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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
13/70

第12話 日高誠と向日葵

 日曜日、本日も晴天だ。

 現在、訳も分からないまま友人の片想いの相手と駅で待ち合わせをしている。


「お待たせ」

 岸本紗枝が現れた。

 コマンド?


▶︎たたかう

ーじゅもん

ーどうぐ

ーにげる


 まあ、ここはこれだろ。


▶︎にげる


「ちょっと! 何で逃げるの!?」

 いかん。嫌すぎてリアルに逃げてしまった。そうだった。自分より強い相手からは逃げられないのは必然。


 そもそも今、俺の頭の中は八ビットのレトロゲームの様になっていて、岸本の姿が表示出来ない様だ。容量が全くたりていない。最新ハードでもスペックギリギリなのに無茶やらすなよ。


 覚悟を決め、深呼吸したら現実世界に戻っていた。


 岸本は麦藁の帽子に白の半袖のシャツ、細身のジーンズを身に着け、靴はサンダルで肩から白い鞄をかけている。


 シンプルたが他の人が同じ格好してもこうはならないだろう。素材の良さのレベルが違う。周りからの視線が痛い。


 女子の初めて見る私服姿というのは何故にこんなに眩しいのか。解明したらノーベル賞ものだ。


 ちなみに俺の格好は青いシャツにベージュのパンツ。お互い同性の友人と買い物に行く程度の服装だ。


「いくつか質問があるんだが」

「何?」

「何故に駅集合? 家は近いだろ」

 むしろ隣みたいなものだ。


「家に迎えに行く訳? 私達まだ連絡先すら知らないのに?」


 ああ。そういえばそうだった。電話番号どころか、メッセージアプリの番号すら知らなかった。


「休日に会う友人とは連絡先を交換するのがマナーでしょ。はい」

 そう言って岸本はスマホの連絡先通信機能をオンにした。

 えっ。知らなかった。高校生ってのは面倒臭いマナーがあるのな。


 きしもと の れんらくさき をてにいれた!


 謎のファンファーレが脳内に流れた。こんなノリじゃないとやっていられない。


「じゃあ行きましょう」

 そう言って岸本は改札へ向かう。いい笑顔過ぎて嫌な予感がする。何が始まるんだよ。


「で、何処に?」

 俺は訊きたかった二つ目の質問をする。

「私の好きな人を見に。私の住んでいた場所へ」

「何故!?」

「その位いいでしょ? まだ変な視線を感じるし……一人で歩くのまだ怖いし……」


 ようやく理解した。つまりあれだ。好きな人に会いたいけどストーカーが怖いって事か?


 前に水鞠がストーカーの「追う影」を消滅させた後からは被害の噂を聞かなくなっていた。岸本の勘違いの様な気がするけどな……。


「吉田じゃダメだったのか?」

「いい訳ないでしょ!? 日高は信用出来るから良かったの。私の事、興味ないって言っていたし」


 確かに言った。お互い告白されてもいないのに、何故か振る事になったあの校舎裏で。


 こんな展開アリかよ。この異常な状況に吉田はどう思っているんだ? ケータイを見ると、吉田からメールが届いていた。


『相手がどんな奴かを見極めろ。そして俺に伝えて下さい。日高様』


 上からか下からかどっちかにしてくれよ。吉田としても、はっきりさせたい様だ。


 ……諦めて付き合うとするか……。



 電車に乗って移動する。三つ先の高校の在る、いつもの駅で降りた。


 毎日登校で乗っているのに、私服の岸本と二人だと景色が全く違って見える。


「少し歩くけど、いい?」

「了解」


 住宅地が並び、時折田畑が見える。都内から電車で一時間のこの場所では、よく見る風景だ。


 蝉の鳴き声が重なり、空には入道雲が顔を出している。ああ、夏だなぁ。なんて感じてしまった。


 だから余計に、このシチュエーションの異常さが引き立ってしまう。何でこんな事になったんだよ……。意味不明だよ。


 他人と関わるとロクな事が起きない。

 その呪いは当分解けそうも無い。


 

 しばらく進むと、暑さで歪んだ景色の奥に黄色い帯が顔を出す。


 ちょうどテニスコート位の大きさの向日葵畑だ。綺麗に咲き並んでいる。岸本はその前に来ると足を止めた。


「私、向日葵が好きなのかも知れない」


 突然の呟きに驚いた。

「何だよ……今気付いたのか?」

「変?」

「変じゃ無いけど……」


 不思議に思った。だって、この場所は一ヶ月前まで岸本が住んでいた場所だ。見慣れているはずだろ。


「じゃあ、ここで告白してみたらどうだ? 案外上手く行くかも知れないぞ?」


 凛とした岸本紗英の個性に、向日葵が良く似合う。まるで映画のワンシーンの様だ。


「冗談は止めて。もう行きましょう」

 そう言って再び歩き出す。


 ……悪くないと思ったけどな。

 まあ、俺のセンスなんて全く当てにならない訳だし、どうでもいいか。



「晴人さんっていうんだ。その人」

「は?」

 岸本に追いつき、隣に並んだ直後に言われた。


 どうやらそれが岸本紗英の好きな人の名前らしい。


「三つ年上の近所に住むお兄さんなんだけど。あ、住んでいた……か。小学生の時から好きで、ずっと後ろを歩いていたの」

 麦わら帽子の陰から恥ずかしそうに顔を覗かせる。


 年上か。大人びた岸本の事だから納得だ。


「中学生になったら、晴人さんは高校生になっていて、同じ学校には通えなかったんだけど、晴人さんと同じだからテニス部に入ったんだ」


 まさかテニスを始めるキッカケになっていたとはな。確かにその方が話題が増える。


 科学部に入ったのは水鞠が目的だと決め付けて来たのは、自分の実体験があったから、だったらしい。


「家が近いからたまに道で会った時に話をしたりとかして……ちょっと! 話聞いてる!?」

 岸本が振り返り、鬼瓦の様な形相になる。さっきまでとの落差が凄まじい。


「普通に話を聞いていたつもりだったけど」

「返事が適当過ぎ」

 厳しいな……。それは全然自覚が無かった。まあ、興味無かったし。



 向日葵畑からしばらく歩くと、また岸本の足が止まる。


「ここが前に住んでいた家」

 指を指した家は二階建てで広い庭のある立派な家だ。中途半端な時期の引越しの理由は何だったのかは気になる。


 しばらく進むと、お洒落なアパートを指差す。

「晴人さんの住んでるアパート。大学に行ってからはここに住んでる。実家もすぐ近くね」

「行くのか?」

「いきなり行くわけないでしょ! どうせ今は家に居ないし」

「怖ッ!? 何で分かるんだよ!」

「ち、違うから! 日曜日のこの時間はバイト中なの!」

 ああ、そういう事か。一瞬ストーカー的な事を想像してしまった。



 そこから歩いて十分程。大きな県道に出た。道沿いにお洒落なカフェが見える。


 何故か中には入らず、遠くの電信柱の影から覗いている。何かめっちゃ怪しいんですけど。

「何してるの!もっと隠れて!」

 まるでサービスエースを狙っているかの様な鋭い目付きになる岸本。いや、相手は俺の事知らないだろうし隠れる意味無いでしょ……。


「い、いた!」

 岸本の鼻息が荒くなる。カフェのテラスに出てきたのは眼鏡をかけた茶髪の超イケメンだ。


 身長は百八十センチ以上、テニスで鍛えたと思われる引き締まったボディ。笑顔にはインテリジェンスを感じさせる。背の高い岸本と並べば、お似合いのカップルに違いない。


 吉田、無理だわ。相手が悪すぎる。


 俺達ドット族はフルポリゴン族には敵わない。奴らは容量不足でキャラがチラつく事も、セーブデータが消える事もないのだ。勝負にならんぞ。

 

 そうだ。吉田に報告するのを忘れていた。

 高速でメールを打ち、送信する。

 とりあえず相手の容姿については判明したぞ。あとは中身だ。調査を開始する!

 

「入るぞ!」

 岸本に問い掛ける。

「……帰りましょう」

「何で!?」

 彼女の言葉に驚いた。帰るって何だ? 訳が分からん。


「今日は入らない。ていうか、実は一度も店に入った事がないの」

 何か急にモジモジし出した。どういう事だよ。え!? まさか……。嘘だろ?

「今までもこうやって……?」


「いつもはしてないから! こう、ちょっと元気が無い時とか……アルバイト上がりを出待ちして、たまたまを装って話しかける位だから」

「それストーカーだよ!」

「違うから!」

 自覚が無いとかタチが悪すぎる! 知り合いなんだから堂々と話せよ……。


 でも、あの完璧超人の岸本紗英にこんな一面があったとは思わなかった。不覚にも可愛いと思ってしまった。


「本当にいいのか? 帰っても」

「うん。今日は確認したかっただけだから」

 確認って……何のだ? まあ、気が済んだならそれで良いけど。

 

 カフェを離れ、二人並んで歩き出す。来た道とは違う方向へ向っている様だ。

 

 岸本が公園の前で立ち止まった。

「日高、ちょっと時間ある?」



 二人並んでベンチに座る。目の前には小さ目の池があり、ボートを漕げる様になっていた。そこそこ大きい公園だ。


 日差しは強いが涼しい風が吹いていて気持ちいい。木陰になっているこの場所は過ごしやすい。休日の割に人が少ないのは、この暑さのせいだろう。


 ケータイを確認すると、吉田からメールが来ていた。イケメン情報を送った後の返信だ。


『マジかよ。でも中身は最低の女たらしかも知れん。調査せよ。お願いします日高様』


 どうやってだよ……。どちらにしても、もう遅い。俺は目標とは離れ、公園に居る。

 その事をメールすると、一瞬で返信が来た。


『良く考えたら、ウチのテニス部のOBなんだよな? 先輩に聞いてみるわ』


 そんな探偵まがいの事をしていいのか!? これについては何も返さないでおこう……。


「何をコソコソしているの? また吉田?」

 岸本が眉間にシワを寄せて覗き込む。俺は慌ててケータイを尻のポケットに入れた。


「隣にこんな可愛い女の子が座っているのに、贅沢な男ね」

 そう言って冗談ぽく微笑む。


 本当にそうだ。岸本は超が付く程の美人だ。しかも無愛想でキツかった出会った頃とは違う。


 良く笑うし、妙に優しい。これが本来の岸本紗英だとしたら、吉田の好きな「クールな岸本」とは何だったのだろうか。


「今日はありがとう日高。私、きっと一人では晴人さんに会いに行けなかった」


 実際には会ってないし、ストーカーっぽい事してたけどな。なんて言える雰囲気じゃ無い。


 風が吹くと、岸本は被っていた麦藁の帽子を片手で抑える。

「突然の引越しなんて無ければ、こんな事にはならなかったんだけどね」

 

 原因を作ったのは俺かも知れない。

 俺の魔法の暴発が、岸本紗英の未来を改変させてしまったとしたら……やっぱり責任を感じる。


 何せ魔法士協会とやらが調査しろと言って来る位だ。水鞠は否定していたが、あり得る話だろう。


 ベンチに寄り掛かり空を見上げる。

 雲が風に流されている。上空はかなりの強風の様だ。雲が千切れ、渦を巻く。


 ……いや、ちょっと待て。早過ぎないか?


 まるで早送りの様に変化している。こんな事は有り得ない。まさか……!?


 皮膚に小さな針を刺す様な違和感が続く。空気がピリピリと張り詰める。


「岸本……!」

 すぐに声を掛ける。隣に座っていたはずの岸本の姿が消えている。

「居ない……!?」


 異変はそれだけじゃ無い。

 子供の遊ぶ声、鳥の鳴き声、車の音……全ての音が消えている……!?


「…………! …………!?」

 声が出ない。いや、掻き消されているのか? 一帯が無音の空間に改変されている。


 視界が闇に覆われ、黒い壁に囲まれている。


 これは……「影」の能力だ。


 すると遠く離れた公園の入口に黒い物体が現れた。それは次第に人の形に変化し、こちらに向かって歩いて来る。


『キキー、キキキキ、キキキ──』


 音の無い世界に金属音の叫び声が響き渡る。そして影の形がより人型に変化した。


 髪の毛、目、鼻、口……形が見て取れる。「影」が人間の姿になった。


『キ、キ、ウ、る、きはキキキ──!』


 何かを訴える様に叫びながら距離を縮めて来る。

 前に見たものとは明らかに違う。これも影なのか?


 影に有効なのは「意外な行動」だ。この場合は──。


 ──どうすればいいんだ!?

 慣れていないデート回を書く事に照れてしまい、出だしのグラフィックを8ビットゲームにしていました。


 改稿の際に変更も考えたのですが、あえて残す事にしました。

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