表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
18/70

第17話 日高誠と魔法バトル

 俺の召喚魔法によって、吉田の分身体がここに来る。


 水鞠と壁の魔法使いは戦闘体勢に入った。で、俺はどうすればいいの?


「そうだった。日高はこれね。ハイ」

 水鞠から何かを渡される。何だよこれは……。


「ハリセン!?」

 よくバラエティとかで見るサイズの大きめの紙製のハリセン。ちょっと待て。これで何をしろと?


 振り返ると、水鞠と壁の魔法使いも同じハリセンを持っている。嫌な予感しかしない。


 雷が落ちる様な轟音と共に、地面に展開された魔法陣から光が溢れ出す。

 煙の渦が巻き起こり、空高くまで上昇して行く。それが吹き飛ぶと、その中心に吉田玲二が現れた。


 いや、これは分身体だ。体の半分以上が黒い霧に囲まれている。あの夜に見た時よりも更に吉田化が進んでいる。


「必ずここで消滅させるよ! 憑依させるな!」

 緊張した表情で水鞠が叫ぶ。


 それに対して、出現した分身体は、あれ? 何だここは!? って顔をしている。


 かなり混乱している様だ。そりゃそうだろう。気が付いたらいきなり学校の屋上に移動している上に、魔法着を着た奴らに囲まれている訳だ。


 しかもその内一人は怪しい仮面まで被っている。心中お察しします。


「オラァ──ッ!」

 いきなり水鞠がハリセンで吉田(分身体)を叩く。歪む顔。響く快音。


「オラオラオラ──!」

 壁の魔法使いも参戦する。バシバシ叩かれる吉田(分身体)。必死に頭を抱えて身を丸くする。


 俺から見ると、怪しい格好した謎の二人が吉田一人を囲み、ハリセンでボコボコにしている様にしか見えない。コンプライアンスはギリギリだ。


「何の冗談なんだ!? こんな事でどうやってダメージを……」

 あ、でも吉田(分身体)も、グムム〜ッ! と超人がそこそこのダメージを受けた時の様な呻き声を上げている。ただのハリセンでは無いらしい。一応ダメージがある様だ。


 これが魔法使いの戦闘なのか……。見た目がめちゃくちゃ地味なんですけど!?


「何してんの日高! アンタも参戦して!」

 叫ぶ水鞠。


 いや、協力したかったけど、予想外の映像に唖然としてしまっていた。事前に情報を教えて欲しかったよ!


 慌てていると、吉田(分身体)が、ハリセン攻撃を掻い潜り、包囲網から抜け出して来た。


 それを視認した壁の魔法使いが、立体魔法陣を展開する。

『囲え。無限壁牢(むげんへきろう)


 出現したのは立方体が幾つも重なった結晶体だ。それがガラスの様に砕け散ると、魔法の光が発生し、拡張して行く。


 次々と十メートル程の巨大な壁が地面から伸びる。一瞬で四方を塞いでしまった。壁は立体魔法陣と同じ透明で、複雑な紋様が浮かんでいる。


 それに気付いた吉田(分身体)は身を縮めると、凄まじいジャンプ力で飛び上がった。

「逃げられるぞ!」

 思わず叫ぶ俺。


 壁の立体魔法陣で作られた檻。その天井はガラ空きだ。

 嘘だろ!? 弱点が致命的過ぎる──! やっぱり部室で戦えば良かったんじゃ!?



『出でよ。炎環の弓(えんかん ゆみ)

 魔法の詠唱だ。その直後、分身体が炎に包まれる。


 バチバチと音を立て、背中の一部分が崩れ落ちた。


 弓の魔法使いが立体魔法陣を手にして現れた。炎の矢を放ち、直撃させた様だ。


 炎を振り払うと、吉田(分身体)は、そのまま壁に貼り付き、四つん這いで蜘蛛の様に登り出す。うわっキモい。


「抑えすぎた……!」

 弓の魔法使いが呟く。そうか。強力な魔法を使用すると未来改変が起きるんだったな。ハリセンで叩く事にちゃんと意味があったのか。


「今は強力な魔法は使えないんだよ。解析魔法が耐えきれなくて壊れる」

 水鞠は冷静だ。


「水鞠! このままじゃ吉田が……!」

 何て非力なんだ俺は。何も出来ない自分に苛立つ。


「大丈夫。援軍が来たよ」

 水鞠が空を見上げる。

 次の瞬間、吉田の分身体が何かに接触し弾き飛ばされた。


 掴まる場所が無くなり、そのまま勢い良く地面に叩き落とされる。


 衝撃で地面にはビビが入り、屋上の床が破片と煙と共に捲り上がった。


 水鞠達は誰も何もしていない。ここに居ない誰かの魔法だ。


 大きな羽音が一帯に広がる。

 壁の上に巨大な青い鳥が現れた。どうやらそれが分身体を叩き落としたらしい。


 俺は知っている。あれは公園で見た「鳥」の魔法使いの能力だ。


 地上に落ちた吉田の分身体は、すぐに態勢を立て直すと、水鞠に飛び掛かる、一回の跳躍で離れていた距離を縮める。


 水鞠も身構えて応戦する構えだ。被っていた帽子を地面に置くと、続けて身に纏っていた魔法着も投げ捨てる。


「どういう事!?」

 完全にいつもの制服姿になってしまった。


 吉田(分身体)が水鞠に向かって右腕の拳を振り降ろす。その攻撃を左に受け流すと、素早く背後に回り込んだ。


 分身体の腰に両腕を回し、ブリッジ状態で投げ飛ばす。ジャーマンスープレックスだ。


 美しい弧を描く様に宙を舞う吉田。


 そのまま頭から地面に叩きつけられた。地面が揺れ、衝撃音が鳴り響く。


 頭からダメージを受けた分身体はひとたまりもない。もうピクリとも動かない。


 勝負は終わった。その場にいた全員が確信した。


 あと制服でブリッジしてるから水鞠のパンツが丸見えなんですが……。今日は水色だ。


「痛ッ!?」

 弓の魔法使いが腹を殴って来た。いや、見るなって言う事? 言葉で言って!? 結構痛いから!


「コトリ様……お美しい……」

 壁の魔法使いがハアハア言いながらガクガク震えている。この人の水鞠コトリ愛はちょっと怖いな!


 気付くと、水鞠は倒れた分身体の横で仁王立ちになっていた。


 そして片腕を天に向け、勝利のポーズを取る。


 そこに投げ捨てた帽子と魔法着を持った壁の人が近付き、水鞠に着せる。

「見事な魔法投げでした」


 あー! ダメだ! 意味が分からないよ!

「魔法使わねーのかよ……」

「まあね」


 何故か水鞠は褒めてくれと言わんばかりに得意げな態度になる。いや、呆れてるだけなんですけど!?


「使わないと言っても、外に現れてないだけで、ちゃんと使ってるし。じゃないとこの細腕で分身体を投げとばせる訳ないでしょ」

 水鞠は自分の右腕で力コブを作ると、左手でパンパンと二度叩く。


 すると壁の魔法使いが自慢気に補足する。

「魔法使用は未来改変のリスクがあります。ですから、強力な魔法使い程、肉弾戦を得意とする訳です」


 納得出来る様な出来ない様な……ああ、何か考える事が面倒臭くなって来たぞ。


 「パキン」と、陶器が砕ける様な乾いた音が屋上に響く。


 横たわる吉田の分身体の全身が黒い霧に包まれ次第に崩れて行った。


 俺達は勝利した。吉田を助ける事が出来た……らしい。


 確認を終えた弓の魔法使いが携帯アプリを起動する。

「こんなに上手く行くとは……。コトリ様は召喚が成功する事が分かっていたのですか?」


 視線を一斉に集める水鞠。するとウインクをしてピースサインを作り応える。


「そんなの分かる訳無いじゃない」


「はあ!?」

 水鞠コトリの答えに、その場に居た三人の声が重なった。


「アタシは吉田玲司の事はよく知らない。だけど日高が言う事を信じてみたかったんだ」

 今迄に見た事の無い満面の笑顔を見せる水鞠。


「他人をそこまで信じきれる日高が羨ましかった。だからアタシも日高を信じたかったんだよ。それだけ」


「コ……コトリ様……」

 壁の魔法使いがプルプルと小刻みに震える。どうやら感動している様だ。仮面だからよく分からないけど、涙声になっている。


 弓の魔法使いがアプリを閉じ、俺にゆっくりと近寄る。

「今回はたまたま上手く行っただけです。召喚は本来、改変現象を起こし易い魔法。特に生物の召喚は大きな未来改変が起きるので注意して下さい」


 マジかよ。召喚魔法、怖すぎるでしょ。間違えて召喚しちゃったらどうなっちゃうの!?

 下手したら部屋が猫だらけになる危険性がある。猫派だし。


 すると水鞠の顔から笑顔が消える。

「大丈夫だよ。日高は何も気にしなくていい。私達が守るから」

 優しいが、どこか突き放した言い方だ。俺に出来る事は何も無いって事か。分かっていたけど、現実は厳しい。


 吉田の分身体が完全に消滅するのを見届けると、弓の魔法使いが呟く。

「これで影の出現が減れば良いのですが……」


「これで解決じゃないのか?」

「吉田玲二の分身体の力は、他の影に影響を与える程の力はありませんでした。まだ他に改変者がいるかも知れません」

 俺の疑問に最悪な回答をして来た。マジかよ。まだ安心出来ないって事か。


 眩しい朝の光の中、羽音が近付く。目の前に青い鳥が降り立った。


「忙しい中、来てくれてありがとう。あと少しだけお願い」

 水鞠が声をかけると、魔法の鳥は器用に羽を折り畳み、一礼をした。まるでCGアニメーションの様な動きだ。


『御意』

 そう一言だけ告げると、羽をはためかせ、空へ飛び立って行った。


「え……? あと少しって……? 契約って、もう終わりなのか?」

 こんなに短いとは思わなかった。水鞠に視線を向けると、静かに頷いた。


「今の水鞠家と短期契約してくれただけでも御の字だったよ。かなりの実力者だしね」


 よく分からないが、そういう事らしい。


 その鳥の魔法使いに圧勝した弓の魔法使いは相当に強いって事か。


 ……怒らせない様にしようっと。




 その日の夜。巷で話題になっていた無差別ストーカー犯が捕まった。三十代の普通のサラリーマンだという話だ。


 それが岸本が感じていた視線の犯人だとすれば、問題はほぼ解決した事になる。


 でも、まだ大事な事が解決していない。 


 吉田は何故「影」を生み出したしたのか。

 その理由が分からない。


 ──まだ何か起きる予感がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ