第2話 村長の顔色
翌朝、俺はゴードンさんに連れられて村長の家を訪ねた。
正直、気は重かった。てっきり「昨日のあれは何だったんだ」と詰め寄られるものだと思っていたからだ。ところが村長――白髪交じりの、やけに背筋の伸びた老人は、俺の顔を見るなり、なぜか安堵したような表情を浮かべた。
「……やはり、来たか」
「え?」
「いや、こちらの話だ。まあ座りなさい」
促されるまま椅子に座ると、村長はゴードンさんから昨日の一件を聞いたのだろう、机の上に古びた地図を広げた。地図には、村を中心に赤い印がいくつも打たれている。
「この村は、な。表向きはただの辺境の農村だが……実は、王国の東の防衛線上にある。数年前から、この森の奥に魔物の巣が広がり続けていて、いずれ村が飲み込まれる、という調査結果が出ておる」
「はあ……それは、大変ですね」
「大変どころではない。だが村には、まともに戦える者がおらん。ゴードンは剣術の心得こそあるが、あくまで指南役止まり。本職の騎士や冒険者を呼ぶには金が足りん」
村長はそこで一度言葉を切り、まっすぐに俺を見た。
「そこへ来て、お前だ」
「え、いや、俺はただの村人Aで――」
「村人Aが、王国騎士団長クラスの一撃をゴードンに叩き込むかね」
正論すぎて、何も言い返せなかった。
「カイトよ。お前の出自は聞かん。詮索もせん。ただ、お前の力があれば、この村は救われるかもしれん。……頼めるか」
(いや、これは。断りづらいにも程がある)
前世の記憶からすると、この手の「お願い」を安請け合いすると、大抵は後で大きな騒動に巻き込まれるフラグだ。ゲームでもよくあった。「この依頼を受けると町の英雄になれる」系のクエストは、大体その後にもっと厄介な話が控えている。
だが、目の前で頭を下げる村長と、その隣で真剣な顔をしているゴードンさんを見ていると、「関わりたくないので断ります」とはとても言えなかった。
「……できる範囲で、力を貸します」
「本当か!」
村長の顔が、ぱっと明るくなる。
(できる範囲、って言ったよな。俺、ちゃんと予防線張ったよな)
その予防線が、翌週にはあっさり意味をなさなくなることを、この時の俺はまだ知らない。




