第4話 幼馴染の忠告
その夜、俺は井戸端で頭を冷やしていた。王都行きの話を、もう少し整理したかったからだ。
「カイト、こんなところで何してるの」
声をかけてきたのは、幼馴染のミラだった。村長の孫娘で、物心ついたころから一緒に遊んできた仲だ。彼女は俺の隣にちょこんと腰かけると、井戸の縁をこつこつと指で叩いた。
「王都から人が来たんでしょ。学園への推薦がどうとか」
「耳が早いな」
「村中の噂だもの。……行くの?」
俺はしばらく黙ってから、正直に答えた。
「まだ迷ってる。俺はただ、目立たずに暮らしたかっただけなんだけどな」
ミラは、それを聞いて小さく吹き出した。
「無理でしょ、それ」
「え」
「カイト、自分じゃ気づいてないでしょうけど。あなた、昔からそうだったよ。畑仕事を手伝えば誰よりも早く終わらせるし、狩りに付いていけば誰よりも獲物を見つける。今回のことだって、たぶん、あなたにとっては『ちょっと本気を出しただけ』の感覚なんでしょ?」
図星すぎて、何も言えなかった。
「でも周りから見たら、そうじゃないの。あなたが『ちょっと』のつもりでやってることが、他の人にとっては一生かかっても届かないレベルだったりする。……気づいてないだけで」
ミラはそこで、真剣な顔を俺に向けた。
「私はね、カイトが地味に、平凡に生きたいって気持ちも分かる。でも、無理に隠そうとすればするほど、逆に目立って、変な誤解を招くと思う。だったら――」
「だったら?」
「いっそ、開き直った方がいいんじゃない? 隠すんじゃなくて、堂々とやる。そのほうが、あなたらしい気がする」
ミラの言葉は、思いのほか胸に響いた。前世でも、こんな風に率直に指摘してくれる人間は少なかった気がする。
「……考えとくよ」
「うん。でも――」
ミラは立ち上がりながら、少しだけ寂しそうな顔を見せた。
「王都、行くなら行くで、ちゃんと言ってね。黙って行くのだけは、なしだから」
「分かってるよ」
彼女の背中を見送りながら、俺は改めて夜空を見上げた。ゲームの中で何百回と見た星の並びが、今は妙に現実味を帯びて見える。
(地味に生きる、か……)
その方針を、そろそろ本気で見直す時期なのかもしれない。
数日後、俺は王都行きの推薦状にサインすることになる。辺境の村での日々に、一つの区切りがついた瞬間だった。




