第3話 都からの使者
村長との一件から数日後。俺はいつも通り、村はずれで木剣の素振りをしていた。「せめて村の中では地味に」という決意は、もはや誰も信じていなかったが、本人だけはまだそのつもりでいた。
そこへ、見慣れない馬車が村に入ってきた。
紋章入りの立派な馬車だ。村の子どもたちが物珍しそうに集まる中、中から降りてきたのは、いかにも「都会の役人」といった風貌の中年男だった。
「この村に、カイトという少年がいると聞いてきたのだが」
(嫌な予感しかしない)
素振りをやめて近づくと、男は俺を上から下までじろじろと眺めた。
「ふむ……見た目は普通の少年だな。ゴードン殿からの報告では、王国騎士団長クラスの技量とあったが」
「あの、それ誰情報ですか」
「村長殿だ。先日、辺境防衛の件で王都に報告書を上げてきておってな。その中に、お前の一件が付記されていた」
(村長ぁ! 予防線、意味なかったじゃないですか!)
心の中で盛大に突っ込みながらも、表情には出さないよう努めた。男は懐から一枚の羊皮紙を取り出す。
「王都の騎士学園、その特別選抜枠への推薦状だ。年に数名しか選ばれぬ、実力者向けの枠でな。ゴードン殿と村長殿、両名の強い推薦がある」
「いや、俺はその、村人Aなので……特に才能とかは」
「村人Aが騎士団長クラスの一撃を放つ、という時点で、既に才能の証明は済んでおる」
(この理屈、もう何回目だ)
「悪いようにはせん。学園に通えば、衣食住はすべて国持ち。しかもお前の実力なら、卒業を待たずして騎士団への正式採用も夢ではない」
正直なところ、心は揺れた。前世のゲーム知識を最大限に活かすなら、王都という「イベントの中心地」に行った方が色々と都合がいいのも事実だ。それに――
(このまま辺境にいても、また似たようなことの繰り返しになる気もするしな……)
「少し、考えさせてください」
「うむ、良い返事を期待している」
男が馬車に戻っていくのを見送りながら、俺は小さくため息をついた。
地味に生きる、という当初の目標は、もはやどこかへ消えかけていた。




