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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
引力魔法と科学室の魔法使い
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第11話 日高誠と岸本紗英

 魔法陣を作成して三日が過ぎた。


 俺は放課後に科学室で課題を進め、水鞠は向かいの席でノートパソコンを叩く。帰る時には「また明日」と言われ続ける日々だ。


 水鞠コトリの言っていた対策とやらが機能している為か、あれから妨害を受けなくなっていた。解析の方は順調に進んでいるらしい。


 これで全て平穏な日常に戻った。……かと言うと、実はそうでも無い。



「ちょっと! 何でまた無視するの!?」


 岸本紗英が背後から叫ぶ。

 学校からの帰り道、駅の改札口で岸本と頻繁に遭遇する様になった。


 これがもの凄く面倒臭い。気付かずにスルーすると怒って追いかけて来る。


 おそらく、ストーカーの作り出した「追う影」に遭遇してから、夜道が怖くなったのだ。


 気持ちは分かる。俺も影と対峙してから、しばらくは怖くて眠れなかった。


「今日も科学室? 水鞠さんと毎日何をしているの?」

 岸本に質問される事は覚悟していた。


 俺も他人だったら知りたくなる。あの猫の目を持つ、現実離れした姿の少女と、二人でコソコソ何をしているのかを。


「未来の科学について熱い議論をしているんだよ。昨日はロボット燃料の話だな」

 

 嘘じゃない。水鞠の好きなアニメ「白ねこムヒョー」に出て来るロボットの燃料が米油だと言う話を熱く聞かされていた。


 メチャクチャどうでも良かったので聞き流していたが、意外と役に立つものだ。


 水鞠との会話の半分は「ムヒョー」関係だ。正直、科学部じゃなくてムヒョー愛好会だと言っていい。


「意外。ちゃんと活動しているのね」

 驚いた顔のまま固まる岸本。一体何をしてると思ってたんだよ。


「テニス部の方は大変そうだな。最近、吉田が毎朝疲れた顔で教室に来るぞ」

 体力自慢の吉田であれだ。心配にはなっていた。


「ウチは昔から結構ガチで有名だからね。今はスイブの方が大変かも知れないけど」

「スイブ? ああ、吹奏楽部か。何かあったのか?」

「知らないの? 新しく来た先生が凄く厳しいみたいで、いきなり金賞目指すとか目標立てているらしいよ。イケメンだから女子が大騒ぎしてるでしょ? わ、私はあまりタイプじゃないけどね」

 またどうでもいい情報だ。正直興味が無い。


「いや、知らん。先生が変わった事すら知らなかった」

 すると岸本は深い溜息をつく。

「もっと水鞠さん以外にも興味持った方がいいと思うけど」

 そして何故か不機嫌になってしまった。


 残念ながらそんな余裕は無い。早く解析が終わって平穏な日々に戻りたい。今はそれしか考えられないんだよ。俺は。



 翌日。科学室に訪れると、いつもの様に水鞠が報告書を作成していた。何だかこれが普通になってしまっている。

 

 高速でタイピングする魔法使いの顔を見続けていると、ピタリと指が止まった。


「何?」

「俺はいつまで通い続ければいいんだ?」

 ついに訊いてみた。すると水鞠はキーボードを叩いていた手を休めると、少し哀しそうな猫の瞳を向けて来た。


「ここに居るの……嫌だった?」


 意外な返答だ。嫌だったら居なくても良かったって事か?

「いや、どうせ暇だし、別に構わないけど」

 分かっている。ちゃんとした答えになっていない。

 

 質問されて、はっきりと自分の気持ちに気付いてしまった。


 この空間はむしろ居心地が良かった。


 静かだし、水鞠と時折話す学校の世間話は新鮮で楽しい。こんな感覚は初めてだったから、妙に照れ臭くなってしまっていた。


「ならいいけど」

 水鞠は俺の言葉に安心した様子で報告書の続きを書き始める。


 俺は行き場を失った視線を、科学室に浮かぶ解析魔法の光る球体に移した。


「そう言えば、妨害していた魔法使いがどんな奴か分かったのか?」

 部室棟に仕掛けた人払いの術式を壊されてエライ目に遭った。その後が気になる。


「ああ、言ってなかったね。弓の魔法使いが捕まえたよ」

「マジかよ!?」


 俺の知らない所で魔法バトルが終了していたらしい。


「相手は隠密魔法の使い手で、かなりの術者だったけど圧勝した。水鞠家の『弓』は最強クラスだからね」

「目的は何だったんだ?」

「日高の魔法解析の阻止」

「そのまんまだな」


 俺が呆れた様な受け答えをすると、水鞠がパソコンのキーを叩き始めた。

「組織に雇われていたみたい。水鞠家に捕まった段階で契約が自動解除されていたから、詳しくは分からなかったよ」

「組織?」

「魔法士協会」

「なるほどな。魔法士協会か……」


 あれ……? 魔法解析を指示して来たのは魔法士協会だろ? そして妨害者を雇っていたのも魔法士協会って事は……。


「頭がおかしいのか?」

「あそこは巨大な組織なんだよ。派閥もあるから、そういった事が稀にある」

 

 よく分からない世界だ。面倒臭いな。魔法使いって奴は。

「捕まえた妨害者はこれからどうなるんだ? まさか死、あるのみ……なんて事あるのか?」

 だったら流石に引く所だ。


「フリーになっていたからスカウトした」

「大丈夫なのかよ!?」

「報酬さえ渡せば仕事をして貰える。ウチも人手不足なんだ。優秀な人材なら歓迎だよ。今後はしばらく水鞠家で働いてもらう事になったから、よろしく」


 ビジネスライク過ぎない? 益々ファンタジーとかけ離れて行くな……。洗脳して無理矢理仲間にするよりはいいけどさ。


 父親の持っているレトロゲームで、円盤を操作して洗脳光線を放つ謎シューティングがあったな。なんてどうでもいい事を思い出した。

 

 水鞠は深い溜息をつく。

「日高もスカウトしたかったけど、難しくなったよ」

「そんな事考えてたのかよ……」

「言ったでしょ。今は人手不足なんだよ。でも魔法士協会が動くって事は、きっと日高の能力に何かあるんだ。このまま何も起きなきゃいいけど……」


 いきなり不安になって来たぞ。

 でも、魔法の事は水鞠に任せるしか無い。俺は自分の事で精一杯だ。


 ……大丈夫。きっと何とかしてくれる。


 

 その日の帰り道。いつもの改札口に岸本紗英の姿が無かった。


 時間はいつもと変わらない。ケータイを取り出して確認する。

「そういや、岸本の連絡先なんて知らなかった……」

 毎日会っているから逆に気にしていなかった。


 「影」の気配は無い。人の流れもある。大丈夫だ。一人で帰ろう。……いや、一応もう少し待ってみるか?


 なんて悩んでいる間に、次の電車がホームへ入って来た。しばらくすると岸本紗英が階段から降りて来る。


 改札口を出ると、不安そうな表情で辺りを見回す。俺を見付けると、飼い主を見付けたワンコの様に駆け寄って来た。何か可愛いな。


「今日は遅かったな」

「部活終わりに告白されたから。吉田に」

「また!?」

 告白再チャレンジするの早過ぎでしょ……。もうちょっと間を開けようよ。


「あ、これ、言っちゃいけなかった?」

 口を抑え、焦った様な仕草を見せる。


「どうせ後で本人から話を聞かされるから大丈夫」

 それを聞いた岸本は安心した表情になる。


「大変だな。いろいろ気を使うだろ?」

 吉田は同じテニス部だしな。

「そうね……でも慣れてるから。こういう事」


 美人には美人の苦労があるらしい。俺には無縁の悩みだ。


 岸本と二人、駅を出て同じ方向の家に向かう。最近は学校のアイドルと並んで歩く事に違和感を感じなくなっていた。慣れって怖い。

 

 しばらくすると、ケータイに着信音が鳴る。吉田からのメッセージだ。


『俺は修行の旅に出る。人間になる為に』


 動揺して打ち込んでるから人間辞めてた事になってるよ……。吉田。お前は立派な人間だ。胸を張れ。そんな励ましの内容を返す。


 すると、すぐに返信が届いた。

『やっぱり諦めが付かないぞ。岸本の好きな奴を探し出す! この目で確かめて、俺が認める程の男なら納得する』


 修行の旅は秒で終わった様だ。吉田のメンタルの強さには感服するよ。ま、落ち込む性格じゃないしな。ていうか、何で上から目線何だよ。


 何だ? またメールが来たぞ。

『岸本から聞き出せ』

 マジかよ……。何で俺が? 超面倒臭い!

 でも仕方無い。何よりも吉田の頼みだ。


「なあ。岸本」

「何?」

「岸本の好きな人って、どんな人なんだ?」

 すると、岸本は突然立ち止まり、鋭い視線を向けて来た。

「何で日高がそんな事を聞いて来るの?」


 あ、これストレートに訊いちゃいけないヤツだった?


「吉田でしょ。そうなんでしょ」

 岸本が一歩、二歩と詰め寄って来る。

 すまん吉田。いきなりバレた。


「昔から憧れている人がいる……だっけ? そんな理由だと、まだチャンスがありそうだって思うんじゃないのか?」


 それを聞いた岸本は、溜息をついて空を見上げる。

「それで二回も告白して来た訳ね。私は正直に言っているだけなのに……」

 そう言ってそのまま動かなくなる。


 長く艶やかな髪がなびく。「絵になる」って、こう言う事なんだろうな。いや、見惚れている場合じゃない。


「岸本」

 俺の呼びかけに答える様に、岸本はゆっくりと視線を下ろす。


「どんな人か知りたい? 私の好きな人……」


 そして恥ずかしさと、嬉しさとが合わさった様な、今まで見た事の無い表情を見せた。


「まあ……そうだな……」

 あの岸本紗英をここまで変える存在……。ちょっとは気になる。


「じゃあ、今週の日曜日、午後一時に駅前に集合ね!」


「……はい?」

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