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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
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第16話 日高誠と召喚魔法

 翌日の早朝。誰も居ない教室。


 朝の柔らかい陽が窓から差し込み、澄んだ空気と音が心地良い。


 俺は一人、昨日メッセージを送った相手を待っている。落ち着いてなんかいられない。


 俺は今から来る友人が、ストーカー犯では無い事を証明しなければならない。


 今まで散々他人に裏切られて来た俺が言うのも何だが、自信はある。アイツはそんな事をする奴じゃ無い。


 そんな事を考えている内に、遠くから足音が聞こえて来る。


「どうしたんだよ。こんな朝早く急に呼び出して」

 眠そうな声を吐きながら本人が登場した。

 

 問題はこれからだ。水鞠からの指示を確認する為、スマホを手に取った。


 新しいメッセージが来ている。どれどれ。

 『吉田に影の事を話さない事。影を生み出した原因を自覚すると、覚醒が早まる場合がある』か。


 つまり呼び出しておいて本当の事は話せないって訳だ。何て説明すれいいんだよ……この状況……。


 そんな事を考えていると、吉田がニヤリと笑い、ゆっくりと歩み寄って来た。


「日高。俺は気付いているんだぜ?」

 そして妙にセリフ臭いイントネーションで話しかけて来た。


「気付いている?」

 意外な展開に返答が遅れる。何だよ。まさか全てをご存知って訳じゃないだろうな。額の汗がピタリと止まった。


 吉田はやれやれといったポーズを取ると、俺の肩を叩き、親指を立てた。

「お前なら仕方ない。 俺はスッパリ諦めるよ」

「はぁ?」

 こいつは何を言ってるんだ?


「あれ? 日高も岸本を好きになったんじゃなかったのか?」

 吉田は俺の反応に疑問を感じたのか、確認して来た。


「いやいや、違うぞ。何でそうなった?」

 慌てて聞き返す。

「もしかして日高と岸本が付き合ったって報告かと思ったんだけど……違うのかよ」

「付き合わねーよ」


 コイツは頭がおかしい。どうやったら学校のアイドルである岸本紗英と俺が付き合うと思えるのか。他の奴らが聞いたら笑い話にもならないぞ。


 でも、吉田は自分に正直なはずだ。まさか本当にそう思っているのか?


 メッセージの着信音が鳴る。水鞠からだ。


『準備が出来た。一人で科学室へ来て』


 おいおい。呼び出しておいて突然放置しろとか無茶言うなよ。吉田にしてみたらキョトンだよ。


 どうしようかとアタフタしていると、教室に誰かが入って来た。こんな朝早くに誰だよ。


「どうしたのぉ? こんな朝早くから二人で」

 その人物を見て驚いた。それはこっちのセリフだ。


 俺の何とも言えない表情を見て高崎花奈はクスリと笑った。


 ここで部外者の登場か。カオスになって来たな。


「高崎こそどうしたよ。早いな」

 吉田が素で尋ねる。

「コンクールの締切に間に合わなくて。だから早く学校に来てるの」

 高崎花奈は美術部だ。中学の頃から多くの賞を貰っているらしい。


 高崎は俺と吉田を交互に視線を合わせ、納得した様に頷く。

「前から怪しいと思ってたのよぉ。日高君と吉田君」

 やめて! 洒落にならねーよ!

「……なんて冗談だよぉ」

 高崎がまたクスクスと笑う。


 冗談に聞こえないよ! 女子の噂話って本当怖いんだから。明後日には伝説の樹の下で告白している事になりかねないから!


 高崎花奈は笑うのを止め、何かを思い出した様な仕草を取る。

「そう言えば日高くん。さっき水鞠さんが探してたよぉ?」

「水鞠が?」

 いや、そうだった! 早く科学室へに行かなきゃならん。

「吉田悪い! 話は後でな!」

「おい! 日高!?」

 ドサクサに紛れて教室を後にする。吉田が何か叫んでいるが無視だ。


 良いタイミングで高崎が来てくれて助かった。ま、来なくても教室を出るしか無かったけど。


 

 科学室の扉を開けると、水鞠コトリが待ち構えていた。お馴染みの魔法着と三角帽子を身に付けている。


「遅くない!?」

 腰に手を当てて怒りを表す水鞠。いや、無理言うなよ……。


「あと一人来て無いな……呼び出すか」

 そう言ってから水鞠はスマホを取り出し電話をかける。相手が出ると大きく息を吸い込んだ。


「出でよ! 壁〈ウォール〉!」


 叫ぶ水鞠。

 

 勢い良く科学室の扉が開く。魔法着と仮面を着けた壁の魔法使いが現れた。何かもう、息を切らせてハーハー言ってる。めちゃくちゃ走って来た感が半端ない。


 この暑い中、良くやるなこの人達……。

 面倒臭い奴に一生懸命に従って、可哀想になって来た。


 壁の人は水鞠の前に跪く。

「壁〈ウォール〉ここに」

「遅い!」

 本当に容赦ないな! 少しは労ってやれよ。遠い所から来たかも知れないのに。


 すると息を整えながら壁の魔法使いが表を上げる。

「お言葉ですが、本日は屋上にて集合のはずでは?」

「あ、そうだった」

 水鞠がそう言うと、壁の人が「え──っ!?」って驚いている。仮面をしていても伝わって来た。


 まさか屋上から呼ばれて走って来たのかよ。さすがに可哀想になって来た。


「何で屋上なんだ?」

「ここは解析魔法が発動しているから、この場所じゃ戦えないよ」

 そう言って水鞠は化学室の隅に浮く光の球体を指差す。なるほど納得だ。ていうか、やっぱり戦闘とかあるの!? 俺、無事でいられるかな。


 科学室から出て屋上へ向かう。

 この仮装行列の様な出で立ちで科学室から出るとは思わなかった。人が居ない所を見ると、人払いの術式を使っているのか。


 階段を上がって行くと、壁の魔法使いがヒーヒー言い出した。


 体力があまり無い様だ。加えて下駄の様な高いヒールの靴を履いているらしく、かなり動き辛そうだ。


 弓の魔法使いと同じく女性なのだろうか。声はどっち共に取れる感じだったが。もう、辛いならそのコンセプト止めればいいのに。


 屋上に続く扉の前で立ち止まる。

 壁の魔法使いが立体魔法陣を展開し、何かの術を施した。

「完了致しました。中へお進み下さい」


 水鞠が屋上に続く扉を開くと、朝の強烈な陽の光が差し込んで来た。


 屋上は静かだった。物音が一切しない。魔法で下準備がされている様だ。人払いの術式よりも格上の魔法なのかもしれない。


 水鞠が先に進み、振り返る。

「これより日高の引力系魔法をアタシの魔法で最大まで拡張し、吉田玲二の分身体を呼び出します」

「本当にそんな事が出来るのか?」


 人の恨み、呪い、欲望が具現化した存在「影」


 それが進化し、生み出した本人の姿になる「分身体」。それは異質な能力を使い、未来を改変する。


 実際にこの目で見たが、「来て下さい」とお願いして「おう」と気軽に答える雰囲気じゃ無かった。


「可能。ただし条件がある」

「条件?」

「吉田玲司の正確な情報が必要。間違っていたら失敗する。最悪の場合、今すぐに覚醒が起きる」


 つまりは吉田が分身体に乗っ取られるって事か。そうなれば無事では済まない。


 自我を失い、欲望のままに異質な能力を行使する、強力な化物になってしまう。


 吉田を学校に呼んだのは、そうなった時に対処する為だ。恐らくここに居ない「弓」か「鳥」の魔法使いが吉田を見張っているのだろう。


 魔法での戦闘になれば、命の保障は無い。


 吉田を救うには、分身体を召喚魔法で呼び出し、本体が乗っ取られる前に、消滅させるしかない。


「もし、吉田に裏の顔があった場合は召喚出来ないって意味だな」

 水鞠にそう確認すると、三角帽子の隙間から、猫の様な瞳を向けて来た。


「そうだよ」

「じゃあ問題無い」

 即答すると、水鞠が呆れた表情になった。


「どうした?」

「もっと悩むと思ってたよ」

 そう言って優しく微笑んだ。


「こっちへ来て、両手を前に出して」

 水鞠が後に立ち、腕を回す。そのまま手の甲に掌を乗せる。


 水鞠の体温が伝わってくる。うっわ。女の子の手ってこんなに柔らかいのか……。何かもう、ずっとこのままでいたい気分だ。


「余計な事は考えない様に」

 壁の魔法使いが舌打ちして来る。イライラしている様だ。もしかして嫉妬しているのか? 面倒臭いな!


「まずは目の前に滝が流れていると想像して。そしてその水を両手で掬うイメージね」

 水鞠の言われた通りにしてみる。するとすぐに反応が現れる。みるみる手が熱くなって行く。


「嘘……!? 早すぎる!」

 壁の魔法使いは驚きを隠せない様だ。


 何かが両手の中に集まって来る。もしかして、これが魔力の源ってやつなのか?

 水鞠が目の前に移動し、俺の両手の下に自分の手を添えた。


「今から日高の立体魔方陣を出現させる。イメージを記憶しておければ、次からは呪文無しで起動出来るよ」

 

 水鞠が呪文を唱え始めた。

 長い呪文だ。その間、壁の魔法使いは何かを警戒している。

 それが終わると、水鞠が呟く。

「我ここに、魔法陣を展開する」

「……!」

 両手に重力がかかる。腕が千切れる勢いだ。

「あ……がが……ッ!」

 言葉にならない呻きが口から出る。目が開けられない。


 眩しい光に包まれ、両手の上で凝縮する。閉じていた目を開くと、小さな球体が掌の上に浮遊していた。


 ガラス細工のように透明で、複雑な文様が刻み込まれている。


 だが次の瞬間、消滅した。

「失敗か!?」


「成功だよ。日高の立体魔法陣を半径三百キロまで広げた。これから吉田玲二の分身体をサーチする」

「どうすればいい?」

「吉田玲二の情報をイメージして。対象の情報量が術式の要求条件をクリア出来れば召喚出来る。それが出来るのは吉田玲司を理解している日高だけ」


 目を閉じて吉田玲二をイメージしてみる。


 アイツは単純でバカだ。

 見た目やメリットで人と付き合う事をしない。

 人を区別しない。人の目を気にしない。


 割とイケメンだが髪形と目つきで損をしている。声が少し高くて掠れている。


 テニス部で、運動神経は抜群だ。

 母親が作った卵焼きが好きだ。

 それから……


 岸木紗枝の事が好きだ。


 だけど友達と付き合うなら、自分は諦めると平気な顔をして言う。馬鹿みたいなお人好しだ。


 これが俺の知る吉田玲司だ。俺は信じる。


 光の配置が入れ替わる。それは複雑な模様の魔法陣に変化した。

「これは……!?」

 思わず戸惑いの声を上げる。


「サーチ出来た! 日高! 出来たよ!」

 水鞠が叫ぶ。

 

 光と風が渦を巻いている。凄まじいエネルギーだ。

「来るよ! みんな準備して!」

 水鞠と壁の魔法使いが身構える。


 ちょっと待て。準備って何?

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