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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
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第13話 日高誠と叫ぶ影

 俺はとっさに着ていたシャツを脱ぎ、地面に叩きつけた。

 そして影に向かい、大声で叫ぶ。

「────────!!」


 声は出ない。だが叫び続ける。

 これが有効かは分からないが、今はそれしか思い付かない。


 もしマジックミラーみたいに外から丸見えだったら最低だ。完全に変態野郎だ。通報案件だ。だが俺も必死だ。これでダメならズボンを下ろす覚悟だってあるぞ。


 すると影の動きが止まる。叫び声が呻き声に変わった。


「……!?」

 マジかよ効果あったのか!? ズボンも行っとくか?

 

 ベルトに手を掛けた瞬間、異変に気付き、動きを止めた。

 何だあれは……!?


 突然、青色の液体が空間から落ちて来た。


 それは地面に到達すると、立方体のブロックに変化する。


 影がもう一体!? いや、違う。


 鳥だ……!

 ブロックは巨大な翼を持つ青い鳥に姿を変えた。表面は羽毛では無く、液体が波打った紋様が浮かび上がっている。


 そして空に向かい鳴き声を上げると、激しい衝撃波が放たれた。


「音が……聞こえる……!」

 影の能力を打ち破ったらしい。

 俺ですら判断出来る。あの鳥は、強力な魔力を持つ存在だ。


 いや、前にあれを見た事があるぞ。

 確か科学室で……? 何で忘れてたんだよ俺は。あれは解析魔法を破壊しようとした魔法の鳥じゃないか!


 「叫ぶ影」の動きが完全に停止した。そこに魔法の鳥が猛スピードで襲いかかる。


 獲物の首に爪を食い込ませると、金属同士が擦り合う様な不快な音が響き渡った。思わず耳を塞ぐ。


 影は抵抗するまでも無く粉々に砕け散った。破片がスローモーションの様に漂う。


 ……ズボンに手を掛けたまま立ち尽くす俺。


「くっくっく……」


 どこからともなく笑い声が聞こえる。


「失礼。あまりにも面白い光景だったのでつい……。いきなり服を脱ぎ始めるとは思いませんでした。全く意味はありませんでしたが。くっくっ」

 暗闇の壁から声の主が現れた。


 ──魔法使いだ。


 それはすぐに理解出来た。水鞠コトリと同じ紺色の魔法着を身に着け、不気味な仮面をしている。こんな奴、魔法使いじゃなかったら単なる変態だ。


『戻れ。磨爪青鳥(まそうせいちょう)

 そう呟くと、鳥が青い塊に変化し、消滅する。


 若い男の声……中身は恐らく二十代以上の大人だ。


「初めまして日高誠君。私は新しく水鞠家と契約した魔法使い……鳥のコードネームを与えられし者です」

 そう言って一礼する。


 どうやら能力がそのまま呼び名になっているらしい。弓と壁もそうなのかも知れないな……。なんて考えてる場合じゃ無かった。


 コイツは部室棟の人払いの魔法と、化学室の解析魔法を破壊しようとした魔法使いだ。本当に信用出来るのか?


「御安心を。魔法使いの契約は絶対です。だからこうして影の討伐をしているのです?」

 俺の考えている事を察したらしい。ワザとらしく、優しい声で語りかける。


「あれも影なのか……」

 前に見たヤツと明らかに雰囲気が違う。別物かと思った程だ。


「影は強力になる程、人間に近い形になり、様々な改変現象を起こします。先程の影は、公園の騒音に対して苦情を言っていた男が生み出したものです」

「だから音を奪う能力を持っていたって訳か」

「その通りです。このまま影を放置していれば、本体は障害事件を起こしていたかも知れません。もしくは殺人……それ程に強い怨念でした」


 でも周りを静かにさせて、自分の言いたい事を大声で叫んでいたぞ? 本当に被害者なのか怪しいな。


「……おっと。もう少し話したかったのですが邪魔が入った様です」

「邪魔?」

「まさか水鞠家があれ程の強力な魔法士を隠し持っていたとは驚きでしたよ……では、これで失礼致します」

 

 仮面の魔法使いが一礼し、何かを手渡して来た。


 手の平サイズの折り鶴だ。

 いや、これは……折り鶴の形をした……。


「立体魔法陣!?」


 それはガラスの様に砕け散った。

 光を放出しながら破片が暗闇の壁を溶かしていく。


『貴方は影に出会い過ぎています。ご注意を……』


 気が付くと仮面の魔法使いの姿が消えていた。

 イチイチ格好付けるタイプらしい。面倒臭いな……。



「何してるの?」

 岸本が背後に立っていた。いきなりの出来事に驚いた。黒い壁は完全に消え、元の世界に戻っていた。


「無事だったか!」

 反射的に岸本の両腕を掴みかける。が、慌てて引っ込める。


「え……う、うん。家に電話して来るって言ったつもりだったんだけど……。日高こそ大丈夫?」


 え……? どういう事!?

 ここで客観的に自分を見てみよう。

 

 まず半裸だ。シャツを地面に叩きつけたから。色白でヒョロい身体が眩しい太陽に照らされている。


 そしてズボンはひと昔前のストリートファッションの様に腰パン状態になっていた。


 全然大丈夫じゃない。


 慌てて服を拾い着る。シャツに砂が着いて汚れている。どんだけワンパク少年なんだよ俺は……。冷たい視線が辛すぎる。


 シャツを着て一息ついていると、今度は謎の衝撃が身体を襲った。


 巨大な何かがぶつかり、そのまま地面に押し倒される。

「ちょ、え!?」

「日高!?」


 抵抗する間も無く何かに顔を舐め回され、粘液塗れになってしまった。


 体高六十センチはある大型犬だ。誰だよリードを外して散歩させている奴は……。迷惑過ぎるでしょ……。


「ごめんなさい日高くん!」

 その声に驚いた。

 鼻に掛かるアニメの様な声。


 同じクラスの高崎花奈だ。え? 何でここに?

 高崎は白のシャツにジーンズのラフな格好で、手にはリードを持っていた。高崎の飼い犬だったのか。


「急に走り出しちゃてぇ……どうする事も出来なくてぇ……あ、ああ。シャツが砂だらけになってるよぉ」

 高崎が涙目になって謝ると、巨大な犬は俺から離れて高崎のすぐ側に移動した。


 立ち上がり、シャツの砂を払う。

「いいよ。最初から汚れていたんだ」

 格好付けた訳じゃ無い。本当の話だ。それに高崎花奈は身長が百四十センチ弱しか無い。こんな巨大な動物を制御するのは至難の技だ。責められないだろ。


 岸本をふと見ると、緊張した表情で硬くなっている。犬が苦手なのかな。


「…………」

「…………」

 誰かが何かを話し始めるかと思い、無言の空間が続く。


 微妙な空気を察して高崎がニッコリと微笑む。

「何かお邪魔みたいだから私、帰るね。また学校で。本当にごめんね日高くん。岸本さん」

 そう言うと、巨大な犬を引き連れて立ち去って行った。

 岸本と二人、栗色の髪の少女を見送る。


「何か勘違いしてるぞ高崎」

「……そうね」

 一言だけそう答えた岸本は、何故かホッとしている。


「高崎さんは同じ中学校だから。ここから家が近いの」

 なるほど。水鞠と岸本、高崎の三人は同じ中学出身らしい。美人が集まり過ぎだろ。パラダイスかよ。


 そういや、俺と岸本が公園に居た事が噂になったら面倒臭い事になるのか? 

 いや、それは無い。誰も信じないに決まっている。そんなファンタジーな話。


「高崎さん可愛い……。私もあんな風になりたい……」

 岸本が溜息をつく。


「……そうだな。可愛いよな」

 高崎花奈は俺の理想の女の子を絵に描いたような存在だ。でも何故か今は、それが嘘っぽく見えてしまう。何故かは分からない。


 かかっていた魔法が解けただけなのかも知れない。



 夕方の日差しの中、岸本紗英と二人で公園を出て駅へ向かう。

 「岸本紗英の好きな人を見に行く」謎ミッションもこれで終了だ。色々有り過ぎて疲れたよ……。


 ……あれ? 岸本との歩く距離が遠い気がする。何故か視線が合わない。


「どうした?」

「……別に」

 やけによそよそしい。

 うん。これはあれだ。さっきの俺の行動にドン引きしているのだ。突然の半裸への不信感だ。変態扱いされても文句は言えない。


 ……明日、水鞠に正しい影の対処法を聞いておこう。

 このままだと影と対峙する度に距離が広くなる気がする。



 家に帰った後、吉田には今日の内容を簡単にまとめてメールを送信した。すると「明日また詳しく聞く」とだけ返信が届く。

 吉田のメールはいつも短い。変わらない文体に安心した。


 今日は色々有り過ぎて疲れた。部屋に着くなりベッドに倒れ込む。


 ヤバい。夕飯の前に風呂に入らないと……ああ、眠い。意識が遠くなって行く。


「…………?」

 窓がガタガタと震え出した。落ちかけた意識を引き戻す。……嫌な予感がする。


 ベッドから飛び起き、慌てて窓を全開にした。

 凄まじい暴風と共に、部屋に何かが飛び込んで来る。部屋のポスターが破れ、小物やらて一緒に飛び散る。


「成長したじゃない」

 そう言って現れたのは水鞠コトリだ。いつもの魔法着姿だ。なんて日だよ。もういい加減休ませてくれ!


 風が止むと、破壊された物が逆再生の様に元の状態へ戻る。


「いちいち窓を壊されると虫が入って来て面倒なんだよ。こんな時間に何の様だ?」

 そう言ってピシャリと窓を閉める。今は十八時過ぎだ。魔法使いの時間には早過ぎるだろ。


「座って」

 またかよ……。仕方無く部屋の中央に正座する。

 水鞠はベッドに深く腰を下ろして隣をポンポンと叩いた。

「違う。こっち」

 どうやら隣に座れという事らしい。


 やれやれと言われた通りにする。床に正座じゃ無くて良かったよ。


 ベッドに二人、横に並んで座ってしまった。この瞬間に家族に飛び込まれたら完全にアウトだな。


「アタシに……何か言う事無いの?」

 やたらと不機嫌そうな素振りだ。

 水鞠に言う事? ああ、あったあった。明日学校で訊こうと思っていたんだ。


「前に科学室で魔法の青い鳥が妨害して来た事を忘れていたんだ。俺は誰かに記憶を消されている。水鞠は知っているのか?」

 記憶が曖昧で気持ちが悪い。はっきりさせたい。


「その事!? えっと、そ、そう……! その時に居たのはアタシだよ。記憶の改竄は鳥の魔法使いの能力……だった気がする」

「何か嘘っぽいな!」

「嘘じゃ無いし! 本当だし! 他に言う事無いの!?」


 えっと他に言う事なんてあったっけ? ああ、そうだ。


「今日、影に出会ったんだよ。どう対処すれば良かったんだ?」

「その事!?」


 じゃあどの事なんだよ……。


「決まりは無いよ。影の特性を見抜いて意外な行動を取れれば行動を止められる。それだけ」


 影と対峙した時には消滅させるのが一番なのは分かる。だが、今の自分がすぐに影と戦う力を使える様になるとは思えない。

「今の所は多少の変態行動を覚悟しなくてはならないって事か……」

「何それ!?」


 仕方無く水鞠に今日起きた事を細かく話した。岸本紗英と何故公園に居たのかまで説明した。


「そういう事!?」

 いちいち水鞠のリアクションがデカい。何がそういう事なんだ?


「ふ……ん。岸本さんにも困ったものね! 何か……聞いていたのと違ってた」

 納得した様な表情になると、ベッドから立ち上がる。


「じゃ、また科学室で」


 窓を破壊される!? 慌てて立ち上がる。だが水鞠は普通に窓を開け、勢い良く飛び出して行った。


 窓の外まで追いかけたが、既に姿は無い。


 ……一体何しに来たんだよ……アイツは……。

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