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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第九十八話 透明都市の夜明け

感情は、人を傷つける。

でも、“誰かを愛した記憶”は、最後に人を救う。

 向こう側の透明都市が、崩れ始めていた。


 


 


 ネオンが、光の粒になって消えていく。


 


 


 ビルの輪郭は薄れ。


 


 


 道路は、静かな砂みたいに崩れていた。


 


 


 でも。


 


 


 不思議と恐ろしさはなかった。


 


 


 まるで。


 


 


 長い夢が終わっていくみたいだった。


 


 


 レンは、その景色を静かに見つめている。


 


 


 感情回収者の女は、紗凪の隣で小さく笑っていた。


 


 


 身体はもう半分以上透けている。


 


 


 紗凪は涙を止められなかった。


 


 


 「……嫌だ」


 


 


 女は優しく娘の頭を撫でる。


 


 


 その指先は、光になり始めていた。


 


 


 「泣かないで」


 


 


 紗凪は首を横に振る。


 


 


 「無理……っ」


 


 


 震える声。


 


 


 「やっと、ちゃんと話せたのに……」


 


 


 その言葉で。


 


 


 女の目が、少しだけ揺れた。


 


 


 きっと。


 


 


 この人もずっと、“母親”でいられなかった。


 


 


 感情を抱え続ける役目の中で。


 


 


 人としての時間を、少しずつ失っていった。


 


 


 女は静かに言う。


 


 


 「紗凪」


 


 


 娘が顔を上げる。


 


 


 女は、涙みたいに優しい声で続けた。


 


 


 「ちゃんと、人を好きになりなさい」


 


 


 紗凪の涙が溢れる。


 


 


 女は少し笑った。


 


 


 「苦しくても」


 


 


 「傷ついても」


 


 


 「それでも、人を好きになれるのが、人間だから」


 


 


 その言葉は。


 


 


 レンの胸にも深く刺さった。


 


 


 美月を思い出す。


 


 


 怖かった。


 


 


 壊れそうだった。


 


 


 でも。


 


 


 それでも、好きだった。


 


 


 多分それが、“感情を抱えて生きる”ってことなのだ。


 


 


 その時。


 


 


 空が、大きく光り始める。


 


 


 向こう側の都市全体が、淡い朝焼けみたいな色へ変わっていく。


 


 


 レンは目を細めた。


 


 


 「……朝?」


 


 


 紗凪が小さく呟く。


 


 


 「向こう側が消える時、最後だけ朝が来るんです」


 


 


 レンは空を見る。


 


 


 ずっと夜だった街。


 


 


 感情を閉じ込め続けた場所。


 


 


 そこへ、初めて朝が来ていた。


 


 


 感情回収者の女は、その空を見上げる。


 


 


 そして。


 


 


 静かに笑った。


 


 


 「綺麗ね」


 


 


 その瞬間。


 


 


 彼女の身体が、光へ溶け始める。


 


 


 紗凪が泣きながら手を伸ばす。


 


 


 「母さん!!」


 


 


 女は最後に、レンを見る。


 


 


 まっすぐ。


 


 


 静かな目だった。


 


 


 そして。


 


 


 小さく言った。


 


 


 「ありがとう」


 


 


 レンは息を呑む。


 


 


 何に対する“ありがとう”なのか。


 


 


 全部はわからなかった。


 


 


 でも。


 


 


 きっと。


 


 


 “感情を消さない選択”をしてくれたことへの言葉だった。


 


 


 次の瞬間。


 


 


 感情回収者の女は、朝の光へ静かに溶けていった。

読んでいただきありがとうございます!

ついに“向こう側の透明都市”が終わりを迎えました。

次回、レンたちは現実世界へ戻ります!

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