第7話 ライバルの宣戦布告
その日の夕方、俺は学園の廊下でレイヴンに呼び止められた。
「――待て」
振り返ると、彼は昼間とは打って変わって、真剣な表情をしていた。
「昼間のあれは、何だ」
「何と言われても……ただの模擬戦、ですけど」
「とぼけるな。あの動き、あの反応速度。教官クラスの実力者を三本連続で圧倒するなど、並大抵の才能ではない。……いや、才能などという言葉では片付けられん」
レイヴンは俺の目をまっすぐ見据えた。
「俺は、伯爵家の三男として、幼い頃から剣術を叩き込まれてきた。誰よりも努力してきた自負がある。それが――」
彼は一度言葉を切り、拳を握りしめた。
「辺境の村人ごときに、あっさりと超えられるというのか」
(いや、それは……)
言い訳しようとした瞬間、レイヴンの表情がふっと変わった。怒りではなく、どこか純粋な、闘志のようなものが浮かんでいる。
「いいだろう。認めよう、お前の実力は本物だ。だからこそ、俺は正式に挑戦する」
「え」
「一週間後、学園の演習場で。俺とお前で、正式な模擬戦を行う。逃げるなよ」
「いや、あの、俺は別に目立ちたくは――」
「もう目立っている」
正論に、また何も言い返せなくなった。
レイヴンは踵を返すと、廊下の向こうへ歩いていった。その背中は、先ほどまでの「見下し」の色は消え、ただ真っ直ぐに前を見据えているように見えた。
(面倒なことになったな……)
そう思いながらも、俺はどこかで、この展開が嫌ではない自分に気づいていた。ミラの言葉が、頭の中でよみがえる。
『いっそ、開き直った方がいいんじゃない?』
(そう、だな。もう、隠すだけ無駄なのかもしれない)
一週間後の模擬戦。それは、俺が初めて「地味に生きる」ことを完全に諦める、きっかけになる出来事だった。




