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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
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第19話 日高誠と魔法解析結果

 放課後。岸本紗英との約束の前に、俺には行く場所がある。そう、いつものあの場所だ。


 だが科学室のドアを開けると、いつもの光景では無くなっていた。


 目の前に現れたのは、魔法着を纏った水鞠コトリだ。


「待ってたよ」

 背後を見ると、既に「弓」と「壁」の魔法使いが控えている。相変わらず怪しい仮面と魔法着の格好だ。


「今日は準備室じゃないんだな」

 そう確認すると、水鞠は広い科学室の中央の椅子に座った。

「もう解析が終わるから。終わり次第説明を始める」


 解析が終わる……?

 ついにこの時が来たのか。


 学校中に十枚のシールを貼り、魔法陣を造った。それは魔法士協会へ魔法使用時の解析データを提出する為だ。


 俺が岸本の運命を改変したのかもしれない。それも全部答えが出る。


 岸本には悪いが、今日は先に帰ってもらおう。何時までかかるか分からないし。


 水鞠の正面に座ると、スマホを取り出し、メールを打つ。

『今日は用事で遅くなりそうだ。相談は後日に変更を──』


「あらあら。どちらにメールを?」

 うっわ。弓の魔法使いが覗き混んで来た。どんだけ人のプライベートに興味あるんだよこの人……。


 何とか体で視線を防御し、岸本にメールを送る。


「ふ──ん」

 水鞠がジト目で俺を見ている。猫の様な目が怪しく光る。そんなのは慣れたものだ。動揺は無い。水鞠の視線を受け止める。


 さらに光がぐるぐると回り出した。

 うわっ怖ッ! 何それ!? どうやったらそんな事出来るの!?

 

「お持ちしました」

 壁の魔法使いが科学準備室から現れた。手には宅配ピザに使われている様な、平べったい形の箱を持っている。どこかで見た箱だな。


「まだ準備に時間が掛かりそうだから、これで時間を潰そう。魔法の修行アイテムだよ」

 水鞠は箱を受け取ると、机に置き、箱を開けた。


「何だ? これは……」

「魔法マージャンだけど」


 魔法マージャン!?

 いや、実は知っていた。魔法関連の携帯アプリを起動すると、ランダムで広告が表示される。その中の一つに魔法マージャンがあった。


 外国人の子供が楽しそうに遊んでいる様にしか見えなかったが、まさか修業の道具だったとは。気になっていたから、目の前にしてテンション上がってきたぞ!


 どうやらこれは普通のマージャンと同じで、絵柄と数字の組み合わせで役を作り、高い点数で速く上がった人の勝ちらしい。


「じゃあ、『蛇粗挽きルール』で」

「え? だったら『毒針』多目でいいでしょ」

「『子泣き』と『砂かけ』は有り?無し?」


 内容がさっぱり分からないが、どうやら細かいルールを設定している様だ。ていうか、最後言ってたルールだけ世界感が違くない?


 結局、「丸出しティータイム、一反もめん 、おかわり」という謎のルールで開始する。魔法っぽいワード無くなっちゃったよ!


 まあ、マージャンって時点でどうかと思うけど。


 一時間経過。まだ解析は終わらない。

 魔法マージャンは俺を除く三人がそれぞれ一勝となっている。どうやらハンデが設けてられているらしく、俺の捨て牌からは誰も上がらない様だ。


 遊んでいる様に見えて何か魔法を使ったトレーニングになっているのだろうが、今の俺ではさっぱり理解出来ない。


 水鞠はひたすら高い点数の役を作りたがり、弓の魔法使いは水鞠に有利な牌ばかりを切り、壁の魔法使いは弓の魔法使いを執拗に攻撃している。人間関係が垣間見えるな。


 とりあえず、壁先輩は弓の人が嫌いな事は伝わって来た。



 しばらくして、軽快なメロディが科学室に響いた。水鞠コトリの携帯のアラームだ。


「終わったみたい。じゃ、準備しましょう」


 解析完了の知らせの様だ。慌てて魔法マージャンを撤収する。

「あと少しで上がれそうだったのに……」



 片付け終わると、化学室の中央に全員が集まる。

「日高。手を貸して」

 水鞠が歩き出し、俺の手を取る。突然の事に驚いた。

「じゃ、行こうか」

「行くって……何処へだよ」

 動揺を隠せないまま水鞠に尋ねる。


「空へだよ!」


 猫の様な瞳に意識が吸い込まれる。

 自分が立っているのか寝ているのかも自覚出来ない。


 急激な圧力を受けたと思ったら、いきなり身体が軽くなる。空へ投げ出された様な気分だ。


 いや、これは間違い無い。


「飛んでる……」 


 三十階建てのマンション位の高さだろうか。俺の身体は空の上で停止している。


 一面に広がる雲。小さく見える建物。真下には校舎が見える。どうやら真上に飛んだらしい。


 不思議と怖さは無い。夕方になる前の夏の空の色に、ただただ心を奪われている。


 水鞠コトリが目の前に現れた。空中を滑る様に移動して来る。


「日高、前に『魔法のホウキ』が気になってたでしょ? だからこうしたんだよ」

「は?」

 そういや十八歳にならないと免許が取れないとか言ってたな。本当か冗談か分からなかったけど。何で今更そんな事を……?


「こんな事をして大丈夫なのか!? 魔法を使うと未来改変が起きるんだろ?」

 そう言うと、猫目の魔法使いは正面を向いたまま少しだけ首を横に傾ける。

「魔法を使って何かを起こさなければ大きな未来改変にならないよ」


 つまりは高校生の男女二人を空に浮かす位なら問題無いって事? 基準が良く分からないぞ。


「この世界の全ては曖昧なものなんだよ」

「スケールのデカい話だな」


「五百年前……この世界は一度崩壊しかけているんだよ。だから、何が正しいかなんて誰も分からないんだ」

 水鞠はアイススケート様に空の上を滑り出す。遠くに行ったかと思ったら、クルクルとスピンしながら戻って来た。


 見惚れている場合じゃ無い。

「今、何て言った? 崩壊しかけた?」

 いきなりのファンタジー過ぎて付いていけないぞ。


「だから魔法使い達は世界の崩壊を防ぐ為に魔法を使って世界を修復したんだ」

 水鞠は両手を空に向け、大きく息を吸い込んだ。


「世界に杭を打ち、魔法生物を作り、魔法使いは世界をコントロールする方法を編み出した。でも、強引な修正は、新しい問題を生み出した」

「『改変者』か」

「そう。『影』を生み出し、異質な力を持つ者達が生まれたんだよ」


 ゲームで言うバグみたいなものか……。魔法使いが感知出来ない事と、何か関係があるのかも知れないな。


「魔法を使用して未来を改変する事は、新たな改変者を生み出す事に繋がる。だから魔法士協会を作り、管理する事にしたんだ」


 スケールが大き過ぎて実感が湧かない。確かに、魔法の使用を制限させるには十分過ぎる理由だ。


 俺はそんなトンデモ組織に目を付けられていたのか。て事は……。


「やっぱり、俺が岸本の未来を変えたんじゃないか?」


 俺の言葉に首を振る。

「心配しないで。大丈夫。日高は岸本紗英の運命を改変していないよ。すべては偶然」

 水鞠の猫の目がゆっくりと閉じられる。


「でも問題があった。召喚魔法には本来、大量の魔力エネルギーが必要なのに、日高の魔法はそれをほとんど使用しなかった。テニスラケットに至っては、痕跡すら無い」


「どういう事なんだ?」

 嫌な予感がする。

 

「考えられるのは、違う場所から魔力エネルギーを引き寄せたか。もしくは未来、過去かもしれない」


 水鞠は続ける。

「今の魔法使いのルールには違反していない。けど、明らかに日高の能力は異質だよ」


「もしかして、問題になってるのか?」

 俺の問いに、水鞠は小さく頷く。


「日高の魔法は、未来改変に影響を与える力だよ」


 一番恐れていた事が告げられた。

 俺を疑った魔法士協会の判断は正しかった様だ。


「実はね……解析はずっと前に終わっていたんだ。でもそれを伝えたら日高が科学室に来ないと思って……。嘘をついた」

 寂しそうな笑顔になる水鞠。


 何だよそれ。意味分かんねぇよ。何でそうなった?


「アタシはね……今までずっと改変データを調べては修正する毎日だった。変わる事、変えられる事が怖かった。でも今思えば些細な事だったよ。これからの事を考えたら」

 声が震えている。水鞠コトリは必死に涙を堪えている。


「記憶を消すのか? 岸本と同じ様に」

 あの時の岸本は不自然だった。俺もあんな感じに水鞠と過ごした時間を思い出せなくなるのか?


 そんなのは絶対に御免だ。


「気付いていたんだね」

「そんな気がしただけだ」


 水鞠は溜息を吐き、何かを惟ると、逸らしていた視線を戻す。

「岸本さんは影に狙われていた。よくある、色恋沙汰の女の妬みって奴ね。記憶を消す前はアタシが魔法使いだって知っていたんだ」


 やはり岸本は魔法使いとしての水鞠と接触していたのか。水鞠と岸本の距離感が違ったのは、そのせいなのかもしれない。

 

「……岸本がそれを望んだのか?」

「そうだよ。だから日高にもそうして欲しい。水鞠家で保護をするから心配しないで。いつも通りに生活してくれていれば大丈夫だから」

 

 水鞠や他の魔法使い達に守って貰っておいて平穏な日々を過ごせって言うのか?


 俺は今までの自分を変えたく無かった。だから何もして来なかった。変える必要を感じなかったからだ。でも今は違う。


「断る。俺は憶えていたいんだ」


 わざわざ律儀に承諾を取るって事は、それが記憶を消す魔法の起動条件に違いない。

 だったら俺は自分で選ばせてもらう。


 水鞠の猫の様な目が光を失っていく。

 視線を下に逸らすと、深く深呼吸をする。


「……死ぬかもしれないよ?」

「そ……それはヤダから鍛えてくれ。ただ、恥ずかしいコードネームで呼ばれたり、仮面を着けたりしたくない。科学部に入部するから、それでいいか?」


 空は暗い青味を帯び始めていた。地平線に沿って染めるオレンジの光を侵食していく。


「本当にいいの?」


 俺は水鞠の言葉に力強く頷く。

 すると猫目の魔法使いは急に後を向いてしまった。

「水鞠?」

 ほんの少し間が空いた後、呼びかけに答える様に振り返る。いつもの水鞠の表情に戻っていた。


「じゃあ、また。科学室で」


 幾つもの白い光の柱が発生し束になる。

 視界が光で覆われると、元居た科学室に戻っていた。


 目の前では机を囲んで弓と壁の魔法使い達が慌しくタワーブロックゲームの様な物をしている。


 何で遊んでるの!? いや、違う。魔法を使用している。


 三十センチ程のグラグラと揺れるタワーを維持する為に落ちた部品を拾っては倒れない様に補修している様だ。あのブロックは魔法使用に使う補助具の様なものなのか?


 必死になっている二人の従者に歩み寄る。

「その……。日高、記憶消したく無いって」

 そして、水鞠が申し訳なさそうに伝える。


 それを聞いた二人は「え──!?」ってなっている。うん。仮面していても伝わって来る。


 もしかして、水鞠と俺が空に浮かんでいられたのは二人の働きのお陰なんじゃ……。


 やっぱり魔法を使うとその後の処理が大変みたいだ。嫌なもの見ちゃったよ。またファンタジー詐欺だよ!


「これからアタシは魔法士協会に掛け合うから。水鞠家で日高を責任をもって預かるって説明しないと」

 水鞠が自分のノートパソコンを開き、カタカタと作業を始める。仮面の魔法使い達はブロックの補修で手一杯の様だ。


 これ以上俺がここに居ても邪魔になるだけだな。先に帰らせて貰おう。


 ケータイを見ると岸本からメールが届いていた。


『じゃあ明日でいい?』

 受信したのは十五分前だ。もしかして追いつけるか?


『用事が終わった。まだ間に合うか?』

 駆け足で校門まで移動する。

 するとすぐにメッセージが届いた。


『駅で待ってるね』

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