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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第八十七話 境界エレベーター

街が壊れ始める時、“見えてはいけない境界”が現れ始める。

 その夜。


 


 


 レンは、眠れなかった。


 


 


 部屋は静かだった。


 


 


 でも。


 


 


 頭の中だけが、ずっと騒がしい。


 


 


 “向こう側”。


 


 


 感情が溜まる場所。


 


 


 もう一つの街。


 


 


 全部、現実感がない。


 


 


 なのに。


 


 


 紗凪の言葉だけは、妙にリアルだった。


 


 


 レンはベッドから起き上がる。


 


 


 時計を見る。


 


 


 午前三時。


 


 


 街が一番静かになる時間。


 


 


 その時。


 


 


 スマートフォンが震えた。


 


 


 知らない番号。


 


 


 レンは少し迷ってから出る。


 


 


 『……起きてる?』


 


 


 紗凪だった。


 


 


 レンは眉をひそめる。


 


 


 「なんで番号知ってんだよ」


 


 


 『アカネさんに聞きました』


 


 


 絶対嘘だと思った。


 


 


 でも。


 


 


 今はそこじゃない。


 


 


 レンは低く聞く。


 


 


 「なんだよ」


 


 


 少し沈黙。


 


 


 そして。


 


 


 紗凪が静かに言った。


 


 


 『境界、開き始めてます』


 


 


 レンの呼吸が止まる。


 


 


 『今から来れます?』


 


 


 ―――――


 


 


 透明都市中央区。


 


 


 午前三時二十七分。


 


 


 レンは、人のいないビル街を歩いていた。


 


 


 夜風が冷たい。


 


 


 ネオンは点いているのに。


 


 


 妙に静かだった。


 


 


 紗凪は、古い雑居ビルの前に立っていた。


 


 


 黒いパーカー姿。


 


 


 昼間より、さらに人間味が薄い。


 


 


 レンは近づきながら聞く。


 


 


 「……何が起きてる」


 


 


 紗凪はビルを見上げる。


 


 


 「見た方が早いです」


 


 


 レンは眉をひそめる。


 


 


 二人はビルへ入る。


 


 


 古い建物。


 


 


 誰もいない。


 


 


 でも。


 


 


 なぜか妙な圧迫感があった。


 


 


 奥には、古びたエレベーター。


 


 


 鏡張り。


 


 


 少し錆びている。


 


 


 レンは違和感を覚える。


 


 


 このビル。


 


 


 さっき外から見た時、こんなエレベーターあったか?


 


 


 紗凪が静かに言う。


 


 


 「これ、“境界エレベーター”です」


 


 


 レンは思わず笑う。


 


 


 「ネーミング終わってるだろ」


 


 


 でも。


 


 


 声が少し引きつっていた。


 


 


 紗凪はエレベーターのボタンを押す。


 


 


 開く。


 


 


 中は、異様に暗かった。


 


 


 鏡だけが、ぼんやりレンを映している。


 


 


 紗凪が言う。


 


 


 「感情を大量に売った場所には、“境界”ができるんです」


 


 


 「この街、もう限界近いので」


 


 


 レンは息を呑む。


 


 


 紗凪は静かに続ける。


 


 


 「最近、夜に“変な夢”見る人増えてません?」


 


 


 レンは目を細める。


 


 


 確かに。


 


 


 真奈も。


 


 


 シロも。


 


 


 「知らない街の夢」を見たと言っていた。


 


 


 紗凪が、エレベーターへ乗り込む。


 


 


 そして。


 


 


 レンを見た。


 


 


 「来ます?」


 


 


 レンは迷う。


 


 


 普通なら帰る。


 


 


 でも。


 


 


 もう知ってしまった。


 


 


 この街がおかしいことを。


 


 


 そして。


 


 


 その異常が、自分とも無関係じゃないことを。


 


 


 レンは小さく息を吐く。


 


 


 「……行く」


 


 


 エレベーターへ乗り込む。


 


 


 扉が閉まる。


 


 


 その瞬間。


 


 


 鏡の中の自分が。


 


 


 一瞬だけ、“泣いている顔”に見えた。

読んでいただきありがとうございます!


ついにレン、“向こう側”へ繋がる入口へ足を踏み入れました。

次回、透明都市の裏側――“感情が溜まる街”が姿を現します!

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