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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第五十一話 眠れない理由

人は、“もう戻れない関係”の中で、優しさだけが残ることがある。

 【ちゃんと眠れてる?】


 


 


 その短いメッセージを見ながら。


 


 


 レンはしばらく動けなかった。


 


 


 朝焼けの街。


 


 


 冷たい空気。


 


 


 静かに始まっていく一日。


 


 


 その全部の中で。


 


 


 美月の言葉だけが、妙に温かかった。


 


 


 レンは小さく息を吐く。


 


 


 昔なら。


 


 


 この一通だけで、全部振り回されていた気がする。


 


 


 期待して。


 


 


 苦しくなって。


 


 


 また壊れて。


 


 


 でも今は。


 


 


 胸は痛むのに、不思議と少し穏やかだった。


 


 


 アカネが隣へ来る。


 


 


 スマートフォンを覗き込み。


 


 


 「愛されてるねえ」


 


 


 レンは苦笑した。


 


 


 「やめろよ」


 


 


 アカネは肩をすくめる。


 


 


 「だって、普通“元恋人の睡眠”なんて気にしないわよ」


 


 


 レンは返事ができなかった。


 


 


 確かに。


 


 


 美月は、今でも自分を気にかけている。


 


 


 でも。


 


 


 だからといって、戻れるわけじゃない。


 


 


 その距離感が、少し苦しかった。


 


 


 レンはスマートフォンを見つめる。


 


 


 返信を打とうとして、止まる。


 


 


 なんて返せばいい。


 


 


 【眠れてる】


 


 


 嘘だった。


 


 


 最近は、美月と再会してから余計に眠れていない。


 


 


 記憶が少しずつ戻る。


 


 


 感情が動く。


 


 


 胸が痛む。


 


 


 でも。


 


 


 嫌じゃなかった。


 


 


 その痛みだけが、“ちゃんと生きてる感じ”をくれていた。


 


 


 レンはゆっくり文字を打つ。


 


 


 【まだちょっと】


 


 


 送信。


 


 


 数秒後。


 


 


 既読。


 


 


 そして。


 


 


 【そっか】


 


 


 続けて。


 


 


 【ホットミルク飲みな】


 


 


 レンは思わず笑ってしまう。


 


 


 「なんだそれ」


 


 


 アカネが聞く。


 


 


 レンは画面を見せる。


 


 


 アカネは少し笑った。


 


 


 「美月さんっぽい」


 


 


 レンは小さく頷く。


 


 


 そうだ。


 


 


 多分、美月は昔からこういう人だった。


 


 


 大げさに救うわけじゃない。


 


 


 でも。


 


 


 静かに、隣へいてくれる。


 


 


 その時。


 


 


 また頭の奥に断片が流れる。


 


 


 夜。


 


 


 眠れないレン。


 


 


 美月がマグカップを差し出す。


 


 


 『ほら』


 


 


 『子供みたいだけど、ちょっと落ち着くよ』


 


 


 柔らかい笑い声。


 


 


 レンは目を閉じた。


 


 


 胸が痛い。


 


 


 でも。


 


 


 今は、その痛みをちゃんと抱えていたかった。


 


 


 アカネが静かに言う。


 


 


 「人って面白いね」


 


 


 レンは顔を上げる。


 


 


 アカネは朝焼けを見る。


 


 


 「本当に欲しかったものって、失ってから気づく」


 


 


 レンは苦笑した。


 


 


 「遅すぎるだろ」


 


 


 アカネは少しだけ笑う。


 


 


 「だいたい、そういう生き物なのよ」


 


 


 レンはスマートフォンを握りしめる。


 


 


 画面には、美月との短いやり取り。


 


 


 戻れない。


 


 


 でも。


 


 


 消えもしない。


 


 


 それが今の、自分たちの距離だった。

読んでいただきありがとうございます!


レンと美月、完全には切れない距離感が続いています。

次回、レンの“新しい出会い”が動き始めます!

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