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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
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第14話 日高誠と未来改変者

「あれは無理だ。諦めろ」


 次の日の昼休み。いつもの様に吉田と二人で弁当を食べながら、昨日の「岸本紗英の好きな人を見に行く」謎イベントの報告をしていた。


 ずっと難しそうな顔をした吉田は、自分のキンピラゴボウを俺の弁当箱に放り込むと、トンカツを一切れ攫って行く。


「分かってるよ。テニス部の先輩に訊いたからな。 文武両道でイケメン。元部長で生徒会役員。男版の岸本紗英だ」

 

 新澤晴人。それが岸本の片想いの相手の名前らしい。


 この学校の卒業生で、元テニス部なのは前に伝えていた。現テニス部の吉田がフルネームや評判まで把握するのは簡単な事だった様だ。だったら最初からやっておけよ……。

 

 吉田は生まれつきの鋭い目を閉じ、何か考えを巡らせている。

「まさか岸本の好きな人が実在していたとはな……」

「存在ごと否定していたのかよ!」


 どうりで二度も告白した訳だ。岸本の言う事を信じていなかったのか。


 すると吉田は箸を置き、深呼吸をする。

「調べて良かった。これはチャンスだ」

「何が!?」

 秒で訊き返す俺。こいつ……ショックの余り頭のネジが吹っ飛んでるのか!?


 そんな考えを嘲笑うかの様に、吉田がドヤ顔で親指を立てる。

「相手がそれだけの完璧超人なら、岸本が振られる可能性もあるって事だろ?」

 

 最低だな! ダメな方向にポジティブ過ぎるでしょ……。


「仮にそうなったとしても、お前が岸本と付き合える話にはならないぞ」

「そこは努力とゴリ押しよ!」

 目を輝かせる吉田。


 ダメだこいつは。今は何を言っても燃料を投下するだけになりそうだ。今は説得するのは諦めよう。


 吉田には注意が必要だ。

 鳥の魔法使いが言うように、最近俺は「影」に出会い続けている。吉田だけは巻き込みたく無い。面倒臭いし。



 午後になると雨が降り出した。それは放課後になると嘘の様に晴れ渡る。何だが変な天候だ。


 湿度も相まって室内が蒸し暑い。

 止まらない汗を拭いながら科学室へ向かう。そろそろ解析結果が出ていてもおかしくないはずだ。


 階段を降りた所で自然と足が止まる。


 湿った空気が一転する。

 それは別の感覚に変化した。

 この無数の細かい棘が皮膚を打つ感覚──。


「誰かが魔法を使っている……?」


 どこかに影が出現しているのかも知れない。

 意識を研ぎ澄ませる。上だ。上の階……? 違う。屋上か?


 降りていた階段を戻る様に駆け上がる。屋上へ続く通路の場所は知っていた。


 通路の封鎖が解かれている。予感は当たったらしい。気にせず侵入し、屋上の扉を力任せに開く。

 

 次の瞬間、強風が身体を押し戻して来た。

 体勢を立て直し抵抗する。何とか前に出ると、異様な光景が目に飛び込んで来た。



「来たんだね……日高」

 ゆっくりと水鞠が振り向いた。


 水鞠は紺色の魔法着を纏い、頭には三角帽子を被っている。今戦闘が終わった様な雰囲気だ。いや、実際そうだろう。影の気配が無い。


 そして側にはイレギュラーな二人が立ち並ぶ。


「部員が増えたなら紹介してくれよ」

 冗談だ。そうでは無い事はすぐに分かった。


 二人は水鞠と同じ色の魔法着を身に着け、不気味な模様の入った仮面をしている。


 オマケに身長が百八十センチ以上はある。マトモな人間なら、こんな格好の新入部員は即お断りしているだろう。


「こっちが『弓』で、こっちが『壁』ね」

 水鞠が指をさして雑に紹介する。


 いきなりの登場かよ。この学校に潜む水鞠家の魔法使いの二人だったらしい。怪しい雰囲気だから、敵だと言われても疑わなかった。


 不気味な出で立ちは魔法使いのユニフォームみたいなものだったらしい。


 水鞠は屋上の中央を指差す。

「今、『飛び降りる影』を消滅させた所だよ」

「飛び降りる……ってまた物騒な名前だな」


「そんな物騒な事をしようとしている生徒が、この学校に居るって事だよ。負のエネルギーが、影となって現れた」

「何だって?」


「恐らく女性。家庭の事情だね。条件に該当する生徒が何人かいる。これから実際に会い、相談に乗って影の発生と、本人の飛び降りを防ぐ」

 人生相談も魔法使いにとっては重要な仕事って事か? 守備範囲広過ぎでしょ。


「事態は思ったより深刻になった。日高にも協力して欲しい。詳しくは化学室で」

 これは異常事態らしい。

 それはそうだ。このペースで影が出ていたら魔法使いは何人必要になるんだよ……。



 まるでひと昔前のRPGの様に四人並んで移動を開始する。謎にテンションが上がってしまった。


 科学準備室に到着し、扉を開けると充満していた蒸れた空気が流れて込んで来る。

「暑……」


 いつもの椅子に水鞠コトリが座る。その背後に魔法使いの二人が並び立つ。ちょ……暑苦しい!


 科学準備室は八畳位で棚やら器具やらで狭い空間なのに、この出で立ちでは圧迫感が半端ない。しかも熱くないの? もう夏休み近いのに。


「座って」

 水鞠に言われるがまま、俺は対面の椅子に座った。


 すると、弓の魔法使いがスッと動き出した。冷蔵庫から飲み物を取り出そうとする。


 狭い空間に四人も居る上に、室内温度が高いから喉が乾いていた所だ。怖そうな格好なのに優しいな。


 だが、冷蔵庫は小型な為、取り出すには狭い空間で小さく屈まなくてはならない。弓の人は体勢が厳しいのか、プルプルし出した。何かハーハー言ってる。


 大丈夫か、弓の人!? そんな格好でいるから……。もう脱いじゃえば!? 壁の人は静観していて助けようともしないし。どうなってんの!?


「あ、手伝いますよ」

 見ていられないので俺は弓の人に意思表示をする。

「ちょっと! 話聞いてる!?」

 水鞠が切れて来た。いつの間にか話を始めていたらしい。あー。もう、どうすりゃいいんだよ!


 弓の魔法使いはどうにかアイスティーのポットを手にすると、人数分のグラスに入れて机に置く。そしてペコリとお辞儀をした。


 今一瞬、見えてしまった。弓の人はおそらく身長が低い。無茶苦茶高いヒールを履いていた。いや、ヒールというか、下駄に近い。あと、動きで分かってしまった。多分女性だ。


 そんな中身であんな姿勢したらハーハーも言うわ。結構正体のヒントが出て来たな。まさか知ってる人間だったりするのかな。


 気を取り直して初めから話し始める水鞠。


「この一週間で六体の影が確認されている。しかも狭い範囲の中で。これは異常なんだよ」

 溜息をつく水鞠。相当に疲れているらしい。俺の知らない所でそんな事になっていたのか。


「何が原因なんだ?」

「近くに改変者が隠れている可能性がある。強力な改変者は、他人の影を引き出す特性があるから」


「カイヘンシャ……って一体何なんだ?」


「影を生み出し、『未来を改変する者』。中には自分の能力を自覚して犯罪を犯す奴も居る。影の力で未来改変を成立させると世界崩壊に繋がる。そうなる前に捕らえたい」


「世界崩壊!?」

 またスケールが大きくなって来たな。だが今度は冗談では無さそうだ。とんでもない事になって来た。


 水鞠は紅茶を口に含むと、テーブルにそっっと置いた。カランと氷が滑る音が鳴る。


「実際はそうはならない。崩壊が起きる前に魔法士協会が動き、事態を処理するから」

「じゃあ、初めから頼ってみたらどうだ?」

 何だよ。簡単な話じゃないか。


「領地内の改変現象を管理するのが魔法使いの一族の役目。それが失敗すると色々困る」

「例えば?」

「予算が降りなくなるし、失態が続けば最終的に他の一族に吸収される。当主として、それは絶対に避けたい」


 段々ションボリして元気を失って行くのが分かる。

 何だか益々辛気臭くなって来たな……。もっと俺に夢と希望のファンタジーを見せて欲しいよ……。


「て言ったって、どうやって見つけ出せばいいんだ? 魔法じゃ探す事が出来ない……だったよな」


 そこで弓の人が咳払いをし、全員の視線を集める。

「経験と推理です。改変者に自覚が無い場合は難易度がさらに上がります」


 いきなり弓の人が話し出した。やはり女性だ。低くて落ち着いた声だ。


 そういえば、岸本を狙っていた「追う影」の時も、水鞠は俺の事を尾行していた。


 魔法使いなのにやってる事は全然ファンタジーじゃないよ……。完全にファンタジー詐欺だよ。


「普段と違う出来事や違和感を感じたらすぐに連絡して欲しいんだよ。解析魔法を展開中の今なら、何か気付く事があるかもしれないから」

 そういうものらしい。理屈が分からないが訊くのも面倒臭い。

「了解」

 と、短く返事をしてみる。

 素人の俺に頼る程、切迫詰まっているって事だ。


 これは他人事じゃない。俺の魔法の暴走から全てがおかしな事になっている気がする。面倒臭いじゃ済まされない事態だ。


 水鞠が立ち上がる。

「いい? すぐに連絡するんだよ!」

 

「了解」

 また短く返事を返す。

「…………」


 ……ん? あれ? 水鞠が動かないぞ? まだ何かを言いたげな雰囲気だ。


「いい? 日高。すぐに連絡してよね!」

「あ? ああ。分かったよ。了解」

 そう言うと、水鞠は目を合わせたままプルプルと震えだす。


「日高! 何かあったら私に連絡するんだよ!」

 水鞠が俺の腕を掴んで来た。え!? 何!?

 何だよ。しつこいな。何で繰り返してるの!?

「分かったよ。連絡すればいいんだろ?」


 すると慌てて弓の人が俺に近付く。そして小声で話しかけて来た。

「これを」

 そう言って一枚の紙切れを渡して来た。 

 え!? 何だ? 慌てて紙を見る。すると、そこには連絡先が書いてあった。


 あ。これ、たぶん水鞠コトリのアドレスだ。


「連絡先、何でもっと早く教えて貰わなかったんですか? 本当にあり得ない。あなたのも教えて下さい! もう!」

 弓の魔法使いに怒られた。小声で、早口で。

 そういえば水鞠と携帯で連絡する事も無かったからな。連絡先知らなかった。だったらそう言えよ……。


 何で今、俺から言わせようとしたんだよ。意味が分からないよ。



 水鞠と二人で科学室を出ると、仮面の二人はいつの間にか居なくなっていた。今日はこれで解散らしい。


 別れ際、夕日を浴びる校門の前で水鞠が立ち止まると、スマホを出して作業をし出した。

 すぐに俺のスマホが鳴る。どうやら水鞠から何かが送られて来たらしい。


「今、改変現象の大まかな動きが分かるアプリのアドレスを送っといたから、ダウンロードしといて」


 慌ててスマホを確認する。送られて来たアドレスを見て驚いた。マジかよ。まさかオレンジストアから無料ダウンロード出来るとは。魔法使い進んでるな。


「あ、無料版は魔法関係の広告が出るから」

「逆に気になるな。それ」

 コトリはずっと連絡先を聞かれるのを待っていて、そういう事に憧れていた。という内容です。


 弓の魔法使いとの関係性も表現したかったのですが、ちょっと苦しかったかも知れません。

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