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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第七十八話 記憶の続きを

“忘れた側”より、“覚えている側”の方が孤独な恋がある。

 待ち合わせは、夜の水族館だった。


 


 


 透明都市の海沿い。


 


 


 平日の夜だから、人は少ない。


 


 


 青い光だけが、静かに館内を漂っている。


 


 


 レンは入口の前で、小さく息を吐いた。


 


 


 緊張していた。


 


 


 仕事の面接より。


 


 


 壊れそうな依頼人と向き合う時より。


 


 


 ずっと。


 


 


 怖かった。


 


 


 その時。


 


 


 背後から、小さな声。


 


 


 「……レン」


 


 


 振り返る。


 


 


 美月が立っていた。


 


 


 白いニット。


 


 


 長い髪。


 


 


 少し困ったみたいに笑う顔。


 


 


 昔と変わっていない。


 


 


 でも。


 


 


 少しだけ大人になっていた。


 


 


 レンの胸が、強く痛む。


 


 


 会いたかった。


 


 


 その感情が、あまりにも自然に出てきてしまう。


 


 


 美月は小さく笑った。


 


 


 「なんか変な感じだね」


 


 


 レンも苦笑する。


 


 


 「……うん」


 


 


 二人は並んで歩き出す。


 


 


 館内は静かだった。


 


 


 青い水槽。


 


 


 ゆっくり泳ぐ魚。


 


 


 幻想的なのに。


 


 


 妙に現実感がある。


 


 


 その時。


 


 


 美月がぽつりと言った。


 


 


 「ここ、前も来たよね」


 


 


 レンは目を瞬かせる。


 


 


 断片が頭をよぎる。


 


 


 薄暗い館内。


 


 


 笑う美月。


 


 


 クラゲを見ながら、“綺麗すぎて逆に怖い”って話したこと。


 


 


 レンは小さく笑った。


 


 


 「……来た」


 


 


 美月も少し笑う。


 


 


 「やっと思い出した?」


 


 


 レンは苦笑する。


 


 


 「最近、ちょっとずつ」


 


 


 美月は、水槽の光を見つめながら静かに言った。


 


 


 「私ね」


 


 


 レンが顔を向ける。


 


 


 美月は少し迷ってから続けた。


 


 


 「レンが記憶消したあと、結構苦しかった」


 


 


 レンの胸が痛む。


 


 


 美月は笑う。


 


 


 でも。


 


 


 少し寂しそうだった。


 


 


 「だってさ」


 


 


 「自分だけ覚えてる恋って、想像以上に孤独なんだよ」


 


 


 レンは何も言えなかった。


 


 


 美月は続ける。


 


 


 「レン、普通に話してくれるし」


 


 


 「優しいし」


 


 


 「でも、私たちの時間だけ消えてるの」


 


 


 その言葉が、胸へ深く刺さる。


 


 


 レンは静かに目を伏せた。


 


 


 どれだけ残酷だったんだろうと思う。


 


 


 忘れる側より。


 


 


 覚えている側の方が。


 


 


 ずっと苦しかったのかもしれない。


 


 


 その時。


 


 


 美月が小さく笑った。


 


 


 「でも最近」


 


 


 レンが顔を上げる。


 


 


 美月はクラゲの水槽を見ながら言った。


 


 


 「また、昔のレンが戻ってきた感じする」


 


 


 青い光が、美月の横顔を照らしている。


 


 


 綺麗だった。


 


 


 そして。


 


 


 どうしようもなく、愛しかった。


 


 


 レンは、その感情からもう逃げられなかった。

読んでいただきありがとうございます!

レンと美月、ついに“記憶の続きを共有する時間”へ入りました。

次回、二人が別れた本当の理由へ触れていきます!

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