第六十二話 海の近くの部屋
再会は、“覚えていてくれる保証”なんてどこにもない。
翌日の夕方。
空は、薄く曇っていた。
レンとシロは、透明都市の外れへ向かっていた。
海沿いの古い地区。
高層ビルもネオンも少ない。
潮風だけが静かに流れている。
シロは、ずっと無言だった。
白いコートの袖を、小さく握っている。
緊張しているのがわかった。
レンは隣を歩きながら、小さく息を吐く。
何を言えばいいかわからない。
“会いたかった人に会う”。
それは時々、救いより怖い。
期待してしまうから。
昔のままを。
でも。
現実は、大抵変わっている。
やがて。
二人は古いアパートの前へ辿り着いた。
海の匂い。
錆びた階段。
夕方の灰色の空。
シロの呼吸が浅くなる。
レンは静かに言う。
「無理そうなら、帰ってもいい」
シロは小さく首を横に振った。
「……会いたい」
その声は震えていた。
でも。
ちゃんと前を向いていた。
二階。
一番奥の部屋。
レンが表札を見る。
【朝比奈】
シロの指先が、小さく震えた。
そして。
ゆっくりインターホンを押す。
沈黙。
数秒。
いや。
もっと長く感じた。
やがて。
部屋の奥から、足音が聞こえる。
シロの呼吸が止まる。
扉が開いた。
そこにいた男を見た瞬間。
レンは息を呑んだ。
若い。
二十代前半くらい。
でも。
異様に“静か”だった。
白い肌。
感情の薄い目。
まるで。
昔のシロを、そのまま男にしたみたいだった。
男――朝比奈蓮は、二人を見る。
無表情。
そして。
静かに言った。
「……誰」
その一言で。
シロの顔が、ゆっくり崩れていく。
レンの胸も痛んだ。
覚えていない。
いや。
違う。
“感情の反応”が薄すぎる。
シロは震える声で言った。
「……蓮」
男は、小さく首を傾げる。
反応がない。
その目は、空っぽだった。
シロの目から涙が溢れる。
でも。
逃げなかった。
シロは一歩前へ出る。
「私……シロだよ」
その瞬間。
蓮の指先が、ほんの少しだけ止まった。
レンは見逃さなかった。
今。
確かに何かが揺れた。
読んでいただきありがとうございます!
ついに蓮とシロが再会しました。
次回、“感情を失った男”の中で止まっていたものが動き始めます!




