表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/151

第七十話 感情査定士の傷

“人を救う側”の人間ほど、自分の傷を放置し続けてしまう。

 「久しぶり、アカネ」


 


 


 男の声は静かだった。


 


 


 でも。


 


 


 その一言だけで、店の空気が変わる。


 


 


 レンは、思わずアカネを見る。


 


 


 いつも冷静な彼女が。


 


 


 ほんの僅かに、息を止めていた。


 


 


 アカネは静かに男を見つめる。


 


 


 「……まだ生きてたんだ」


 


 


 男は少し笑う。


 


 


 「ひどい挨拶」


 


 


 その笑い方は柔らかい。


 


 


 でも。


 


 


 どこか壊れていた。


 


 


 レンは男を観察する。


 


 


 異様に静かな気配。


 


 


 感情が薄いわけじゃない。


 


 


 むしろ逆だ。


 


 


 “感情を押し殺し続けている人間”の空気だった。


 


 


 男はレンへ視線を向ける。


 


 


 「君が、今の助手?」


 


 


 レンは眉をひそめる。


 


 


 「助手じゃない」


 


 


 男は小さく笑った。


 


 


 「そっか」


 


 


 その時。


 


 


 アカネが低く言う。


 


 


 「何しに来たの、雪斗」


 


 


 レンは目を瞬かせる。


 


 


 雪斗。


 


 


 男――榊雪斗は、静かにカウンターへ近づいた。


 


 


 そして。


 


 


 黒い封筒へ触れる。


 


 


 「依頼だよ」


 


 


 アカネの目が冷える。


 


 


 雪斗は続けた。


 


 


 「君の感情を買いに来た」


 


 


 店内が静まり返る。


 


 


 レンは思わず口を開く。


 


 


 「……意味わかんねぇ」


 


 


 雪斗はレンを見る。


 


 


 少しだけ笑った。


 


 


 「この人、自分だけは売らないんだよ」


 


 


 アカネの指先が、小さく止まる。


 


 


 雪斗は静かに続けた。


 


 


 「人には、“向き合え”って言うくせに」


 


 


 「自分の痛みだけは、ずっと閉じ込めてる」


 


 


 レンはアカネを見る。


 


 


 アカネは何も言わない。


 


 


 でも。


 


 


 否定もしなかった。


 


 


 雪斗は窓の外を見る。


 


 


 雨の残る夜。


 


 


 その横顔は、どこか疲れていた。


 


 


 「昔、俺たち一緒だったんだ」


 


 


 レンは眉をひそめる。


 


 


 雪斗は苦笑する。


 


 


 「感情査定士の見習い」


 


 


 レンは息を呑む。


 


 


 アカネの過去。


 


 


 初めて聞く話だった。


 


 


 雪斗は静かに続ける。


 


 


 「でもアカネは、俺より才能あった」


 


 


 「人の感情を見るのが上手かった」


 


 


 少し間が空く。


 


 


 「……だから壊れた」


 


 


 アカネの目が揺れる。


 


 


 ほんの僅かに。


 


 


 雪斗はアカネを見る。


 


 


 その視線には。


 


 


 怒りも。


 


 


 愛情も。


 


 


 後悔も混ざっていた。


 


 


 「お前、昔はもっと泣いてたのにな」


 


 


 レンの胸がざわつく。


 


 


 アカネは静かに言った。


 


 


 「帰って」


 


 


 雪斗は笑う。


 


 


 寂しそうに。


 


 


 「帰れないから来たんだよ」


 


 


 その時。


 


 


 レンは気づく。


 


 


 この男。


 


 


 まだアカネを見ている。


 


 


 ずっと。


 


 


 壊れたまま。

読んでいただきありがとうございます!


ついにアカネの過去と、“榊雪斗”が動き始めました。

次回、アカネが隠していた“感情を売ろうとした夜”が明かされます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ