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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第四十六話 消したいのは私だった

人は、“役割”になりすぎると、自分自身がどこにいるのかわからなくなる。

 「あなた、本当に消したいのは“子供への愛情”ですか?」


 


 


 アカネの言葉で。


 


 


 店の空気が、静かに止まった。


 


 


 真奈は何も言えなかった。


 


 


 ただ。


 


 


 腕の中の子供を抱きしめたまま、呼吸だけが浅くなる。


 


 


 レンは黙って、その姿を見ていた。


 


 


 真奈の目は揺れている。


 


 


 まるで。


 


 


 自分でも見ないようにしていた場所を、突然突きつけられたみたいに。


 


 


 アカネは静かに続ける。


 


 


 「あなた、“母親の感情”を消したいって言った」


 


 


 「でも、本当に消したいのは」


 


 


 少しだけ間を置く。


 


 


 「“母親になれない自分”じゃない?」


 


 


 真奈の肩が、小さく震えた。


 


 


 レンは息を呑む。


 


 


 真奈はしばらく俯いたまま動かなかった。


 


 


 やがて。


 


 


 小さく、笑った。


 


 


 壊れそうな笑いだった。


 


 


 「……ずるいですね」


 


 


 涙が落ちる。


 


 


 「そうやって、わかっちゃうんですね」


 


 


 アカネは何も言わない。


 


 


 真奈はぽつりぽつりと話し始めた。


 


 


 「私、小さい頃から“いい子”だったんです」


 


 


 レンは静かに聞く。


 


 


 「勉強して」


 


 「空気読んで」


 


 「ちゃんとして」


 


 


 真奈は少し笑う。


 


 


 「だから結婚して、子供産んだ時も」


 


 


 「ちゃんと“いい母親”になれると思ってた」


 


 


 その声が、少し震える。


 


 


 「でも、全然違った」


 


 


 店内は静かだった。


 


 


 真奈は続ける。


 


 


 「イライラする」


 


 「逃げたくなる」


 


 「一人になりたい」


 


 


 涙が止まらない。


 


 


 「なのに世の中、“母親は子供を愛して当然”みたいな顔するんです」


 


 


 レンは胸が痛くなった。


 


 


 真奈は笑いながら泣いていた。


 


 


 「私だって愛してます」


 


 


 「でも苦しいんです」


 


 


 「苦しいって思っちゃう自分が、最低だと思うんです」


 


 


 その時。


 


 


 レンはふいに、自分の過去を思い出していた。


 


 


 美月へ依存していた頃。


 


 


 愛しているのに。


 


 


 苦しくて。


 


 


 自分を嫌いになっていった夜。


 


 


 多分。


 


 


 人は、“愛しているのに苦しい自分”を許せなくなる。


 


 


 だから壊れる。


 


 


 アカネが静かに言う。


 


 


 「真奈さん」


 


 


 真奈が顔を上げる。


 


 


 アカネは穏やかに続けた。


 


 


 「あなた、ずっと“母親役”をやってる」


 


 


 真奈の目が揺れる。


 


 


 「でも、本当は」


 


 


 アカネは優しく言った。


 


 


 「誰かに、“あなた自身”を抱きしめてほしかったんじゃない?」


 


 


 その瞬間。


 


 


 真奈が、声を上げて泣いた。


 


 


 子供みたいに。


 


 


 壊れたみたいに。


 


 


 「……疲れた……っ」


 


 


 「もう頑張れない……っ」


 


 


 その叫びは。


 


 


 “母親”じゃなく。


 


 


 ただ、一人の人間の声だった。

読んでいただきありがとうございます!


今回は“母親”ではなく、“一人の女性”としての真奈が崩れる回でした。

次回、レンが真奈へ自分の過去を重ね始めます!

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