彼女は違う人間かもしれない。


 初めて会ったのはテニスラケットを返した時だ。言葉少なげで仏頂面だった。あの時、吉田は何て言った?

『大丈夫だ。岸本はいつもあんな感じだから』


 俺以外の人間と会っている時はどうだった?


 高崎と公園で遭遇した時は?


 水鞠と化学室で会った時は?


 そうだ。俺の知っている、よく笑う岸本紗英は、俺と会った時しか見ていない。でもそれは本当の岸本紗英だったのか……? 分からない……!


 お願いだ岸本。ここに来てくれ!

 俺の召喚に応えてくれ……!


 柔らかい光が生まれ、目の前に新しい魔法陣が現れる。


 吉田の分身体を召喚した時と同じ物だ。

「岸本……!」


 円形の魔法陣の中央に光が集まる。俺でも理解出来る程の凄まじい魔力……。

 そしてそれは人の形になっていく。あれは……岸本紗英だ。


『成功したよ日高! ……凄い……凄いよ!』


 だが次第に光が消えていく。岸本紗枝の存在が遠くなる。


『嘘……!? 何で!?』

 水鞠の声が非情な結果を告げる。


 諦めてたまるかよ。俺は諦めない。

 何度でも魔法を使ってやる。


 魔法陣を展開する為に右手に魔力を集中させる。

「……!?」

 突然、体が宙に投げ出される様な感覚が襲う。

 体がバラバラになり、また一つになる様なイメージを繰り返す。


 

『日高……! 日高……! ひだ……』


 水鞠の声が小さくなり、消えていく。

 

 ここは何処なんだ? 重力を感じない不思議な空間を漂っている。


 そして突然、何かに引っ張られる様に加速すると、急降下して地面に着地した。


 現実の世界に戻って来た。それを直感で把握する。


 どこかの部屋の中にいる。広いリビングだ。いや、広すぎる。外と同じで空間が歪んでいるのか? 部屋の壁までの距離感が掴めない。


『ナンデ……お前がここに……!?』


 その声の主に驚く。

 新澤晴人だ。改変者が居る。どうして……?


「岸本……!」

 岸本が床に倒されている。

 その上に改変者が覆い被さっている状況だ。


 やっと理解出来た。移動したのは俺だ。理由は分からない。何故か俺の方が岸本の近くに移動している。


 ここは岸本紗英の家の中だ。


 部屋の家具などは吹き飛ばされて粉々だ。俺と改変者の間には何も無い。岸本が目の前にいる。だが距離が遠い。十メートル以上は離れている。


『マァいい。お前にはイイモノを見せてやるよ……ぐフフフッ』

 気色の悪いニヤケ顔だ。


 駄目だ……。傷がまだ治りきっていない。体が動かない。


 新澤晴人が横たわる岸本の髪を掴んで上半身を持ち上げる。

「……!」

 痛みで岸本の顔が歪む。

 黒い霧に巻きつかれていて、体の自由が奪われている。声も出せない様だ。


『キキ……キキキキ……』

 鬼の様な改変者の顔にヒビが入る。何かに押し出される様に砕けると、下から人間の「新澤晴人」の顔が迫り上がって来た。


「綺麗な髪だよ紗枝……。でも何で切ってしまったんだい? 僕は長い髪が好きだったのに……」

 味を確かめる様に、髪を口に咥え込む。


 続けて制服のスカートの中に手を入れて太腿を触り始めた。


「いい足になったなぁ。そうだよ。僕はこの足が好きなんだよ。鍛えたこの足……最高のモノに育ってくれたよォ。はは。ははハハハ……」


「それ以上触るな」

 怒りが止まらない。これ以上、好きにさせてたまるかよ。


 右手に魔力を集中させる。水鞠コトリはここに居ない。だが彼女が同調した魔力が、まだ残っている。


 イメージは出来ている。


『出ろ……。立体魔法陣……!』

 願う様に呟くと、球体の立体物が右手から発生した。


 感じた事の無い、凄まじいエネルギー。だが今の俺なら制御できる。


 立体魔法陣がメキメキと音を立て、巨大な腕に変化して行く。


 電撃を帯びた透き通る巨大な掌が、改変者に向かって放たれた。


 それは黒い霧ごと新澤晴人の体を強引に掴み込む。強力な握力が改変者の自由を奪う。


『何だコレは……。オマエ何を……!?』

 改変者の黒い霧が、金属の軋む様な音を立てて剥がれて行く。俺の右手から生まれた光が、ブラックホールの様にそれを吸い込む。


「お前がこっちへ来い! ぶん殴ってやるよ!」


『ヤメロォ────!』

 床に爪を食い込ませ、自分自身が引き込まれる事に激しく抵抗する。余裕の表情が一転し、恐怖で顔が歪んだ。


 魔法の力で、改変者を包み込んでいた「影」の鎧は砕かれ、全身が生身の人間に戻って行く。


 耐えきれず、改変者が岸本から引き離された。そのまま俺の目の前に超高速で移動して来る。


 全てはスローモーションの様に見えている。引き寄せられた改変者を待ち構え、右手を握りしめた。


 その拳に全体重を乗せ、新沢晴人の顔面に叩き込む。


 回復していない足の骨が砕ける。右肩の骨が音を立てている。痛みで気を失いそうになる。それを振り払う様に叫ぶ。


「うおおおおおおお────!!」


 魔力が溢れ、放電現象が全身に纏う。めり込んだ拳で改変者の顔面が歪んだ。


 魔力の衝突は、強力な衝撃を生み出した。 

 改変者の体が弾き飛ばされると、俺自身の体も後方へ飛ばされる。


 激しく地面をバウンドし、地面との摩擦で勢いが止まった。


 ……また全身血だらけだ。骨も砕けている。


 全ての力を出し切った。もう体が動かない。意識はもう、保つ事が出来ない。


 静寂の中、足音が聞こえる。


 それは少しづつ距離を縮めて来る。

 どうにか力を振り絞り、上半身を相手に向け、目を開ける。


「お前さえ……お前さえいなけば……」

 血まみれになり、服もボロボロになった新澤晴人が呟いた。


 影の部分が全て剥がれ落ち、人間の姿に戻っている。


 絶望しかない。もう俺は動けない……。


 新澤晴人が呪いをかける様に囁く。

「何で……邪魔をして来るんだよ……。俺はただ、紗英を手に……入れたかっただけなのに」


 そして横たわる俺に覆い被さると、両手で首を締め付ける。


「シネ。死ね。しね。死ね……」


 ダメだ……息が……出来ない……。意識が遠のいて行く……。


 鈍い音が響く。

 突然、新澤晴人が飛ばされ、倒れ込んだ。


 ……何だ!? 何が起きている? 誰かが助けてくれたのか? 水鞠……? 来てくれたのか!


 違う。水鞠コトリじゃない。黒い影が揺らめいている。


 あれは……。

 短い髪と鋭い目付きに覚えがある。


「吉田……!?」

 いや、吉田がここに居る訳が無い。


 あれは分身体だ。


 拳を打ち込んだ後の姿勢のまま停止している。そして新澤晴人が動かなくなった事を確認すると、ゆっくりと拳を下ろす。


 あれは、吉田玲二が生み出した影だ。


 岸本紗英のストーカーを憎む心が生み出した影。


 アイツ……また分身体を生み出したのかよ……。何だよ……超カッコいいじゃねーか……。


 次の瞬間、吉田の分身体が炎に包まれた。

 魔法の矢が胸を貫いている。これは弓の魔法使いの能力だ。


 強力な炎の魔法で体が崩れ落ち、バチバチと不快な音を立てながら消滅していく。

「吉田……!」

 崩れ行く友人の姿を見て、複雑な気持ちになった。

 でも、これでいい。これで吉田は改変者にならなくて済む。


「間に合った! 間に合ったよ日高!」


 水鞠コトリが姿を現した。

 鼻水を垂らして全力で泣いている。分身体じゃない。本物だ。


 ……どうやら助かった様だ。


 回復魔法で身体中の傷が修復されていく。分身体の時とは違い、スピードが速い。


「岸本は……?」


「無事です。気を失っているだけです」

 弓の魔法使いが答えた。


 どうにか立ち上がり、状況を確認する。


 部屋は通常のリビングの広さに戻っていた。家具はボロボロで床に穴が空いている。

 壁の魔法使いは気を失って倒れた岸本の手当てをしている。


 もう一人、仮面を着けた人物が立っていた。「鳥」の魔法使いだ。こいつが来てくれなかったら俺は死んでいた。


 改変者である新澤晴人はミイラの様に干からびて床に転がっている。髪の毛も白くなり、抜け落ちている。


 しばらく視線を向けていると、鳥の魔法使いが説明する。

「大丈夫です。生きていますよ。これから魔法協会の施設に入って能力の封印と記憶の修正を行います。外見は……あまり戻らないかもしれないですね。まあ、一人の美少女の人生を狂わそうとしていたのですから、その位の代償は仕方ないでしょう」

 そう言って舞台役者の様なオーバーアクションを取る。


 弓の魔法使いが、その前を塞ぐ様にして歩み寄って来た。

「非常に強力な改変者でした。水鞠家に悟られる事無く、異質な能力を使い続けるとは……驚きを隠せません」


 水鞠も回復魔法の手を止め、視線を新澤晴人に向ける。

「おそらく、魔法使いにルーツがある改変者だったんだ。この場で修正出来ていなければ、もっと深刻な事態になっていたよ。……きっと岸本紗英は殺されていた」


 そうかもしれない。人間に戻った後でも俺を殺そうとしていたからな。


「岸本はこれからどうなる?」

 嫌な予感がした。目が覚めた後、岸本は正常でいられるのか?


 それを聞いた水鞠は深刻な顔になったまま動かない。


 代わりに弓の魔法使いが答える。

「意識が戻り次第、記憶を修正します。岸本紗英は長年に渡り異質な能力により改変されていました。改変者と魔法使いに関する記憶に繋がるものは全て思い出せなくなるでしょう」


 つまりそれって……。


「日高との事も忘れるって事だよ」

水鞠コトリが呟いた。


「何でだよ……俺はまだ……」

「日高はもう、魔法使いだよ。魔法使いになったんだよ」


 水鞠の言葉に愕然とする。

 いや、分かっている。理解している。彼女の命が助かったんだ。それ以上は何も望まない。


 僅かな時間の出来事だ。俺の事を忘れてしまっても、岸本紗英にとっては何も問題無いはずだ。


 月明かりが部屋に差し込む。改変された空の闇が晴れる。


 そして、全てが元に戻ってしまった。



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