第八十四話 感情回収者
“捨てた感情”には、必ず“行き先”がある。
店の照明が、一瞬だけ揺れた。
レンは思わず天井を見上げる。
すぐ元に戻る。
でも。
妙に嫌な感覚だけが残った。
アカネは静かに珈琲を淹れていた。
まるで、こういう空気に慣れているみたいに。
レンは低く聞く。
「……その女って、結局何者なんだよ」
アカネは少し考える。
そして。
ぽつりと言った。
「“感情回収者”」
レンは眉をひそめる。
アカネは続けた。
「正式な名前じゃない」
「ただ、昔の査定士たちはそう呼んでた」
店内は静かだった。
アカネは窓の外を見る。
「感情を売るってね」
「実際には、“消えてる”わけじゃないの」
レンの呼吸が止まる。
アカネは静かな声で続けた。
「切り離されて、回収されてる」
その瞬間。
レンの背筋へ冷たいものが走る。
回収。
つまり。
どこかに“行き先”がある。
レンは低く聞く。
「……誰が回収してる」
アカネはゆっくりレンを見る。
そして。
静かに答えた。
「その女」
空気が重くなる。
レンは言葉を失った。
アカネは続ける。
「査定士は、ただの仲介」
「本当に感情へ触れてるのは、“向こう側”」
レンの胸がざわつく。
向こう側。
その言葉が、妙に現実感を失わせた。
レンは苦笑する。
「……急にオカルトみたいになってきたな」
アカネは小さく笑った。
「この街、最初からずっとオカルトよ」
その返しが妙に真顔で。
レンは逆に笑えなかった。
その時。
店の扉が開く。
鈴の音。
冷たい夜風。
一人の少女が立っていた。
高校生くらい。
黒髪。
制服姿。
でも。
レンは、その瞬間妙な違和感を覚える。
感情が薄いわけじゃない。
むしろ逆だった。
“感情が多すぎる”。
少女は静かに店内を見回す。
そして。
アカネを見つけると、小さく笑った。
「こんばんは、査定士さん」
その声だけで。
レンの背筋が粟立つ。
なぜかわからない。
でも。
“普通じゃない”と直感した。
アカネも、珍しく表情を固くしている。
少女はカウンターへ近づいた。
ゆっくり。
静かに。
そして。
こう言った。
「“回収”のお手伝い、しませんか?」
その瞬間。
店内の空気が、明らかに変わった。
読んでいただきありがとうございます!
ついに“感情回収者”側の存在が現れ始めました。
ここから物語は、一気に街の深層へ潜っていきます!




