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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第三十四話 会わない方がいい

本当に終わった恋ほど、“会わない優しさ”が存在してしまう。

通話の向こうで。


 


 


 美月が静かに泣いていた。


 


 


 声を押し殺すみたいに。


 


 


 レンは何も言えなかった。


 


 


 慰める資格なんて、自分にはない気がした。


 


 


 だって。


 


 


 忘れたのは自分だから。


 


 


 美月のことを。


 


 


 二人の時間を。


 


 


 愛していた記憶を。


 


 


 その時。


 


 


 美月が小さく笑った。


 


 


 『ごめん』


 


 


 涙混じりの声。


 


 


 『なんか、変だね』


 


 


 レンは低く聞く。


 


 


 「……何が」


 


 


 『もう終わった恋なのに』


 


 


 窓の外で、夜景が滲んでいる。


 


 


 レンは胸を押さえた。


 


 


 終わった。


 


 


 確かに。


 


 


 美月は結婚している。


 


 


 自分たちは、もう戻れない。


 


 


 なのに。


 


 


 どうしてまだ、こんなに苦しい。


 


 


 美月は静かに言った。


 


 


 『ねえレン』


 


 


 「……ん」


 


 


 『私たち、多分』


 


 


 少しだけ間が空く。


 


 


 『会わない方がいい』


 


 


 その瞬間。


 


 


 レンの胸が、大きく揺れた。


 


 


 嫌だった。


 


 


 理由もわからないまま。


 


 


 会いたいと思ってしまった。


 


 


 顔を見たい。


 


 


 声を直接聞きたい。


 


 


 もう一度。


 


 


 ちゃんと。


 


 


 でも。


 


 


 美月の声は、とても静かだった。


 


 


 『また苦しくなるから』


 


 


 レンは目を閉じる。


 


 


 苦しい。


 


 


 今だって、十分苦しい。


 


 


 それでも。


 


 


 「……会いたい」


 


 


 気づけば、口にしていた。


 


 


 沈黙。


 


 


 通話の向こうで、美月の呼吸が止まる気配がした。


 


 


 レン自身も驚いていた。


 


 


 どうしてそんなことを言った。


 


 


 思い出も曖昧なのに。


 


 


 でも。


 


 


 会わなければ、一生後悔する気がした。


 


 


 美月はしばらく黙っていた。


 


 


 やがて。


 


 


 掠れた声で言う。


 


 


 『……ずるいよ』


 


 


 レンは眉をひそめる。


 


 


 『忘れたくせに』


 


 


 その言葉が、胸へ深く刺さる。


 


 


 レンは何も返せなかった。


 


 


 美月は続ける。


 


 


 『私は、忘れられなかったのに』


 


 


 静かな声だった。


 


 


 責める声じゃない。


 


 


 でも。


 


 


 ずっと抱えてきた痛みが滲んでいた。


 


 


 レンはスマートフォンを強く握る。


 


 


 その時。


 


 


 また記憶が流れ込んできた。


 


 


 夜。


 


 


 美月が泣いている。


 


 


 『お願いだから、自分を嫌いにならないで』


 


 


 レンは息を呑む。


 


 


 苦しい。


 


 


 頭が痛い。


 


 


 でも。


 


 


 今なら少しわかる。


 


 


 美月は最後まで、自分を見捨てようとしていたわけじゃなかった。


 


 


 ただ。


 


 


 壊れそうだった。


 


 


 二人とも。


 


 


 美月は静かに言う。


 


 


 『会ったら、多分また戻りたくなる』


 


 


 レンは目を閉じる。


 


 


 その言葉が、どうしようもなく悲しかった。

読んでいただきありがとうございます!


“再会したい気持ち”と“会わない方がいい現実”が動き始めました。

次回、レンは藤堂アカネへ再び会いに行きます!

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