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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第八十一話 もう一度、好きになる

“もう一度好きになる”は、最初の恋よりずっと勇気がいる。

 美月は、泣きながら笑っていた。


 


 


 クラゲの青い光が、その涙を静かに照らしている。


 


 


 レンは、その顔から目を離せなかった。


 


 


 昔。


 


 


 何度も見た顔だった。


 


 


 嬉しい時も。


 


 


 苦しい時も。


 


 


 美月は、泣きながら笑う人だった。


 


 


 その時。


 


 


 美月が小さく息を吐いた。


 


 


 「……ずるいなあ」


 


 


 レンが目を瞬かせる。


 


 


 美月は涙を拭いながら笑う。


 


 


 「そんな真っ直ぐ言われたら」


 


 


 少しだけ声が震える。


 


 


 「私、また好きになっちゃうじゃん」


 


 


 レンの胸が、大きく揺れた。


 


 


 “また”。


 


 


 その言葉が、どうしようもなく愛しかった。


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 「もう遅いだろ」


 


 


 美月は少し笑った。


 


 


 「確かに」


 


 


 二人の間に、静かな空気が流れる。


 


 


 でも。


 


 


 もう昔みたいな息苦しさはなかった。


 


 


 不安だけで繋がっていた頃とは違う。


 


 


 ちゃんと傷ついて。


 


 


 ちゃんと壊れて。


 


 


 そのあとで。


 


 


 もう一度向き合っている感じがした。


 


 


 その時。


 


 


 美月が静かに聞く。


 


 


 「レン、今怖い?」


 


 


 レンは少し考える。


 


 


 そして正直に頷いた。


 


 


 「怖い」


 


 


 美月は黙って聞いている。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「また依存するかもしれないし」


 


 


 「また壊れるかもしれない」


 


 


 胸の奥が少し痛む。


 


 


 でも。


 


 


 ちゃんと口にしたかった。


 


 


 「でも今は」


 


 


 水槽の光を見る。


 


 


 「前みたいに、“美月だけ”で生きようとは思ってない」


 


 


 美月の目が、少し揺れた。


 


 


 レンは続ける。


 


 


 「ちゃんと自分でも立ちながら」


 


 


 「それでも一緒にいたいって思う」


 


 


 その言葉は。


 


 


 昔のレンなら、きっと言えなかった。


 


 


 美月は静かに笑う。


 


 


 涙を拭きながら。


 


 


 「……うん」


 


 


 小さく頷く。


 


 


 「今のレン、前より好きかも」


 


 


 レンは思わず吹き出しそうになる。


 


 


 「それ複雑なんだけど」


 


 


 美月も笑った。


 


 


 その笑い声を聞いた瞬間。


 


 


 レンの胸の奥で。


 


 


 ずっと凍っていた何かが、静かに溶けていく。


 


 


 その時。


 


 


 館内アナウンスが流れた。


 


 


 閉館時間。


 


 


 二人は顔を見合わせる。


 


 


 少しだけ残念そうに笑った。


 


 


 そして。


 


 


 並んで出口へ向かって歩き出す。


 


 


 夜の水族館。


 


 


 静かな青い光。


 


 


 レンは歩きながら、ふと思った。


 


 


 恋って、多分。


 


 


 一度壊れたら終わりじゃない。


 


 


 壊れたあと。


 


 


 “どう向き合い直すか”なのかもしれない。


 


 


 その時。


 


 


 美月の手が、ほんの少しだけレンの手へ触れた。


 


 


 一瞬。


 


 


 お互い止まる。


 


 


 でも。


 


 


 どちらも離さなかった。

読んでいただきありがとうございます!


レンと美月、ついに“やり直す”ではなく、“新しく向き合う”段階へ入りました。

次回、レンは“感情を売る街”の本当の異常さへ気づき始めます!

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