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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第九十話 君を失う恐怖

“失う恐怖”は、愛が深いほど大きくなる。

でも、本当に必要なのは、“怖くないこと”じゃない。

 レンの涙は、静かに頬を伝っていた。


 


 


 向こう側の透明都市。


 


 


 ネオンが滲む街。


 


 


 感情だけが漂う世界。


 


 


 その中心で。


 


 


 レンは、“捨てた自分”と向き合っていた。


 


 


 昔の自分は、少しだけ笑っていた。


 


 


 泣きそうな顔のまま。


 


 


 『……おせぇよ』


 


 


 その声は、怒っていた。


 


 


 でも。


 


 


 どこか安心したみたいでもあった。


 


 


 レンは苦しそうに息を吐く。


 


 


 胸の奥が、熱い。


 


 


 昔の自分は静かに言う。


 


 


 『俺、ずっと怖かったんだよ』


 


 


 レンは顔を上げる。


 


 


 『美月がいなくなるの』


 


 


 その瞬間。


 


 


 街の空気が、少し揺れた。


 


 


 レンは息を止める。


 


 


 交差点の奥。


 


 


 暗いネオンの向こうに、“誰か”が立っている。


 


 


 長い髪。


 


 


 白い服。


 


 


 輪郭は曖昧。


 


 


 でも。


 


 


 レンは一瞬でわかった。


 


 


 美月だった。


 


 


 いや。


 


 


 “美月を失う恐怖”そのものだった。


 


 


 その存在は、静かにレンを見る。


 


 


 そして。


 


 


 小さく呟いた。


 


 


 『置いていくね』


 


 


 レンの胸が、強く痛む。


 


 


 昔の記憶が、一気に流れ込む。


 


 


 返信が来ない夜。


 


 


 嫌われたと思った瞬間。


 


 


 既読だけが増えていく画面。


 


 


 不安。


 


 


 孤独。


 


 


 捨てられる恐怖。


 


 


 全部。


 


 


 レンの中に、ずっと残っていた。


 


 


 レンは頭を押さえる。


 


 


 苦しい。


 


 


 でも。


 


 


 逃げたくなかった。


 


 


 その時。


 


 


 “美月の形をした感情”が近づいてくる。


 


 


 『なんで信じてくれなかったの』


 


 


 その声で。


 


 


 レンの呼吸が止まる。


 


 


 違う。


 


 


 これは本物の美月じゃない。


 


 


 でも。


 


 


 確かに、“自分の中にあった恐怖”だった。


 


 


 レンは震える声で言う。


 


 


 「……怖かったんだよ」


 


 


 街が静まる。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「好きだったから」


 


 


 「失うのが怖くて」


 


 


 「だから、勝手に壊れてた」


 


 


 涙が止まらない。


 


 


 レンは苦しそうに笑った。


 


 


 「ほんとは」


 


 


 「もっと信じたかった」


 


 


 その瞬間。


 


 


 “美月の形をした感情”の輪郭が、少し揺らぐ。


 


 


 レンは、やっと理解する。


 


 


 感情は。


 


 


 消したから消えるわけじゃない。


 


 


 向き合わなかったから。


 


 


 ずっと化け物みたいに膨らみ続けていたのだ。


 


 


 その時。


 


 


 “美月”が、静かに聞いた。


 


 


 『……今は?』


 


 


 レンは涙を拭う。


 


 


 胸はまだ痛い。


 


 


 怖さも、完全には消えていない。


 


 


 でも。


 


 


 今なら、ちゃんと言えた。


 


 


 レンは、真っ直ぐその存在を見る。


 


 


 そして。


 


 


 静かに答えた。


 


 


 「それでも、好きだよ」


 


 


 その瞬間。


 


 


 “美月の形をした感情”は、静かに光へ溶けていった。

読んでいただきありがとうございます!


第九十話です。

レンはついに、“美月を失う恐怖”そのものへ向き合いました!

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