第七十七話 もし、消してなかったら
“もう一度会いたい”という感情は、時々すべての恐怖を超えてしまう。
【もし、記憶消してなかったら】
【私たち、どうなってたと思う?】
そのメッセージを見たまま。
レンは、しばらく動けなかった。
静かな部屋。
暗い天井。
スマートフォンの光だけが、ぼんやり顔を照らしている。
胸が、うるさかった。
昔の自分なら。
きっと、この質問から逃げていた。
答えるのが怖いから。
期待するのが怖いから。
でも今は。
ちゃんと向き合いたかった。
レンはゆっくり息を吐く。
指を動かす。
【わかんない】
送信。
数秒後、既読。
レンは続けて打った。
【でも】
少し迷う。
胸が痛い。
でも。
もう誤魔化したくなかった。
【まだ一緒にいたかった気はする】
送信。
その瞬間。
レンの心臓が、大きく鳴った。
部屋が静かすぎて。
自分の呼吸だけがやけに聞こえる。
長い沈黙。
既読はついている。
でも返事が来ない。
レンは苦笑した。
重いよな、と思う。
こんなの。
その時。
画面が震える。
【……そっか】
短い返事。
でも。
そのあと、また通知。
【私も】
レンは息を止めた。
美月は続ける。
【あの頃のレン、壊れそうだったけど】
【それでも、一緒にいたかった】
胸が苦しい。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
ずっと凍っていた場所へ、熱が戻ってくる感じだった。
レンは静かに目を閉じる。
思い出す。
美月が隣にいた日々。
優しい声。
眠れない夜。
何気ない笑い声。
失うのが怖くなるくらい、大事だった時間。
その時。
美月から、またメッセージ。
【ねえレン】
レンは画面を見る。
【今度、ちゃんと会わない?】
呼吸が止まる。
レンはスマートフォンを握りしめた。
怖い。
また好きになるのが。
また失うのが。
また、自分が壊れるのが。
でも。
それ以上に。
“会いたい”が、もう消せなかった。
レンはゆっくり打つ。
【会いたい】
送信。
その瞬間。
胸の奥で。
止まっていた何かが、静かに動き出した気がした。
読んでいただきありがとうございます!
ついにレンと美月、“再会を選ぶ”段階へ進みました。
次回、二人は“記憶を消したあと”初めて、本当の意味で向き合います!




