第8話 模擬戦、そして認められる
演習場には、学園中の生徒が集まっていた。「村人A」対「伯爵家の麒麟児」という組み合わせは、いつの間にか学園中の話題になっていたらしい。
「絶対レイヴン様が勝つに決まってる」 「でも試験のあれ、見たでしょ?」 「村人Aって、実は隠しダンジョン級の実力者なんじゃ……」
(噂って、こんな短期間でここまで広がるものなのか)
観客の視線を一身に浴びながら、俺はレイヴンと向かい合った。彼の目は、真剣そのものだった。
「言っておくが、手加減はしない。全力でいく」
「……はい。俺も、全力でいきます」
その言葉に、レイヴンが一瞬、驚いたような顔をした。おそらく彼は、俺がまた「たまたま」だとか「油断してました」とはぐらかすと思っていたのだろう。
だが、もう隠さない。ミラの言葉を思い出しながら、俺は前世の全てを、初めて自分の意志で解放することにした。
「始め!」
審判の合図と同時に、レイヴンが踏み込んでくる。速く、鋭く、そして確かな積み重ねを感じさせる一撃だった。実際、彼の剣は本物だ。伯爵家の三男として、血のにじむような努力を重ねてきたのだろう。
だが、俺の身体に刻まれた三年分の経験は、その上を行っていた。
一合、二合と剣を交える中で、俺は初めて「隠す」ことをやめ、正面から実力をぶつけた。受け流すのではなく、真っ向から打ち合う。押し合いになった瞬間、力の差は誰の目にも明らかだった。
「――くっ!」
レイヴンの木剣が、大きく弾かれる。体勢を崩した彼の喉元に、俺の木剣の切っ先が、ぴたりと止まった。
「……そこまで!」
審判の声が響いた瞬間、演習場が、割れんばかりの歓声に包まれた。
レイヴンは荒い息を整えながら、地面に片膝をついていた。しばらく無言だったが、やがて、ふっと笑った。
「……完敗だ」
「いえ、レイヴンさんの剣も、本当にすごかったです。伊達に努力してきたわけじゃないのがよく分かりました」
「慰めはいらん。……だが」
レイヴンは立ち上がると、俺に向かって手を差し出した。
「お前を認める。村人Aだろうが何だろうが関係ない。俺はお前を、好敵手として――いや、友として認めよう」
その手を、俺は握り返した。前世を含めても、こんな風に真正面からぶつかり合って認められた経験は、あまりなかった気がする。
「これからよろしくお願いします、レイヴンさん」
「ああ。それと――今後は敬語はいらん。同じ学び舎の仲間だ」
その日を境に、「村人A」という肩書きは、学園の中で少しずつ違う意味を持ち始めた。見下される対象から、一目置かれる存在へ。
俺自身も、少しずつ気づき始めていた。
隠すことをやめた自分の方が、案外、ずっと生きやすいのかもしれない、と。




