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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第八十話 それでも、まだ

本当に大事な感情ほど、“もう終わったと思ったあと”に戻ってくる。

 水槽の青い光が、静かに揺れていた。


 


 


 クラゲたちは、ゆっくり漂っている。


 


 


 まるで。


 


 


 時間だけが、少し遅くなったみたいだった。


 


 


 レンは、美月を見つめていた。


 


 


 胸が痛い。


 


 


 でも。


 


 


 今は、その痛みから逃げたくなかった。


 


 


 「“壊れてる自分”を消したかったんだと思う」


 


 


 その言葉のあと。


 


 


 美月はしばらく何も言わなかった。


 


 


 ただ。


 


 


 静かにレンを見ている。


 


 


 やがて。


 


 


 小さく息を吐いた。


 


 


 「そっか」


 


 


 その声は、少しだけ震えていた。


 


 


 でも。


 


 


 どこか安心したみたいにも聞こえた。


 


 


 美月は苦笑する。


 


 


 「私さ」


 


 


 レンが顔を上げる。


 


 


 美月は、水槽の光を見ながら続けた。


 


 


 「ずっと怖かったんだよね」


 


 


 「レンが記憶消した理由」


 


 


 レンの胸が静かに痛む。


 


 


 美月は続ける。


 


 


 「“私との時間そのものが嫌だったのかな”って」


 


 


 その声には。


 


 


 長い間、一人で抱えていた孤独が滲んでいた。


 


 


 レンはすぐに首を横に振る。


 


 


 「違う」


 


 


 声が少し強くなる。


 


 


 「そんなこと、一回もない」


 


 


 美月が目を瞬かせる。


 


 


 レンは続けた。


 


 


 「美月といた時間は」


 


 


 胸が苦しい。


 


 


 でも。


 


 


 ちゃんと伝えたかった。


 


 


 「……ちゃんと、幸せだった」


 


 


 その瞬間。


 


 


 美月の目が、ゆっくり潤んでいく。


 


 


 レンは目を伏せる。


 


 


 昔の自分は。


 


 


 多分、“好き”をちゃんと伝えられていなかった。


 


 


 不安ばかりで。


 


 


 失う怖さばかりで。


 


 


 大事な気持ちを、うまく言葉にできなかった。


 


 


 でも今は。


 


 


 逃げずに言いたかった。


 


 


 美月は小さく笑う。


 


 


 涙を堪えながら。


 


 


 「……よかった」


 


 


 その一言が、胸へ深く刺さる。


 


 


 美月は静かに続けた。


 


 


 「私も、ちゃんと幸せだったから」


 


 


 二人の間へ、静かな沈黙が落ちる。


 


 


 でも。


 


 


 その沈黙は苦しくなかった。


 


 


 むしろ。


 


 


 やっと本音で向き合えている感じがした。


 


 


 その時。


 


 


 美月がぽつりと聞く。


 


 


 「……ねえレン」


 


 


 レンが顔を向ける。


 


 


 美月は少し迷ってから、小さく笑った。


 


 


 「今のレンはさ」


 


 


 「まだ、私のこと好き?」


 


 


 呼吸が止まる。


 


 


 逃げ道のない質問だった。


 


 


 でも。


 


 


 レンは不思議と、もう誤魔化したくなかった。


 


 


 胸の奥は、ずっとうるさい。


 


 


 会った瞬間から。


 


 


 声を聞いた瞬間から。


 


 


 ずっと。


 


 


 レンは小さく息を吐く。


 


 


 そして。


 


 


 正直に言った。


 


 


 「……好きだと思う」


 


 


 その瞬間。


 


 


 美月の目から、涙が零れ落ちた。


 


 


 でも。


 


 


 泣きながら、ちゃんと笑っていた。

読んでいただきありがとうございます!


第八十話です。

ついにレンが、“美月への気持ち”を真正面から認めました!

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